異常者の優先順位 映画「ザ・ゲスト」ネタバレなし感想+ネタバレレビュー
個人的お気に入り度:7/10
一言感想:イケメンに心を許してしまいそうで怖い……
あらすじ
長男を戦地で亡くしたピータソン一家のもとに、デイヴィッド(ダン・スティーヴンス)という男が訪ねてくる。
礼儀正しいデイヴィッドは一家とすぐに打ち解けるのだが、長女のアナ(マイカ・モンロー)は彼の不審な点に気づき……
「サプライズ」「ビューティフル・ダイ」のアダム・ウィンガード監督最新作です。
いきなりですが、本作は以下の作品が好きな方におすすめできます。
<悪の教典>
主人公・ディヴィッドのキャラクター、テーマが似ている
<冷たい熱帯魚>
平凡な人間と、猟奇的な人間の双方を描いている
<エスター>
ふつうの家族のところに、異質な来訪者がやってくるというプロットが似ている
<ドライヴ>
主演のダン・スティーヴンスの雰囲気がライアン・ゴズリングに似ている。
<ハロウィン>
後半の展開が……
<ターミネーター>
主人公の“強さ”、執拗に狙われるプロットが似ている
悪く言えばあらゆる映画の寄せ集めですが、よく言えば“いいとこ取り”がされている作品と言えるでしょう。
そんなわけで本作はジャンルすら不明瞭です。
家族のもとに“招かれざる客”が来るという点ではサスペンス・ホラーなのですが、、家族愛を感じさせるシーンもあり、銃撃戦あり、ちょっと(不謹慎にも)笑ってしまうシーンもあったりと、おいしい展開がとにかくつめこまれているのです。
この映画で恐ろしいと感じたことはふたつあります。
ひとつは、「悪の教典」や「渇き。」と同様に、主人公が「なぜ」そのことをするのかがわからない(腑に落ちない)ということです。
ふつうの人間が持つであろう“理性”がないまま、他人を傷つける主人公には多くの人が戦慄を覚えるでしょう。
もうひとつは、主人公に心を許してしまいそうになることです。
観客はこの男がヤバいやつだということは(予告編などで)知っています。
それでも、「あれ、この主人公じつはいいやつかも?」と思ってしまうところが多々あるんです。
頭の中では危険な異常者だってわかっているはずなのに、イケメンを観ると安心してしまうことが怖いんです。
これは新しいホラーのジャンルとも言えるかもしれません。
スクリーンに映る出来事ではなく、自分の“感情”に恐怖を覚えるのですから。
これも、凄惨な殺人描写があるのにどこか(引きつって)笑ってしまう「冷たい熱帯魚」に似ているポイントなのかもしれません。
音楽もじつに魅力的でした。
![]() | 1600円 powered by yasuikamo |
1980代らしいエレクトロサウンドは、シーンひとつひとつにマッチし、作品の“異様さ”“格好よさ”に一役も二役も買っていました。これもまた、「ドライヴ」に似ていますね。
難点をあげるのであれば、作風自体が“軽め”なことでしょうか。
「冷たい熱帯魚」の2、3日は落ち込んでしまいそうなエグさはありませんし、設定と展開はリアリティに乏しいところがあります。
でも、これも裏を返せば長所。
上映時間は1時間40分と短めでサクッと観れますし、展開は娯楽映画のツボを抑えています。
R15+指定のわりにはエロもグロもほどよい仕上がりなので、嫌悪感なく観れるでしょう。
映画ファンにこそ楽しめる要素が満載(似ている映画が多いから)な作品ですが、けっこう万人受けする内容なのかもしれません。
上映館が少ないのは残念ですが、これはかなりおすすめできる作品です。
派手さはありませんが、ホラー好きは映画館で観ないと後悔してしまうほど、脚本・演出・撮影・役者すべてが優れている内容なのですから。
ちなみに、主人公のデイヴィッドはイラク戦争の帰還兵という設定になっています。
そこを深読みしてみると、より一層楽しめるかもしれません。
以下、結末も含めてネタバレです 鑑賞後にご覧ください↓
〜デイヴィッドというキャラクター〜
