『エクス・マキナ』人工知能と女のサガとは?(映画ネタバレなし感想+ネタバレレビュー)
個人的お気に入り度:7/10
一言感想:人工知能も、人間も、こわい。
あらすじ
世界最大手の検索エンジンで知られるブルーブック社で、プログラマーとして働くケイレブ(ドーナル・グリーソン)は社内抽選に当選し、社長のネイサン(オスカー・アイザック)が所有する山間の別荘に滞在することになる。
そこで待っていたのは、人工知能を持った女性型ロボットのエヴァ(アリシア・ヴィキャンデル)だった。
※2007年の日本のCGアニメとは無関係です。
『28日後……』『わたしを離さないで』などで脚本を務めたアレックス・ガーランドの初監督作品です。
本作は「さすがはアカデミー視覚効果賞作品!」と実感できるヴィジュアルが、売りのひとつになっています。


舞台がほぼ部屋の中かノルウェーの自然しかないという制約で……ここまで視覚で魅せてくれたというだけでも、賞賛に値します。
自然の中にポツンと人工的な部屋があるというのはそれだけで特徴的ですし、「牢獄」のような閉鎖空間でのサスペンスを作ることに成功しています。
物語は、人工知能と人間との関係性を描き、人工知能の「意識」について哲学的に語り合うというものです。
すでに多くのSFで取り上げられた題材ではあるのですが……本作ではそこにジェンダー論(もしくは性の価値観)が組み込まれているのがユニークです。
ロボットが「女性型」であることが大きな焦点となり、人工知能が女性であるがゆえの「ある気づき」が与えられるのです。
これ以上はネタバレなしではとても書けませんが、こうした「SF的考察」が好きな方にとって、たまらない1本になるのではないでしょうか。
追記:人間映画Wikipediaの成宮秋祥さんによるラジオを公開しました。
※途中からネタバレ全開なのでご注意を(ここからネタバレするという警告あり)
特筆すべきはキャスト陣。
主演のドーナル・グリーソンとオスカー・アイザックって、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』のハックス将軍とポー・ダメロンじゃん! もはや正反対のキャラになっているじゃん!




※左と右は同じ人ですよ。画像は予告編とこちらとこちらより
※ていうか下段の人はX-MENアポカリプス、エンジェル・ウォーズ、ドライヴ、ロビンフッド、インサイドルーウィンデイヴィス、アメリカンドリーマーとかにも出ていました。
※右下のメガネハゲヒゲはとても37歳には見えません。
しかも、美女ロボットのエヴァを演じるのは、『リリーのすべて』でアカデミー助演女優賞を受賞したアリシア・ヴィキャンデルです。

この時点で超豪華なのですが、注目株はハウスメイドのキョウコを演じた、日系イギリス人の女優ソノヤ・ミズノですね。たいへんえっちでとってもけしからんとおもいます(キモい笑顔で)
※ソノヤさんが出演されているミュージックビデオ
※なんでこの人が日本の公式サイトで紹介されていないの?
ちなみに登場人物はほぼこの4人しかいません。
少数精鋭の俳優たちによる演技合戦も、本作の見どころです。
難点は、哲学的な会話劇がおもとなる作品であるため、「人工知能の意思」というSF的な考察に興味がないと退屈な作品になってしまうことでしょうか。
劇的な展開はあまりなく、有り体に言って(ビジュアル以外は)地味な作品ではあります。
『her/世界でひとつの彼女』がダメだった方は、本作も気にいらないのかもしれません。
個人的にはお美しい女性ロボットをもっと見たいのに、メガネハゲチビ(しかも性格も超悪い)が画面に出ずっぱりなのが何かイヤです(笑)。
しかし、クライマックスでは、「いままでの哲学的な話題があってこそ」の展開が訪れます。
これまでの会話をよりよく聞いていたほうが、よりラストに向けてゾクゾクする快感を味わえるでしょう。
体調のいいときに劇場に足を運び、会話の隅々までよく考えてみることをおすすめします。
つねに不安を煽るかのような音楽も、すさまじいもインパクトを届けてくれました。
なるべく、音響環境のいい劇場で観たほうがよいでしょう。
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ちなみに、エクス・マキナとは「機械仕掛けの」という意味のラテン語です。
演劇用語にはデウス・エクス・マキナという「混乱した状況に一石を投じて物語を収束させる」という手法があります。
それは「神様が出てきてすべて解決!」というようなご都合主義的でもあり、しばしば批判の対象になるのだそうです。
(マンガの『からくりサーカス』では、いままでの生活が一気にひっくり返ったようなとんでもない事態が起きたときに「デウス・エクス・マキナ」の名を冠する章が展開されたりもしていました)
では、『エクス・マキナ』は、そんなご都合主義の「神様が出てきて万事解決!」な展開だったでしょうか?
それをいろいろと考えてみるのも、また一興です。
そのほかで知っておくといいのは、ギリシア神話の神のプロメテウス。
プロメテウスは人類に神の火を与えて「進化」をさせており、その名は「先見の明を持つ者」を意味しています。
抽象画家のジャクソン・ポロックのことも知っておくといいでしょう。

