夢は終わらない 実写映画版「宇宙兄弟」ネタバレなし感想+ネタバレレビュー
個人的お気に入り度:6/10
一言感想:観た後は原作漫画をお薦めしたくなってしまう・・・
あらすじ
兄・ムッタ(小栗旬)と弟・ヒビト(岡田将生)は幼い日に宇宙飛行士になることを誓い合った。
時を経て、ヒビトは宇宙飛行士として月面に行くことを決めるが、反面ムッタは長年勤めた会社をクビになってしまう。
再就職もうまく行かず、意気消沈していたムッタの元に、JAXAからの「書類審査通過」の通知が届く。
ムッタの夢が、いま始まるー
「ひゃくはち」の森義隆監督の新作にして、人気コミック「宇宙兄弟」の実写映画版です。
![]() | 小山 宙哉 580円 評価平均: ![]() powered by yasuikamo |
![]() ![]() ![]() |
漫画の魅力は、細やかな人物描写と、「兄弟」と「夢」をシンクロさせたロマンに満ちたストーリー。
小学館漫画賞を受賞し、アニメになるほどの支持を集めている作品です。
青年誌掲載の作品ですが、子どもにも安心して薦められます。
そして今回の実写版も「子どもに見せたい!」と思える作品になっています。
宇宙飛行士は限られた人間にしかなれません。
夢を成し遂げるにはたゆまない意思が必要です。
しかし、夢は人を動かす力を生み、自分の世界を切り開くことにも成りえます。
「夢のない時代になった」と言われる昨今で、これだけ「夢を持つ」ことの素晴らしさをアピールしている作品はなかなかありません。
大人も、今の子どもに大きな夢を持って欲しいと思っている方はきっと多いでしょう。
子どもの日(5月5日)に公開したことも、そうした大人から子どもへのメッセージのように受け取れます。
加えて大人向けへの描写も盛りだくさんです。
兄・ムッタは弟が宇宙飛行士であり、それに対する劣等感を持っています(しかも無職になってしまう)。
つまり北斗の拳のジャギ様状態です(違うけど)。
加えて、ムッタは自分がドーハの悲劇の日に生まれ、ヒビト(弟)は野茂英雄が初のノーヒットノーランを記録した日に生まれている、ということで「生まれてきた時から優劣がついている」と感じているウジウジしている男です。
でもこの描写が憎めない。
人間くさい悩みを抱えたムッタにめいいっぱい感情移入してしまうのです。
これを演じてきた役者たちも素晴らしいです。
小栗旬は天然パーマという見た目だけでなく、内面も喋り方も原作のムッタそのもの。
岡田将生もちょっとだけ軽薄なヒビトを好演していました。
脇役も目立っていて、個人的なMVPは濱田岳さん。
ヘタレな役が多い(褒めています)彼でしたが、今回は短気な関西人の役。
演技の幅の広さに感服しました。
「映画ならでは」のこととして、ちょっとしたシーンで登場人物のひととなりがわかる、繊細な描写があります。
これは多くのドキュメンタリー番組を作ってきた、監督の持ち味でもあるのでしょう。
コールドプレイが参加した音楽もよかった!
