ツギハギだらけアニメ「手塚治虫のブッダ」ネタバレなし感想+ネタバレレビュー
個人的お気に入り度:2/10
一言感想:大作っぽさは味わえるけど脚本が変な珍作アニメ
あらすじ
奴隷の子「チャプラ」は、「タッタ」と名乗る少年に届け物を盗まれてしまう。
チャプラの主人は「反物を取り戻ださないと、母親を売り飛ばす」と脅す。
チャプラはタッタと再会するが、もう反物は売り払ってしまったと告げられる。
タッタは母親を救ってやると宣言するのだが・・
同じころ、シャカ国では待望の王子が生まれる。彼は「シッダールタ」と名づけられた。
すでにyahooレビューなどで惨憺たる評価だったのでむしろ大いに期待して観ました。
結果、期待を裏切られませんでした。
以下、この作品の問題点と思われる部分です↓
①原作の要素を詰め込みまくっているだけの脚本
まずこれが筆頭。
原作では
チャプラが主人公の物語が「第一部」
シッダールタ(少年)が主人公の物語が「第二部」
だったのですが、この映画ではそれを同時並行して描きます。
これにより、ストーリーの主軸がアッチコッチ飛ぶので把握がまず大変です。
しかし、それだけではありません。
これのおかげで10人が10人ともおかしいと思うツッコミどころが生まれてしまっているのです。
微妙とかそういうレベルじゃなく明らかに「おかしい」のです。
このシーンのとき、目を疑いましたよ、本当。
②アニメーションの質もあんまりよろしくない
カクカクな動きが多いと思ったら、思い出したようにムダに早い動きを見せたり、
横のカットで平面的で薄っぺらい画を見せたり、
しゃべってるだけのシーンで、キャラがムダなジェスチャーを見せるので気色悪かったり。
演出も宗教じみてて危うさを感じます。
③人が死にまくる
一概に悪いとは言えない要素ですが、この映画は字幕の漢字にルビを振ってるくらいですから子どもが見ることも想定していると思います。
それにしては死体の描写などが割とキツめで、気のめいるものばかりが映し出されます。自分が親だったらこれは見せられません。
原作も楽しい話ではありませんし、残酷なシーンはあるのですが・・・最小限の描写にしてほしかった気もします。
④ 主要登場人物の配役
声優さんじゃなく、俳優をアニメの声にあてる風潮は好きではありません。
でも堺雅人さんは文句なし!本当万能だなあ。
あ、陛下(シッダールタの父)の棒読みは聞かなかったことにします。
この声をあてたのは能楽師の方なのですが、大人の事情をプンプン感じます。ていうか何故。
脇を固める声優さんは超ベテランばかりなので、違和感を感じてしまいます。
⑤ このアニメで何がしたかったのだろう
少なくとも手塚治虫先生の作品を十分にリスペクトしている内容とは言えません。
出来上がったのは
原作のエピソードをガチャガチャとつなぎ合わせ、
とりあえずキャラもまんべんなく登場させてみました、
というツギハギのハリボテとしか思えない作品です。
そこにあるのは「仏陀の教えを今こそ広めよう!」という宗教観の押し付け。
これで仏教に信心する人はいませんでしょうし、一部を除いた観客はそんなものを求めていないでしょう。
書きませんけどエンドロールに表示されるのはそれらしいスポンサーばかりです。
どんな裏事情があるのか知りたいような知りたくないような微妙な心境です。
総評:
ここまで散々こき下ろしましたが、テンポよく話は繋がりますし、原作に準拠したエピソードは十分に面白いです。
なので一般的に言う「駄作」とはやや異なるような気がします。
期待しなければツッコミどころも含めて結構楽しめるでしょう。
しかし何より恐ろしいのがこれが全3部作の1部という事実でしょう。
本作の評価を見る限り、ポシャる可能性もあるとは思いますが。
言うまでもなく、原作は大傑作です。
この映画のよいところは「原作を読んでみたい」と思わせるドラマが垣間見えること。
この作品がきっかけで、原作が読まれるようになるのはいいことだと思います。
以下、ネタバレです↓原作のネタバレもありますので要注意
さあて、本作の最大のツッコミどころから見ていきましょう。
15年もたっているのになんでタッタは成長していないんだよ!
うっわー何だコレ。
説明しましょう。こういう展開があったのです。
チャプラ(子どものタッタと出会う)の少年時代と、シッダールタの誕生から物語が始まる。
↓
シッダールタを成長させないといけないので、作中で15年の月日がたつ。
シッダールタは15歳、チャプラは20代前半くらい?になる(声変わりもする)。
↓
しかし、チャプラを15年ぶりに見たタッタは子どものまんま!(声も大谷育江さんのまま)
どうしてこういうことになったのか?何故大人になったタッタを登場させないのか?
