穏やかな喜劇「大鹿村騒動記」ネタバレなし感想+ネタバレレビュー
個人的お気に入り度:5/10
一言感想:原田おじいちゃんが可愛いほのぼの群像劇
あらすじ
長野県下伊那郡に実在する大鹿村では、300年にわたり伝統の歌舞伎が上演されていた。
歌舞伎の公演を間近に控えたある日、村で鹿肉料理の食堂「ディアイーター」を営む風祭善(原田芳雄)のもとに、18年前に駆け落ちをしていた妻・貴子(大楠道代)と親友の治(岸部一徳)が帰ってくる。
さらに貴子は脳の障がいのため、駆け落ちしたことも忘れていていた。
そんなとき、大鹿村を台風が直撃する・・
「亡国のイージス」「闇の子供たち」の阪本順治監督最新作。
特になーんてことなく話が進む、ほのぼのとした映画です。
豪華キャストなのに、すごく地味。
だがそれがいい。
のんびりした素朴な人間描写は、気に入る方がきっと多いと思います。
この映画の魅力の筆頭は 原田芳雄さん演じるおじいちゃん。
「妻と駆け落ちをした親友」との会話が可愛くてしょうがありません。
女の子みたいな青年を演じた冨浦智嗣の描写も、自分は気に入りました。
松たか子と佐藤浩市の関係も、あっさりしすぎず、大きくなりすぎずでちょうどいい塩梅。
いろんな人間がチマチマと村の中で騒いでいる画をみるだけで、けっこう楽しいのです。
ただ、上映時間93分の中でコンパクトに話はまとまってはいるのですが、いまひとつラストへと物語が繋がるような脚本の妙は感じられませんでした。
登場人物たちの騒動と、歌舞伎のお話が乖離してしまっているように感じて、どうにも入り込めなかったのです。
また、個人的には歌舞伎には興味があんまりないので(すみません)その描写が少々退屈なのも否めませんでした。
瑛太演じる郵便局員が、舞台裏で歌舞伎のストーリーを少し語ってくれるのはよかったのですが、話の全体像を掴めるまでには至りません。
なんだか「歌舞伎を好きな人が、内輪の中で作った」というような不親切さでした。
歌舞伎について詳しい方なら問題はないでしょうが、知らない方にもきちんと魅力を伝えれるような構成だと嬉しかったですね。
しかし、この映画の公開日をジブリとポケモンとハリポタがひしめき合う時期にしちゃったのは明らかに失敗だったんじゃないかと。
監督は「座頭市 THE LAST」「行きずりの街」につづいて、また興行収入が大コケしてしまいそうなので、応援したくなります。
頑張れ、本当頑張れ。
「デンデラ」に引き続き、1000円で鑑賞できる本作。
過度の期待をしなければ、ほっこりと楽しめる作品ですので、役者のファンなら公開が終わってしまわないうちに是非どうぞ。
そして・・この映画は原田さんの遺作になってしまいました。
最近の映画では「奇跡」にも出演しており、ますますのご活躍が期待されていただけに、急逝は悲しくてしかたがありません。
心よりご冥福をお祈りいたします。
以下、ネタバレです↓見た方限定でどうぞ
貴子の障がいは、アルツハイマー病とは違うと作中で言っていたので、おそらくピック病ではないかと思われます。
それに振り回される登場人物たちが微笑ましいです。
松たか子演じる美江にビンタした時は「う~ん」だったけれど。
正直、病状が深刻でもあるので、笑うのにちょっと抵抗感があったかもしれません。
気にしなければいいのですけどね。
<参考>
くまニュース : 乙武洋匡が自虐ネタをやめない理由
この意見で乙武さんのすごさを思い知りました。
面白かったのは「イカの塩辛のビン」
善さんの大好物だけど、治ちゃんが一番嫌いな食べ物(笑)でした。
おそらく食べさせられていたであろう治ちゃんが気の毒。料理の味付けも濃かったんだろうなあ。
ラストのオチに持ってきたユルさも大好きです。
もうひとつは物の名前が分からなくなった事に対して
善「じゃあ、このイスはなんだ」
ライオン「今イスって言いましたよ」
って言うシーン。
障がいによる行動そのものではなく、周りの人間の行動で笑いを取るのは、とってもいいと思うのです。
また、こちらのYahooレビューで知ったのですが、治虫ちゃんは寝言で「世田谷難しいんです!」って言っていたんですね。
タクシー運転手の仕事が大変だったんだろうなあ・・・
性同一性障がいの青年を演じた冨浦智嗣(ライオン)は、作中かなり目立っていました。
台詞はTVドラマのようで、ちょっと浮いていた印象でしたが、瑛太に告白するシーンはなかなかに好き。
歌舞伎では「嫌なものを見ないようにするため、目をつぶす」という話の流れがありました。
ライオンはこう言います。
「好きなものが見れるなら、嫌いなものが見えても我慢する」
ていうか初登場シーンとか、どう考えても女の子にしか見えないと思うんですが(特にあの声のおかげで)。
善さんはこういうことには鋭いんでしょうか。
あっさり治ちゃんを横に寝かすのには笑いました。
残念だったのは、貴子が「思い出す」シーンが唐突だった事(駆け落ちをした日と同じく、その日が台風だったので思い出したのでしょう)。
せっかく「歌舞伎の舞台のセリフは覚えている」という要素があるので、タイミングはもう少し考えてもよかったと思います。
松たか子が「歌舞伎を演じれば、元の貴子さんに戻るかも」と言っていたのに、その台詞も生きていません。
それでも貴子が「私、ひどいことをしたの」と稽古のときに言ったのには、しんみりしてしまいした。
そういえば、リニアモーターカーや地デジ化の話も特に本筋には絡んできませんでしたね(笑)
「歌舞伎とリニアは、直接的には関係ないけど、間接的には関係あるんだよ!」という台詞だけに帰着するのです。
これは、「結局考えるのは歌舞伎の公演のことだけで、村の人々はその他のことを気にすることがなくなってしまう」という描写でもあると思います。
歌舞伎の演技が終わったあと、善さんの「出番はまだ残っている」と言われていました。
貴子と話す事が「出番」だったのでしょう。
総じて一番よかったのは、善さんと治ちゃんのやりとりでした。
取っ組み合いのけんかをしたのに、お風呂から出る治ちゃんに対して、「これも着ろ」と服を渡す善さん。
治ちゃんがけっこう勝手な事をしたのですが、善さんが憎み切れていない描写が大好きです。
この映画で大鹿村が注目されるようになると嬉しいですね。
お店に張ってあった料理「大鹿ジビエ」を食べたくなりました。
最近、ご当地目当ての、訳の判らない動物等の映画が多いです。
みんな所謂マチオコシのサンプルみたいなものです。
でも、この物語の骨格になる歌舞伎は、材料として、骨太で、今日や昨日の思いつきのマチオコシでなくて、好意をもちました。
とは云うものの、村の歌舞伎が始まる場面は、いささか唐突であり、私も教養のなさに恥じるのですが、歌舞伎の語りの部分ではいささか???でした。
あそこは、口語体のスーパーでも入れてもらえば、判りやすかったのではと思います。
私は、色んな、細かな設定が面白かったです。
リニア-賛成派=建設業、反対派=白菜農家
長岡で見たのですが、お客の入りは8割くらい。
日曜日午前2回上映の内、2回目でです。
原田さんは、良い映画が遺作になりましたね。
それから、病気の件に関しては、私は少しも違和感を感じませんでした。
年のせいで、鈍感になったのかなア?