デイヴィッドの異常性が“表”にしっかりと現れたのは、武器商人に対して「すべての銃をもらう、お前を殺してな」と当たり前のように言い、調達屋を含めて躊躇なく銃殺するというシーンでした。
しかし、その前にもデイヴィッドの異常性が少しずつわかるようになっていました。
・遠く離れたバス停からひとりで歩いてピーターソン家にやってきた。
・一家の父の「PTSDだったどうする?」「彼がいれば息子のことを思いだすぞ」ということばを聞いた後、するどい目つきになっている。
・ルークをいじめいていた高校生チームのうち、女の子には酒をおごるが、男たちにおごることは躊躇する。酒を高校生にかけられた後はその全員を拳で倒す。
・知り合った女の子にしつこく言い寄ってくる元カレを倒す→すぐに女の子とセックスをする。
・調達屋の男に、「お前は兵士じゃない、お前の言う努力とはなんだ」と凄みを聞かせながら言う。
謙遜した態度を取っているのに、その“内面”には鋭く尖った攻撃性が見えている……この“静か”な描写は見事でした。
〜優先順位〜
そもそも、なぜデイビッドはピーターソン家にやってきたのでしょうか。
本当に亡き息子の友人だったことを家族に知らせたかったのかもしれませんが、その後に母と父を殺してしまう(一家を皆殺しにしようとする)のはあまりに筋が通っていません。
それは、彼の中の“優先順位”というのが、常人に理解できないものであったからというのが理由なのだと思います。
・友人であることを家族に伝えてほしいと頼まれた→優先すべき
という思考回路と同じように、
・殺人を犯してでも守りたいものを守る→さらに優先すべき
となっていたのではないでしょうか。
また、軍の男はデイビッドのことを「自分と実験のことを守るようにインプットされている。そのためにヤツはすべてを一掃する」と話していました。
・自分を慕っている高校生がいじめられていたから、その相手を殴りつける。
・生きるための銃を手に入れたいから、武器商人を殺す。
・(自分をよく思っていなかった)父が嫌っていた、娘の(クスリの売人もやっていた)彼氏を殺しの犯人に仕立てあげる。
デイヴィッドが人を傷つけ、殺人をする理由は、その程度のものだったのでしょう。
極めつけが、クライマックスの「ハロウィン」の迷路の中で、デイビッドがアナたちに言ったことばです。
「ほかの方法もあったが、これしかなかった」
“これ”というのが、周りすべてを排除するという行動なのです。
まったく理解できません。だからでこそ、デイビッドは怖いのです。
(深読みをすると)(ほぼこじつけですが)デイヴィッドとは、イラクへの報復のために数多くの兵士を死に追いやった、アメリカという国を表した存在なのかもしれません。
〜懐柔されるルーク〜
ルークは、デイヴィッドの「いじめっ子を許すな」ということばどおり、いじめっ子を何度を殴りつけてしまい、あわや退学となってしまうところでした。
この後にルークは、デイヴィッドに「パパの上司を殺したんでしょ?誰にも言わないよ、友だちでしょ」と告げています。
ルーク自身、デイヴィッドがヤバいやつであり、殺人者であるとも気づいているのに、彼をかばうばかりか友だちであるとも信じているんです。
ルークが殺人という事態を重く見ずに、デイヴィッドにただただ懐柔される様も、恐ろしくてしかたがありませんでした。
また、デイビッドが本当に父の上司を殺したかどうかは作中でははっきりしていません。あくまでもルークの推測です。
だからでこそ、「事実はどうあれデイビッドのことを信じる」というルークの盲目さが、より顕著になっています。
デイビッドが、最後に自分をナイフで刺したルークを「お前を責めない、よくやった」と言ったのも、自身が「自分のためなら他人を傷つけてもかまわない」という価値観を持っていためなのでしょう。
〜笑ってしまうシーン〜
そんなわけでイケメンデイヴィッドのサイコパスっぷりが怖い作品でしたが、意外と笑えるシーンもあったりします。
・アナはデイビッドのシャワー後のムキムキ筋肉を見てドキドキしちゃう。<筋肉フェチにはたまらない。
