期待を裏切らない物語「戦火の馬」ネタバレなし感想+ネタバレレビュー
個人的お気に入り度:6/10
一言感想:スピルバーグ監督の超・優等生的物語
あらすじ
父・テッドは競売で見かけた1匹の馬に惚れ込み、大金を払って買う。
馬は息子・アルバートによりジョーイと名付けられた。
しかしジョーイは農耕馬ではなく、サラブレッドだった。
当然農地を開拓できないと思われていたが、アルバートの行動もあり、ジョーイは一家の支えとなっていく。
そして第一次世界大戦がはじまる。
ジョーイは戦地へと送られそうになり、アルバートは反対するが・・・
世界一有名な映画監督、スティーヴン・スピルバーグの最新作です。
想像はしていましたが、内容はベッタベタでした。
シンプルでわかりやすい物語はスピルバーグの真骨頂。
子どもに読み聞かせる童話のような安定感です。
馬のジョーイは戦場でさまざまな人間と出会います。
善良な者、馬を労働力としてしか見ていない者、ジョーイを愛して離そうとはしない者などー
一匹の馬に対する多種多様な人間模様を描いていくのです。
正直言って、ストーリーには食い足りなさも残ります。
この物語はあくまで馬が主人公で、その旅路で人々のドラマが展開するというものです。
つぎつぎと繰り返されるそれは、長編の映画をみているというよりも、短編物語の連続といった印象なのです。
*似た映画に最前線物語があります(馬ではなく人間が主人公)。
2時間20分超と上映時間が長い割には、1つの映画作品としてのダイナミズムを感じにくく思えました。
それは馬の旅路の終点が定まっていないことにも起因しています。
戦場に振り回される馬の姿を描いているので仕方がないことなのですが、ゴールが見えないのはフラストレーションがたまりがちです。
展開もしかるべきところに、しかるべきシーンが配置されているという印象で、予定調和な印象も否めません。
優等生的なその物語に、ひねくれた自分はどこか冷めた目で見てしまったことも事実です。
ファンタジーよりな物語(少々ご都合主義的と言ってもよい)に拒否反応を覚える方もいるでしょう。
でもこれらの不満も、よく言えば堅実な話運びなのですから、大きな欠点にはなっていません。
物語にはシリアス成分が多めですが、前半にはクスクス笑えるシーンもあるし、個性豊かな登場人物のおかげで飽きることはありません。
激しい戦闘シーンはありますが、血の一滴も出ないのでお子様にも安心です。
誰でも水準以上に楽しめるでしょう。
もうひとつ野暮な不満点をあげるのなら、今作は全登場人物がイングリッシュを話すのにはかなり違和感がありました。
ドイツ兵が英語を喋りまくっています。
いやそんな映画はごまんとあるし、普段ならそんなに気にしないのですが、今作には英国兵がドイツ兵に向かって「英語がうまいな」って言うシーンがあるので・・。
いわば「全編英語吹き替え版」なんです。
これはアメリカ人が字幕を嫌う傾向にあることにもよるのですが、「イングロリアス・バスターズ」みたいにことばの壁による面白さを見せてもよかったのではないかな、とも思います。
ドイツ兵の兄が弟に対して「マイケル」と呼ぶシーンで、字幕が「ミヒャエル」になっているのもどうかと。
michielの英語読みは「マイケル」、ドイツ語読みは「ミヒャエル」なので正しいと言えば正しいのですけどね。
原作はマイケル・モーパーゴによる小説です。
![]() | マイケル モーパーゴ 1365円 評価平均: ![]() powered by yasuikamo |
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舞台版にスピルバーグがほれ込み、映画化が決定したそうです。
映画を観てみると、確かに舞台映えしそうなシーンがいくつもありました。
この映画の長所は画作りが素晴らしいこと。
スピルバーグ監督らしい、クレーン撮影をふんだんにつかったそれは非常に効果的です。
どのシーンを切り取ってもポストカードにできそうな美しさです。
また、中盤にはめちゃくちゃかわいい少女が登場するので、北欧美少女が観たい方にもおすすめです(ひどいシメ)
以下、ネタバレです 結末に触れまくっています↓
以下、ストーリーを人物ごとに順に追ってみます
~父・テッド~
父・テッドは30ギニーも払ってジョーイを買います。
その後は15ギニー足りなくて借金を作るわ、やけになってジョーイを殺そうとするわでダメ人間さが半端なかったですね。
そんなテッドですが、母親の話により、トランスヴァールで起きたボーア戦争で戦った義勇兵であることがわかります。
父・テッドは「アフリカでやったこと、人を殺したことを誇りに思っていない」「だから、友を救ったことをも誇りに思わない」性格でもありました。
彼は嵐で作物がだめになったとき、「神は不運を平等に与えるというが、あまりにも不公平すぎる」とも言っていました。
そんなテッドに、母は「憎しみは増えても、愛は減らない」と諭します。
テッドは不器用ですが、他の人間が傷つくことをよしとはしない、心やさしい男であったと思います。
~ニコルズ大尉~
少年アルバートの次の持ち主です。
彼はアルバートに「この馬は30ギニーじゃ安すぎる」「私に貸すということでどうだ?そしてできれば、君に返しに行く」と義理と人情に厚い人間でした。
ギャグ担当のチャーリーとの掛け合いが楽しかったですね。
「軍帽の裏なんか相手は見ないだろ?」「そのいい軍帽がほしいと思って、君を殺すかも」と諭し、「そうだな」と納得させるシーンが大好きでした。
ジョーイは黒い馬・トップソーンとも出会います。彼らがじゃれ合っているシーンにほっとします。