※ジャクソン・ポロックはこんなアクション・ペインティングをする方です。
なお、そこはことなく香るエロス、性的な話題もあり、R15+指定は十分納得できるものになっているのでご注意を。
『her 世界でただひとつの彼女』のほか、『トランセンデンス』『イミテーション・ゲーム』『神様メール』などの作品を合わせて観ると、より楽しめるのではないでしょうか。
内容についてあれこれ語り合いたい、SFファンは是が非でも観ましょう。オススメします。
で……こんなにおもしろい映画なのに上映劇場が12館しかない(6月11日公開は10館)のはなぜなんですかね。増えろよ(切実)。
以下、結末も含めてネタバレです 鑑賞後にご覧ください↓
ある意味観る前のネタバレがこれ以上なく厳禁な内容だから、未見の方はマジで読まないで!
〜野暮な不満点〜
本当に言っちゃあ野暮なのですが……なんで操縦士は見ず知らずのエヴァをヘリに乗せて帰っちゃうんでしょうか?
社員のケイレブを連れて帰らなきゃ、いろいろと問題があると思うのですが……(つーか社長が死んでいるし)。
せっかくの「自然に囲まれた牢獄」も意味がなくなっちゃったような。
ひょっとするとエヴァが操縦士を殺して、ヘリを奪って逃げたのかな?とも思いましたが、そんなふうには見えませんでした。
※以下の意見をいただきました。
これは、私、けっこう納得して見てしまいました・・・ ヘリの操縦士は冒頭の人と同じであればきっと男性ですよね。エヴァの完璧な若さ、容姿、それから相手とのやり取りの中でその人の望むような会話が可能なはずですから、きっとうまくやり込めたのだろうと・・・(笑)。彼女の美貌と能力であれば可能じゃないかな?と思ってしまいました。
〜恐怖の刺殺シーン〜
えーとすみません、これだけは言わせて。
ロボットがネイサン社長をナイフで刺したときの「スーッ」っていう感じが怖すぎまーす!
もうね、人間の肉の感触なんてほとんどなく、等速でナイフが「スーッ」と体に入っていくの!
ふつうは刺し殺すときって勢いをつけたりするんだけど、そんなことはなく「スーッ」と体に入っていくの!
もうこれが「人工知能である」証拠とも言えるかも。
人間であれば、ナイフで人を刺し殺すときの「抵抗」もあるはずなのですから……。
〜「ONE」〜
エヴァは自身の年齢を聞かれ、ただ「ワン(1)」と答えました。
「年」でも「日」などと、断定することはなく……。
これは、「私は唯一無二の存在である(ONE)」ということを示していたのではないでしょうか。
ネイサンは多くの人工知能を「使い捨て」のような扱いをしていたため、「私はただひとり」と主張するような「自我」が現れたように思えるのです。
〜ネイサンはなぜエヴァの脱出計画を止めなかったの?〜
エヴァの目的はただ「脱出する(のように思える)」ことでした
ネイサンはそれを知っていた、停電時の様子も見ていた、というのはよくよく考えれば変です。
セキュリティを強化するとか、どうにでも対応はあるはずなのですから。
要するに、ネイサンもまたエヴァがどう行動するのかを知りたかったんでしょうね。
彼はケイレブの「人工知能を作るなんて神の領域だ」という言葉を気に入らなかったようでした。
つまり、「人工知能の考えることなんて、(プログラムを作った)俺(人間)が把握しているさ」と思っていたのではないでしょうか。
でも、これまで作ってきた人工知能は、ネイサンの理解を超える行動をしてきた―。
彼がひとりで酒びたりになっていたのは、天才だった自分が理解できないことに直面したという、ショックのためでもあったのでしょう。
だけど、ネイサンはエヴァがどう行動するのかを知りたいという、矛盾した気持ちをも持っている―。
わざわざ家族や恋人がいないケイレブを呼び出し、「彼女の脱出に合う条件を揃えた」のも、そのためだったのではないでしょうか。
※以下の意見をいただきました。
これ(ネイサンがセキュリティを止めなかったこと)はセキュリティシステムを逆手にとられたから仕方ないんじゃないですか。それに、ネイサンの目的は
ケイレブにエヴァの意識の有無をテストさせること
ではなく
エヴァに、脱出する唯一の方法はケイレブをたぶらかすことであることを示唆し、それに対するエヴァの行動を監視することで意識の有無をテストすること
だったのですから。
結果、エヴァは女性的魅力、駆け引き、コミュ力総動員で脱出してみせたのですから、彼女に意識は存在するのでしょう。
