『後妻業の女』悪党への反逆(映画ネタバレなし感想+ネタバレレビュー)
個人的お気に入り度:7/10
一言感想:殴りてえ(主に大竹しのぶを)
あらすじ
婚活パーティーにいた女性・小夜子(大竹しのぶ)は、結婚相談所所長の柏木(豊川悦司)と手を組み、高齢者の遺産を狙った犯罪を繰り返す「後妻業の女」だった。
小夜子の新しい夫であった耕造(津川雅彦)は病に倒れ他界し、その娘の朋美(尾野真千子)は、遺産は全て小夜子に渡り遺族には一切残らないと知らされる。
父の死に疑念を抱く朋美は、探偵の本多(永瀬正敏)を雇い、小夜子の身辺を調査を開始する。
『愛の流刑地』『源氏物語 千年の謎』の鶴橋康夫監督・脚本作品にして、黒川博行の小説『後妻業』を原作とした映画です。
後妻業とは高齢者の遺産を狙った犯罪であり、要するに「すげー金持ちのジジイと結婚してすぐくたばれば(ときには事故に見せかけて殺せば)遺産丸儲け!」というクズすぎる女の姿が描かれているわけです。
こんな胸糞の悪い話が現実にあるっていうのがまたイヤですね。
思春期の男女のまっすぐな想いが描かれた『君の名は。』のおかげで心がすっかり浄化されていたのですが、本作のおかげで濁りきました(褒めています)。
そうであるのに、本作がブラックコメディになっているというのがすごいところ。
『日本で一番悪い奴ら』でも思ったのですが、こんなにヒドい(褒めています)話を乾いた笑いに昇華させるって……いや、日本映画でこういう作品が生まれるのは喜ばしいのですが、マジで攻めているなあと。
そもそものこの話を笑い飛ばすことができない、老人が搾取されてしまう姿を(あとで犯人にしっぺ返しがあっても)どうあっても見たくない人には、とてもじゃないけどおすすめできません。
皆が口を揃えて絶賛するのは、主演の大竹しのぶの怪演っぷりでしょう。
なんつーか、「何か問題でも?」とでも言いたげな目の動きがぶん殴りたいほどムカつくんですよね(褒めています)。

そのほか「クソボケが!」というセリフがハマりすぎな豊川悦司、気の強い女性の尾野真千子、考えていることが読みづらい探偵の永瀬正敏と、役者陣の演技合戦が本作の大きな見どころでしょう。
大笑いしたのは、放蕩息子役を演じた風間俊介さんですね。

はっきり言ってその演技はオーバーアクトすぎてヒドい(褒めてません)。ヒドいんだけど、これが一周回って「なんだこいつ」「アホや……ほんまアホや……」な感じで楽しいんですよ。
彼の出てくるシーンはもれなく笑えましたが、まあまあ賛否ありそうですね。
本作はブラックコメディのほかに、悪人が成功していくことにカタルシスを覚えるというピカレスクロマン的なおもしろさもあります。
近年で言えば『ウルフ・オブ・ウォールストリート』『ナイトクローラー』がこれに当てはまりますね。
主人公がガチのどクズで大嫌い!だけど成功していくことがちょっと気持ちいいっていうね(←アブねえ)。
映画はさまざまな感情を体験させてくれる媒体。こういう作品があってもいいのです(青少年の健全育成にすこぶる悪いけど)。
本作で残念だったのは、気になることを「うやむや」にしてしまうこと。
中盤まではこの「わからなさ」こそが「知りたい」という観客の興味を引く原動力になっていたのに、終盤ではそのあたりを解消していないから「飲み込みづらい」「納得できない」という感情が残ってしまいます。
「観客の想像におまかせする」ことが重要な作品もありますが、本作は一番重要なことを放棄しちゃったようにしか感じないんですよね。ここは明らかな欠点だと思います。
また、鶴橋康夫監督の演出は堅実なのですが、『ウルフ〜』のような勢い良くクズの経歴を描いて→地獄に突き落とす、というカタルシスはそんなにありません。
あくまで淡々とした話運びで、役者の演技で魅せる(ときどきすげえシーンが出てくる)というのは本作の利点なのですが、やはり自分は『ウルフ〜』のようなラリパッパっぷりが飛び抜けているほうが好みです(『日本で〜』でも同じことを思ったなあ)。
それでも、クライマックスのありえねー(褒めています)展開にはヒーヒー笑えたし、もれなくゲスどもが出てくるのである種のスガスガしさを感じる快作でした。