ドイツ兵たちに機関銃で撃たれ、一面に広がる馬の死体。
ニコルズの描いたスケッチが、彼の死後にアルバートのもとに届くのも、何ともやりきれません。
~シュレーダー兄弟~
14歳の弟のみが敵地に出されそうになりますが、兄はそれをよしとはしませんでした。
兄はジョーイとトップソーンにと共に弟を隊列から奪い、風車に隠れます。
それは兄が「常に一緒にいろ」という母親との約束を守りたかったからです。
弟は「戦地に行きたかった、俺達ってなんなんだ?」と兄に告げます。
そしてドイツ兵に見つかり、無残にも2人とも殺されてしまいます。
悲しい結末ですが、兄は最期の時まで母との約束を守ることができました。
~エミリーとおじいちゃん~
前にも書いたけどエミリーが可愛すぎる。
おじいちゃんが「お前がボスだ」と言い、尻に引かれている感じがたまらないですね。
エミリーがジョーイに飛んでもらおうとして、ちっちゃいハードルで見本を示すけど、ジョーイはそのちっちゃい見本のほうしか跳ばないというシーンは大好き。
そういえば序盤でもジョーイは石垣を跳ばずに、アルバートに「障害物走は無理だな」と言われていましたね。
また、馬術競技がはじめてオリンピックの種目になったのは、1990年のパリの大会からだったのですね。
そしておじいちゃんが語る「フランスの伝書鳩は世界一」という話が秀逸でした。
「ハトは前線に立ち、帰れと言われる」
「戦場の上を通らなければいけないんだ」
「前を見据えてなければ、家に帰れない。これ以上勇敢なことはない」
これはそのままジョーイの行動と、その勇敢さにあらわれます。
~ハイレマン~
わりと悪人面に見えましたが、馬を労働力としてしか見ていない上官に異議を唱える、いい人でした。
ジョーイは、足を痛めているトップソーン(黒馬)が労働力として駆り出されそうになるとき、自ら買ってでました。
馬は人間に献身的な生き物なのですが、ジョーイにはそれだけでない心を持つように思えました。
しかしトップソーンがついに倒れ、ジョーイは戦車に追い詰められ、はじめて跳び、戦地を駈けます。
有刺鉄線にからまりながら疾走するジョーイ。
しかし、ついにはジョーイも戦地で倒れてしまいます。
~コリンとペーター~
このエピソードが個人的に一番好きです。
そこではソンムの戦いと呼ばれる、第一次世界大戦の中でも被害が深刻だった争いが続いていました。
英国側のコリンは戦地で、有刺鉄線にからまる馬を発見すると、危険を顧みず近づいて行きました。
しかし、手袋を忘れ、ジョーイを助けることができません。
そんなとき、ドイツ兵のペーターがワイヤーカッターを渡してくれます。
さらに声をかけるといくつのもワイヤーカッターを、ドイツ兵は放り投げてくれました。
どちらもジョーイをほしがりましたが、結局はコインで決着をつけます。
この映画で英国兵とドイツ兵は絶えず殺しあいの戦闘を続けていましたが、この勝負ではそれは無縁。
壮絶な戦場の中で、ただひとつのおだやかな勝負でした。
ちょっとわからなかったのが、コリンがペーターに何かを渡していたこと。あれは何だったのでしょうか。
コリンは「これでデュッセルドルフの友達を思い出せ」と言い、ペーターは「サウスシールズで使うさ」と言っていました。
これは観客の想像にまかせるもので、何でもいいのだと思うのですけどね。
~アルバート~
友達のアンドリューは死に、アルバートはマスタードガスをまともに浴びて一時的に目が見えなくなってしまいます。
そんな中、彼はフクロウのまねをする。
すると、コリンに連れられていた、殺される寸前だったジョーイが応えてくれました。
目が見えなくても、それがジョーイだということがわかるアルバート。
「はぐれ馬じゃありません」と言うアルバート。
「兵隊と同じように治療する」と、認めてくれました。
それにもかかわらず、ジョーイは競売にかけられてしまいます。
アルバートにカンパをしてくれる人々もいましたが、100ポンドという大金を出資する者がいて、競りに負けてしまいます。
競りによりジョーイを手にしたのは、エミリーのおじいちゃんでした。
しかし、彼もアルバートになつくジョーイの姿を見て、考えを変えます。
100ポンドを返してもらうこともなく、アルバートに譲るのです。
父の形見を返し、「エミリーもそうしてくれって言うだろう」「あの子はボスでね」と言うおじいちゃん。
あなたのお名前は?と聞かれても「Sir Name Is Emily(あの方の名前はエミリー)」と答えるおじいちゃん。
どれだけ孫煩悩でしょうか。大好きです。
夕焼けの中で抱き合う、一家とジョーイの姿を見せて、映画は幕を閉じます。
ラストシーンはジョーイの顔。
その姿に戦火を駆け抜けた、勇敢さを見ることができました。
、馬との繋がりが私には、弱く思えて、ご指摘のように「一頭の馬を巡ってのオムニバス映画」を見たような印象しか残りませんでした。
最後のシーンは、昔々の「風と共に去りぬ」の場面を思い出してしまいました。(真っ赤な夕焼け、黒いシルエット)
これが、アカデミー賞候補だったなんて、信じられませんが。
> 、馬との繋がりが私には、弱く思えて、ご指摘のように「一頭の馬を巡ってのオムニバス映画」を見たような印象しか残りませんでした。
父は「カンで選んだ」レベルですよね。
母親に同情してしまいます。
> 最後のシーンは、昔々の「風と共に去りぬ」の場面を思い出してしまいました。(真っ赤な夕焼け、黒いシルエット)
>
> これが、アカデミー賞候補だったなんて、信じられませんが。
画づくりは素晴らしかったし、評判がいいのは納得できます。
でも長い割には満足感が低かった作品ではありました。