ずっと覚えている 映画「思い出のマーニー」ネタバレなし感想+ネタバレレビュー
今日の映画感想は「思い出のマーニー」です。
個人的お気に入り度:8/10
一言感想:アニメでできる、最高の感情表現
あらすじ
12歳の少女・杏奈(アンナ)は、ぜんそくの療養を目的に、親戚の大岩夫婦が暮らす海沿いの村にやって来た。
ある日、アンナは湿っ地(しめっち)の屋敷に住む、きれいなブロンドの少女・マーニーと出会う。
上手く人と付き合えなかったアンナは、マーニーとはとても仲よくなることができた。しかし、ふたりの周りではつぎつぎと不思議な出来事が起きて……
「借りぐらしのアリエッティ」の米林宏昌監督最新作です。
本作は「アリエッティ」「コクリコ坂から」などとは違い、宮崎駿や高畑勲がまったく作品に関わっていません。
本格的なスタジオジブリの“世代交代”を感じさせるとともに、新たなチャレンジとも言うべき作品でもあるでしょう。
原作はジョーン・G・ロビンソンによる同名の児童文学です。
映画が原作ともっとも違うのは、その舞台です。
原作の舞台はイギリスのノーフォーク群の架空の街・リトルオーバートン (モデルはバーナムという地方)でしたが、映画の舞台は北海道の釧路地方になっています。
映画の作品の年代ははっきりしていませんが、作中で「いまどき手紙なんていいじゃない」という台詞があり、旧式の携帯電話(コードレスホン?)が登場することから1990年代~現代と考えていいでしょう。
「アリエッティ」も舞台を日本に変えており(こちらも原作はイギリスの児童文学)賛否を呼びましたが、この「思い出のマーニー」は日本を舞台したことにあまり違和感がなく、むしろ物語にいい効果を与えているように思いました。
主人公のアンナは、社会とうまくなじめない少女です。
そして、アンナが出会う不思議な少女・マーニーもとある悩みを抱えています。
米林監督は、「大人の社会のことばかりが取り沙汰される現代で、置き去りにされた少女たちの魂を救える映画を作れるか―」ということを自分に課しています。
この物語は少女たちのふれ合いを通じて、現代に普遍的にある、少女たちの悩みと成長を繊細に綴った作品なのです。
その年代の子どもはもちろん、かつてそうであった女性(もちろん男性にも)観てほしい作品であると思いました。
本作が何より優れているのが、巧みな心理描写です。
主人公のアンナがまわりとなじめないこと、“ふつう”になれないことはわかりやすい説明がされるのですが、この映画はたとえそれらの説明がなくても、表情や演出だけでアンナの心理状態を知ることができるでしょう。
アンナはマーニーは会話をしていくうちに、いろいろな想いが変わっていきます。
原作にあったこの繊細さ、おもしろさをアニメという題材で見事に描いていることに、感動しました。
ジブリ史上、もっとも“心の揺れ動き”を重視した作品と言えるでしょう。
また、本作はじつはミステリー要素が強い作品でもあります。
アンナがはじめてマーニーに出会ったとき「あなた、ほんとうの人間?」と聞いたように、少女・マーニーはどこか浮世離れした、幻のような存在です。
彼女は何者であるのか?どうして湿っ地の屋敷に住んでいるのか?
そうした情報をはじめはごく少なく提示して、徐々に真実を解き明かしていく過程も巧みでした。
この謎を解き明かす過程は原作とはちょっと違っているのですが、自分は映画版の描きかたのほうが好きです。
本作はなるべく予備知識を入れず観ると、よりミステリー要素を楽しめるのではないでしょうか。
また、本作のWikipediaのあらすじには結末のネタバレが思いきり載っているので、作品に触れる前に読まないことをおすすめします。
「湿っ地屋敷」をはじめとした、美しい画の数々もすばらしいものでした。
<これは行ってみたい……
北海道の地では度重なるロケハンが行われており、美術監督して種田洋平が関わっています。
田舎のゆったりとした雰囲気を感じたい人にも、ぴったりな作品です。
プリシラ・アーンによる主題歌「Fine On The Outside」もすばらしかったですね。
<歌詞><和訳>
「これからも外側(Ouside)にいたっていい」という歌詞は、主人公アンナの想いとマッチしています。
今回は英語歌詞の主題歌でしたが、プリシラ・アーンは「Natural Colors」をはじめたアルバムで、日本語で日本の名曲をカバーしていたりします。
<参考>
中にはジブリの名曲まで!
