木下恵介監督の想い「はじまりのみち」ネタバレなし感想+ネタバレレビュー
今日の映画感想は「はじまりのみち」です。

個人的お気に入り度:9/10
一言感想:きっと、親孝行がしたくなる
あらすじ
映画監督・木下恵介(加瀬亮)は、自身の作品である『陸軍』が戦意を高揚させる映画でないと軍に非難されてしまい、次回作の製作は中止となってしまう。
辞表を出した木下は母・たま(田中裕子)のいる浜松へ帰るが、大空襲が起きて木下家が商売していた店も焼け落ちてしまう。
山間地へと疎開すると決めた恵介は、兄・敏三(ユースケ・サンタマリア)と便利屋(濱田岳)とともに、山間部へ母親をリヤカーに乗せて向かおうとするのだが・・・
おすすめです!
もう日本映画ファンであれば絶対に観て!と言える素晴らしい作品でした。
監督は「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲」「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦」で高い評価を得た原恵一さんで、本作は監督初の実写映画となっています。
アニメ映画から実写映画へと、畑違いとまではいかなくとも土俵の違う分野への仕事だったので、監督の個性が出ないのではないか?と少し心配になっていましたが、それは全くの杞憂でした。
「はじまりのみち」は、まさしく原監督ならではと言える作品になっていました。
なにせ、本作には「オトナ帝国」「戦国大合戦」を思わせるシーンがあるのです。
登場人物の台詞が「えらい(しんどい)」「~だに」「~ずら」などと「訛っている」のも「戦国大合戦」で描かれたことですし、作品のテーマもとても似ています。
これだけで、原恵一監督が大好きな自分は本作が好きでたまらないのです。
さらに豪華キャストも文句のつけようがない名演を披露してくれます。
まじめな木下監督を演じた加瀬亮、母役の田中裕子、父役の斉木しげる、兄役のユースケサンタマリアは「家族の距離感」を見事に演じきっています。
そして観た方の多くが思うのが、濱田岳さんの芸達者ぶりでしょう。
作中ではもう落語の1シーンとしか思えないほど「演技」で魅せるシーンがあり、その上手さには感服しっぱなしでした。
また、本作は実在の映画監督・木下惠介を主人公とした伝記映画でもあります。
この手の映画は、その人物のことを深く知らないとシーンの意味が理解できなっかたり、不親切に感じることも多いのですが、本作はそれも心配無用です。
本作は木下監督作品を知らなくても、全く問題なく楽しめるのです。
自分も恥ずかしながら、代表作の「二十四の瞳」がどういった作品かを知っているくらいで、木下監督作品をひとつも観たことがありませんでした。
それでもこの映画のほとんどのことが理解できました。
この敷居の低さは、伝記映画として理想的でしょう。
そもそものストーリーも小難しいものではなく、「息子(木下監督)が、病気の母を疎開先までリヤカーで送る」というだけです。
旅の道中で様々な人と出会い、大切なものを知るというスタンダードなロードムービーでもあるため、多くの方が抵抗なく観ることができるでしょう。
数十キロもある山道をリヤカーを引いて進む無茶さは観ていて心配になるのですが、これが実話なんだというからまた驚きです。
そもそも木下監督は(評価が高いにも関わらず)それほど認知度が高い監督ではありません。
同世代の監督には黒澤明がおり、精鋭たちが活躍する時代で、自分の信条を大切にした作品を作ってきたのが木下監督なのです。
本作は、原恵一監督の「世の中の人に木下監督の映画の素晴らしさを知ってもらいたい」という気持ちにあふれています。
そしてその試みは成功しています。
押しつけがましさはほとんどなく、木下監督という人間と、その作品の魅力をこれ以上ない方法で伝えています。
自分はこの映画で、いままで全くなじみのなかった木下監督のことを知り、その作品に込められたメッセージを知り、そしてその作品を観たくなりました。
「はじまりのみち」にこめられたメッセージは「母が子を想う気持ち」、「親孝行」、そして「戦国大合戦」でも描かれていた「戦争がないことの幸せ」です。
そしてそれは作中で引用される作品『陸軍』のテーマにも通ずるものなのです。
木下監督は戦争中に、国民に戦意を奮い立たせるための作品づくりを余儀なくされ、そこで母が子を想う気持ちを描いていた『陸軍』を撮ったのですが、軍にその描写が「女々しい」と言われ、映画監督としての仕事を中断してしまいします。
そして、母をリヤカーで送っていく道中、そして旅路の先で、木下監督は大切なことを知るのです。
その過程の素晴らしさ、メッセージ性の高さに、心が震えっぱなしでした。
難点もあります。
それは原監督の「木下監督愛」が強すぎて、木下監督作品の引用シーンがとても長いことです。
流される木下監督作品は本編のストーリーと巧みに絡み合っているのですが、少し冗長さは否めません。
上映時間が95分とコンパクトであることも、アンバランスさを際だたせているように感じます。
原監督にとってはどのシーンもカットできないものだったのでしょうが、ここで気持ちが引いてしまう人もいるのではないか?と思わせるのは本作の弱点でしょう。
他にも展開のごく細かい部分に違和感を感じるところもありました。
これはディテールに凝った仕事をする原監督らしくなく、悪い意味で驚いてしました。
しかしそんな不満も、作品の素晴らしさからすれば大した問題ではありません。
何気ないシーンの意味を知り、人間模様と込められたメッセージに感動できる本作は、もっともっと多くの方に観てもらいたい作品です(興行収入が初登場10位圏外って・・・)。
予備知識は特に必要ありませんが、できれば「戦国大合戦」を観てから劇場に足を運ぶことをおすすめします。
以下、結末も含めてネタバレです。鑑賞後にご覧ください 「オトナ帝国」「戦国大合戦」のネタバレも含んでいます↓

個人的お気に入り度:9/10
一言感想:きっと、親孝行がしたくなる
あらすじ
映画監督・木下恵介(加瀬亮)は、自身の作品である『陸軍』が戦意を高揚させる映画でないと軍に非難されてしまい、次回作の製作は中止となってしまう。
辞表を出した木下は母・たま(田中裕子)のいる浜松へ帰るが、大空襲が起きて木下家が商売していた店も焼け落ちてしまう。
山間地へと疎開すると決めた恵介は、兄・敏三(ユースケ・サンタマリア)と便利屋(濱田岳)とともに、山間部へ母親をリヤカーに乗せて向かおうとするのだが・・・
おすすめです!