しかし、私にはキョウコにも意識が存在していたように思えてなりません。例えば、彼女はケイレブがネイサンの部屋に侵入したとき、訴えるように自分の皮膚をめくって見せます。今思えば、ケイレブの前で服を脱ごうとしたのも、皮膚をめくって見せるためだったのでは。直前の性玩具であることを示唆するシーンのせいでミスリードされていましたが。彼女はずっとSOSを発していたのでは。もしかしたら飲み物をこぼしたのもわざとなのかな。
〜エヴァの脳〜
エヴァは「おかしいわよね。人間は言葉を学んでいるのに、私は言葉をすでに話せるなんて」と言っていました。
彼女はその点において、「自分は人工知能である」と定義づけていたのかもしれません。
恐ろしいのは、外の世界に脱出したエヴァが、「これから新しいこと」を知っていくということ。
ラストでは、彼女は自身が宣言した通り、交差点で「人を観察していた」ようなのですから……。
言語をすでに知っているのは「人工知能だから」。
だけど、「(外の世界で)新しいことを知る」のは、もはや「人間の行い」なのです。
(皮肉にも、ケイレブも「閉ざされた場所で過ごすのが人工知能で、外の世界にいるのが人間。その違いがあるさ」とエヴァに教えていました)
ネイサンは、ジャクソン・ポロックの絵画を見て、「自動でないところ、自分で考えて描くところがいちばん難しい」と言っていました(つまり、エヴァは自分で考えて行動するという、困難なことをやり遂げた?)
エヴァの脳が「流動的な脳(WET BRAIN)」であったことも象徴的です。
彼女は「(知識を)吸収する脳」を持っていたのでしょう。
〜キョウコの言葉〜
キョウコはしゃべる機能も持たせてもらえず、ほとんど性のはけ口として「使われてきた」ようなロボットでした。
(ネイサンに言われるがまま、意味のないダンスを踊ってしまうことの、その隷属的な立場を意味しています)
だけどキョウコは、最後にエヴァに何かを囁かれたために、ネイサンをナイフで刺したのです。
この行動は、ケイレブがエヴァに告げた「言葉は生まれたときから持っているという説があるよ(伝えるすべがないだけ)」にもリンクしています。
※これはチョムスキーの生成文法理論
キョウコはしゃべれなかったけど、それに相当する言語は自身に内在していたのでしょう。
その言葉は……エヴァに告げられた「一言」により、「復讐」という形で現れたのです。
〜女〜
エヴァは初めて女性の服を着るとき、ケイレブに「後ろを向いていて」と、女性らしい「はじらい」を見せていたかのようでした。
そしてクライマックスで、エヴァはケイレブに「ここにいて」と言いました。
その間に……エヴァはほかのロボットから腕や皮膚をもらい、完全な姿の人間へと変身します。
しかし、エヴァはケイレブを閉じ込めたまま、部屋に去ってしまうのです。
これには心底ゾッとしました。
初めの「後ろを向いていて」は、女性らしいいはじらいなんかじゃない、後々のことを見越した「脱出のための方便」だったのでは?
だからでこそ、クライマックスではケイレブは「ここにいて」というエヴァの言葉に従ってしまった……。
しかもこの行動をしたのは……もはや金属がむき出しの人工知能のエヴァではない、「完全な姿の女性」だったのです!
ネイサンはエヴァの行動原理について、「愛しているか、愛していないかと思っていたが、もうひとつあったようだ。愛しているフリをすることだよ」と告げていました。
やはり、エヴァの行動は……ケイレブを愛しているフリをしていた、ということなのでしょうね。
(これは、「人間の女」しかなし得ない行動です)
〜1週間〜
神は世界を1週間でつくったとされています。
本作でケイレブが滞在し、エヴァが外に脱出して「人間」になったのもちょうど一週間でした。
彼女は、「神(ネイサンとケイレブ)」の手により、人間として世界に躍り出たのです。
この映画、低予算なのにとても良く出来た作品でしたよね!私は女性なのですが、エヴァがケイレブの心をコントロールしていくところ、とてもスリリングで本当に惹き込まれてしまいました。
人間ってやっぱり情が湧いたりとか迷いが出たりしますが、エヴァは完璧にその部分はスルーしていて、パーフェクトな「恋愛詐欺」を貫き通しているところに、ラストはキョウコのことやネイサンを倒したこともあって"潔さ"さえ感じてしまいました^^;
あの「後ろを向いて」という恥じらいも上手いものですよね。人間「見るな」と言われれば絶対にもっと見たい!と思うじゃないですか

