垣間見えた感情 漫画「外天楼」紹介+ネタバレレビュー
そのすぐあとに「こんなに面白いSFミステリーが読めるなんて!」と衝撃を受けた&大興奮だった作品があります。
それは漫画「外天楼(げてんろう)」です。
![]() | 石黒 正数 735円 評価平均: ![]() powered by yasuikamo |
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もうね、最高なんてもんじゃないです。
一巻完結の漫画でこれ以上満足感を得れる作品はないとまで言い切れます。
買ってから何度も読んでいますが、一向に飽きません。
作者の石黒正数さんは、代表作の「それでも町は廻っている」も一話の構成力がものすごいと思っていたのですが、今作ではその力量を思い知りました。
この漫画は
ショートストーリーが積み重なり、一つの大きな話につながっていく・・・
という構成がとられています。
一見バラバラに見える物語が収束していくのです。
全体の構成は映画「運命じゃない人」や、ゲーム「428 ~封鎖された渋谷で~」に近い印象です。
すごいのは、一見した程度ではそれぞれの話が関係ないように見えること。
そして物語の前半部分はゆるゆるな雰囲気で、基本的にくだらないんですよ。
しかし、そのしょうもない話の中にも巧みな伏線がいくつも隠されているのです。
ちょっとそれぞれの話を見ていきましょう。
1話:リサイクル
エロ本を目立たないように買おうとする3人の中学生の話です(万引きじゃないよ)。

うん、くだらないね。
でもこれにも「推理」パートがあったりして、これだけでもミステリーとして楽しめる話になっています。
2話:宇宙刑事ディクト
いきなり特撮ものになります。

そんな中、戦闘員が一人増えていることに気づき・・・という話。
このセリフはまんま萩尾望都先生の有名なSF作品「11人いる!」からのものですね。
3話:罪悪
一人暮らしの女性がロボットを手に入れたけど、目覚ましくらいにしか価値を感じなくて・・・という話。

この話のラストに提示される「感情」も後半の伏線になっています。
4話:面倒な館
アホっぽい女刑事が登場し、密室殺人の謎を解く・・・という話。

一番ミステリーらしい話ですが、結末にはずっこけそうになりました。
5話:フェアリー殺人事件
別の殺人事件が起き、さっきの女刑事が「ダイイングメッセージ」を解読し始めます。しかし・・・

登場人部たちがメッセージを押し付け合うという、醜くもわりとどうでもいい話になっていきます。
いやあこうして並べてみると本当ゆるいな。
でもこの「くだらない話」にも、「ウラ」があるのです。
この話の中にもいくつのも複線があり、登場人物の行動の結果や感情が現れているのです。
それは最終話のシリアスで、かつ衝撃的な結末につながります。
最終話を読んだあとに、これらの話を振り返ると、きっと一度目とは違った感情が沸き起こるはずです。
「本当かよ」とお思いでしたら、是非読んでみてください。
嫌悪感を覚える人もいるであろう&お子様には向かない性描写もありますし、万人向けではありません。
でも「面白い話が読みたい」という動機があればそれだけでオススメです。
構成力の高い作品が読みたい方は必見です!
↓以下はネタバレで、後半の真相と展開について書いています。未見の方は絶対に読まないでください
この漫画で気になるのは、
「鬼口は死ぬ間際にアリオたちをかばおうとしたのか、それとも闇に葬ろうとしたのか?」
ということ
5話で見せたあのダイイングメッセージは、「脅迫状を送り付けていた別の奴を標的にさせたい」という行動の表れでしょう
でもこのとき、「凶器のナイフの指紋はぬぐってあった」のです。
これはキリエの仕業であるとも考えられます。
その後の桜庭刑事との対峙のときにもキリエはついてきていましたから。
でも桜庭刑事が言ったとおり、そうであればナイフを持ち去ればいい話なので、やはり鬼口自身のものと考えたほうが自然でしょう。
この行動は果たして彼の「償い」だったのか、それとも「さらなる事実の隠蔽のため」だったのか・・・。
鬼口は死ぬ前に「今日、お前の家に行く」と、アリオにこう言っています。
彼は何を伝えたかったのでしょうか。
その答えは知ることができません。
しかし気になるのは、彼はこの後、刺さされるときに死を受け入れるように見えたこと。
本当の娘に、孫が生まれ、これから会えるというのに・・・です。
銃をつきつけたのは、「孫に会ってからなら」というだけの抵抗だったのでしょう。
殺されても文句はない。鬼口はそれだけのことをしたのですから。
銃を持っていたのにもかかわらず、そのままアリオに刺された鬼口の姿は、「贖罪」の気持ちも垣間見えたように思えるのです。
もうひとつ気になったこと・・・それは鬼口がキリエに、自分の娘と同じ名前をつけていたことです。
「本当の桐江(漢字表記になっている)はパパって呼ぶんだ!」と言い、キリエを襲った鬼口。
彼は5話の討論会でこう言っています。
「何に性的興味を描くかは個人の主観の問題だ」と。
これは、彼は本当の娘(桐江)にも劣情を抱いていたことの表れではないか、と思います。
表向きではセックスロボットとフェアリーを擁護する言葉ですが、それ以上に2人の「キリエ」に対しての気持ちの「正当化」の表れのように思えるのです。
しかし、本当の娘(桐江)には子どもが生まれ、鬼口はおじいちゃんになります。
これは彼が近親相姦的な呪縛から開放されたことにほかならないのではないのでしょうか。
矛先が幼いキリエに向けられたのは許してはならないことです。
しかし鬼口には、キリエに対しての罪の償いの心情も芽生えていたのではないか・・・とわずかながら思うのです。
いずれにせよ、「本当に闇に葬る」のであれば、鬼口はここまで二人を育てる必要などなかったでしょう。
このアリオの気持ちも痛いほどにわかるのですが、それでも自分は鬼口の行動を信じたいのです。
たとえ許せない相手だとしても・・・
鬼口はアリオ達に謝りたかったのではないか・・そう望みます。
ps.表紙カバーでは、アリオとキリエのみが手触りの違う加工がされています。
彼らはやはり人間ではなかった・・・でも2人の絆はそれだけに強固なものだったでしょう。
ps2.外天楼の設定は実在する「沢田マンション」を思わせます。
ps3.1話でエロ漫画を読んでいたキリエはどんな気持ちだったのでしょうか・・・くわえていた「アイス」も含めて、いいようのない悲しさを覚えます。
オススメ↓
晴耕雨マンガ 外天楼 の小ネタ
『外天楼』(石黒正数/KCデラックス) - 三軒茶屋 別館
「外天楼」凄い漫画すぎて鳥肌立った件:ヤマカム
その答えが、「ミート」、食肉用に作ったという事であり、その夜にそれを話そうとしていたのではないでしょうか。
あと、そういう描写こそありませんでしたが、アリオには指紋が無いのかもしれません。普通の人間ではないので・・・
こう考えているんですが、どうでしょう。
> その答えが、「ミート」、食肉用に作ったという事であり、その夜にそれを話そうとしていたのではないでしょうか。
そう考えると、とことんブラックな落としどころですね・・・切ないです。
作中でも言われたとおり「シート」なのかもしれませんが、果たして・・・
>
> あと、そういう描写こそありませんでしたが、アリオには指紋が無いのかもしれません。普通の人間ではないので・・・
>
> こう考えているんですが、どうでしょう。
拭ったのではなく、指紋事体がなかったのですね。
ありそうな解釈です!ありがとうございます。