どの人生も、同等の価値がある。「ミスター・ノーバディ」ネタバレレビュー
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個人的お気に入り度:8/10
一言感想:複雑と言うより、巧妙かつ大胆
あらすじ
2092年の近未来。
人類は死ぬことがなくなり、118歳の「ニモ・ノーバディ」は唯一の「老衰で死ぬ」人間となった。
ニモは新聞記者の質問を受け、自らの人生を語り始める。
そして記者は、ニモには幾通りもの人生が存在していたことを知る。
相当に入り組んだ構造の映画だということは知っていましたが、ここまでとは。
全体像を理解するのは困難ですし、そもそも明確な「答え」すら存在しないような気がします。
今作が描いているのは「パラレルワールド」です。
何故彼はいくつのも人生を送ってきているのか。
そして「ニモ・ノーバディ」の正体とは?
それを推理してみても面白いでしょう。
この映画は一人の人間の人生を追うドラマであり、サスペンスでもあり、美しい映像で綴られたSFファンタジー作品でもあるのです。
惜しいのは上映時間が2時間15分と長いこと。
圧倒的な映像美もこの長さだと新鮮味が薄れてしまいますし、着地点がわからなくなる物語なので、かなり疲れてしまいます。
それでも、観た後は誰かと語らいたくなる巧妙さ&美しさ。
賛否のある作品ですが、個人的にはかなり好きになれた映画でした。
以下、結末を含めたネタバレです。かなり長いですが、映画を観た方限定でどうぞ↓
さて、ニモの人生は、かなり多くの分岐点が存在しました。
*記述している年齢は違う可能性があります。
ニモの人生
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_____________
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<9歳の選択肢> ① 母についていく ②父と残る
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__ __________
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<15歳の選択肢> ③アンナとの恋 ④エリースとの結婚へ ⑤ジーンとの結婚へ
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<34歳の選択肢> ⑥エリースの死 ⑦エリースが家を出ていく
それに加えて
⑧火星へでの話(34歳)
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エリースの遺灰を火星に撒く
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アンナと初対面のように出会うが、隕石がぶつかり、死ぬ。
⑨バスタブで殺されるニモ(34歳)
⑩事故に会うニモ(15歳)
⑪母についていくことも、父と残ることもしなかったニモ(9歳)
⑫そして、118歳のニモ
が挿入されます。
どれがどれだか、わかんなくなりそうですが、
メガネをかけた大人のニモ=エリースと結婚している、
ボサボサな長髪の大人のニモ=アンナとの再会を待ちわびている、
ということを念頭におけばそれなりに混乱しないんじゃないかと思います。
それぞれについて見ていきましょう。
①母についていくニモ
彼がした選択によって、母の再婚相手(この場合は「ハリー」)も変わっていますね。
母を嫌うニモ、ニモが「自殺のふり」をしてもドライな対応をする母。
この選択肢も、この時点では悲しいものでした。
何故彼は再婚相手の男性に「死ぬ」ことを予言したのでしょうか。
再婚相手を嫌っていてうそを言っていただけかもしれないし、いくつのも人生を送った中でそういうことがあったのかもしれません。
②父と残るニモ
父の介護をすることになります(さらに父は軽い認知症にもなっている)。
この選択肢は、2人の女性との結婚へと繋がるのですが・・・
③アンナとの恋
母の再婚相手の娘、それがアンナでした。
きょうだいになる2人でしたが、お互いを愛し合い、セックスまでしてしまいます。
それが両親の再度の離婚に繋がり、映画の終盤の展開へと続きます。
もうひとつ、↑に書いていない選択肢がありました。
転校生のアンナが海水浴で近づいてきたときです。
・「バカとは泳ぎたくない」
・「カナヅチなんだ」
と言うニモ。
前者の場合、アンナとは仲良く出来なかったでしょう。
映画ではこの選択肢の後のことが描かれていないようにも思えます。
ひょっとすると
アンナと仲良くできなかった→父と残る→エリースか、ジーンと結婚する
と言うふうに繋がっているのかもしれません。
④エリースとの結婚
「片思い」の名前を人差し指でふさいだ(ニモが「生まれる前」に「忘却の天使」が同じことをしていましたね)あと、告白することで彼女と結婚します。
しかし、結婚生活は幸せなものではありませんでした。
