それでも終われない!「サイタマノラッパー3」ネタバレなし感想+ネタバレレビュー
個人的お気に入り度:9/10
一言感想:泣いて、泣いて、泣きすぎて、心が震えた!
あらすじ
埼玉のラップグループ「SHO-GUNG」を脱退したマイティ(奥野瑛太)は、東京で人気グループ「極悪鳥」の下働きとして耐える日々を送っていた。
ある日マイティと極悪鳥のメンバーは、MCバトルで優勝したらステージに立たせてもらうことを約束する。
マイティは破竹の勢いで勝ち続けるものも、八百長を命じられ、暴行事件を起こしてしまう。
その10ヵ月後。
SHO-GUNGのメンバーのイック(駒木根隆介)とトム(水澤紳吾)は野外ライブのオーディションのため、栃木に訪れるのだが・・・
オススメです!
上映時期は地域によりバラバラですが、近くで上映していたらぜひご覧ください!
Yahoo!映画での超・超高評価も納得の、すんばらしい映画でした。
この「SR サイタマノラッパー」シリーズは、
低予算のインディーズ作品であり、
ヒップホップを描いた音楽映画であり、
何かになれない大人を描いた青春映画であり、
とことんダメな人間を追い続けた「負け犬応援ムービー」でもあります。
1作目と2作目はほとんど同じプロットで作られていましたが、今回はちょっと違います。
サブタイトルにあるように、今回の主人公は「逃亡者」になってしまうのです。
いままでの主人公も「未来が全く見えないダメな人たち」だったのですが、今回はそれ以上に思えます。
なにせ激情に身を任せ、暴力をふるってしまうのですから。
その主人公像は、感情移入を阻み、観る人を選んでしまうかもしれません。
また、本気で憎たらしく思える登場人物も多く、泥沼にはまっていく主人公を見るのは何ともツラいものがあります。
シリーズを通して、それは共通。
しかもこの3作目では暴力的なシーンも盛りだくさん。
万人向けとは言い難い作品なのです。
しかし、感情移入できない方でも、そのキャラクターの存在感には圧倒されるはずです。
まず、主人公マイティがMCバトルで勝ち進んだときのラップの上手さがすさまじいです。
「下働きに耐えてきて、ラップに打ち込んだ2年間」がこれだけで見えます。
この時点で自分は涙腺がゆるみっぱなのです。
そしてストーリーは激動と言うに相応しい出来です。
マイティは一寸先はどうなるかわからない、危険な道を愚直に突き進んでいきます。
不満が鬱積していた主人公にどう救済がもたらされるのかー
このシリーズでは安易なハッピーエンドも、バッドエンドも用意されていません。
ラストに至るまでの展開を思えば、とことん主人公を窮地に追い込み、いじめ抜く描写にもちゃんと意味があります。
ここまで「生き様」に魅せられた映画はほとんどありませんでした。
また、この映画のパートは大きく2つに分かれています。
①逃亡者:マイティ
②うさんくさいオーディションを受けるラッパー:イックとトム
これに関して、映画瓦版の服部さんが「うまく噛み合っていない」と評していますが、自分はこれに異を唱えたいです。
この二者の要素があってこそ、際立つものがとても、とてもたくさんあったからです。
①のマイティのパートは自身が逃亡者となる上、周りは犯罪に手を染める最低な人間ばかりです。
今までの作風からすればあまりにもハードです。
だからでこそ、②の今までのような、どこかホッと息をつけるパートが必要だったのでしょう。
この2つの視点はそれだけでは終わりません。
ラストへのカタルシスのためには必要不可でした。
そして撮影がこれまた素晴らしい!
これはネタバレになってしまうので↓に書きますが、このクライマックスに魅了されない人はいないでしょう。
これを撮るのにどれくらいの労力を要したのか、想像もつきません。
重ねて言いますが、この映画は劇場で観るべきです。
役者の演技、
演出、
ストーリー、
そして、音楽が融合した、最強クラスの感動作なのですから。
![]() | SHO-GUNG 2000円 評価平均: ![]() powered by yasuikamo |
ラップでこんなにも泣けるなんて思いもしなかった。
これまでのシリーズでは役者がラップをしていましたが、本作では本職のラッパーも参加し、それを披露します。
直球でことばをぶつける真剣勝負に、心が揺さぶられるのです。
1作目を観ておいたほうがわかりやすい部分もありますが、今作だけでも十分楽しめます。
今作で「3」という数字がさほどアピールされていないのも、製作者のそういった思いがあるのだと思います。
「1、2を観ていなからちょっと・・・」「ヒップホップなんて興味がない」で敬遠するのはあまりに惜しい作品です。
この映画がもっと知られてほしい。
そして、青春映画を愛する全ての人に観てほしい。
そう願います。
以下、ネタバレです 展開と結末に触れまくっているので、映画を未見の方は絶対に読まないでください↓
まずは言うのも野暮な不満点から。その後は展開について書いています。
~不満点~
・何故、野外フェスで極悪鳥のメンバーはマイティに追いつけなかったのか?
