うるさい理由「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」ネタバレなし感想+ネタバレレビュー
個人的お気に入り度:7/10
一言感想:喪失を抱えた少年の冒険物語
あらすじ
オスカー(トーマス・ホーン)は、2001年9月11日に起きたアメリカ同時多発テロ事件により父親(トム・ハンクス)を失っていた。
ある日オスカーは父親の部屋で、青い瓶に入っていた1本の鍵を見つける。
鍵屋に持って行くが、それが何の鍵かはわからなかった。しかし鍵屋の店主は鍵の入っていた封筒に書かれた「ブラック」という名前を指し示てくれる。
オスカーは電話帳で「ブラック」さんを調べ、鍵穴を探す旅に出かける。
「リトル・ダンサー」「愛を読むひと」のスティーブン・ダルドリー監督最新作です。
アメリカ同時多発テロ事件を題材とした映画には「ワールド・トレード・センター」「ユナイテッド93」「華氏 911」などがあります。
その中でも、事件そのものではなく、「残された」人の内面を描いた映画に「再会の街で」があります。
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この映画も「再開の街で」と同じく、「大切な人を失った者の再生」を描いたヒューマンドラマだと思っていましたが、実際はそれ以外の要素もありました。
「この鍵は誰のもの?」「なんの鍵なのか?」というミステリー要素を含んでいるのです。
そして映画の世界は少年の家族だけにとどまりません。
彼は様々な家族、人間と出会い、成長していくのです。
この映画の優れた点は、(9・11で)家族を失った人以外にも、メッセージが向けられていることです。
終盤、主人公は出会った人たちになんと言ったのか、母親は息子をどう思っていたのか。
その行動に感動できる方はきっと多いと思います。
テーマがすばらしいだけに絶賛したい気持ちは大きいのですが、気になった点もあります。
まずひとつに、主人公の少年を不快に思う方も多いのでは?と思えたこと。
彼はアスペルガー症候群の傾向があると作品で示されていますが、詳細は語られません。
この障がいのことを知らないと、少年は感謝や謝罪をほとんど述べることなく、ただわめきちらし、多くの人を振り回している、というふうにも捉えられるかもしれません。
そのため、是非アスペルガー症候群のことを知ってから、映画を観てほしいと思います。
またこの映画はしょっちゅう「テロが起こる当日」「1年後」と時間軸が前後します。
後半では全く気になりませんでしたが、前半はこれの連続で、話の流れもゆっくりなので観ていて少々疲れてしまいます。
その描写に抵抗がなければ、是非おすすめしたい映画です。
日本でも東日本大震災が起き、多くの方が喪失を抱えた世の中ではこのメッセージはより響くことでしょう。
原作はジョナサン・サフラン・フォアによる小説で、フィクションです。
![]() | ジョナサン・サフラン・フォア 2415円 評価平均: ![]() powered by yasuikamo |
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911のことだけでなく、アメリカの風土を知っておくとより楽しめるでしょう。
冒頭の「セントラル・パーク」や、主人公が叫ぶ「フォートグリーン(ブルックリンの地区のひとつ)」はその最たるものです。
オスカー少年を演じた「トーマス・ホーン」もすごい!