![]() | コールドプレイ 1900円 評価平均: ![]() powered by yasuikamo |
![]() ![]() ![]() |
主題歌の「ウォーターフォール~一粒の涙は滝のごとく(←YouTube)」は、このCDに収録されています。
また、オープニングで流れたのはプライマル・スクリームの「Rocks(←YouTube)」で、ベスト盤に収録されています。
服部隆之が手がけたサウンドトラックも発売されていますが、これらの音楽は収録されていないようですね。
高揚感溢れる音楽にのせて展開するオープニング、エンディングだけでも、映画館で観るべきです。
さて、ここからは不満点。
特に気になったのは以下の2点です
①原作からのエピソードとキャラクターの省略
②エンディングに至るまでの展開
①については、2時間という映画の時間の制約上、仕方の無いことでもあります。
なにせ原作で言えば9巻くらいまでのストーリーを、駆け足で進めていくのですから。
原作を読んでいない方にはほぼ問題のない事項でもあるでしょう。
ただ、原作での重要な位置のキャラクター、エピソードを思えば、「なんとしてでも入れて欲しかった」ことがたくさんあります。
この省略により、兄弟が夢を持つまでの説得力と、兄弟に向けられた多くの人の感情が見えにくくなってしまっています。
②は多くの方が不満に思われると思います。
正直、観たときは「これでいいのか」と呆気にとられました。
しかし、自分はこれも肯定的に受け止めたいです。
この展開の前、ヒビトが何を観て、どう行動したか。
ムッタは、弟に対してどういった夢を持っていたかー
それを思えば、これでよかった、とも思えたのです。
原作好きとしては、漫画の魅力を100%生かしているかと言えば『否』です。
もし映画しか観たことがないのであれば、原作漫画を読むorアニメを観て、「宇宙兄弟」のさらなる魅力を知ってほしいと願います。
ちなみにこの映画には実在の宇宙飛行士が2人、本人役で登場します。
観る前に誰なのか確認して観るもよし、知らずに観て驚くのもよいでしょう。
幼いころに宇宙飛行士だけでなく、何かを夢見た人、これから夢を持って何かを成したげたい人に是非オススメします。
以下、ネタバレです 結末に触れているので鑑賞後にお読みください↓
~本物の宇宙飛行士~
・野口聡一さん
幼いムッタとヒビトと一緒に写真に写るという役でした。
<こちらにインタビューもある>ので是非ご覧になって下さい。
ちなみに原作では毛利衛さんがこの役でした。
・バズ・オルドリンさん
彼はニール・アームストロングとともに月面に降り立った人物です。
ムッタと一緒にロケットの打ち上げを見守るという役でした。
秀逸なのが、初めに月面歩行をしたのはアームストロングさんであり、彼は「2番目」であること。
ムッタの、(日本人初の)「月面歩行を他人に譲った」ということにおいて、同じなのです。
原作ではデニール・ヤングという架空の人物でした。
この配役をしたことは、英断だったと思います。
~映画には登場しなかったキャラクターたち~
省略されたキャラクターの中で、特に影響力の大きかったのは以下の3名でしょう。
「金子・シャロン」・・・幼い頃からムッタとヒビトが交流していた天文学者
「吾妻 滝生」・・・初めて月の周回軌道を回った日本人であり、ヒビトが尊敬している宇宙飛行士
「ブライアン」・・・墜落事故で死亡した宇宙飛行士。エディという兄がいる。
個人的に、「ブライアン」は映画にいて欲しかったと思います。
原作では、このエピソードがあってこそ、ヒビトの救出劇がより感動的なものになっていました。
また、映画では前方不注意で事故にあっていましたが、原作ではそれは回避できています。
初歩的なミスに見えてしまうのはがっかりしました。
これらのキャラクターとの交流があってこそ、ムッタとヒビトの内面がよくわかります。
映画では、2人の宇宙への想い、また他の人間にはどう思われていたが見えにくくなっているのは残念でした。
ムッタの「天才肌」的な能力の高さが描けてないようにも見えます。
彼は「面接室の椅子のネジを閉めた」だけでなく、原作では「2つのことを同時に行う」こともできる人間なのです。