多くの方が不満に感じられているのはこれでしょう。
マイティは人にぶつかりつつ逃げているのに、ちっとも極悪鳥のメンバーは追いつきません。
マイティを慕っていた(とは言えないかもしれないけど)不良の子どもたちから金を奪っていたので、彼に味方をする人間はいくら考えてもいないように思えます。
「警察が極悪鳥を一度取り押さえた」とも思えましたが、警報が鳴ったのはだいぶ後であるし、そうであれば最後にマイティをボコボコにしたりはしないでしょう。
これはマイティをずっと映すというシーンなので仕方がない部分もありますが、想像で補完できる要素がないのは物足りなく思えます。
・等々力のお金をくすねた犯人は?
マイティは濡れ衣を着されられてしまいます。
しかし真犯人は不明のままで、どうにもスッキリしません。
・嫌な奴だらけ
他にもマイティの周りには吐き気のするような最低人間ばかりなのが、精神的に辛かったです。
子どもたちは平気で車を窃盗しているし、等々力はそれを買って平然としています。
さらには売春の斡旋ばかりか、人身売買をしている奴までいるのです。
極悪鳥のリーダー格を演じた北村昭博(ムカデ人間に出ていた方)もキツくて、その嫌悪感は半端なかったです(褒めています)
極悪鳥は出演料をもらっているのに、他は5万円も払わせるのもかっぺムカつく!
その描写自体は素晴らしいのだけど、こいつらがとっちめられないのはどうにもイラっとしてしまう!
個人的にこの「悪役が粛清されないこと」は、シリーズを通した不満点だったりします。
映画はそこに焦点をあてていないですし、この悪役を強者として描くことで主人公の置かれた境遇が際立って見えるので、必要なことではあるとは思うのですけどね。
~奪われる側から、奪う側になるマイティ~
マイティは極悪鳥の下働きをしているとき、チケットを売りさばくことを命じられていました。
パシリのように扱われ、八百長をさせられた上に切り捨てられるマイティ・・・
彼にとってどれほどの屈辱だったでしょうか。
栃木に移り住んだマイティは、ステージに立とうと願うのではなく、ステージを作る側に回ります。
オーディション会場のトイレでは、「ステージを仕切れるほうが偉いんだよ!」と言い放ちます。
さらに悪ガキたちにチケットを売り払え!と言いながら暴力をふるいます。
極悪鳥とやっていることは同じです。
「俺、もう一度音楽やっていいのかなあ」と、彼女の一美(斉藤めぐみ)に半ば楽しげに言っていたマイティですが、その後はちっとも幸せそうには見えません。
自分がやられた苦しいことを、また他人にもしてしまうという悲しさ・・・
それは本来彼がやりたかったこととは違うのでしょう。
~イックとトムの姿~
一方、イックとトムはそんなことは考えていません。
やりたいことは「ラップで成功する」。それはラップを愛しているから。
このイックとトムのパートは、打算も何もない、「ただやりたいことをやる」夢を持つものたちの姿です。
がんじがらめのマイティと違い、どこか自由に思えます。
~征夷大将軍~
さらにイックとトムは、オーディション会場で一緒にラップを披露した「征夷大将軍」と再会します。
それは同じ夢を持ち、ラップを愛する「似た人間」。
マイティの周りのクズ過ぎる人間たちとは違います。
彼らが仲間を手にしたことと、マイティの境遇は、これもまた相反しているのです。
しかし「SHO-GUNG」と「征夷大将軍」のコラボシーンはすごく面白かった!
途中からもろに「美学がねえ、自覚がねえ」などと審査員を挑発する感じになっちゃうし、一緒に受けていた女性グループも一緒に入っちゃうし、何より今まで腕組みをしていたイックがラップをし始めたときの高揚感は最高です!
