悲しい中年ヒーローが得たものとは「SUPER/スーパー!」ネタバレなし感想+ネタバレレビュー
個人的お気に入り度:9/10
一言感想:だめな人ほど共感してしまう悪趣味アメコミ決定版
あらすじ
冴えない中年男・フランク(レイン・ウィルソン)はドラッグの売人(ケヴィン・ベーコン)に愛しの妻(リヴ・タイラー)を奪われてしまう。
愛する妻のため、フランクは「クリムゾンボルト」という名のヒーローになり、犯罪に立ち向かう。
さらにコミック店員のリビー(エレン・ペイジ)はフランクの相棒になりたいと告白するのだが・・・
まいった。
最後は思い切り感動してしまいました。素晴らしい!
少なくとも、最近観た映画の中では一番泣けるラストでした。
この映画は「ダメダメな中年男性がヒーローに成りすまし、自分の信じるもののために戦う」というダメ人間応援ムービーであり、グロテスクな描写でヒーローの危険性と存在価値をも訴えるというテーマも持ち合わせています。
皆が思うことでしょうが、この設定だとどうしても大傑作「キックアス」を思い出しがちです。
![]() | アーロン・ジョンソン 3243円 評価平均: ![]() powered by yasuikamo |
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しかしこの作品のベクトルはキックアスとは少々異なります。
どちらかというと、マイナーな作品の「ディフェンドー」に近いでしょう。
その違いの筆頭は、キックアスの主人公がコミックおたくの少年だったのに対し、
こっちの主人公は自分の人生は不幸だと思い込んでいる中年男だということ。
ヒーローへの憧れによりヒーローになった少年よりも、一層の悲哀を感じざるを得ないのです。
ちなみに、監督はグログロB級ホラー「スリザー」で好評を博したジェームズ・ガンです。
![]() | タニア・ソルニア 1860円 評価平均: ![]() powered by yasuikamo |
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すげーくだらねー映画(ほめ言葉)なので、生理的嫌悪感をもたらすアホ映画が観たいなら是非。
スーパー!にも、この作品を思わせるシーンがあります。
今作品はかなり好き嫌いが分かれると思います。
エロい、グロい、下品と3拍子そろっています。
自分を正当化し、暴力を振るう登場人物が受け入れられない人もいると思います。
あまりに残虐なので笑う前に引きます。
ぶっちゃけ悪趣味です。
でも最後には、その暴力こそが、作品に必要だったものだとわかります。
敵は何を訴え、主人公は何を知ったのか。
そのメッセージに感動する人はきっと多いはずです。
「キックアス」が好きな人はとりあえず必見。
相棒のイタい少女を演じたエレン・ペイジも可愛いので、男子になら大推薦の映画です。
是非是非劇場へ。
以下、結末も含めて激しくネタバレです↓
~この映画で描かれている暴力~
結末に関して、暴力を正当化するような描き方をしたことに違和感を覚える方もいると思います。
自警活動をするクリムゾン・ボルト(フランク)とボルティー(リビー)の姿はおぞましいものです。
その姿に嫌悪感を持つ方は多いでしょう。
(特に麻薬の売人を車で轢いてゲラゲラ笑うリビーの画は観てて本気で怖かった)
それでハッピーエンドって・・・と思う方がいるのも当然だと思います。
しかし自分は、この映画は暴力に対して中立的だと思います。
そう思う根拠が
①暴力に暴力を返された結果、リビーが死んでしまう
②コスチュームを一度捨てようとする
③フランクは、自分の自警活動をリビーに「あなたでしょ」指摘され、あれは「イカレているだけだ」と言う。
④リビーの行きすぎた暴力を止める
そう、フランクは自分の行動を完全には正当化していないのです。
それどころか罪悪感を持っています。
TVでクリムゾンボルトへの世論が良い方向へ変わったときも、リビーが大いに喜んだのに対してフランクはちっとも喜んでいません。