濡れ場はそこそこの過激さで、PG12指定ギリギリのちょうどいい感じなのではないかと。
はじめに書いたように『君の名は。』を観て「世界はこんなに美しくねーよ、クソボケが!」と思っている歪んだ大人にオススメしますよ。
以下、結末も含めてネタバレです 鑑賞後にご覧ください↓
〜野暮な不満点〜
やっぱり、最終的に小夜子と柏木がどうなったかわからないのは大きな欠点ですね。
彼らの「きらびやかな過去」を見せるような「タイタニックごっこ」な画で〆るのは悪い意味でイラッとしました。
こいつらがマジで地獄に落ちる姿を期待していたのにさー。
でも、ふたりがあのクライマックスの後に捕まったこと、新しい遺言書が見つかったので遺産を一文も受けとれないのは間違いないので、これでいいのかな。
〜「ピカイチの悪党」と「化け物」〜
柏木は、探偵の本多に「悪党にもセンスがいる」「あんたはピカイチの悪党だよ」評されていました。
確かに、柏木はニセのブランド物のバッグを小夜子にあげても気づかれなかったり、時計を法外な値段で買わせたりと、小夜子を上回っているようなところがありました。
でもそんな柏木も、小夜子に不動産王ではない「竿師」(笑福亭鶴瓶)を紹介してしまったというミスを犯していますし、探偵の本多にゆすられるばかりか、小夜子に出会う前に女性とセックスしてきたことを見抜かれるなど、完全に一連の犯罪を「支配」できていないところがあります。
やはり、真に「化け物」なのは、これだけの犯罪を繰り返しながらも、罪悪感のかけらもない小夜子。
彼女が、亡くなった元夫(籍を入れていなかったけど)に、キスをする場面はゾッとしました。これは「死んでくれてありがとう」ということを示しているんだろうなあ……。
でも、そんな小夜子は、放蕩息子にあっさりと殺されてしまう(と勘違いされた)。
そして柏木が職質された後、小夜子はキャリーバッグから奇跡の復活(笑)を果たすという、やはりの化け物っぷりを見せつけました。
復活して「私、被害者ですの」とほざいたときの小夜子を見たときの、放蕩息子の苦笑い、柏木の「かなわんなあ」というモノローグも最高ですよね。腹が痛くなるほど笑った、すんばらしいクライマックスでした。
〜小夜子がしないこと〜
小夜子に殺された耕造(津川雅彦)が、仏壇の中の「替えのお線香」のところに遺言書を残していたことが大好きでした。
これは耕造が、「小夜子は絶対に線香をあげたりしない」ことを見越して、ここに遺言書を隠したと考えられます。
しかも、耕造は「封を開けてしまったら効力を失う」ということまで確認済みっていうね。
殺されてしまった老人が、「化け物」であった小夜子を逆転したということも痛快です。
〜できること〜
いままでほとんど主義主張を口にしなかった、世間知らずの専業主婦の姉(長谷川京子)が語ったことが、印象に残りました。
「私たちが、寂しい気持ちをお父さんにさせなかったら、こうはならなかったのかもしれない」
本作では、寂しい老人が小夜子に騙される痛々しい姿を見せ続ける一方で(だからでこそ)、「こうならないための」メッセージを送っていたのですね。
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不満点としては遺言公正証書に同じ人が続けて証人やってたらおかしくねぇか?爪甘そう。と思った点と、風間俊介演じる息子の役がどうもだめでした。「激情的でダメなやつ」としてコメディリリーフにしたかったのかな?と思いましたが、どうもやり過ぎに見えてしまい「こいつ大丈夫?」とドン引きして乗れなかったです。
インモラル(特に人死にはそこそこある上に現実でも起きてるそうですし…)で人間のえげつなさが大きいですが、いやはや楽しい作品でした。とはいえその分好き嫌いは絶対わかれるだろうから安易に勧めにくいところはありますが…。
後個人的には大阪の風景を観つつ「あれはあそこだな」と想像するのも結構楽しかったです。
>皆が口を揃えて絶賛するのは、主演の大竹しのぶの怪演っぷりでしょう。
なんつーか、「何か問題でも?」とでも言いたげな目の動きがぶん殴りたいほどムカつくんですよね(褒めています)。