2013年末に三鷹の森ジブリ美術館でミニコンサートを実施したことから今回の起用となったそうですが、これ以外は考えられないほどの人選だったと思います。
本作は、ジブリ初のWヒロインにより、男女の恋とは違った形の“愛”を描いています。
ディズニー映画の「アナと雪の女王」や「マレフィセント」でも、Wヒロインでその愛を描いたように、近年は王子様とお姫様の恋なんかではなく、もっと普遍的で身近な“愛”を描くのがトレンドなのかもしれません。
これは(子どもにとっても)現実的な問題が多い現代ならではの風潮なのかも……いいことであるとも思うのですが、いまの子どもが夢見るばかりではいられないような印象も受けて、ちょっぴり切なくなりました。
また、本作は各所で百合(ガールズラブ)っぽいという感想を聞きますが、個人的にはそこまのものでもないと思います。
確かに、原作より百合要素はグレードアップしていますし、本作のボツコピーに「ふたりだけのいけないこと」(←これはアウトだろ)があったように、製作者側もそれを意識しまくっていたところはあるようです。
しかし、映画を最後まで観ると、単純な「女の子どうしの愛情(友情)」だけを描いている作品ではないと気づけるはずです。あ、でもやっぱり百合要素を期待する人にもおすすめします(どっちだよ)。
本作は、「天空の城ラピュタ」にあったような、“胸躍る冒険”“敵との激しいバトル”などはまったく描かれません。
それどころか、「となりのトトロ」の空を飛ぶシーンのような、“子どもの夢を叶える”ような要素すらありません。
アニメならでは、ファンタジーならではの“楽しさ”を感じたい人にとっては、本作をイマイチに感じてしまうのかもしれません。
主人公の性格は暗く、物語も決して楽しいことばかりではないのですから……
でも、自分はこの映画が大好きです。
原作にあった少女の繊細な心の変化は余すことなく描かれていますし、ほんの少しの物語の変更は、物語を改悪することなく、むしろ完成度を高めているように思いました。
中盤までは伏線を張り、主人公の心のうちを描く描写が続くので、あんまり小さい子だと退屈してしまうかもしれませんが、それも大切なものです。
家族でも、デートで観ても、観賞後に「あれはこういうことだよね」「あのときのあの気持ちはわかるなあ」といった、登場人物の心の変化を語り合う楽しみもあるでしょう。
好き嫌いのわかれる作品でもあるでしょうが、“繊細な心の変化”を大切に思うすべての人に、おすすめします。
以下、結末も含めてネタバレです 鑑賞後にご覧ください↓ 原作との違いも少しだけ書いているので、未読の方はご注意を。
個人的お気に入り度:8/10
一言感想:アニメでできる、最高の感情表現
あらすじ
12歳の少女・杏奈(アンナ)は、ぜんそくの療養を目的に、親戚の大岩夫婦が暮らす海沿いの村にやって来た。
ある日、アンナは湿っ地(しめっち)の屋敷に住む、きれいなブロンドの少女・マーニーと出会う。
上手く人と付き合えなかったアンナは、マーニーとはとても仲よくなることができた。しかし、ふたりの周りではつぎつぎと不思議な出来事が起きて……
「借りぐらしのアリエッティ」の米林宏昌監督最新作です。
本作は「アリエッティ」「コクリコ坂から」などとは違い、宮崎駿や高畑勲がまったく作品に関わっていません。
本格的なスタジオジブリの“世代交代”を感じさせるとともに、新たなチャレンジとも言うべき作品でもあるでしょう。
原作はジョーン・G・ロビンソンによる同名の児童文学です。
![]() | ジョーン・G・ロビンソン 1512円 powered by yasuikamo |
映画が原作ともっとも違うのは、その舞台です。
原作の舞台はイギリスのノーフォーク群の架空の街・リトルオーバートン (モデルはバーナムという地方)でしたが、映画の舞台は北海道の釧路地方になっています。
映画の作品の年代ははっきりしていませんが、作中で「いまどき手紙なんていいじゃない」という台詞があり、旧式の携帯電話(コードレスホン?)が登場することから1990年代~現代と考えていいでしょう。
「アリエッティ」も舞台を日本に変えており(こちらも原作はイギリスの児童文学)賛否を呼びましたが、この「思い出のマーニー」は日本を舞台したことにあまり違和感がなく、むしろ物語にいい効果を与えているように思いました。
主人公のアンナは、社会とうまくなじめない少女です。
そして、アンナが出会う不思議な少女・マーニーもとある悩みを抱えています。
米林監督は、「大人の社会のことばかりが取り沙汰される現代で、置き去りにされた少女たちの魂を救える映画を作れるか―」ということを自分に課しています。
この物語は少女たちのふれ合いを通じて、現代に普遍的にある、少女たちの悩みと成長を繊細に綴った作品なのです。
その年代の子どもはもちろん、かつてそうであった女性(もちろん男性にも)観てほしい作品であると思いました。
本作が何より優れているのが、巧みな心理描写です。
主人公のアンナがまわりとなじめないこと、“ふつう”になれないことはわかりやすい説明がされるのですが、この映画はたとえそれらの説明がなくても、表情や演出だけでアンナの心理状態を知ることができるでしょう。
アンナはマーニーは会話をしていくうちに、いろいろな想いが変わっていきます。
原作にあったこの繊細さ、おもしろさをアニメという題材で見事に描いていることに、感動しました。
ジブリ史上、もっとも“心の揺れ動き”を重視した作品と言えるでしょう。
また、本作はじつはミステリー要素が強い作品でもあります。
アンナがはじめてマーニーに出会ったとき「あなた、ほんとうの人間?」と聞いたように、少女・マーニーはどこか浮世離れした、幻のような存在です。
彼女は何者であるのか?どうして湿っ地の屋敷に住んでいるのか?