彼らは日光東照宮をリスペクト・・・もといレペゼンしているため、三猿と眠り猫をグループのコンセプトとしています。
しかし審査員の「『言わざる』って言うならしゃべんなよ!」というツッコミは同意しまくりだ(笑)
征夷大将軍のメンバーは本職のラッパーの方たちです。
MC NO SOUND:回鍋肉
MC NO SIGHT:smallest
MC NO VOICE:HI-KINGakaTAKASE
DJ 眠り猫:倉田大輔
その上手さは想像以上です。
「眠り猫」は餃子屋でいきなり喧嘩をふっかけるなど、嫌な奴すぎるのがややゲンナリしましたが、その後に「伝説のタケダ先輩」の話題で意気投合するのが見れてよかったです。
タケダ先輩は1作目と2作目にも(名前だけ)登場していましたね。
~イックと想像と、マイティの現実~
無理やり一美に売春をさせた紀代美(美保純)と店員の一人を殴り、再び逃亡者となったマイティの姿に、イックのことばが重なります。
「東京でライブするつって、死ぬ気ですごいことやっているんだろ」
でも実際のマイティは・・・この落差を見て、悲しくて、悲しくて仕方がありませんでした。
~くだらないラップ~
逃亡したマイティは、車の中で一美にこう言います。
「お前は故郷の福島へ行け、俺と一緒にいたらお前まで危ない」
「お前は何もしていないから大丈夫だ」
泣きじゃくる一美。
マイティはラップでこう言います。
「今夜はパーティ、俺は今夜パンティ脱がすぜ!」
初めて見せたラップは、あまりにくだらない内容でした。
それは、ただ、彼女を笑わせるためのラップです。
マイティは、今まで一度も彼女に対してラップを見せたことがありませんでした。
初めて見せたラップで、彼女を元気づけたマイティ。
バカみたいなラップをするマイティの姿を見て、涙が止まりませんでした。
~クライマックスの野外ライブ~
その長回しの時間は、ゆうに15分!
「トゥモロー・ワールド」「瞳の奥の秘密」でも長回しのシーンはありましたが、本作の衝撃はそれをはるかに上回っていました。
*ちなみにこの長回しの中で、くりぃむしちゅーの有田が友情出演しているそうです。自分は見つけられなかったけどね。
こっそりと会場の裏に回り、悪ガキたちから金を奪い、極悪鳥のメンバーにぶつかり、逃走、ぶつかりながら逃げ、故郷のブロッコリーをくすねて食べ、車に向かうと一美はいないがトウモロコシを買っていただけだった、そしてトラックで逃避行、しばらくしてからエンジンが止まってしまう・・・
そして、居場所がないのに、行くと身が破滅するとわかっているのに、「タケダ先輩のトラック(日光東照宮リミックス)」に引きよせられるマイティ。
再会。
イックとトムが見たマイティの姿は、想像とはかけ離れたものでした。
極悪鳥にボコボコに殴られたマイティに、2人はラップを浴びせます。
「まだ止まらねえ、夢まだ死んでねえ、俺らSHO-GUNG!聞こえてんぞ!まだ続いてんぞ!」
そして暗転・・・
ここまで鬼気迫る、ワンカットで撮った逃亡劇はいままでになかったでしょう。
逃亡者になろうとも、マイティはラップへの思いを忘れなかったのです。
~ラスト~
マイティの面会に訪れたイックとトム。
マイティは「お前らなんか知らねえ」と知らぬ顔をします。
イックはそれに激高し、ラップで返します。
「ここでも逃げるんだ!」
「ラップを続ける俺は勝者、お前は負け続ける敗者!」
「うるせい、You Say、謝罪しろ、ごめんなさい」
「ラップもしねえで、お前こそバカか?」
「SHO-GUNGとラップが、俺の仲間!」
罵り続けられるマイティは、ついに覚醒します。
「笑わせんな!塀の中でだって生まれ変わってやるぜ」
「俺はまだ、旅の途中!」
「俺はBrand New、くさいメシ、それも俺には余裕」
これにイックは「続けろマイティ」と応えます。
さんざんラップをし続け、彼らは面会室から連れ出されます。
マイティの最後の一言は「じゃあな、SHO-GUNG」でした。
この「じゃあな」は永遠の別れではなく、「See You(また戻ってくる)」のように思えます。
これは夢に対してくすぶり続ける男たちの物語です。
これで「関東三部作」は完結とのことですが、自分はまだまだ終わってほしくありません。
彼らに「成功」なんて似合わないかもしれない。
この狭い空間でラップを見せてこその、「サイタマノラッパー」なのかもしれない。
だけど、彼らがステージでラップを披露し、歓声を浴びるクライマックスを、切に願いたくなるのです。
このシリーズに「満点!」と言うのは、そのシーンのためにとっておこうと思います。
オススメ↓
ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル:ポッドキャスト(音声)