・デイビッドは手榴弾ふたつをさっそうと掲げて、ころころ転がしてダイナーを爆破<武器商人からしっかり奪っていたよ。
・すぐにルークを退学にしようとしていた教師に「あんた誰?」と言われる。<ごもっとも。
勝手にルークがゲイであるとウソをついて、憎悪犯罪になると教師を批判するのもうまいやらバカバカしいやら。
これも、デイヴィッドが「他人の心情を理解しない」からでこその行動ですよね。
〜ラスト〜
映画は、ルークに何度も刺されたはずのデイヴィッドが消防士に扮した姿で登場する(かのようにアナには見えた)というシーンで幕を閉じました。
これはアナの思い込みであるという解釈もできますが、自分はデイビッドには肉体的な改造もされていたのでは?と考えました。
作中では、デイビッドが何かしらの実験に参加させられたことが知らされていますが、“何の”実験であるかはわからないんですよね。
(軍人は「ヤツは自分と実験を守るようにインプットされている」とは言っていましたが、この実験がデイヴィッドがサイコパスになった理由なのかどうかも不明瞭です)
※以下の意見をいただきました。
彼の受けた改造はキャプテンアメリカ的な超人兵士化だったのか、「優先順位」をハッキリ付けて任務を倫理、道徳、罪悪感等に苛まれず、人間性を廃して冷徹かつ完璧に遂行する兵士の製造とかだったのか気になりました。後者なのではないかと思います。
それが“傷ついてもすぐに傷が治ってしまう”肉体を作るという(常識的に考えればありえませんが)実験であるならば……最後にデイビッドが生きていたのも、本当にあったことなのかもしれません。
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「サプライズ」を撮った人がそんな感動の物語なんか描くわけないじゃん・・・と思いつつ、ディビットの万能イケメンっぷりに、銃の売人を殺すまでは「良い人であって・・・」と願い、お母さんが殺される所まで「ただ親友の家族を守りたいだけの人であって・・・」と往生際悪く祈ってました。
イケメンパワー恐るべし!というか危ないなあ自分・・・と反省させられました。
>〜優先順位〜
>そもそも、なぜデイビッドはピーターソン家にやってきたのでしょうか。
彼の受けた改造はキャプテンアメリカ的な超人兵士化だったのか、「優先順位」をハッキリ付けて任務を倫理、道徳、罪悪感等に苛まれず、人間性を廃して冷徹かつ完璧に遂行する兵士の製造とかだったのか気になりましたが、ヒナタカさんの考察を読んで後者ではないかと至りました。
でも、ケレイブと親友で彼の家族に会いたかったというのは信じたいです。それがわざわざ同じ実験の被験者の実家に身を寄せるなんて足が付き易い事よりむ優先される願いだったと・・・。
>〜笑ってしまうシーン〜
>・アナはデイビッドのシャワー後のムキムキ筋肉を見てドキドキしちゃう。
白状しますと私・・・こういう女の子版ラッキースケベなシーンがツボでして。ディビットのセクシーな裸体を前にしたアナの乙女な反応が可愛くて最高でした!!
> >そもそも、なぜデイビッドはピーターソン家にやってきたのでしょうか。
> 彼の受けた改造はキャプテンアメリカ的な超人兵士化だったのか、「優先順位」をハッキリ付けて任務を倫理、道徳、罪悪感等に苛まれず、人間性を廃して冷徹かつ完璧に遂行する兵士の製造とかだったのか気になりましたが、ヒナタカさんの考察を読んで後者ではないかと至りました。
> でも、ケレイブと親友で彼の家族に会いたかったというのは信じたいです。それがわざわざ同じ実験の被験者の実家に身を寄せるなんて足が付き易い事よりむ優先される願いだったと・・・。
作中で確か
アナ「どうしてサイコパスが実験に」
軍人「戦闘能力が高いからな」
というセリフがあったので、デイビッドはもともとサイコパスで、実験はデイビッドの性格に関係ないものなのかも、と勝手に思っていたのですが……よく考えれば「インプットされている」ということ自体が“実験”ですよね。
毒親育ちさんの意見を、追記させてください(毎度、本当にありがとうございます)。