そうした情報をはじめはごく少なく提示して、徐々に真実を解き明かしていく過程も巧みでした。
この謎を解き明かす過程は原作とはちょっと違っているのですが、自分は映画版の描きかたのほうが好きです。
本作はなるべく予備知識を入れず観ると、よりミステリー要素を楽しめるのではないでしょうか。
また、本作のWikipediaのあらすじには結末のネタバレが思いきり載っているので、作品に触れる前に読まないことをおすすめします。
「湿っ地屋敷」をはじめとした、美しい画の数々もすばらしいものでした。

北海道の地では度重なるロケハンが行われており、美術監督して種田洋平が関わっています。
田舎のゆったりとした雰囲気を感じたい人にも、ぴったりな作品です。
プリシラ・アーンによる主題歌「Fine On The Outside」もすばらしかったですね。
![]() | プリシラ・アーン 831円 powered by yasuikamo |
![]() | プリシラ・アーン 2400円 powered by yasuikamo |
<歌詞><和訳>
「これからも外側(Ouside)にいたっていい」という歌詞は、主人公アンナの想いとマッチしています。
今回は英語歌詞の主題歌でしたが、プリシラ・アーンは「Natural Colors」をはじめたアルバムで、日本語で日本の名曲をカバーしていたりします。
![]() | Priscilla Ahn 3450円 powered by yasuikamo |
<参考>
中にはジブリの名曲まで!
2013年末に三鷹の森ジブリ美術館でミニコンサートを実施したことから今回の起用となったそうですが、これ以外は考えられないほどの人選だったと思います。
本作は、ジブリ初のWヒロインにより、男女の恋とは違った形の“愛”を描いています。
ディズニー映画の「アナと雪の女王」や「マレフィセント」でも、Wヒロインでその愛を描いたように、近年は王子様とお姫様の恋なんかではなく、もっと普遍的で身近な“愛”を描くのがトレンドなのかもしれません。
これは(子どもにとっても)現実的な問題が多い現代ならではの風潮なのかも……いいことであるとも思うのですが、いまの子どもが夢見るばかりではいられないような印象も受けて、ちょっぴり切なくなりました。
また、本作は各所で百合(ガールズラブ)っぽいという感想を聞きますが、個人的にはそこまのものでもないと思います。
確かに、原作より百合要素はグレードアップしていますし、本作のボツコピーに「ふたりだけのいけないこと」(←これはアウトだろ)があったように、製作者側もそれを意識しまくっていたところはあるようです。
しかし、映画を最後まで観ると、単純な「女の子どうしの愛情(友情)」だけを描いている作品ではないと気づけるはずです。あ、でもやっぱり百合要素を期待する人にもおすすめします(どっちだよ)。
本作は、「天空の城ラピュタ」にあったような、“胸躍る冒険”“敵との激しいバトル”などはまったく描かれません。
それどころか、「となりのトトロ」の空を飛ぶシーンのような、“子どもの夢を叶える”ような要素すらありません。
アニメならでは、ファンタジーならではの“楽しさ”を感じたい人にとっては、本作をイマイチに感じてしまうのかもしれません。
主人公の性格は暗く、物語も決して楽しいことばかりではないのですから……
でも、自分はこの映画が大好きです。
原作にあった少女の繊細な心の変化は余すことなく描かれていますし、ほんの少しの物語の変更は、物語を改悪することなく、むしろ完成度を高めているように思いました。
中盤までは伏線を張り、主人公の心のうちを描く描写が続くので、あんまり小さい子だと退屈してしまうかもしれませんが、それも大切なものです。
家族でも、デートで観ても、観賞後に「あれはこういうことだよね」「あのときのあの気持ちはわかるなあ」といった、登場人物の心の変化を語り合う楽しみもあるでしょう。
好き嫌いのわかれる作品でもあるでしょうが、“繊細な心の変化”を大切に思うすべての人に、おすすめします。
以下、結末も含めてネタバレです 鑑賞後にご覧ください↓ 原作との違いも少しだけ書いているので、未読の方はご注意を。