やったことは清算できたのか?「マイ・バック・ページ」ネタバレなし感想+ネタバレレビュー
個人的お気に入り度:8/10
一言感想:時代と「彼らが得た」ものを追う骨太人間ドラマ
あらすじ
海外ではベトナム戦争、国内では学生運動が激しさを増していた時代─
ジャーナリストの沢田(妻夫木 聡)は、ある日梅山と名乗る男(松山ケンイチ)と接触する。
沢田は、梅山が行うと宣言した「武装決起」について取材をする。
「リンダリンダリンダ」、「天然コケッコー」の山下敦弘監督最新作です。
1960~70年代の「赤軍」のお話だったので、堅苦しくて、当時のことを知らないと楽しみにくい映画なんだろうな、と勝手に思ってましたがまったくもって杞憂でした。
すごく面白かった!
山下敦弘監督は独特の「間」が特徴の方で、今作も長ーい時間を使い(多くの場合ワンカットで)演技を撮影しています。
これが本当に素晴らしい。
特に妻夫木聡さんの演技は、それこそちょっとした口のゆがみや微笑にも、さまざまな感情が見えるかのようです。
また、監督はなんと1976年生まれ。
当時のことをリアルタイムで知らない世代です。
それなのに、このリアリティのある当時の空気の描写は何でしょうか。
タバコの煙が漂う新聞社、町、人々のファッションなど、当時の風土を眺めるだけで楽しめることは間違いありません。
映画の主題は、「学生が行う武装決起」という大きな事件のことよりも、主演の2人の内面に迫る人間ドラマに重点が置かれています。
彼らが「やったこと」はなんだったのか。
事件そのものや単純な説明などではなく、2人の演技がそれを雄弁に語ってくれるのです。
すっきりとストーリーじゃないですし、痛快な展開を求めてしまうとフラストレーションがたまりまくるお話ですので万人向けじゃないです。
しかし、「当時のことなんて知らない!」人も是非観てほしいです。
なので、以下知っておいたほうが楽しめると思った項目をwikipediaを引用して一覧にしてみました。
知らなくても雰囲気で大体楽しめるかと思いますが、是非映画を見る前or見た後に参考にしてみてください。
思想、事件
・プロパガンダ
・セクト
・安保闘争
・新左翼
・思想犯
・三島由紀夫
・安田講堂事件
サブカルチャー
・CCR
・ガロ
・真夜中のカーボーイ

・ファイブ・イージー・ピーセス

参考→「映画 マイバックページとその時代」(下のほうに少しネタバレがあるので注意)
*特に「真夜中のカーボーイ」は観ておくとちょっと得するかも。
*また、タイトルの「my back page」は、おそらくボブ・ディランの楽曲「my back pages」から引用したものでしょう。
そういえば、時代背景、主演が松山ケンイチ、役者の長い演技が見所、と言う点では「ノルウェイの森」に似ています。
この映画とは違い、今作は睡魔とは無縁(のはず)ですので「もうこりごり」になってしまった方も是非。
当時の風土の描写、役者の繊細な演技が、絶えず緊張感を与えている素晴らしい日本映画でした。
オススメです!
*原作本はこちら

