それは誰かがいたから 映画「奇跡」ネタバレなし感想+ネタバレレビュー
個人的お気に入り度:9/10
一言感想:監督の魅力が爆発した至高のジュブナイル映画!
あらすじ
兄・航一(前田航基)と、弟・龍之介(前田旺志郎)は両親の離婚により離れ離れに暮らしていた。
火山灰の降る土地に住む航一は、家族4人とまた一緒に暮らしたいと考えていた。
航一は、同級生がとある「奇跡」について話しているのを耳にするのだが・・
これはすっごくよかった!
「歩いても歩いても」「空気人形」の是枝裕和監督の最新作です。
この映画で優れているのは、皆が思うことでしょうが子どもの演技です。
いや、子どもたちは、へたすりゃ演技自体をしてないかのようにも見えます。
「ビデオカメラを回していたらそこに子どもがいた」
「子どもたちの生活を隠し撮りした」
と思えるくらいです。
とにかく自然体です。
「まえだまえだ」にどうしても注目が集まるところですが、他の子役も負けてはいません。
監督の子役の子どもの撮り方は本当に素晴らしいです。
例えばじゃんけん遊びの一種「ブルドッグ」をやって、つねられたほうの子は「ばりくそ痛い~」とか言うんです。
普通に台本作っていたんじゃ「ばりくそ(笑)」なんてワードは出てこないでしょう。
すべておいて、子どもは普段の行動をそのままスクリーンで見せてるかのよう、もうこれだけで見る価値は十分です。
キャラクターの立て方もいいです。
大人たちの見せる「弱さ」が、子どもたちと対比しているように見えて、とてもいとおしく思えます。
ストーリーもこれがまたいい。
前半は淡々とした生活描写で、登場人物たちに感情移入をさせます。
そして後半の展開は、ちょっと「スタンド・バイ・ミー」を思わせます。
この映画は、小学生のあのころ、大人や友達やきょうだいに思っていたこと、冒険したこと、家族のこと─それらを思い起こしてくれます。
いまの大人という立場でも、「子どもっていろいろ考えている」ことに気づけるかもしれません。
日本語のタイトルは「奇跡」ですが、英字のタイトルは「I WISH」となっています。
どちらのタイトルもシンプルですが、内容にこれ以上なく合致しています。
そしてこれまたマッチしているのは「くるり」の歌う主題歌。
<youtube>
映画を観た後に歌詞を思い出すと感情がこみ上げてくるはずです。
監督の代表作「誰も知らない」も素晴らしい映画でしたが、テーマ性のこともあり、万人向けではない作品でした。

しかし今作は鑑賞後のあと味も爽快、ことばの端々でクスクス笑え、何より子どもの生活を観るだけですっごく楽しいので、多くの方が満足できる作品に仕上がっていると思います。
悪いことは言いません、
NHKドラマ「てっぱん(出演したのは兄のほう)」でも見せた「まえだまえだ」の演技を観たい人、
大人であることにつかれちゃった大人、
最近出かけることが少ない方、
必見です。
オススメしないのは「子どもがとことん嫌いで嫌いで仕方がない人」「派手で展開が多い映画しか観ない人」くらいなものです。
最近では「SOMEWHERE」が似ている作品だと感じましたが、これよりも好きになれる方が多いと思います。
TVドラマでは描けない空気感、テンポ、映像を、ぜひ。
以下ネタバレです↓結末に触れているので観た人限定でどうぞ
簡単に映画の内容を言うと、
「かなーりのーんびりと子どもの生活を描き、対比として大人の生活も描き、さらには子どもたちの冒険を追う」
という内容でした。
大筋のストーリーはかなり単純です。
そんな中でも、この映画は圧倒的な情報量を誇っています。
子どもたちそれぞれににわけて、見ていきましょう。
〜航一(兄)〜
彼のキャラクターが実にいい。
弟にはお兄ちゃんぶっているけど、結構いやなやつなんですよね。
ことあるごとに「意味わからん」と言うし、弟が楽しそうにしていたらふてくされるし、「願い」は火山が噴火しないかな~という勝手なものだったし。
なんともアホで愛おしいです(笑)。
でも新幹線に乗る前に見た「家族が出会う光景」
熊本で駅員さんに教えてもらった「火山が噴火していた時代のこと」
で、彼なりに考え方が変わったのでしょう。
それでもその後、龍之介の友達に「足手まといになるんやったら置いていくからな~」と、コスモスの咲く空き地で「早よいくで~」と言い、宿は後回し(というか決めてなかったよね)にし、結局はその友達に助けられている航一。
考え方が変わろうが、性格はそのまんまです。
泊めてもらった老夫婦の家では、自分の好きだった「ポテトチップスのかす」を弟にゆずり、「インディーズ」の意味を「あともう一息やないんかな」と言い、「かるかん」の味を「お前にはまだ早い」と言い、「父ちゃんを任せた」と言い、後ろ合わせに立つ航一と龍之介。
彼はとことん弟思いであり、お兄ちゃんぶりたくもあり、かつ弟を信頼しているのでしょうね。
いろいろな思いが積み重なり、彼は「火山の噴火」の願い事を言うことをやめました。
「奇跡」の瞬間、彼は「家族より世界を選んだ」と言ったと龍之介に告げました。
彼の望む世界とは、どういったものだったのでしょうか。
自分は、みんなが元気に暮らしている「いままでどおりの世界」を、彼が望んだように思えて仕方がありません。
〜航一の友達2人〜
自転車のベルを盗んで、それを拾ったかに見せかけて、それを好きな先生と話す口実にするようなやつらでした。
許しちゃいけない気もするけど可愛いな!