>>大竹しのぶさんに関しては悪女役のイメージが薄いこともあって「大竹さんってこんな役もできるのか!」って感じました(まあ単にやった例を知らないだけですが)。
>はっきり言ってその演技はオーバーアクトすぎてヒドい(褒めてません)。ヒドいんだけど、これが一周回って「なんだこいつ」「アホや……ほんまアホや……」な感じで楽しいんですよ。
彼の出てくるシーンはもれなく笑えましたが、まあまあ賛否ありそうですね。
>>彼のキャラはちっとも楽しめなかったと言ったら嘘になりますし総合的には楽しかったのですが、それでもところどころで「うーん…これはないわ」って感じるところが出てしまったので個人的に「やや玉に瑕かなあ」と思うところはあります。
>また、鶴橋康夫監督の演出は堅実なのですが、『ウルフ〜』のような勢い良くクズの経歴を描いて→地獄に突き落とす、というカタルシスはそんなにありません。
>>そこを期待したらまず楽しめなさそうですよねえ。
自分の場合いうほどその点は期待してなかったですが全くというわけではないので引っ掛かるところはあります(が、それでも「この人たちの快進撃が何処まで続くかもはや楽しみだわ」とも思います)。
>やっぱり、最終的に小夜子と柏木がどうなったかわからないのは大きな欠点ですね。
彼らの「きらびやかな過去」を見せるような「タイタニックごっこ」な画で〆るのは悪い意味でイラッとしました。
こいつらがマジで地獄に落ちる姿を期待していたのにさー。
>>同感なものの、自分はてっきりあの件の後も続けてると思ってたのですが言われてみれば「過去の栄光」だったのかもしれませんね。
とすればあの展開だと警察に御用となってるでしょうね。
>柏木は、探偵の本多に「悪党にもセンスがいる」「あんたはピカイチの悪党だよ」評されていました。
確かに、柏木はニセのブランド物のバッグを小夜子にあげても気づかれなかったり、時計を法外な値段で買わせたりと、小夜子を上回っているようなところがありました。
でもそんな柏木も、小夜子に不動産王ではない「竿師」(笑福亭鶴瓶)を紹介してしまったというミスを犯していますし、探偵の本多にゆすられるばかりか、小夜子に出会う前に女性とセックスしてきたことを見抜かれるなど、完全に一連の犯罪を「支配」できていないところがあります。
>>ついでに言えば本多(余談ながら役柄と役者の所為で濱マイクが頭をよぎります)が紹介所に押し掛けてきた際に感情を抑えきれてなくて自戒してたところもありますし「ところどころ抜け目があるキャラなんだろうな」と見てました。
>小夜子
>>やはり彼女が作中最強でしょうねえ。棺桶の遺体にキスは予告で知ってたとはいえ「ひえっ」ってなりました。
とりあえず、キャリーバッグから奇跡の復活&「私被害者ですの」のコンポは作中での悪女ぶりを見せられ続けられてからだともはや振り切って楽しいです。
>「私たちが、寂しい気持ちをお父さんにさせなかったら、こうはならなかったのかもしれない」
>>やはりこれが一番本質を見極めた台詞だろうなあ、と思います。そこのところを念頭に入れていれば現実においても…ですし。
>劇場内は「後妻業」に引っ掛かりそうな年齢の方々が多く、ゲタゲタと大きな笑い声も多くて楽しかったです。
>>自分の観た回もそうだったので凄くわかります。なんていうか「これぐらいの齢までいったら笑い飛ばせるようになるのかなあ」と思いつつも一緒に楽しめましたし。
一言感想:おぞましいものを見た・・・
でした。
こういった事件を綴り残すのは映画の重要な役目ですし、役者さん達の怪演が凄まじい見所な本作ですが、正直元になった事件が胸糞過ぎて、それを「コメディ」にしようとした鶴橋康夫監督こそがサイコパスなんじゃないかと思える酷さです。
笑えねえよ・・・でもオープンリーチさんのおっしゃるように年配者中心(カップルの方もいました)でけっこう入っていた中心の劇場では時折クスクスが起こり、複雑な心境で帰りました。
>『君の名は。』のおかげで心がすっかり浄化されていたのですが、本作のおかげで濁りきました(褒めています)。
むしろ本作を観賞していた高齢者の皆さんへ『君の名は。』を勧めて帰りたくなりましたよ!