答えは恐らく
「無念の死を遂げるチャプラと母親の死を『子どもの』タッタに見せたかった」からでしょう。
このシーンで大人のタッタを登場させるのは、原作に則していないので避けたのではないかと思います。
原作ではそれほどの時間経過はなく、チャプラは少年のまま出世していっています。だからタッタが子どものままでも問題はありません。
でも映画では、2人の主人公が青年へと変化しているというのに、タッタ一人だけ子どものままというピーターパン状態に。
これはどう考えても変だよ。
ひょっとすると、続編では数年たっただけで大人になったタッタが出てくるのでしょうか。
そんなピッコロさんよろしく状態だったら、泣くよ自分。
でっかいツッコミどころがもうひとつ。
チャプラが戦場で猛毒をくらい、タッタと母親がヒマラヤへ薬の使い方を聞かなければならないと悟ったシーンです。
タッタが動物に乗り移る能力を使う「俺だったら1日で行けるぜ」
↓
動物たちを「乗り継いで」そこまで向かうので、動物は次々と死んでいく
↓
たどり着くけど、「アシタ」様はこう言います「なんということをした、ナラダッタ」
↓
「ナラダッタ」が苦しむ。
誰だお前!
いや原作を読んでいる自分はこのキャラを知っています、タッタと母と理由もわからず合流した(ホントわからん)影の薄い坊さんであることもわかっています。でもここで初めて名前が出た人物です。
(追記)ごめんなさい、はじめにアシタ様に名前を呼ばれていたようです。どっちにしろキャラ薄いけど。
何より動物使って聞きに行こうと言い出したのはタッタじゃん!
もうヒッドイです。
これを見た人全員が「なんであの人が罰を受けるの?」と思うでしょう。
原作ではタッタの能力を使う提案をしたのはナラダッタであり、筋は通るのですが・・・スタッフに誰か止める人はいなかったのか。
子どもであるタッタに罰を受けさせないようにするのはわかるのですが(本当は大人のはずなんだけど)、このチグハグな展開は狙ってやっているとしか思えないです。
かわいそうなナラダッタは獣のようになり、観客にすさまじい後味の悪さを残します。
「タッタの行動を止めなかったから」とも考えられますが、それでもね・・
他のツッコミどころも、箇条書きで列挙↓
・オープニングから香ばしい。
吹雪の中を裸同然で歩くおじいちゃん(アシタ様)から度肝を抜かれました。死ぬだろ。
原作ではもちろん違うよ。
さらに火を吹雪の中で起こすし。ビバークしろ。
極めつけは、死んだウサギを掲げると吹雪なのに後光が指すのです。
演出によるものとはわかっているけど怖い。
・シッダールタが生まれる→お妃さまが死ぬというくだり。
周りの付き人はお妃さまが死ぬ前から悲しがってる。
ちゃんとシーンの前後関係把握しているの?
あとベッドに乗せて何で実家へと運ぶの?すげえでかくて重そうなんですが。結局お城へ戻っているし。
・シッダールタは外の世界に出て、「ミゲーラ」という少女ともにすさんだ世界を見て落ち込む→次のシーンでは意気揚々とミゲーラに会いに行っている。
シッダールタがものすごい笑顔だったので余計に腹が立ちます。この転換は本当最低。
ミゲーラのキャラデザインも、悪くはないとは思うけど原作とは違いすぎますよね。
ここの死体の描写は必要だとは思うけど、ハエがたかっているおじいちゃんの死体の顔のアップはやりすぎだと思うんだ。
・毒矢を撃たれたチャプラは、シッダールタに戦場で出会う。チャプラ「なんて清らかなんだ」。
予想通りの宗教くさい演出&気持ち悪い展開。
2人の話を同時平行にしたことも生かしきれてない。台無し。
・「バンダカ」の描写
ずいぶん原作よりイケメンになりました。
死ぬシーンは唐突&残酷なので子どもにはトラウマかも(これは原作どおり)。
原作とは違い、子どもを残していません。
息子の「ダイバダッタ」のエピソードはかなり好きなのでもったいないかも。続編見たくないけど。
・チャプラと母の死体が崖下に落ちるけど、「パサッ」っとバウンドする。
本当に効果音が「ぱさっ」だったので驚いた。
それはともかく、原作の「チャプラを愛していた姫が、身分の低いことがわかったチャプラのことを諦める」という切ないシーンがなかったのは残念。
・ラスト
仏教の「四苦」についてナレーションで伝えるのですが、こんなに落ち込む教えを最後に持ってこなくても・・・
吉永小百合さんの声で「生きてる間は苦しい、人は思うがままにしようとして苦しむのです」とか言われるので本当気がめいりました。
あと虹色に光る亡者たちがシッダールタに群がる光景が本気で気持ち悪い。
もう本当大変な作品です。思い返すだけで疲れました。
とにかくこれに関わった声優さん、俳優、スタッフの皆さま、お疲れ様でした。
最後にひとつ、サブタイトルにツッコミどころが残ってました。
赤い砂漠とか、出てないじゃん!