演技は初挑戦でも、クイズ大会で優勝したほどの実力を持つ彼。この映画ではこれ以上のないはまり役でした。
以下、ネタバレです 結末について書いているので鑑賞後にご覧ください↓
~調査の結末~
「結局貸金庫には何が入っていたのか?」と気になる人はとても多いと思います。
でもこの映画ではそれはどうでもいいことなのでしょう。
貸金庫の中身は観客が想像したものでよいし、この映画で真に描きたいのは、少年の成長と、様々な人間模様なのですから。
むしろ重要なのは、オスカーの「その場にいたのに、父親の電話に出ることができなかった」という告白です。
オスカーはなぜ鍵を持ち、「ブラックさん」を探しに行く旅をしていたのか。
彼はそのことを聞いてほしかったのだと思います。
中盤彼は「鍵穴が見つかれば、僕は救われる」とも言っていました。
「何も入っていない棺」を無意味なものだと言い張る、「真実」に対しても執着を持つ性格でもありました。
彼は相当の勇気を振り絞って告白したのでしょう。
実の母にも、祖父にも家にいなかったと嘘をつき(しかも自分の歩数なども計算をして)、ごまかしていたという事実。
彼にとって「許してくれる?」と聞くほどの、最も恥ずべき行為だったでしょう。
それを言った瞬間、彼は旅の目的を達成したのだと思います。
ブランコで見つけた父親からの手紙は、そのことへの賞賛になります。
そして母親はオスカーと同様の旅をしていました。
お母さんの行動があったからこそ、少年が受け入れられたことも多いのでしょう。
「少年と大勢の人々の絆」から「母と息子の絆」へと転換される描写は素晴らしかったです。
~個人的に気に入ったシーン~
・オープニング
青空に舞う(ビルから落ちる)紙が、タイトルへと変わります。
音楽との相乗効果で印象に残るオープニングに仕上がっています。
・「第6区」
ニューヨークはブロンクス、ブルックリン、マンハッタン、クイーンズ、スタテンアイランドと、5つの行政区にわかれています。
でも「6つ目の区」があるとオスカーに言う父親。
オスカーは「パパが言うには僕のものの見方は特別で、それが僕の才能だって」とも言っていました。
彼はこの調べ物を通して、オスカーに「地図を読む」という経験を積ませ、その能力を伸ばしたかったのだと思います。
・「太陽が燃え尽きたあとの8分間」
オスカーは父の死を「太陽が消滅しても、(光が届くまでの時間があるので)約8分間は太陽がいつも通り存在するように見える」と例えていました。
彼はその8分間を探しに行くのです。
・「矛盾語合戦」
「オリジナルコピー」「リキッドガス」などと言いつつテコンドーに興じる親子は実に楽しそう。
「しゃべらない間借り人」も「矛盾語」でオスカーと勝負していました。
このときに「この人はオスカーのおじいちゃんではないか」と思わせ、ドイツでのエピソードと、「肩をすくめる」動作で確信をさせるのです。
とても上手い描写でした。
最後には自分の父親を「宝石店店主兼、矛盾語評論家」という肩書きで書いているのもうれしかったです。
・オスカーの能力
オスカーは何気ない数字を記憶し、調査用の道具も自前で作り、「どれだけの時間がたったか」と聞かれると1分1秒にいたるまでの詳細な時間を告げるほどの能力を持っていました。
アスペルガー症候群はことばだけでなく、数字などに人並みならぬ興味と能力を持つことが多いのです。
またテロ後に交通機関を怖がったり、地下鉄に行くまでにガスマスクをつけるのは、アスペルガーだけでなくPTSDも関連していたのだと思います。
彼はスティーヴン・ホーキングの本もバッグに詰めていました。
彼のそれに関する「興味」も見てみたかった気もします。
・バスの中でおじいちゃんにジュースをあげるシーン
ストローをさして、いびきをかいているおじいちゃんにジュースをあげるオスカー。
でもそれを自分が飲もうとするとストローを引き抜いて飲んでいます。
はじめておじいちゃんと出会うとき、オスカーは「臭い」と感じて鼻をつまんでいました。
そして、「この人のことは好きだけど、やっぱり口をつけるのは汚いな」と思ってこそのあの行動なのです。
自分はオスカーの性格を端的に表していてとても気に入りました。
・おじいちゃんがおばあちゃんに再会すると、おばあちゃんは無言で荷物を置いて持たせる
おじいちゃんがしゃべれないからでこそのこの距離感。
かかあ天下の関係が見えて面白かった。
・ハグしまくる「ヘクターさん」
ユーモアのあるシーンが少なかった映画ですが、ここは思い切り笑わせてもらいました。
ぜんぜんお母さんしゃべらせてもらってないやん。
17回もハグされたオスカーの苦悩も想像に難くないです。
・本のしかけで、「ビルから落ちていく父」が戻っていく
オスカーはおじいちゃんに「ネットで見つけた父のものかもしれない写真」を見せたことも恥じていたのかもしれません。
「こうでありたかった」という彼の願望でもあります。
~タイトルの意味って?~