彼女は結婚生活に我慢ができなくなり、うつ状態になります。
⑤ジーンとの結婚
エリースの相手を「片思い」の相手に取られた上での選択です。
金持ちになる、プールを手に入れる・・と人生プランを口にして、手に入れた結婚生活。
しかし彼は、この選択肢にまったく満足していません。
ジーンが読んだ手紙を「覚えていない」と言うニモ。
「違う分岐点にいるニモ」がそう書いたのかもしれません。
⑥エリースの死
車に乗っているときに、爆発事故に巻き込まれ、妻を失ってしまいます。
⑦家を出て行くエリース
ニモは車を燃やしてしまいました。
そのことが命運をわけたのでしょう。
⑧火星での話
父と暮らしている、15歳のニモが書いた小説の内容と見ていいでしょう。
もしくは、近未来でニモが体験したことも含まれているのかもしれません。
⑨バスタブで殺されるニモ
これが一番判断がつきにくいです。
ここで「殺された」あとに、118才のニモへとつながるのかもしれません。
「NO」と「YES」のコインですが、これは両面に同じものが描かれていました。
そんなコインをトスして行動を決めたので、殺し屋に撃たれてしまった、という皮肉なのでしょう。
そういえば中盤、ニモはコインをトスして、排水溝に落としてしまいました。
選択肢を逃してしまったことの現れでしょう。
⑩事故に会うニモ
これは「②父と暮らす」の選択肢のあとの話。
「巻き戻し」までやってしまうので、彼はかなり「人生を操れる」のかもしれません。
何故なら・・
⑪母についていくことも、父と残ることもしなかったニモ
これこそ、この作品のキモでしょう。
終盤、この物語が「9歳の少年の想像の世界」だったことが明かされます。
9歳のニモはどこかへ走り出し(標識には「GIVE WAY(道をくれ)」と書かれている)、落ち葉を吹いて飛ばします。
落ち葉が行き着いた先は、大人のニモと出会う「アンナ」
9歳の彼が望んだ結末は、最終的にこれだったのかもしれません。
⑫118歳のニモ
彼は死を迎えます。
彼は「今日が人生で最良の日だ」と言い、最後に口にした名前は「アンナ」
これで映画は終わり・・・・かと思いきや、「宇宙が縮小を始めて」、時間が逆周りをし始めます。
「時間」が行き着いた先は、「湖で遊ぶニモとアンナ」。
彼は3人の女性の中で、もっともアンナを愛していたのでしょう。
最後、時間が巻き戻っていく中で、118歳のニモは笑顔でした。
それは物語がここに帰着することを喜んでのこと、
もしくは死後の世界(夢)の中で、彼はアンナと幸せなひと時を手にしたのかもしれません。
118歳のニモは「人生にはいくつのも選択肢があり、それらには同等の価値がある」と、テネシー・ウィリアムズを引き合いに出し、言います。
自分が受け取ったメッセージは「選択することではなく、選択してからどう思うか」が重要ということです。
人生にはいくつかの選択肢があり、どれが間違いで、どれが正しいということはないのでしょう。
彼は「選択をしなければ、全ての可能性は残る」ということも口にしていました。
ハトの迷信行動も、時間と言う概念がなければ、行動を迫られたりしないのだと訴えているのでしょう。
しかし時間は、われわれの世界に存在します。
バタフライ効果などにより、選択肢が変えられることがあっても、人は選択をしなければならないのです。
選択しなければ、ただの(9歳の少年の)想像になってしまう。
そういった皮肉にも思えるのです。
ネタバレ参考→2ちゃんねる映画ブログ ミスター・ノーバディ
いくつかのメッセージを受けました。
・人を愛することは”選択”なのか?
・”選択する(させられる)”ことと”唯一を守る”こと
・不実の愛は相手も自分をも不幸にする。(価値はあるが)
水(海、湖、プール、雨、風呂)
落ち葉
タイプライター
(圧倒的に水に関係した描写が多いですけど)
これらのアイテムがどの物語にも登場(且つ接着剤)するので
混乱しないんでしょうね
いくつもの話とういうよりは1本の話に感じました。
んーラブストリーだよな。。
個人的にはそう見えてしょうがないです
しかしまあ、この語り口はスゴイです。
こうやって描こう!と思った理由が聞きたいですなあ
ちらっとパスカル・デュケンヌがでてましたね(喜)
> いくつかのメッセージを受けました。
> ・人を愛することは”選択”なのか?
> ・”選択する(させられる)”ことと”唯一を守る”こと
> ・不実の愛は相手も自分をも不幸にする。(価値はあるが)
3つめは特に思い知らせれますね・・・
選択に意味がある、だからでこし、慎重に選択をしなければならない・・・そう思います。
> これらのアイテムがどの物語にも登場(且つ接着剤)するので
> 混乱しないんでしょうね
> いくつもの話とういうよりは1本の話に感じました。
監督の「八日目」でも観た「花瓶」も登場していました。
見返してみると、作中のアイテムにもいろいろ工夫がしてありそうです。
> ちらっとパスカル・デュケンヌがでてましたね(喜)
誰だっけ・・・と思って検索したら「八日目」のダウン症の俳優さんですね!
