映画版の良さと悪さの混在「鋼の錬金術師 嘆きの丘(ミロス)の聖なる星」ネタバレなし感想+ネタバレレビュー
個人的お気に入り度:6/10
一言感想:話の小難しさがちょっと窮屈
あらすじ
「収穫祭」の夜、とある囚人が脱獄した。
「国家錬金術師」のエドワード・エルリックと、その弟アルフォンスは捕まえようとするが、囚人の強大な錬金術を目の当たりにし、取り逃がしてしまう。
2人は囚人が向かったと思しき場所「テーブルシティ」へと向かうのだが・・・
大人気コミック「ハガレン」の映画版。
原作が完結してからも劇場制作に乗り出しているあたりに人気のほどが伺えます。
こういった漫画作品の劇場版は「一見さんお断り」な印象もありますが、この作品は原作を知らない人でもそれなりに理解できるつくりになっていると思います。
一度目の劇場アニメ化作品「シャンバラを征く者」は、「アニメ(一期)を最後まで観ていないとさっぱりわからない」というシロモノで、原作漫画のほうしか読んでいない観客にはひどく不親切な作品でした。
でも今作は原作漫画の「主人公2人の境遇」「戦闘に使う錬金術」がどんなものかが大体わかっていたら、問題はありません。
アクションは小気味よく、画も綺麗。
スケール感も十分感じさせる、劇場版としては非常に丁寧な出来だと思います。
でも・・はっきり言ってお話のほうは満足できない印象です。
大きな理由のひとつが、舞台である「ミロス」の設定です。
これは実際の民族をモチーフにしている描写であり、作品に深みを与えるべき存在です。
映画では「ミロスの人々の歴史」「舞台設定」をキャラの台詞で語ってくれるのですが・・これが少々退屈で、話のテンポを悪くしているように感じるのです。
現実の民族紛争に則したような舞台、人物設計をしたのは良いと思います。
しかし、映画はエンターテイメントだと考えている自分には、その「説明」とアクションシーンとのバランスをもう少し考えてほしかった気もします。
また、「国VS国」ならまだわかりやすいですが、このミロスは「両国にはさまれた弱小国」という設定。
だからでこそ、入念な説明が必要だったのでしょうが・・・三つ巴にする必要性もあまり感じられません。
さらに3国の設定のほかに、多数の(原作を読んでいる人も初耳の)固有名詞が登場するのだからもう大変です。
少なくとも子どもは理解しにくいでしょうし、フラストレーションがたまることは間違いないでしょう。
すごく話はそれますが・・・宮崎駿さんは「世界を見せること」において最高の人だ、と映画を観終わって思いました。
「天空の城ラピュタ」「もののけ姫」だって、舞台の説明をベラベラとキャラクターにしゃべらしたりはしませんよね。
あっても最小限で、かつ違和感のないように溶け込んでいます。
反してこの劇場版は、製作者が考えた世界観を余すことなく説明していることが窮屈なんです。
もちろん監督にとってはどれも捨てきれないものだとは思うのですが、映像表現で勝負する映画作品では控えておくべきことではないのでしょうか。
「登場人物の行動理由がわからない」よりは、はるかに良いのですけどね。
総評:
重く苦しいストーリーに心理的余裕はありませんし(ギャグシーンすらない)、残酷なシーンもあります。
説明の多さや、詰め込みまくりな展開に疲れてしまう人もいるでしょう。
しかし、驚ける仕掛けや丁寧な使われ方をされている伏線もあり、脚本自体はかなり出来がいいと思います。
前述のとおり、アニメーションとしての質もすこぶるいいですし、原作ファンとしては好きなキャラクターたちがスクリーンで見られるだけでもやっぱり嬉しいのです。(原作のキャラはろくな活躍をしていない気もするけど・・)
ファンなら劇場で観ておいて損はないでしょう。
また、劇場来場者プレゼントの「11.5」巻なのですが・・・読んでみると「ワンピースフィルム ストロングワールド」でもあった「0巻」とコンセプトがまったく同じで吹きました。
この商法もあんまり多用するのはよくないと思うのですが、どうでしょうかね。