代わりに肉付けされたのは「JAXAでビデオの解説をしていたお姉さん」でした。
彼女が「兄弟で宇宙に行くという夢」を聞き、『1票』が追加されるシーンが大好きです。
~原作にないシーン~
・ムッタが弟・ヒビトのイスに座り「その気分」を味わうような動作をする
・ヒビトはいじわるで炭酸飲料を振ってムッタに渡そうとするけど、「細かいことをめんどくさがるせい」で間違えて自分であけてしまう
・ムッタは「UFOを見たことを同級生に嘘だと思われた」が、ヒビトには「俺とお前の中にあればいい」と言い、自らの胸を叩き、それをヒビトにもさせる
・ムッタは、閉鎖空間での試験の最終日に「宇宙の話」をする。
これらは映画オリジナルの描写です。
上手いのは最後の「宇宙の話」。
似たことは原作でも話されていますが、映画では状況が全く異なります。
試験の最終日、ムッタはヒビトが月面で事故に合い、生命の危険があることを知らされるのです。
そのようなときでも、チームの団結のため「宇宙の魅力」を語り、語らせるのは、間違いなく彼の強さでしょう。
でもムッタの(想像上の)肖像が、シャンプーが泡立っている入浴スタイルに変わるというギャグはスベっていたよね。
ヒビトとムッタの母親が「ハッピーバースデーわったし~」とか歌うシーンは絶対いらなかったと思います。
~模型を壊したのは誰?~
ムッタは「グリーンカード」に命じられるがまま、相手チームの模型を壊します。
しかし、あとでムッタのチームの模型も壊されてしまいます。
多くの方が気になるのは、この犯人が作中で明らかにされていないこと。
しかし真壁ケンジ(井上芳雄)が「犯人を見つけたら握手をしよう」と言っていました。
ムッタがする話を、グリーンカードのことだと思い、「やめろ!」とも言っていました。
ケンジこそが「犯人」であり、ムッタと同じくグリーンカードを受け取った人物なのでしょう。
原作では、このことばを言ったのは別のキャラクターです。
その意味、そして実際の「握手」はしっかりと描写されています。
ラストの流れるような展開のためなのでしょうが、台詞を出すだけ出しておいてフェードアウトするのは明らかに不親切です。
ちなみに漫画ではグリーンカードは2人だけに配られたものではなく、その内容も「ものを壊す」だけではありません。
より人物描写も細かくなっていますし、ムッタへの指令内容や、合格者の決まり方も全く異なっています。
是非漫画を読んでいただきたいです。
~ムッタの意思~
映画は漫画とは違い、「ムッタの閉鎖空間での試験」「ヒビトの月面での事故」を同時並行して描きます。
ムッタは「試験を続けるか」「弟のために抜けるか」の選択を迫られ、試験を最後まで続けることを選びます。
その理由を「今出ても、できることは何もありません。僕は宇宙にいないのだから」と言うのです。
これは、バズ・オルドリンさんが作中で語った「ロケットの動力は人間の魂だ」「実際に乗り込むものだけじゃなく、管制塔や、関わる人間の魂も載せている」ということばと相反しています。
地球に残された人間(ムッタ)が何もできない、と語ることがとても悲しく思えました。
しかしこのことも最後に覆されます。
最後の面接において、2人の面接官はムッタ(と他の受験者)に「君は宇宙飛行士として死ぬ覚悟がありますか」と質問をします。
ムッタは一度は「はい」と言いますが、すぐに「嘘をつきました」と謝り、こう続けます。
「最後まで望みを捨てず、ぎりぎりまで生きる手段を探したい」と。
その後ムッタはたまらず走り出し、月に向かって「死ぬなー!」と叫びます。
そのムッタの姿と、死を享受することを良しとはしないことばは、月面で希望を捨てないヒビトの姿とオーバーラップします。
兄の意志が、遠い月面の弟へとつながったように思えました。
~約束~
最後の面接で、ムッタは「なさけない兄ですが、最後までやりとげることが、私の意思です」「弟の約束を果たしたい」と付け加えます。
面接官の2人は、それを聞いて「約束の内容を知っている」と言い、微笑みます。
5年前に面接をしたヒビトが、話していたのです。
ヒビトは、自身の住まいで「今ここにいるのは、ムッチャンのおかげだよ」とも言っていました。