奇妙なタイトルですが、これは「Extremely Loud and Incredibly Close」という原題そのまま。
オスカーがつくった本のタイトルにもなっています。
普通に考えれば「少年オスカーの、家族(母親)に向けてのことば」なのですが、映画を見終わったときは、いまいち「うるさくて」がピンと来ませんでした。
なぜなら彼の父親も、母親もオスカーをうるさく怒るような性格ではないですし、おじいちゃんに至っては全くしゃべることはないからです。
前述の通り、彼はアスペルガー症候群の傾向がありました。
彼は感受性に乏しく、必要以上に他人のことばを「ものすごくうるさい」と感じていたのかもしれません。
でもそれだけではないのでは、とも思えました。
何故なら彼は人の痛みを感じると「キスしてもいい?」「ハグしてもいい?」と悲しんでいるときには、ことばで言わずに行動で示そうとしていました。
勝手で独善的な行動が目立つオスカーでしたが、人を思いやる心も持っていました。
オスカーはアスペルガーを持ってはいるけれど、人の心に耳を傾けてる努力をしてきたのです。
そう考えると、この「うるさい」は、真に「うっとおしい」「嫌だ」を示すことばではないのです。
うるさいけど、それゆえに近くて愛おしい、という逆説的な意味が込められているのでしょう。
少年オスカーは調査の旅の中でいろいろな人を見ていきました。
オスカーは自分の父親が死んだことにより苦悩を抱えていました。
そして9・11で家族を失わなかった人も、「なにかを喪失していた」のです。
なかには少年と母親を拒絶した人もいましたが、多くはその行動を受け入れ、時には涙を流し、「奇跡」を説いたり、何度もハグをしていました。
皆、どこかで悲しみを抱えている。
でもその悲しみや気持ちを共有して、喜びを与えてくれる人はきっと多い。
だからでこそ、人はうるさくする、だからでこそ、とても近い。
そういったメッセージを感じるのです。
~ラスト~
最後にオスカーはブランコから飛んだのでしょうか。
父は「飛ばなくてもいい」と言い、おじいちゃんは「恐怖に立ち向かう必要もある」とオスカーに説いていました。
それも、この映画では「どちらでもいい」のだと思います。
どちらの選択をしても、オスカーの幸あらんこと、「ありえないほど近い」ことを祈ります。
自分も親を若くなくしていたのでこの映画は本当に涙を流してしまいました。
個人的にはラストでみんなに手紙を描いたときに、両親を拒絶して追い返していた女性が
顔をくしゃくしゃにしながら手紙を破っていたシーンが印象的でした。
映画を見たのは久々でしたが、とても良かったです。
> 今日この映画をみてきました。
> 自分も親を若くなくしていたのでこの映画は本当に涙を流してしまいました。
喪失を書くのが上手い映画でした。同じことを体験した方へのメッセージでもあると思います。
> 個人的にはラストでみんなに手紙を描いたときに、両親を拒絶して追い返していた女性が
> 顔をくしゃくしゃにしながら手紙を破っていたシーンが印象的でした。
そうやって受け入れられない人もいるけど、それはとても悲しいこと・・・と訴えているように思えます。
アスペルガーの説明がないので、タイトルに違和感を覚える人もいるかな?と思って書きました。
いろいろな解釈の仕方があるのだと思います。
東北の悲劇と重なり、涙が止まりませんでした。
途中で、アメリカの子供にありがちな自己中心的な行為があり、ちょっと、引いてしましましたが、後で謎が解けて、ホッとしました。
少年の緊張を解く道具としてのタンバリンも良かったですね。
バックに、音楽があまり流れず、セリフだけで持っていたシーンが多かったようなので、緊張が続いたように思います。
チョット、突っ込み。
花瓶に入れた宛名、親から子供へなら、普通、苗字を書かないですよね。
そんなのは、重箱の角。
良い映画でした。
> 東北の悲劇と重なり、涙が止まりませんでした。
この物語は災害で大切な人を亡くした人へのメッセージがありますものね。
> 途中で、アメリカの子供にありがちな自己中心的な行為があり、ちょっと、引いてしましましたが、後で謎が解けて、ホッとしました。
> 少年の緊張を解く道具としてのタンバリンも良かったですね。
タンバリンもPTSDと、彼のアスペルガー障害のために鳴らしていたのでしょうね。
> バックに、音楽があまり流れず、セリフだけで持っていたシーンが多かったようなので、緊張が続いたように思います。
そういえば音楽が控えめでした。少年の内面を描くことに貢献しているかもしれません。
> チョット、突っ込み。
> 花瓶に入れた宛名、親から子供へなら、普通、苗字を書かないですよね。
もしくは父には「息子に探してもらう」という意思はなかったのかもしれません。
父はただ大切なものを記録しておきたかった、のかも。
> そんなのは、重箱の角。
> 良い映画でした。
けっこう賛否がある作品ですが、もっと評価されても良い作品だと感じました。