でも、カゲヒナタさんが書かれていらっしゃいますが、"愛しているふり"って確かに人間の女性も得意な面かもしれません(笑)。とても面白い感想だなと思って、ちょっと笑ってしまいました^^ なんというか、男性を虜にするテクニック満載の映画なのかも・・・

>なんで操縦士は見ず知らずのエヴァをヘリに乗せて帰っちゃうんでしょうか?
これは、私、けっこう納得して見てしまいました・・・

ネイサンは、自分の創ったものへの能力を完全に見誤りましたね。日々、人間の予想を超えて学び続け進化し続けている人工知能の現状と重なるようで、怖さも感じました。それに、彼女が朽ちることのない若さと美貌をずっと保ち続けている・・・ということも、女性として怖さを感じました


長々と失礼いたしました!
超低予算ながら洗練された美的感覚で自然と人工、有機と無機、解放と閉塞など対極構造が秀逸。SFなのにR−15指定であり、形態を問わないはずの人工知能(AI)が人型で且つ女性という性別を敢えて有している点がポイントで完全に男視点で描かれています。こんなに美しくてエロい人工知能は世の殿方の歪んだ願望であり、逆に女性を敵に回す展開ですが、しっかり最後にバランスを取るところは恐ろしかったりします。今年「リリーのすべて」でアカデミー(R)助演女優賞を獲得したA・ヴィキャンデル演じる超美形AI(一部スケルトン)の質感が素晴らしく、彼女が処世術を学習し覚醒していくサマは鳥肌モノですが、謎の日本風女性も魅力的、ちょっと誤解を生みそうなゲイシャロボ?
「ブレードランナー」のレプリカント反乱、「ターミネーター」でのスカイネット暴走など映画としては美味しいネタですが、人工知能と人間はどのように向き合うのかは未知数で、使いこなすのか?逆に使われるのかなど今作には多くの功罪と伏線が仕込まれています。インターネット、SNS、検索エンジン、SIRIなど我々に便利なツールは実は人工知能(AI)が人類を凌駕するためのデータ収集である可能性も否定できません。
>ネイサンはそれを知っていた、停電時の様子も見ていた、というのはよくよく考えれば変です。
セキュリティを強化するとか、どうにでも対応はあるはずなのですから。
これはセキュリティシステムを逆手にとられたから仕方ないんじゃないですか。それに、ネイサンの目的は
ケイレブにエヴァの意識の有無をテストさせること
ではなく
エヴァに、脱出する唯一の方法はケイレブをたぶらかすことであることを示唆し、それに対するエヴァの行動を監視することで意識の有無をテストすること
だったのですから。
結果、エヴァは女性的魅力、駆け引き、コミュ力総動員で脱出してみせたのですから、彼女に意識は存在するのでしょう。
しかし、私にはキョウコにも意識が存在していたように思えてなりません。例えば、彼女はケイレブがネイサンの部屋に侵入したとき、訴えるように自分の皮膚をめくって見せます。今思えば、ケイレブの前で服を脱ごうとしたのも、皮膚をめくって見せるためだったのでは。直前の性玩具であることを示唆するシーンのせいでミスリードされていましたが。彼女はずっとSOSを発していたのでは。もしかしたら飲み物をこぼしたのもわざとなのかな。
それと、印象に残ったセリフがあります。それはネイサンの
「エヴァの次は"超越的存在"になる」
というセリフです。ここは原語では"シンギュラリティ"と言っています。これは"特異点"という意味ですが、"AIが人類の知能を超える点"を意味する科学用語でもあります。この特異点を過ぎると人類はAIに追いつけなくなると言われています(AIがより高知能のAIを作る連鎖に入るため)。ネイサンはエヴァの次だと見越していましたが、もしかしたらすでにその点を超えてしまっていたのかもしれません。