今凄く『燦燦』が観たいです。
>大笑いしたのは、放蕩息子役を演じた風間俊介さんですね。
風間さんの演技は名演だと感じました。「チンピラ」という人種を良く解ってるなあ・・・と。
実は最近仕事でこの手の馬鹿に絡まれまして。ビックリするほど恐くないんですよ。とにかく大声を張り上げて手足を振り回して暴力を振るうフリをする。こちらが強く出ると急にしおらしくなる・・・とまあ、本当は臆病で実力も無い自分を必死に虚勢で飾り、相手より優位に立とうとしているのが見え見えで・・・。
あと彼が小銭貯金とピザを持っていく所が本作で唯一笑えました。小物にも程が有る・・・。
なにより大竹しのぶさんの呆気らかんな天然サイコパスぶりと史上最高に汚い豊川悦司さんが最高!特に豊川悦司さんなんて、ああいう狡猾なクズどもを正義感と執念で追い詰める刑事!とかが似合う人だけに・・・。
>『ウルフ・オブ・ウォールストリート』
これと違って笑えなかったのは「故意の殺人」が行われている事ですね。ウルフの方だって破産して自殺した人も居たでしょうけど、やはり直接加害を行っているのと劇中で描写されていると・・・。
>『ナイトクローラー』
こちらはコメディではありませんでしたから・・・。
>「観客の想像におまかせする」ことが重要な作品もありますが、
>本作は一番重要なことを放棄しちゃったようにしか感じないんですよね。ここは明らかな欠点だと思います。
ラストの「蘇生」はデストロイ級の演出だったと思います!小夜子はあそこで我が子に殺され、柏木は“年貢”を納めるべきでした!
・・・しかもシレっと中瀬家と示談を済ませて悪行続行のようなラストは胸糞過ぎます!
>~野暮な不満点~
中瀬家の姉妹にしても、オマエらはそれで良いかもしれないケド、人喰い化け物どもを知った上で町に放ったという事を自覚してますか?と・・・。
>~「ピカイチの悪党」と「化け物」~
しかもお互い決して「嘗めて」いないのですよね。この辺の演出は良かったです。恐るべき化け物同士の共生関係!
>~小夜子がしないこと~
ここはちょっと胸が空きましたが、“獲物”の方が怪物よりも上手でゲームマスターだったとか!
でも脳卒中も演技だったのなかあ・・・とモヤります。医師も耕造先生の協力者だったのかもしれませんが。
>~できること~
この手の話はどこか女尊男卑的な歪んだ描かれ方で「騙される方が悪い」な描写が多いように感じますが、それで終わらせなかったのは良かったです。
ですが、小夜子も実は人並みの幸せを望んでいたように描いたのは最悪でした。そりゃ人間思い描いたような幸せを掴めないのは当たり前ですが、オメーは何度その人並みの幸せな家庭を築けるチャンスをテメー自身の自己中心的な欲望で潰してきたんだよ!?博司があんな人間になったのだってオメーが家庭崩壊させたのが原因だろうが!?
彼が必死に「捨てないで!助けて!!」と、自分を厄介なお荷物兼都合のイイ駒としか観ていない母親に縋りついて小夜子とカーテンに巻かれていくシーンは哀れ過ぎて泣きました・・・。
今凄く『麦子さんと』と『寄生獣前編』が観たいです。