もう日本映画ファンであれば絶対に観て!と言える素晴らしい作品でした。
監督は「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲」「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦」で高い評価を得た原恵一さんで、本作は監督初の実写映画となっています。
アニメ映画から実写映画へと、畑違いとまではいかなくとも土俵の違う分野への仕事だったので、監督の個性が出ないのではないか?と少し心配になっていましたが、それは全くの杞憂でした。
「はじまりのみち」は、まさしく原監督ならではと言える作品になっていました。
なにせ、本作には「オトナ帝国」「戦国大合戦」を思わせるシーンがあるのです。
登場人物の台詞が「えらい(しんどい)」「~だに」「~ずら」などと「訛っている」のも「戦国大合戦」で描かれたことですし、作品のテーマもとても似ています。
これだけで、原恵一監督が大好きな自分は本作が好きでたまらないのです。
さらに豪華キャストも文句のつけようがない名演を披露してくれます。
まじめな木下監督を演じた加瀬亮、母役の田中裕子、父役の斉木しげる、兄役のユースケサンタマリアは「家族の距離感」を見事に演じきっています。
そして観た方の多くが思うのが、濱田岳さんの芸達者ぶりでしょう。
作中ではもう落語の1シーンとしか思えないほど「演技」で魅せるシーンがあり、その上手さには感服しっぱなしでした。
また、本作は実在の映画監督・木下惠介を主人公とした伝記映画でもあります。
この手の映画は、その人物のことを深く知らないとシーンの意味が理解できなっかたり、不親切に感じることも多いのですが、本作はそれも心配無用です。
本作は木下監督作品を知らなくても、全く問題なく楽しめるのです。
自分も恥ずかしながら、代表作の「二十四の瞳」がどういった作品かを知っているくらいで、木下監督作品をひとつも観たことがありませんでした。
それでもこの映画のほとんどのことが理解できました。
この敷居の低さは、伝記映画として理想的でしょう。
そもそものストーリーも小難しいものではなく、「息子(木下監督)が、病気の母を疎開先までリヤカーで送る」というだけです。
旅の道中で様々な人と出会い、大切なものを知るというスタンダードなロードムービーでもあるため、多くの方が抵抗なく観ることができるでしょう。
数十キロもある山道をリヤカーを引いて進む無茶さは観ていて心配になるのですが、これが実話なんだというからまた驚きです。
そもそも木下監督は(評価が高いにも関わらず)それほど認知度が高い監督ではありません。
同世代の監督には黒澤明がおり、精鋭たちが活躍する時代で、自分の信条を大切にした作品を作ってきたのが木下監督なのです。
本作は、原恵一監督の「世の中の人に木下監督の映画の素晴らしさを知ってもらいたい」という気持ちにあふれています。
そしてその試みは成功しています。
押しつけがましさはほとんどなく、木下監督という人間と、その作品の魅力をこれ以上ない方法で伝えています。
自分はこの映画で、いままで全くなじみのなかった木下監督のことを知り、その作品に込められたメッセージを知り、そしてその作品を観たくなりました。
「はじまりのみち」にこめられたメッセージは「母が子を想う気持ち」、「親孝行」、そして「戦国大合戦」でも描かれていた「戦争がないことの幸せ」です。
そしてそれは作中で引用される作品『陸軍』のテーマにも通ずるものなのです。
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木下監督は戦争中に、国民に戦意を奮い立たせるための作品づくりを余儀なくされ、そこで母が子を想う気持ちを描いていた『陸軍』を撮ったのですが、軍にその描写が「女々しい」と言われ、映画監督としての仕事を中断してしまいします。
そして、母をリヤカーで送っていく道中、そして旅路の先で、木下監督は大切なことを知るのです。
その過程の素晴らしさ、メッセージ性の高さに、心が震えっぱなしでした。
難点もあります。
それは原監督の「木下監督愛」が強すぎて、木下監督作品の引用シーンがとても長いことです。
流される木下監督作品は本編のストーリーと巧みに絡み合っているのですが、少し冗長さは否めません。
上映時間が95分とコンパクトであることも、アンバランスさを際だたせているように感じます。
原監督にとってはどのシーンもカットできないものだったのでしょうが、ここで気持ちが引いてしまう人もいるのではないか?と思わせるのは本作の弱点でしょう。
他にも展開のごく細かい部分に違和感を感じるところもありました。
これはディテールに凝った仕事をする原監督らしくなく、悪い意味で驚いてしました。
しかしそんな不満も、作品の素晴らしさからすれば大した問題ではありません。
何気ないシーンの意味を知り、人間模様と込められたメッセージに感動できる本作は、もっともっと多くの方に観てもらいたい作品です(興行収入が初登場10位圏外って・・・)。
予備知識は特に必要ありませんが、できれば「戦国大合戦」を観てから劇場に足を運ぶことをおすすめします。
以下、結末も含めてネタバレです。鑑賞後にご覧ください 「オトナ帝国」「戦国大合戦」のネタバレも含んでいます↓
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