自身の遺書には、ムッタが宇宙に来ることを長い間待ち望んでいることが書かれていました。
ムッタは自分を卑下してばかりでしたが、ヒビトは兄との約束をとても大切に思っていました。
ムッタとの約束こそが、ヒビトの夢の原動力でもあったのです。
~宇宙兄弟~
ダイジェストのように、ヒビトとムッタが「宇宙兄弟」になるまでが語られるので、唐突に感じた方が多いと思います。
試験の結果発表の瞬間や、ヒビトがどのように助かったかも描かれずじまいです。
しかし、個人的にはこの描写も好きです。
何故なら、ヒビトとムッタがやったことが、人類初の月面歩行や、スペースシャトルの打ち上げなどと同系列の、宇宙の歴史として描かれていたからです。
だからでこそ、ガガーリンの見たような「青い地球」に圧倒され(本来はあれほど大きくは見えません)、兄弟の誓いである「胸に手を当てる」シーンで切り上げたのだと思います。
オープニングで見せた「宇宙史」の続きが、ここにあります。
兄弟のやってきたことが、いま、歴史の1ページへとなったー
そういった描写なのでしょう。
~ラスト~
最後は、月面に「日本の旗」を立てる2人。
幼い頃に見たUFOとも再会します。
一見夢を果たしたかのように見えますが、ムッタの夢は「その先の火星に行ってやる!」です。
ムッタの、そして兄弟の夢は、まだ終わらないのです。
感想拝読させていただきました。
まず結構自分と近い感想だったので、少しうれしかったです。
時間の都合上、仕方がないことですが、やはり
ヒビト救出のシーンはブライアンの演出が欲しかったですよね。
(ハッピーバースデーわったし~とかを省いてw)
あと月に日本の旗を立ててしまうシーンは国際問題のにおいがw
また今週のアニメでもやってましたがムッタと沢木のどちらかが
選ばれるシーン、映画の演出だと単に星加さんの思い入れで
依怙贔屓されてるようにしか見えなかったのでそこも
気になりました。
とはいえ実在の宇宙飛行士をキャスティングしたりとか
原作ファンにもうれしい演出があってそこそこ楽しめました。
自分も点をつけるなら60点だと思います。
最後に、映画を見て気づいたのですが、たとえ主人公とはいえ、
各国からクルーが選ばれるということを考えると、ラストのシーンの
ように同じミッションに兄弟そろってともに参加できるというのは難しい
(どちらかがバックアップに回される可能性が高い)気がします。
そこらへん、原作で出てきたら面白いかなと思ったりもしました。
長文失礼しました。
> 時間の都合上、仕方がないことですが、やはり
> ヒビト救出のシーンはブライアンの演出が欲しかったですよね。
> (ハッピーバースデーわったし~とかを省いてw)
> あと月に日本の旗を立ててしまうシーンは国際問題のにおいがw
日本の旗は無理やり感も確かに・・・観たときは気にならなかったのですけどね。
個人的には、ブライアンの死ぬ間際に言った「あのドラマあれ以降超つまらなかったぜ」が聞きたかったです。
> また今週のアニメでもやってましたがムッタと沢木のどちらかが
> 選ばれるシーン、映画の演出だと単に星加さんの思い入れで
> 依怙贔屓されてるようにしか見えなかったのでそこも
> 気になりました。
アニメを見ていないのでなんともいえないのですが、時間に余裕のあるアニメでは丁寧に描いてほしいですね。
> とはいえ実在の宇宙飛行士をキャスティングしたりとか
> 原作ファンにもうれしい演出があってそこそこ楽しめました。
> 自分も点をつけるなら60点だと思います。
バズ・オルドリンさんをムッタのキャラクターとシンクロさせているあたり上手いと思います。
> 最後に、映画を見て気づいたのですが、たとえ主人公とはいえ、
> 各国からクルーが選ばれるということを考えると、ラストのシーンの
> ように同じミッションに兄弟そろってともに参加できるというのは難しい
> (どちらかがバックアップに回される可能性が高い)気がします。
> そこらへん、原作で出てきたら面白いかなと思ったりもしました。
「宇宙兄弟になった」というラストですが、確かにその通りかも。
原作でそうなったら嬉しいですね。
> 長文失礼しました。
また観に来てください^^)