後で「八日目」を観たせいか、どこで出てきたかさっぱりわかりませんでした。
また観たくなりました。
ネタバレ
描かれていない
再び出会ったアンナとニモは幸せになって欲しい。永遠に愛していて欲しいです。
語られなかったんだけど、幸せだったということかも知れないな!
だから笑顔でアンナって叫んだのかな?
俺も最後は愛した人の名前を叫んで逝きたいかも。
もっかいみよう!
やはり一つだけ引っかかるポイントは、風呂場で射殺されるところですよね;
自分から逃げ出して他人になったけど、それはルール違反だから消されたのでしょうか?
なかなか面白い映画でしたが・・・私も長いと思いましたw テンポを上げても面白いかも♪
ありがとうございましたノシ
> 自分から逃げ出して他人になったけど、それはルール違反だから消されたのでしょうか?
何故殺されたかもよくわからないので(映画の内容をもう覚えていない・・)困ります。
もやもやが残りますね。
その後も数回この映画を見て、鑑賞した友人などと意見を交わし、私なりに色々考えてみました。ここで展開されている内容とは食い違う部分があるので、一度記してみます。
アンナに対して「馬鹿とは泳ぎたくない」と答えたニモはその後どうなったのか。おそらく、チェックのベストを来たニモがそれだろうと思います。そしてそのニモが118歳を迎えるノーバディでもあるのではないでしょうか。
どうしてあの時に「泳ぎたくない」と言ってしまったのか。そう思うニモは紛れもなくアンナが好きだった。ノーバディも死ぬ間際にアンナと口にします。
またこの映画の後半では、ニモが死ぬパターンがとても多いです。例えば、床屋で働くエリースがお店で出会った男性とその後どうなるのか。タイプライターを打つニモは、一度ためらい、二人が出会うことを避けました。しかし、タイプライターを打つニモは、その後突然の洪水によって死んでしまいます。これは何を意味しているのか。おそらく、このルートが不要になったということを表しているのではないでしょうか。
ミソなのは、後半に進むに従って、ニモが自分の進む道を受け入れ始めることだと思うのです。それ以外の選択ルートでは、ニモは溺れたり、殺されたりし始める。しかし、アンナとの物語では、電話番号が雨に濡れてしまったにもかかわらず、雨に濡れなかった選択肢は描かれなかった。作品の趣旨から考えると、そのルートが描かれてもおかしくなかった。それでも、「あえて」そうしなかったのかもしれません。
映画の後半では「ツークツワンク」という言葉が出てきます。これはチェスの言葉で、「自ら状況が悪化する手を指さざるを得ない状況」という意味だそうです。9歳のニモは、まさにその状況に立たされているのだと思います。そしてそのニモは「動かないこと」を選択した最中にいる。しかし、いずれどちらかの選択をしなければならない。いや、「ツークツワンク」の渦中では、「選択」することすらできないのかもしれません。そう、どちらを選んでも状況が悪化するのだから。
それでも、私たちは生きなければならない。人生はそれほど綺麗で美しいものではない。
だけど、そんな人生にも、同等の意味がある。
見れば見るほどに意味深な映画だと分かってきました。ぜひ色々な方に見てもらいたいですね。
僕はこの映画が大好きで何十回とみていますw
そこで、ニモはなぜ風呂場で殺されなくてはならなかったのか?という質問を持っている方もいるようなので自分なりの考察を書かせていただきたいと思います。
僕が思うにこの映画のメインテーマは
”Decision Makingが個の人生を決め、個を作る”
です。
そこでお風呂場でのシーンの直前のニモの行動を推察すると、
彼はコインフリップの裏表に全てのDecision Makingを委ね、彼自身が何かを決断することをやめています。
つまり、Decision Makingをしていないニモはその時点で、もうニモではないのです(映画的に)。
もうひとつ、(サブ的な要素だとは思いますが)この映画の中に、”恐れを持つことは生物の生存率を高める”という文句がでてきました。
しかし、Decision Makingを自分ですることをやめてしまったニモは、(列車のシーンでうかがえますが)死に対する恐れを全く抱いていないように見えます。
結論を言うとニモが殺された理由は、
ニモが自個を失い、彼の人生を生きていないのでこれ以上先のことを描く必要性はない。
そして、恐れを抱かないニモの運命は極めて生存率の低いもの
という事を監督はニモを劇的に殺害することによって表現したかったのではないかと思うのです。
長々とすみません。