それでもできること 実写映画版「銀の匙 Silver Spoon」ネタバレなし感想+ネタバレレビュー
今日の映画感想は「銀の匙 Silver Spoon」です。
個人的お気に入り度:7/10
一言感想:若者にこそ観てほしい泥臭い青春映画!
あらすじ
八軒勇吾(中島健人)は、実家から離れたい一心で北海道の大蝦夷農業高校へ入学した。
同級生の御影アキ(広瀬アリス)に誘われるがまま馬術部に入り、酪農実習に翻弄される毎日。八軒は夢を持つことができていなかったが、その生活を経て何かが変わろうとしていた。
同名の大ヒットコミックを原作とした実写映画です。
原作は累計1300万部を誇り、アニメ化もされた大人気作品です。
ここまで多くの支持を集めた理由の一つは、「現実」を見据えた子どもにこそ知ってほしいメッセージがあったことだと思います。
主人公が入学するのは農業高校です。
農業高校を卒業して酪農家として働く人々は、長時間の肉体労働を強いられ、借金を背負いながらも一生懸命生きています。
そんな中、主人公は「何の夢も持たないけど、とりあえず家を出たい(全寮制だから)」という理由で学校に来るのです。
農業を営む方でなくても、「酪農をなめるな」と思うのは当然でしょう。
しかし、これこそが作品のミソです。
「夢を持たない」主人公は、学校生活を送る中で「夢があっても叶わない」ことがあることを知っていきます。
いくら理想論をかかげても、現実の世界ではどうにもならないことがある。主人公はそのことを知り、それでも何か出来ることはないかともがくのです。
それは農業に限らず、この社会を生きていく上で考えておくべきことでしょう。
映画版でもその精神は変わっていません。
主人公は現実という壁にぶち当たり、何とか自分の納得する答えを探そうとします。
「何になりたいのかわからない」「将来が不安」と思っている若者こそ、この作品のメッセージはより響くはずです。
吉田恵輔が本作の監督で、本当によかったです。
監督は「ばしゃ馬さんとビッグマウス」「麦子さんと」などの作品でほぼ一貫して「ダメな人」を主人公にしています。
今回の「夢を持たない若者」への視線もとても優しいもので、原作のメッセージ性との親和性も高いものでした。
監督ならではのユルいギャグも、原作の持ち味を生かしながらバッチリはまっています。
2時間弱の映画におさめるための、原作のエピソードの取捨選択も上手くできています。
ほんの少しだけの改変、映画ならではのクライマックスもよい方向に働いています。
原作のリスペクトを忘れず、映画としてもまとまりがあるように、絶妙なバランスで作られていました。
見逃せないのがキャスティングです。
主演の中島健人はアイドルであり素顔はザ・イケメンなのですが、しっかりと冴えない高校生の役作りをされています。
かっこうよく見えないようにするためにメガネの選定には特に気を使ったのだとか。なかなかのプロ精神です。
ヒロインの広瀬アリスも可愛く素直で天然ボケの女子高生を好演しています。
彼女のファンになった方は、ぜひ「スープ~生まれ変わりの物語~」を観ましょう。終盤にインパクトがありまくる役で登場するので。
他にも黒木華、吹石一恵、上島竜兵などの豪華なキャスティングがされています。
個人的に大笑いしたのはヒロインの家族の配役。これはぜひ劇場で観て驚いて欲しいです。
なんと言っても、MVPは「タマコ」を演じた安田カナでしょう!漫画そのまんまにもほどがあります。
<完璧
映画公開記念として「たまこブログ」もはじめており、こちらも読んでいて楽しいです。
不満もあります。
まず原作を読んだ方であればどうしても気になるのが、エピソードの大幅な省略でしょう。
時間の制約上仕方が無いとはいえ、存在そのものが抹消されたキャラがいることや、登場人物の心情に深く関わるエピソードがないことは、「漫画に比べて薄い」と思ってしまうことの原因になってしまいます。
また、「食べ物がおいしい」と思わせる描写が少なかったことも残念です。
その描写もあるにはあるのですが、「命を奪い、それを食す」という点がクローズアップされている作品にしてはインパクトは薄めです。
原作では読みながらお腹が空いてしまうシーンがいくつもあり、ある意味辛いシーンでもありました(すぐに北海道に行きたくなるから)。
余談ですが、本作は馬が巨大なそりを引っ張ってレースをする「ばんえい競馬」が描かれています。
映画ファンがこの題材で思い浮かべるのが、「雪に願うこと」でしょう。
本作と同じく「勝負は勝たなければ意味が無いのか」 「勝つことだけがすべてではないのか」と疑問を持たせる内容であり、邦画の隠れた名作として知られています。ばんえい競馬に興味をもたれた方には、ぜひ観ていただきたいです。
キャッチコピーは「最強に理不尽な青春!!」とありますが、実際はそれほど理不尽ではありません(原作ではかなり理不尽なことが描かれています)。
むしろ「納得せざるを得ない状況」こそがこの作品の主題であり、映画を観た後は「それでも何かをしたい」と思わせる、とても勇気づけられる映画です。
この映画が気に入った方は、ぜひ原作漫画や、吉田恵輔監督のほかの作品にも触れてほしいです。
どれも「生きていることに頑張っている人」に多大なエールを送っている作品なのですから。
タイトルの「銀の匙」の意味、その副題に「Silver Spoon」とある理由は、映画を観た後にはきっとわかることでしょう。
万人向けの青春映画として、原作好きにも、読んだことが無い方にもおすすめです。
以下、結末も含めてネタバレです 鑑賞後にご覧ください↓ 少々原作のネタバレに触れるところがあるので、未読の方はご注意を。
個人的お気に入り度:7/10
一言感想:若者にこそ観てほしい泥臭い青春映画!
