原因よりも大切なこと 映画版「ツレがうつになりまして。」ネタバレなし感想+ネタバレレビュー
個人的お気に入り度:6/10
一言感想:気になることはあれど、優しい映画
あらすじ
ツレ(堺雅人)とハルさん(宮崎あおい)は結婚5年目の夫婦。
ツレは仕事をバリバリこなし、毎日のお弁当も作る几帳面なサラリーマンだった。
そんな彼の様子がおかしい。食欲がなくなり、吐き気がして、体も痛みだし、ついには「死にたい」と口にするようにまでなった。
病院での診断結果は「うつ病」だった。
ハルさんはうつ病に気付かなかったことをツレに謝り、原因が会社にあると感じた彼女は「会社を辞めないと離婚するよ」と告げる。
ベストセラーエッセイコミック「ツレがうつになりまして。」の映画化です。
![]() | 細川 貂々 480円 評価平均: ![]() powered by yasuikamo |
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映画には、同作者の「イグアナの嫁」と「その後のツレがうつになりまして。」のエピソードも含まれています。
この映画で素晴らしかったのは、堺雅人さんの演じる「ツレ」の描写。
それは原作の「病的にも思えるほど(こう言うと失礼ですが)の几帳面」なツレそのものでした。
しかし映画としては残念に感じた部分も多くありました。
その筆頭が、原作にあった「年齢」と、「再就職」の話題が全く出てこなかったことです。
原作では、ツレが会社を辞めたのは39歳のこと。
「うつ」の原因に、この年齢が関与していることはしっかりと描写されています。
しかし映画では、ツレの年齢の話題は皆無。
ツレが新しく仕事を探したりするシーンもありません。
うつ病になった人も、経済的な理由、年齢のことにより「仕事を辞めたくても辞められない」ケースは多くあります。
この映画は、「それでも休んだらいい」と背中を押してくれます。
でも自分はそれだけでは不十分だと思うのです。
「うつ」になって仕事を休んだとしても、いつかは働かなきゃならない。働くには、年齢というハンデが大きく重圧としてのしかかってくる。
そのことが、うつを進行させることにもなるのです。
「休めばいい」というほど人生は単純でないことは映画でも描写されていますが、実際に「仕事」で苦しんでいる人には共感しにくくなっているような気がするのです。
また気になったのは作中のとあるセリフ。
自然に出た言葉ではないような違和感を感じました。
伝えたいことをわかりやすいセリフで言うことだけが映画の力ではありません。
もっと登場人物の一挙一動や、何気ないシーンで表現してこその映画作品だと思うのです。
クライマックスの描写も正直閉口。
リアリティのある描写で全てを見せてほしかったです。
作中の展開に言いたいことはあれど、この映画化はとても意義のあることだったと思います。
それはこの作品が「うつ病を知ってほしい」という優しさに溢れているから。
うつ病に対して「ただの甘えじゃないのか」などの偏見は、残念ながらいまだ多くあり、それはうつ病の人を苦しめる原因にもなるものです。
映画を観たあとは、そうした考えを見つめ直すきっかけになりえます。
このことはものすごく嬉しいのです。
自分も身内にうつ病になった人間がいて、その人に辛くあたってしまったことがありました。
映画を観たあとは、「辛かったのに、ごめん」と謝りたい気持ちでいっぱいになりました。
うつの辛さと、その描写はとても優れていますので、うつ病を経験した人、それに関わったことがある人には是非観て欲しい作品です。
ps.原作シリーズの完結編となる「7年目のツレがうつになりまして。」では、映画化の際のウラ話を読むことができます。
読んでいてすごいと感じたのは、ドラマ版の脚本を「こんな綺麗事を並べた話なら変えてほしい」と2人が突き返したエピソード。
映画にもその精神が十二分にあらわれていると思います。
ps2.もう一つ大きな難点があって、それはハルさん役の宮崎あおいさんが魅力的すぎて、こんな可愛い奥さんがいるならうつ病になんてならねえよと思ってしまうこと。
お団子ヘアとか、笑顔で抱きつくシーンとか、もう本当可愛すぎて悶えるレベルなので、彼女のファンも必見です。
以下、ネタバレです 結末に触れているので鑑賞後にご覧ください↓
~うつ病の知識~
作中でうつ病のウンチクがたくさんあったのもよかったですね。
・セロトニンの分泌がうまくできなくなるのがうつ病
・サラダがいい
・ホットミルクがいい
・薬物療法、心理療法、環境調整法の3つがあるが、もっとも効果的な治療法は「休養」である。
納豆を「臭っ!」と言い、嫌うハルさんはひどいと思いました(笑)が、このことを
「ハルさんが僕に合わせると、ハルさんまで病気になっちゃう」と言ったツレに対してのセリフ「大丈夫だよ、ツレが納豆食べても、私は食べないから」に生かしてくれているのが好きでした。
~古道具屋さん~
ハルさんが古いガラスビンを買ったとき、古道具屋さんはこう言いました。
「ガラスだけど、割れなかったからいまここにある」
ハルさんは「割れなかったことに意味がある」と思います。
そして「会社を辞めたらみんな困るよ」と言うツレに告げます。
「みんななんか関係ない、割れないでいて」
このセリフは、後半でツレが「今は自分のために病気を治したい」と思うことにもつながっていくのです。
~ポリシーを語るツレの友達~
こういう描写があってこそ、うつ病の人に「してはいけないこと」がわかります。
「男は家族の大黒柱だ」
「家族のためだと思えば頑張れる」
「息子が今度受験なんだ」
と語る友人。
それの姿を見て、ツレは「何を頑張ればいいんだ」と泣き伏せてしまいました。