内容は、11巻の続きにあたる書き下ろし漫画(4コマ漫画まである)、設定資料など非常に充実していてパンフレット並みかそれ以上の価値があります。
カバー裏までおまけがある太っ腹さ。
ファンは是非とも手に入れてください。
以下ネタバレ、核心に触れまくっているので未見の人は読まないでね↓
~アシュレイの物語~
今作の物語のキーパーソンの一人である「アシュレイ」の設定は複雑です。
時系列にしたがってみていきましょう
・ジュリアとその兄アシュレイは両親とともに迫害されていた
・アシュレイは「おおかみキメラ」に殺されたと思われていたが、実は生きていた
・しかし「アトラス警護長(アシュレイだと思っていた人物)」に皮をはがされる
・白いマスクをかぶり「ハーシェル」という、クレタ国境警備軍の軍人になる
といった具合。
しかし最後の「敵国の軍人になって、さらに地位を手に入れている」というのはかなり無理があるような気がします。
「警護長」がいままで名前や姿すら見えていない人物で、驚きがなかったのも少々残念です。
兄だと信じていたのが黒幕→ジュリアは黒幕が兄を殺したのかと思っていた→実は兄は「敵」として生きていた
というのは2重に驚きのある展開でよかったと思います。
最後にアシュレイはどこに向かったのでしょうか。
きょうだいの絆であるペンダントの「片方」を持っていった彼の今後に、希望も少し感じえます。
~真理の扉とジュリア~
ここらあたりは原作を読んでいない人にはわかりにくい設定ですね。
真理の扉は、人体練成(死者をよみがえらせる)という禁忌を侵したものだけがたどり着く場所です。
ジュリアはアシュレイを生き返らせたわけではありません。わずかな命をひろいあげたという段階での練成でした。
なので「扉」は一瞬見えただけだった。
代償として片足を失った彼女。
彼女に悲壮感はまったく感じられません。
そんな彼女にまた会いに来ると告げるジゴロのアル。
その「再会」の場面も、想像してしまいます。
~列車の襲撃シーン~
このシーンもどういうことになってんだか、判断しづらいですよね。
ソユーズ少佐(原作の「ヨキ」に似すぎです)が言っていたとおり、これは「ミロスの囚人たちの輸送」をしているというウソの情報を流し、コウモリ族をわなにはめるという作戦だったのです。
~血を流し、街全体が練成陣に~
これは悪趣味と言うか、残酷シーンのためにあったような設定で、あんまり好きになれません。
血が足りないんだよ!と言ってアトラスは2人も殺してましたが、その後の全体像を見る限りそれでも足りそうにありませんし。
~舞台のモチーフとなった地域~
それは「カスカフ(カフカースとも)」という地方。
ここは実際にロシアの赤軍に責められた経緯などもあり、製作者は迫害問題について思うことがあったのでしょう。
差別が奴隷を生み、貧困が生じることは現在もままあることです。
ジュリアがエドに言った「あなたの国は強いから!でも、私たちは違う。死ぬことにおびえなければならないの!」という台詞は、豊かで、問題に無関心な人々に向けられているようにも感じます。
~おおかみキメラのしたこと~
アシュレイが正体を明かした後、ジュリアにこのようなことを言っていました。
「お前のことは、おおかみキメラに守らせていた」
おおかみキメラは多数の人を殺し、とても「守る」なんてことはしなさそうにみえます。
実は、中盤のアジトのシーンで、明らかにおおかみキメラは上から落ちてくる岩を支えて、ジュリアをかばっているのです。
兄・アシュレイは、妹には愛情を注ぎ、村の連中の迫害を憎んでいた人間でした。
彼の行動は、特別な人間だけをかばい、あとは容赦なく殺戮をするというエゴのようにも感じます。
妹の愛する人たちを殺して、彼は幸せになれるのでしょうか。
「守る」というのはただの押し付けで、自らの罪をごまかそうとしているだけかもしれません。
「鮮血の星(賢者の石)」に心を奪われた、という説明もありましたが、それでも彼自身が望んだことは間違いないでしょう。
妹の前から立ち去ったこと─それには贖罪の意味もあるのではないでしょうか。
ps どうでもいい個人的な不満
アームストロング少佐に活躍してほしかった!