「なまあし」とか言いながらニヤつく彼の目はいやらしかった~。
その後ずる休みを手伝ってくれた保険の先生に目移りしてしまうしなあ(笑)
早く来すぎているおじいちゃんにも笑いました。
イチローを見習って「カレーを毎朝食べる」とか言う「らしさ」も大好きです。
1人は父がパチンコをやめてほしいと頼みました
1人は犬を生き返らせてと頼みました
最後の鹿児島駅の「俯瞰(上から眺めている)」シーンで、3人は死んだ犬の入っているバッグの中を覗き、その後走っていきましたが、なにかがあったのでしょうか。
生き返ったとは考えにくいですが、彼らがなにかしらの「発見」をしたのかもしれません。
あと、線路の後ろにいたおばあさん消失事件は謎のままでした(笑)
まあ子どものころにおこった不思議な出来事って、そんなもんです。
〜龍之介(弟)〜
「つまんなそうにしていた」兄とは対照的に、明るい性格の持ち主でした。
そんな彼も、母に「ママに会いたくないの?」と聞かれると、「お父ちゃんに似ているから嫌いなんかなーと思って」と答えます。
とても寂しい台詞です。母はそのことばに泣き崩れてしまいました。
でも彼自身は後にも先にも、ちっとも寂しそうだったり、悲しむ姿を見せません。
それは、彼が夢に見たとおり「両親が一緒に暮らすこと」を望んでいなかったから。
自分が会いたくないというよりも、父と母を合わせたくなかったのが彼の本心でしょう。
それが「お父ちゃんに似ているから嫌いなんかな」という形であらわれたのかもしれません。
彼があんまり気にしていなかったことは、老夫婦の家で、兄に「なんかお母ちゃん泣いてたけど、大丈夫やったん?」と聞くシーンで明白です。
大人が深刻に受け止めても、子どもは単純な考えであったりする場合が多いと思います。
これはそんな描写なのでしょう。
彼が願ったのは、父のバンドのことでした。
彼は「感謝し~や~」と父に言います。
父に「ムダばっかりでもあかんやろ」「子ども手当てもらっているやろ~新しいギターはまた今度!」と言うのもよかったです。
この生意気さが可愛いんです。
子ども嫌いの人には何だこのガキとか思うかもしれません(笑)
〜龍之介の友達、「恵美」〜
女優の娘で、オーディションを間近に控えていました。
老夫婦の家で、夫婦の娘の「ノリコ」が全然家に帰っていないことを聞かされます。
帰ってきた彼女は、母親にこう告げます。
「私、やっぱり東京に行く。でも、ときどきもどってくるけん」
彼女もまた、旅で成長したのです。
〜龍之介の友達たち〜
太った男の子(女の子だと思っていた・・・)と、絵の好きなちびっこい女の子も可愛いですよね。
兄の願い事を思わない龍之介に対して「思え~」と言っていたり、
兄との会話のときで「カンニングペーパー」を用意しているシーンが大好きです。
後者は「つまった」演技をそのまま使用していますし、「(以降は)フリートーク」と書いてあるのも笑いました。
「花火」のシーンの美しさ、映像は「岩井俊二」監督作品を思い出させました。
絵の好きな女の子は、老夫婦に言った言葉を「振り込め詐欺にあわないようにって」と友達に告げたり、
太った男の子はランニングしていても、やっぱりレストランのメニューが気になっているのも大好きです。
「奇跡」を見るために、7人が熊本に集います。
一緒に歩き、デパートの屋上に上ってみようと言ったり、コスモスの咲く空き地を見つけたり、警察に見つかってしまったり、でもそのおかげで老夫婦に山まで連れて行ってもらったり、と大冒険。
子どもたちと一緒にわくわくしました。
この一連の流れが、映画の中で一番好きです。
〜大人の描写〜
祖母が同窓会に行く母に対して、「焼けぼっくり」と言うシーンがありました。
これは<こういう意味>です。
母は同窓会の帰りに笑って、ひよこのおもちゃを買ってしまいます。
大人になって、こどものころの生活や遊びとは今は違う─
そんな切ない描写に思えます。
父はいつまでもバンドを続けているダメ人間。
祖父も「かるかん」にこだわりを持ち、頑固。
大人は、どこかで大人にならなきゃいけない、やるべきことをいやでもしなければいけない。
子どもたちは、そんな大人とは一歩違う、自由な世界を駆けているようにも思えます。
〜「奇跡」のシーンに映った映像〜
火山の絵が噴火し、アイス、ポテトチップス、絵の具、どんぶり、「かるかん」に使った芋、100円玉、先生に肩をつかまれたこと、自転車のベル、コスモス、コスモスの種など、「願い事」だけじゃなく、映画に登場したさまざまなものが映し出されます。
その瞬間、子どもたちはこれだけのことを思い出していた。
それは単純にひとつの思いに縛られるものではなかったのでしょう。
〜ラスト〜
「今日はつまらんなあ」
中盤でも、祖父がこう言っていました。
*この台詞について、以下の意見をいただきました
> ラストのお兄ちゃんのセリフは、
> 「今日は積もらんなぁ」と言ったのではないでしょうか?