ハルさんは「静かに見守ってほしいのに、なんで土足で踏み込むのかな」と日記に書きました。
うつ病の人に「がんばって」というのは禁句といってもよいものです。
それが「できないこと」ならなおさらです。
だからでこそ、ハルさんは「2人で、頑張らない」ことを目標にしたのです。
~杉浦さん~
演じていたのは「冷たい熱帯魚」でも素晴らしい演技を見せた吹越満さん。
出演時間が少ないながらも、存在感は格別でした。
「(会社を辞めないと離婚をすると言ったハルさんに)いい奥さんじゃないですか」
「うつになった原因は離婚なんだよね」
と言った姿が印象的でした。
ツレにはハルさんがいましたが、杉浦さんはうつ病の生活がもっと辛いものであったのかもしれません。
~会社の後輩~
チャラチャラした感じの、「送別会が続いてダルいっすね~」と語っていた彼ですが、ツレの送別のときには涙を浮かべていました。
自分を卑下していたツレですが、すぐそばに、自分を必要としてくれる人間がいたのでしょう。
個人的には、もっとツレと交流する描写がほしかったですね。
~自殺をした次男坊~
原作にはない描写ですが、これはとても意味のあることだったと思います。
「自殺念慮」は、普段はそうは見えなくても、不意におとずれるものです。
ハルさんの母は、「なおったように見えても、気を付けて」とハルさんに言っていました。
お医者さんは「うつ病は振り子のようなもの、油断は禁物です」と、ツレに告げていました。
そうなのです、うつ病が治った(治りかけた)かにみえても、その人の心の中まではわかりません。ふいに「死にたい」と思うことがあるのです。
次男坊が「天井のしみを見て笑っていた」のと同じく、ツレも「天井のシミが(ペットの)イグみたいだ」と笑っていました。
「死にたい」という兆候が、すでに現れていたのかもしれません。
映画を見たあとには、それに「気づいてあげたい」と思えます。
それが自殺を止めるきっかけにもなるのではないでしょうか。
~ハルさんの父~
大杉漣さんはどんな父親役も似合いますね。
自分の娘の感想を「面白いのに理由なんかない!」とアンケート用紙に書いていたのには笑いました。
あとで若い子のマネをして丸文字で出したのも可愛くて好きです。
~自己啓発本を書く編集者~
お金が少なくなり、ハルさんは仕事を自ら仕事を見つけに行きます。
残念だったのが「ツレがうつになりまして、仕事をください」と、タイトルを無理やり入れたかのようなセリフを使ってしまったこと。
彼女は普段から夫を「ツレ」と呼んでいましたが、一般的には夫をこう呼ぶことは少ないでしょう。ここだけは興ざめ感が拭えませんでした。
彼女は「うつになったと言えた自分が、嬉しかった」とツレに告げます。
彼女は「うつ病になったツレが恥ずかしいとおもっていたから、いままで人に言わないようにしていた」と気づき、うつ病を話そうと思うようになったのです。
啓発本にイラストの依頼をした編集者も、「自分もうつ病になっていてね」と軽い口調で話してくれました。
むやみに隠すよりも、こうして「自分だけじゃない」「ほかにも苦しんでいる人がいる」と気づくことが、重要なのかもしれません。
~風呂場で首をつろうとするツレ~
原作では、「ばからしいな」と思って自殺をやめたツレですが、この映画ではハルさんがツレを抱きかかえてくれました。
ここは泣けて泣けて仕方がありませんでした。映画ならではのシーンだったと思います。
~「できない」さん~
会社にクレームをかけまくっていたおじさんが、最後の公演に出てくれたのは嬉しかった!(会社の上司もいる)
クレームの時「くちだか(高)ではなく、はしごだか()のたかです」と聞いていたので、名前をよく覚えていたのでしょう。
ただ・・「この本をだしてくれてありがとう」と言ったあと、すぐ公演場から出ていくのはどうなの?失礼だよ。
なかなかのツンデレキャラだったので、恥ずかしくていたたまれなくなったのでしょうけどね。
「ありがとう」と言っていたので、このおじさんも(もしくは近くにいる誰かが)うつ病だったのかもしれません。
公演の内容は「あとで」が印象に残りました。
①あ・・・あせらない
②と・・・特別扱いをしない
③で・・・できること、できないことを見分けよう
映画の内容を思い出すと、ツレがどのようにしてそれを学んできたかがわかります。
~ラスト~
正直「漫画のキャラが現実に飛び出てくる」なんて描写はしないでほしかった・・・。
でも、「ツレはこれからも宇宙風邪(うつ病)に悩まされるかもしれない」「でも、明けない夜はない」と、ハッピーエンドすぎず、過度にポジティブでもないラストシーンはとてもよかったです。
「健やかなるときも、病めるときも、君とずっと一緒にいたい」
観るまでは気付かなかったのですが、これは結婚式の誓いの言葉の引用でもありました。
家事もその他もダメダメなハルさん。
几帳面なツレさん。
2人がいたからでこそ、うつ病を乗り越えることができたのです。
~原作でのメッセージ~
原作のあとがきで、作者の細川貂々さんはこう言っていました。
「ツレは病気になってはじめて自分の弱さに気づくことができたので、うつ病になったことは決して無駄になっていないのです」
「私にとっても、ツレの病気は財産になったのです」
と。
うつになったことを悔やんだり、嘆くのでは解決になりません
それを含めた自分の人生だ、うつ病でわかったこともたくさんあった、と肯定することが必要なのではないのでしょうか。
うつ病にかかった人、またそうなりそうな人がこの作品に触れ、健やかに、幸せな人生を送れることを願ってやみません。
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