さらにリビーは暴力を振るうことに対して歓び、その結果死んでしまうのです。
暴力によって幸せも手に入れたフランク。
しかしそれには、リビーの死という犠牲が伴ったのです。
それこそがイタいヒロインを登場させた理由でしょう。
~ヒロイン・リビー(ボルティー)の描写~
フランクに対してセックスを強要したリビー。
彼女はセックス依存症だったのだと思います。
引越しパーティでは「また」イチャついていましたし、フランクに多数の男の子を紹介していました。
男の子に「パパとよろしくやってろよ」と言われるくらいですし、誰とでも寝るような生活をしていたのでしょうね。
彼女は退屈を嫌い「コミックには退屈なんかない」と口にし、
それに対してフランクは「それはコマとコマの間さ」と返します。
ダメダメなフランクでしたが、ダメダメなリビーをたしなめたこともありました。
彼女の存在が、彼を成長させたのです。
~ラスト~
そして、ラストシーンが本当に素晴らしすぎるんですよ。
フランクは、今までの人生で輝いていた瞬間は
・妻との結婚
・警官に犯人の逃げた方向を教えた
の2つしかなかった。
その「2つ」だけの出来事を、彼は絵に描き大切にしていました。
最後に、また妻は出て行ってしまう。
しかし、それは悲しい別れじゃない。
それはたとえ、彼女が別の男性と結婚しても。
なぜなら、彼の目の前に「人生で輝いていた瞬間の絵」がたくさんあったから。
フランクは自分の不幸を呪い、他人には「みんな支えを持っている」と妬みを持っていました。
妻が出て行き、取り乱したのも、その「支え」を失ったからだったのです。
(妻のドラッグ依存症を治したかった・・・という思いも含まれます)
しかし彼は変わりました。
たとえ自分のそばにいなくても、大切な人の幸せを願えるように
そして、自分のそばにいても、そのものを幸せにすることができるようにと、ウサギを飼いはじめたのです。
(彼はペットショップで「自分のそばにいたんじゃ可哀想だ」と自分を卑下していました)
これにはもう泣けて泣けて仕方がありませんでした。
「コマとコマの間」がここでも見れてよかった!
「子どもが世界を変える」というのも印象に残ります。
~ほか気になったこと~
・オープニング
すでにグロいので笑いました。サービス精神満点でいいね。
最後に登場人物たちが息切れしてるのもグッド。
・TVの触手のエロアニメ
なんだこれ(笑)。
後にある「神の指」のシーンが妄想であることも示していると思うけど。
ていうかあんなに普通にTVで流してるもんなの?
・TV番組「ホーリーアベンジャー」
この安っぽさと下品さは何だ。
これが主人公の動機付けになったり、ヒーローが窓の外にいたりする(幻覚)のも大好きです。
・エンドロール後の台詞「神よ、あなたの力をお貸しください」
これは皮肉かな。
結局彼は神頼みでものごとを進めていたというのなら、切ない。
~映画の訴え~
この映画での訴えは「主観によって世界は変わる」ということだと、自分は思いました。
主人公はこう観客に告げます。
「みんなジョック(ドラッグの売人)に共感だろう、俺が犯罪者と何も変わらないってな。でも時には目に映ることと真実が違うこともある」
主人公のやったことは間違いなく犯罪で、許してはならないことです。
しかし、それも彼にとっては問題ではありません。
なぜなら、いままでやってきた行動によって、彼の世界が変わったからなのです。
「悪に立ち向かう心がヒーローになる」
終盤では「準備なんて、終わらない。度胸が足りなかっただけだ」という台詞もありました。
彼にとって、行動することこそが重要だったのでしょう。
人生にひどいことがあっても、見方を変えれば、必要なことだと思えるかも、幸せになれるかもしれない。
そう思わせてくれる本作が大好きです(でも暴力はダメ、ゼッタイ!)
あのハイテンション振りが良いですね。
決して美人じゃないし、カラダも恵まれてないようですが、これからも色んな映画に出てくれると良いんですが。
いい映画ですよ。