あれだけ素晴らしい原作が何故あんなに変なものになってしまうのか。映画って不思議なもんですねえ…。
キツかったですねえ・・・自分も原作が大好きなだけに。
自分は前評判を知っていたので、逆に楽しく観れたのですが・・心中お察しします。
また来てください^^
私の頭にある感想をそのまま文章化したようなレビューで大爆笑でした。
企画もの映画の典型でしたね。船頭不在の船が激流を流れて行く感じ。「お仕事だったんだってばー」という製作担当者達の声が聞こえてきそうでもう…
>企画もの映画の典型でしたね。船頭不在の船が激流を流れて行く感じ。「お仕事だったんだってばー」という製作担当者達の声が聞こえてきそうでもう…
そうですよねぇ。シーンごとに「いやいや作業している」感も見受けられます。
まあでもツッコミいれてるぶんには楽しかったです(笑)楽しめていただけて幸いです。
本当にその通り。色んな事情があったにせよ、コレ最低限のつじつまが合ってない事ばかり。怖いくらいです。
コレを世の中に出した方々は、勇気がありますね。名前まで出している監督以下スタッフの方々、素晴らしい!
> 色んな事情があったにせよ、コレ最低限のつじつまが合ってない事ばかり。怖いくらいです。
ホント最低限のコトですよね・・・どうしてこうなった。
子どものままのタッタを観たときは「あれ?回想シーン?」「よく似たキャラかな?」「ドッキリ?」とか思いました。
>コレを世の中に出した方々は、勇気がありますね。
ホントに・・・(泣)
またいらしてください^^)
あと、色々ツッコミを入れてらっしゃいますが、自分と妻で入れたツッコミもご紹介しますと、最後にチャプラとお母さんが崖の上に連れてこられて、そこに何とか間に合ったトット。「やった!トットが来てくれたから、きっと助けるんだ!」と思うじゃないですか、普通。そのまま矢を射かけられて、逃げ惑って、槍に貫かれた母子は奈落の底へ。。「はっ?」「何それ?」「トット、登場する必要ないじゃん!」思い出すと、吹き出しますよね。ホント。
>槍に貫かれた母子は奈落の底へ。。「はっ?」「何それ?」[太字]「トット、登場する必要ないじゃん!」
一応、そこは原作だとタッタが貴族たちに復讐を誓う、ものすごく重要なシーンなんです。
でも映画ではタッタは「助けられなかった」だけで終わっていますよね・・・(泣)
是非、その辺は原作をお読みください。
映画がいかにテキトーに話をつないでいるかがわかりますよー
ふ~ん。この映画の監督って、これ通して見たり、原作を読んだりしてるんですかね??普通の感覚なら、これを世に出したら、まずいって思いますよね。
あと、面白いなあと思ったのは、この映画を絶賛しているブログがあって、「はっ?」って思ってよくよくプロフィールを見たら、映画関係者だった。(笑)内輪ウケ?傷の舐め合い?ですな。
自分もなんだかかんだ言いながら、見ている間はわりと楽しかったです。思い返したらひどい映画だったけど。
>映画の中のイラストの話なんですが、手塚先生の絵とちょっと違っていましたね、 チャプラやシッダールタなんてえらい美形になってましたし。
違いますよね。個人的にはキャラデザインは悪くないとは思うのですが・・・
そのままの手塚先生の丸っこくて可愛いキャラのままのものも見たかった気がします。
バンダガは映画版のほうが好きだったりします。
ちゃんと人間ドラマが主軸なので、そうなのかもしれません。
でもシッダルタとチャプラが出会うシーンだけは宗教臭くてダメでした・・・
ただ、ナラダッタは一番最初に南に迎えーみたいな感じで出てきてませんでした??だからあたしは誰だとは思わなかったですよー(^ ^)
まぁそうじゃなくてもツッコミどころは満載でしたが…
> ただ、ナラダッタは一番最初に南に迎えーみたいな感じで出てきてませんでした??だからあたしは誰だとは思わなかったですよー(^ ^)
そうでしたか!大変失礼しました、訂正しておきます。
> まぁそうじゃなくてもツッコミどころは満載でしたが…
子どものタッタが出てきたときはキツかったですw本当
やたらおぞましい雰囲気を出していて手塚治虫のコミカルさが全くありませんでしたね。手塚治虫が生きていたら嫌がっていたんじゃないですか。
確かにつじつまがあってないところがありましたね(笑)あれれ?と思ってるあいだに次の展開に行くので原作を読んでいない人に理解できるのかな?と思いました。
私があの映画でいちばん釈然としないのはチャプラと母の処刑されるシーンです。なぜあの場面にタッタがいるかというと、下から魔法を使って二人を助けようと思ったからです。そこでチャプラは二人に下から叫びます。
タッタ「おい早く飛び降りろ。魔法で助けてやるから!」
チャプラ「……。」とためらう。
とそのためらっている隙に兵士が親子を串刺しにする。
タッタ「なんで早く飛び降りないんだよ。」とつぶやく。
↑この流れ、実はチャプラの自殺なのだと思います。差別のはびこる世界で生きるくらいなら母と一緒に死ぬという……。
それが映画ではぜんぜん描かれていませんでしたから、浅いなと思いました。
逆をいえばあんな大作をつじつまがあうように作れた手塚治虫という人は本当に頭がいいのだなと思います。