以下、ネタバレです↓いきなり結末が書いてあるので注意!
さて、この映画で一番重要だったこと、それはラストの沢田の涙に他ならないでしょう。
何故、彼は泣いてしまったのか。
直前、彼は「たもつ」さんに新聞の会社に就職できたのか?と聞かれ「なれなかった」と答えます。
もちろん沢田は、望んでいた部署でないにせよ、ジャーナリストとして働いていました。
この「なれなかった」は、
梅山のことを記事にできなかった→だから「記者」になれなかった
ということを示していると思います。
さらに梅山が、どういう人物だったのか?ということも考えてみましょう。
彼ははっきり言って、大うそつきのエゴイストでした。ダメな人間でもあります。
・武装決起は宣言したはずの四月にしない。でも計画は雄弁に語る。
・大学で口論した末に「君は敵か?」などと言い、解散させてしまう。
・ダイナマイトやいろんな武器を保有していると言う。
・金がなくなれば、沢田に1万円を立て替えてもらう
・さらに「マエゾノイサム」にも金をせびる
・抱いた女にも「赤ちゃんができたことを理由にして金を作れ」と言う(しかも事実)
・結局駐在所の何の罪もない人を殺した。武器を取れなかったことは自己批判はするが、殺人は肯定する。
・追われる身になれば、沢田のところにあがりこみ、また金をせびる。
・結局捕まった彼は、「組織は3つの派閥に分かれている」などと大ボラを吹く。
・さらには尊敬しているはずの「マエゾノイサム」も巻き込む。
といった感じ。
そんな梅山を、沢田は信じていました。
彼をかばい上司に激昂し、証拠は燃やして(真偽はわかりませんが)、それでも刑務所に入れられてしまった沢田─
哀れと言うほかないでしょう。
梅山を「警察に引き渡すしかない」と告げられたシーンでは、沢田と梅山の交流を知っているからこそ、沢田に味方したい気持ちが生まれてきます。
しかし、殺人者の梅山を「思想犯です!」なんて弁護する主張は、客観的に見れば奇異にうつるものだと思います。
沢田も、自己主張の激しい人物でした。
沢田と梅山は似たものどうし、だからお互い通じ合うことがあったのでしょう。
梅山は、結局何者だったかは(さんざん沢田が聞いたにもかかわらず)語られません。
でもこの映画はこれでいいのでしょう。
この映画は「人間に振り回される人間」を描いています。
沢田は「新聞」にも振り回されていました。
「新聞はえらいんだよ!」と主張され、彼はどう思ったのでしょうか。
その全てが、ラストの涙に集約されていると思います。
「きちんと泣ける男が好き」
忽那汐里演じる女子学生が言ったことばも、彼は思い出していたのかもしれません。
もうひとつ、彼女の言ったことばで、気にいっているものがあります。
「運動とか、よくわからないけど、賛成か反対かと聞かれれば、賛成。─でも今度の(殺人事件)は、いやな感じ」
観客も、同じことを思っているはずです。
国家に反逆し、自分の信念を押し通している─
そう思っていた梅山は、大ボラ吹きで、結局人を殺しただけだった。
この「期待の裏切り」が、とても意地悪で、とても面白いのです。
リンク貼ってくださってありがとうございます。
僕としては山下監督は大好きなんですし、
いい出来だとは思いますが
ちょっと万人にはおすすめしづらいかなあとw
70年で壊滅してしまったML派のモヒカンのヘルメットが出てきました。
反帝(国主義)学(生)評(議会)の青ヘルに、白文字。
中核派の白ヘル、黒文字
残念ながら、革マル派の白ヘル黒文字(縁に赤テープ)、フロントのモスグリーンにФの文字(ロシア文字のF)、4トロの黒ヘル、ブンドの赤ヘルはなかったですね。
記憶の向うになりかかっているのですが、70年安保が終わり、アノ後の挫折感は「シラケ時代」を引き起こしたような思いがあります。
原作者のことは、同時代ですが、全く直接的な事は知りませんでした。
でも歴史的な事実を少しずつ、思い出しました。
仰るとおり、アノ涙の場面が良かったです。
実は、私も同じような場面を、学生時代の闘士の死を、ある年月を経て知り、女房の前で突然泣き出し、ビックリさせたことがあります。
私達は、このほとんどBGMのない映画と異なり、物凄く熱い時代に生きていたのです。
それと、あの頃、マスコミはあのようなたれ込み、または創作記事を流してました。
一番酷かったのが、「某セクトが戦車を用意した」「2000名の抜刀隊で、機動隊に切り込む」(読売だったかな?)
このような記事を乗せたマスゴミは、それ以来、全く信用してません。
旧型の三角窓のある乗用車も、出していて、復元力はありましたね。
でも、女性が、少し今っぽかったのが、残念でした。
学生時代同じような経験のある人間には、ほろ苦い映画であったと思います。