> 今日も活動している火山をみて
> 少し不満げな表情を見せる兄。
> 指をなめて、風にあてる、火山灰は指につかない。
> でもきっとそれは一瞬でまたきっと火山灰は降ってくる。
>
> 旅を通して成長し、自分ではなく世界を選んだ兄が、
> 不満を持ちつつもその場所でまたいつも通り生きていくことへの納得と希望を表した
> とても彼らしい一言かのように感じました。
最後の彼の一言は肯定的なものです。
結局、航一の望んでいた「4人一緒に暮らす」なんてことはなく、また普段どおりの生活が続いていくのでしょう。
でもその毎日こそ、彼は素晴らしいものだと思えたはずなのです。
「誰かがそばにいた」からこそ、成り立つものがあるはずです。
航一が「奇跡」の噂を聞かなかったら?
保健室の先生がずる休みを手伝ってくれなかったら?
龍之介が友達を連れてこなかったら?
老夫婦にところに上がりこめなかったら?
「奇跡」の瞬間は見ることができなかったでしょう。
奇跡の瞬間で願ったこと─
彼はそれを楽しみにして、今後毎日を生きていくことができるでしょう。
毎日変わらない日常。
その中でも楽しいことや、かけがえのないものがたくさん散らばっています。
航一のような経験をしていなくても、それは誰もが持っているものです。
それこそが、普段気づかない「奇跡」です。
こんな時間にごめんなさい(_ _)
私も映画が好きで、
このブログをいつも拝見させていただいています!
一度見ただけじゃ気づかないこと、
あぁ!そういった伏線になっていたんだ!
など、感動しながら記事を読んでいます(^_^)
こちらですごく評価の高かった「奇跡」
ちょうどテレビ放送していたので、
さきほど見ました。
とてもあたたかくて、懐かしくて、
新幹線で子どもたちが叫ぶシーンでは思わず涙が溢れてきました。
意味もなく「急げ!」といって汗まみれでリュックを揺らしながら走る姿を見て、
学生ながら、あぁこの頃には戻れないんだなぁと少し寂しくなってしまったりもしました(´`)
大人って見えてるようで見えてなくて、
子供って見えてないけど見えている、
高校生の今、この作品を見れて良かったです(^-^)
レビューを書いて紹介してくださって、
ありがとうございました!!
そして、レビューに関してなんですが、
ラストのお兄ちゃんのセリフは、
「今日は積もらんなぁ」と言ったのではないでしょうか?
今日も活動している火山をみて
少し不満げな表情を見せる兄。
指をなめて、風にあてる、火山灰は指につかない。
でもきっとそれは一瞬でまたきっと火山灰は降ってくる。
旅を通して成長し、自分ではなく世界を選んだ兄が、
不満を持ちつつもその場所でまたいつも通り生きていくことへの納得と希望を表した
とても彼らしい一言かのように感じました。
いきなりの長文失礼しました(_ _)
読んで下さり、ありがとうございます。
> ラストのお兄ちゃんのセリフは、
> 「今日は積もらんなぁ」と言ったのではないでしょうか?
>
> 今日も活動している火山をみて
> 少し不満げな表情を見せる兄。
> 指をなめて、風にあてる、火山灰は指につかない。
> でもきっとそれは一瞬でまたきっと火山灰は降ってくる。
>
> 旅を通して成長し、自分ではなく世界を選んだ兄が、
> 不満を持ちつつもその場所でまたいつも通り生きていくことへの納得と希望を表した
> とても彼らしい一言かのように感じました。
ああ、そうか!
この記事を書いたのは2年前、2年間も勘違いしていたとは!
申し訳ない&恥ずかしい思いでいっぱいです。
ご指摘本当に感謝です。
> いきなりの長文失礼しました(_ _)
> 読んで下さり、ありがとうございます。
いえいえ!ちょっと記事も今観るとはずかしいので、ちょっと書き直します。
今高校生ということで。これからも映画をたくさんみてください^^)