あらすじ
八軒勇吾(中島健人)は、実家から離れたい一心で北海道の大蝦夷農業高校へ入学した。
同級生の御影アキ(広瀬アリス)に誘われるがまま馬術部に入り、酪農実習に翻弄される毎日。八軒は夢を持つことができていなかったが、その生活を経て何かが変わろうとしていた。
同名の大ヒットコミックを原作とした実写映画です。
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原作は累計1300万部を誇り、アニメ化もされた大人気作品です。
ここまで多くの支持を集めた理由の一つは、「現実」を見据えた子どもにこそ知ってほしいメッセージがあったことだと思います。
主人公が入学するのは農業高校です。
農業高校を卒業して酪農家として働く人々は、長時間の肉体労働を強いられ、借金を背負いながらも一生懸命生きています。
そんな中、主人公は「何の夢も持たないけど、とりあえず家を出たい(全寮制だから)」という理由で学校に来るのです。
農業を営む方でなくても、「酪農をなめるな」と思うのは当然でしょう。
しかし、これこそが作品のミソです。
「夢を持たない」主人公は、学校生活を送る中で「夢があっても叶わない」ことがあることを知っていきます。
いくら理想論をかかげても、現実の世界ではどうにもならないことがある。主人公はそのことを知り、それでも何か出来ることはないかともがくのです。
それは農業に限らず、この社会を生きていく上で考えておくべきことでしょう。
映画版でもその精神は変わっていません。
主人公は現実という壁にぶち当たり、何とか自分の納得する答えを探そうとします。
「何になりたいのかわからない」「将来が不安」と思っている若者こそ、この作品のメッセージはより響くはずです。
吉田恵輔が本作の監督で、本当によかったです。
監督は「ばしゃ馬さんとビッグマウス」「麦子さんと」などの作品でほぼ一貫して「ダメな人」を主人公にしています。
今回の「夢を持たない若者」への視線もとても優しいもので、原作のメッセージ性との親和性も高いものでした。
監督ならではのユルいギャグも、原作の持ち味を生かしながらバッチリはまっています。
2時間弱の映画におさめるための、原作のエピソードの取捨選択も上手くできています。
ほんの少しだけの改変、映画ならではのクライマックスもよい方向に働いています。
原作のリスペクトを忘れず、映画としてもまとまりがあるように、絶妙なバランスで作られていました。
見逃せないのがキャスティングです。
主演の中島健人はアイドルであり素顔はザ・イケメンなのですが、しっかりと冴えない高校生の役作りをされています。
かっこうよく見えないようにするためにメガネの選定には特に気を使ったのだとか。なかなかのプロ精神です。
ヒロインの広瀬アリスも可愛く素直で天然ボケの女子高生を好演しています。
彼女のファンになった方は、ぜひ「スープ~生まれ変わりの物語~」を観ましょう。終盤にインパクトがありまくる役で登場するので。
他にも黒木華、吹石一恵、上島竜兵などの豪華なキャスティングがされています。
個人的に大笑いしたのはヒロインの家族の配役。これはぜひ劇場で観て驚いて欲しいです。
なんと言っても、MVPは「タマコ」を演じた安田カナでしょう!漫画そのまんまにもほどがあります。


映画公開記念として「たまこブログ」もはじめており、こちらも読んでいて楽しいです。
不満もあります。
まず原作を読んだ方であればどうしても気になるのが、エピソードの大幅な省略でしょう。
時間の制約上仕方が無いとはいえ、存在そのものが抹消されたキャラがいることや、登場人物の心情に深く関わるエピソードがないことは、「漫画に比べて薄い」と思ってしまうことの原因になってしまいます。
また、「食べ物がおいしい」と思わせる描写が少なかったことも残念です。
その描写もあるにはあるのですが、「命を奪い、それを食す」という点がクローズアップされている作品にしてはインパクトは薄めです。
原作では読みながらお腹が空いてしまうシーンがいくつもあり、ある意味辛いシーンでもありました(すぐに北海道に行きたくなるから)。
余談ですが、本作は馬が巨大なそりを引っ張ってレースをする「ばんえい競馬」が描かれています。
映画ファンがこの題材で思い浮かべるのが、「雪に願うこと」でしょう。
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本作と同じく「勝負は勝たなければ意味が無いのか」 「勝つことだけがすべてではないのか」と疑問を持たせる内容であり、邦画の隠れた名作として知られています。ばんえい競馬に興味をもたれた方には、ぜひ観ていただきたいです。
キャッチコピーは「最強に理不尽な青春!!」とありますが、実際はそれほど理不尽ではありません(原作ではかなり理不尽なことが描かれています)。
むしろ「納得せざるを得ない状況」こそがこの作品の主題であり、映画を観た後は「それでも何かをしたい」と思わせる、とても勇気づけられる映画です。
この映画が気に入った方は、ぜひ原作漫画や、吉田恵輔監督のほかの作品にも触れてほしいです。
どれも「生きていることに頑張っている人」に多大なエールを送っている作品なのですから。
タイトルの「銀の匙」の意味、その副題に「Silver Spoon」とある理由は、映画を観た後にはきっとわかることでしょう。
万人向けの青春映画として、原作好きにも、読んだことが無い方にもおすすめです。
以下、結末も含めてネタバレです 鑑賞後にご覧ください↓ 少々原作のネタバレに触れるところがあるので、未読の方はご注意を。