台詞ひとつだけじゃないかよーハガレンで好きな要素のひとつに、素敵なおっさんがたくさんいるということがあるのでちょいと残念です。
ほかにもマスタング大佐は「溶岩を止めるのを少し手伝い、傷口をふさいだ」、ホークアイ中尉は「ソユーズ少佐に向けて銃を撃った」だけだし。
しょうがない部分もあるんですけどね。
ps2 「けいおん」のマナーCMにびっくりした
ウィンリィも出したいだけみたいな感じだったし。
あとこの話の内容で映像化作品最後だったら寂しいですね。
分からないところがあるんですが、アトラス警護長って立場的にどこに所属してるんでしょうか。
> ウィンリィも出したいだけみたいな感じだったし。
ストーリが複雑すぎたので、仕方のない部分もあったのでしょう。
> あとこの話の内容で映像化作品最後だったら寂しいですね。
まだ人気があるので、TVスペシャルなど期待したいですね。
> 分からないところがあるんですが、アトラス警護長って立場的にどこに所属してるんでしょうか。
アメストリスかクレタかわかる描写がなかった気がしますね。
アシュレイとの関連を見る限り、アメリストリス側のほうがしっくりくる気がします。
それに加えて、接近戦の格闘シーンのコマ割り(?)が物足りなかったように感じました。
アニメFA版、終盤での
キング・ブラッドレイとグリリンぐらいの迫力が
映画には欲しかったです。
あと、画面が大きい分、
絵が粗いことが気になって気になって仕方がなかった。
キャラクターの髪の毛が、束あるいは塊のようになっていて、それが心残りです。
製作時間がなかったのか?
予算がなかったのか?
> 接近戦の格闘シーンのコマ割り(?)が物足りなかったように感じました。
最後のほうは確かに違和感があったかも。
> アニメFA版、終盤での
> キング・ブラッドレイとグリリンぐらいの迫力が
> 映画には欲しかったです。
自分はアニメは未見なのですが、劇場版がそれに劣っていてはいけないと思います。
> あと、画面が大きい分、
> 絵が粗いことが気になって気になって仕方がなかった。
> キャラクターの髪の毛が、束あるいは塊のようになっていて、それが心残りです。
映画だとそういう細部の作画にも気になってしまうものですね・・・
残念な部分はありましたが、個人的には楽しめた作品です。
私も話が濃密すぎててついていけなかった者です。
賢者の石は原作のような大勢の人間の魂という方法だけでなく、鮮血によってもつくることができるということなのでしょうか?
P.S.しかし、アクションシーンは迫力がありましたし、最近見たアニメ映画の中では一番良かったです。
> 私も話が濃密すぎててついていけなかった者です。
>
> 賢者の石は原作のような大勢の人間の魂という方法だけでなく、鮮血によってもつくることができるということなのでしょうか?
原作の設定も変わってしまったように思わせますよね。臨死体験によって扉を「見かけた」からできた・・というのは少し反則かもしれません。
ストーリーが始まって、メルビンとジュリアの子供時代
エド・アルが犯罪者を追跡するシーンやクライマックスのエドVSメルビンの錬金術を使ったバトルなど
見どころは色々とあります。
ちなみに2回目行った時はラストシーンとエンディングで感動しました。
ハッキリ言いますけど、そんなに悪くないですよ。
私としては今年公開されたアニメ映画第2位に入るくらいです。
アクションと登場人物の描写は、確かにみどころがおおいにありましたね!
エンディングでアルが別れを告げるシーンもよかったです。
>私としては今年公開されたアニメ映画第2位に入るくらいです。
自分の今年のアニメ映画の1位は「塔の上のラプンツェル」、2位は「ドラえもん 新・鉄人兵団」です。
よければレンタルでご覧あれ^^)
ストーリーの一部の場所だけど、一部間違ってますよ
「テーブルマウンテン」ではなく「テーブルシティ」
ですよ。
という訳で、訂正お願いします。