何かを失った後に得るものがある「アジョシ」ネタバレなし感想+ネタバレレビュー
個人的お気に入り度:8/10
一言感想:バイオレンス&オーソドックス
あらすじ
質屋を営むテシク(ウォンビン)のそばには、ソミという女の子が住んでいた。
ある日ソミと、麻薬中毒のその母親が誘拐されてしまう。
テシクは2人を救うため、組織と取引をするのだが・・・
これは面白かった!
この映画の魅力として、まず特筆すべきは主演のウォンビンです。
本作のタイトルの意味は「おじさん」であり、ウォンビンはおじさんと言うには少々若すぎるような気がします。
(脚本段階ではもっと年上の設定だったそうです)
しかしこの映画に関してはこれで正解です。
アクションの冴え渡りはすごいですし、なにより演技が素晴らしいです。
役者としての底力が見えるかのような熱演で、この役は彼以外には考えられないほどのはまりようです。
ウォンビンは「母なる証明」では知的障がいのある青年を演じていました。
![]() | キム・ヘジャ 1157円 評価平均: ![]() powered by yasuikamo |
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「アジョシ」ではそれとは正反対とも言えるハードボイルドな役柄です。
さらなる魅力を見せてくれました。
ストーリーは「組織にさらわれた女の子を、男が助けにいく」という非常にオーソドックスなものです。
しかし映画は平凡な出来ではありません。
敵側も警察側もキャラクター描写が秀逸で、話運びも非常に丁寧、さらに何気ない台詞や表情にも伏線が隠されています。
人間ドラマ&サスペンス作品のツボを押さえまくった堅実なつくりです。
しかしそこはやっぱりR15+指定作品。
暴力の描写はかなり過激です。
ウォンビン目当ての女性に勧めづらくなっているのは少々残念かもしれません。
ともかく残酷描写が抵抗がない方であれば、誰にでもオススメできるハイレベルな韓国映画です。
是非是非劇場へ。
以下、ネタバレです 結末に触れていますので未見の方はご覧にならないようお願いします↓
~ちょっと野暮なツッコミ~
敵の「ラム・ロワン」と、警察の「キム・チゴン」の役者さんの顔が似すぎです。
どちらもヒゲを生やしたスマートな渋いおじさん・・・混乱してしまったのは自分だけでしょうか。
オ社長「そいつは警察に引き渡せ!」→テシクはゴルフの練習場にポイッと捨てられる。
部下がいいつけを守っていないよ?
妻が死んだときの回想シーンで、妻が横からトラックに追突されたのはびっくり。
もう少しスマートな方法があるでしょうに。
子どもを使って麻薬を運ばせる・・・のはわかるのですが、子どもがそのへんにキャッシュカードを捨てまくっていたのが気になりました。
防犯カメラにもバッチリ写っていますし、すぐに足がつきそうな気がするのだけど。
警察は麻薬取引の疑いがある人間に飛び蹴り。
ドロップキックを放つ映画は傑作の法則というのがあり(これは飛び蹴りだけど)、この映画でもそれをしっかり守ってくれました。
嘘とは言え、相手は車椅子に座っているのに・・容赦ねえなあ。
ノ刑事もギャグキャラっぽくていい味出していましたね。
終盤、駄菓子屋が警察に包囲されているというシュールな光景にはちょっと笑ってしまいました。
この駄菓子屋のおじさんは素敵でしたね。
「子どもは万引きすることで大きくなる、サービスだ」「あの子はひとりぼっち」と言う序盤の台詞も好きです。
~ソミのことば~
ソミはテシクに対してこう言っていました。
「(母親に)おじさんは悪い人だと教えられた、でも嫌いにならない。おじさんまで嫌いになったら、私の好きな人がいなくなっちゃう」
ソミはテシクが「知らんぷり」をしたことも責めませんでした。
彼女の母はひどい親でした。
しかし、ソミはそんな母に会いたいと、作中なんども繰り返していました。
先ほどの台詞を考えれば、ソミは母親のことが好きではありません。それでも会いたいと願ったのです。
これらが全てが健気で、子どもながら、芯の通った強さを感じます。
この2人の信頼関係を、「お茶碗を回収して母親にばれないようにする」シーンで表現しているのも面白い。
ラストで彼女が描いたネイルアートが見えるのも嬉しくてしょうがないのです。
~よかったシーン~
アクションシーンはどれも熱かった!
特に狭いトイレでの肉弾戦、ラストの集団戦には鳥肌が立ちまくりでした。
「目玉」のミスリーディングですが、敵のラム・ロワンが、ソミのためにこれをやってくれたのですね。
彼もまた、ソミの強さを見て、ソミに「いい子にしてれば会えるって言ったよね」「お母さんは生きているよね!」と責められ、思うところがあったのでしょう。
しかし彼は好戦的な人間でした。
最後はテシクと戦いたかったから、「ニセの目玉」が入ったガラスケースを撃ち壊したようにも見えました。
最後に「知らんぷりをしてごめん」とソミに謝るテシク。
さらに「知っていると、知らんぷりをしたくなる」と言っていました。
これはどういうことか。
明確な答えはないのでしょうが、自分は「ソミの強さを知っている」ということだと思います。
その後にはソミに対して「一人で生きろ」とも言っていましたし、テシクはソミに自分で切り抜けて欲しかったのだと思います。
子どもに対して、あまりに冷たくないか?と思われるかもしれませんが、これはこれで彼なりの愛情表現だったのかもしれません。
ソミに「おじさんも私が恥ずかしくて知らんぷりしたんでしょ?」と思わせてしまっているので、不器用と言うほかないのですけどね。
~ラスト~
最後はソミに「一度だけ抱きしめさせてくれないか」と言うテシク。
なぜ彼は、そのことを頼んだのでしょうか。
中盤のかつての戦友に助けてもらったシーンで、彼はこう言っていました。
「人を探している。(ソミの)顔が思い出せない。写真でも取ればよかった」
彼はそう後悔していました。
彼はこれから刑務所に行きます。
長い間会えなくなるからでこそ、今度は忘れないために、ソミを感じられるように、抱きしめたのです。
韓国映画は、良くも悪くも後に引きずってしまいそうな結末のものが多くあります。
でも、この映画はこれ以上ないほどのハッピーエンド。
妻をも失ったテシクですが、いま、彼には大切な人間がいます。
テシクの笑顔、そして涙。
それが見れて本当によかった。
そう思えた素晴らしい映画でした。