故・森田芳光監督作品を観よう「家族ゲーム」ネタバレなし感想+気になったシーン
森田監督といえば大ブームとなった「失楽園」や大駄作「模倣犯」などが有名ですが、若い方はその作品群をほとんど知らないのではないかと思います。
そんなわけで、本日は森田監督による映画「家族ゲーム」(製作:1983年)を紹介します。
![]() | 松田優作: 伊丹十三: 由紀さおり: 宮川一朗太: 辻田順一 3243円 評価平均: ![]() powered by yasuikamo |
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個人的お気に入り度:6/10
一言感想:きもちわるい(褒め言葉)
あらすじ
受験を控えた中学3年沼田茂之のもとに、吉本勝(松田優作)という男が家庭教師としてやってくる。
吉本は三流大学の7年生で、常に植物図鑑を持ち歩く奇妙な男。
父親(伊丹十三)は、息子の成績があがれば別に報酬も付けると吉本に告げる。
松田優作主演作にして、森田監督の中でも特に人気の高い作品です。
はっきり言ってめちゃくちゃ変な映画でした。
~ここが変だよ家族ゲーム~
①ストーリーはないに等しい(高校受験というイベントがあるくらい)
②BGMが一切ない
③松田優作演じる家庭教師ばかりか、家族もおかしい(言動とかが)
などと、普通の映画とは一線を画した内容。
ちなみにジャンルはコメディらしいんだけど、シュールすぎて全然笑えなかった。
いやラストの松田優作の行動は笑えるんだけどさ。
映画で描かれているのは、家族の妙な言動と、それに割り込むように入ってくる風変わりな家庭教師との関係。
それに中学生ならでは鬱積した日常生活が顔を見せます。
彼らの取り巻く環境や言動が、どこか変で、奇妙で面白い。
はっきり言ってきもちわるいです。
でもこの嫌~な粘っこいような雰囲気がこの映画の特徴であり、魅力なのです。
しかし作中に交わせることばのやりとりを楽しめない人には、良さがさっぱりわからないと思う。
間違いなく好き嫌いの分かれる作品でしょう。
あっと驚く展開を求める人には向きませんが、「歩いても歩いても」のような、日常描写にある人間関係を楽しめる人にとっては是非おすすめしたい映画です。
この映画は、森田監督の「奇妙な人間描写だけでどこまで面白くできるか」という実験要素もあると思います。
今作はその実験が淡々とした自分の持ち味に合い、「模倣犯」では盛大にスベッたのでしょう。
「監督らしさ」を存分に味わいたい方は是非。
以下、作中のシーンを少しだけネタバレで紹介↓ラスト部分は反転しています
↑のDVDのパッケージにもなっている、有名な「横一列の食事」も奇妙ですが、それ以外にも変なシーンが目白押しです。
例えば、松田優作演じる家庭教師は船でやってきます。
何故かは一切語られません。
しかも家庭教師はこの後「沼田くん家(ち)はどこですか?」と一般人に聞きます。不審者すぎる。
さらに沼田家の次男に教えるときは、「かわいいね」などと言いながら唐突にキス。
沼田君は当然「気持ち悪いですよ」と言いますが、家庭教師は「俺だって気持ち悪いよ」と返します。
じゃあなんでキスするんだよとつっこみたい。
ちなみにこれは「笑う犬の冒険」という番組内で、内村光良ことミル姉さんがお気に入りのシーンとして再現をしていました。
ちなみに沼田君は成績が悪いのですが、それは屈折した考えのせい。
頭は悪くなく、ジェットコースターの設計を1日で暗記したこともあります。
そんな彼がハマっているのは・・・
数年前に復刻もされたスペースワープです。
この映画にはこの他にも、高度経済成長期である80年代を感じさせる画がたくさん登場します。
沼田君はとにかく屈折しているので・・・
家庭教師に「わからない単語を書け」と言われると、「夕暮れ」という字だけをひたすら書いて「夕暮れを完全に把握しました」と言います。
このやさぐれ感は現代の中二病にも通じますね。ていうか怖えーよ。
現代だったら確実にできない描写がこれ。
担任教師がテストの点を悪い順番に発表し、あまつさえ生徒の答案を窓の外から投げるのです。
いまやったら懲戒免職だろ・・・
でも本当面白い。何気ないシーンにも、ほかの映画にはない独特の味があります。
母親の「何もできていなさ」や、父親の放任っぷりなど、「居心地が悪いのに、なんとなく一緒にいる」家族の関係が描けていると思うのです。
作中でその解決やら希望やらが描かれるわけでもなく、ただ淡々としている。
それがかえってリアルに感じます。
ラストシーンも意味深ですよね。
「退屈な昼下がりに、母親は兄弟二人が寝ているのを確認する。なぜか、けたたましくヘリコプターの音が響いていて、母親もその音を聞きながら寝てしまう」という・・・
家族は、家庭教師のおかげで変わったのかもしれません。
このラストで、一番初めの沼田くんの台詞「家中が、ぴりぴり鳴っていて、すごくうるさいんだ」を思い出しました。
(追記)ドラマ化するとは思わなかった