彼女がきらった変化 映画版「ヘルタースケルター」ネタバレなし感想+ネタバレレビュー
個人的お気に入り度:4/10
一言感想:あんまり見たいものじゃなかった・・・
あらすじ
トップモデルの「りりこ」(沢尻エリカ)は人々から羨望を集めていた。
ただし、その美ぼうは「全身整形」によってもたらされたものだった。
彼女は副作用により、額にあざができ、苦しむ。そしてマネージャーの羽田(寺島しのぶ)をも傷つけていく。
一方、検事の麻田(大森南朋)は、とある美容クリニックの違法な医療行為を調査していたのだが・・・
「さくらん」の蜷川実花最新作にして、岡崎京子による漫画「ヘルタースケルター」の実写映画版です。
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原作の魅力は、トップアイドル「りりこ」のキャラクターと、その生き様。
エキセントリックで、かつ「美」と「人々から忘れられない」ためにあらゆるものを犠牲にする主人公像は、忘れることができないものでした。
映画の方はというと・・・確かに言動も、エキセントリックさも原作の「りりこ」そのもの・・・なのですが、原作とは違いほとんど感情移入ができる余地がありません。
この映画の主人公ははたから見ていてサイテー極まりないです。
事あるごとにマネージャーをいびるし、R15+指定じゃ足りないようなあんなことやこんなことまでしまくりです。
それは原作でもほぼ同じなのですが、映画ではさらに彼女がそうするに至ったまでの背景が希薄に思えるのです。
原作では主人公が凄まじく美を欲し、「覚悟を決めた」ことが、たった2ページでわかる箇所があります。
でも映画にはそのシーンはなく、ひたすら主人公がわめいて、迷惑をかけて、あたりかまわずセックスをしているようにしか思えないのです。
この主人公を好きになれる人は、ほぼ皆無でしょう。
自分は原作の「りりこ」は好きですが、この映画の「りりこ」は心の底から大嫌いです。
彼女の行動と心理描写は、うわべだけの、うすっぺらいものに見えてしまいます。
せめて、もう少しだけでも、彼女の切ない人間性に触れる描写が見たかった・・・
この映画の、最も大きな欠点だと思います。
こうなったのは、他にも以下の理由が考えられます。
①映画という性質上、主人公の内面を「モノローグ」で描くことができなかった
②マネージャー「羽田」のキャラクターの変更
③沢尻エリカ
①の原作にあるモノローグは独白になったり、ほかキャラクターへの台詞に変換されています。
工夫されていると思いますが、主人公の内面を描くには不十分です。
②が原作からの最も大きな変更点です。原作では主人公と同世代のイケイケお姉さんだったマネージャーが、映画では冴えない中年の女性に変更されています。
見ている間は違和感しか覚えませんでしたが、このキャラ変更自体は良かったと思います。
中年女性であるがゆえに、美しさの象徴である主人公に執着する動機が生まれているからです。
しかし、それ以外にも彼女に関わる人物描写は、到底納得のいくものではありませんでした。
また、原作の舞台は1990年代中盤ですが、映画では現代に変更されています。
③は本作で最もバッシングを受けることですよね・・・
撮影中も態度はよくなかったらしく、蜷川監督に「2度と撮りたくない」と言わしめたほど。
観る前から彼女の起用に眉をひそめる方はごまんといると思いますし、主人公が好きになれない要因に一役買っています。
自分も彼女のことは大嫌いだし、作中の記者会見シーンでは「別に」と言いやしないかとハラハラしました。言わなかったけど。
しかし、鬼気迫る演技と、キャラへの没入感は半端ないすさまじさです。
その整いすぎている顔立ち、あの他人を寄せ付けないような雰囲気は、彼女にしか出せないと思います。
観終わってみると沢尻エリカ以外のキャスティングが思いつきません。
一本の映画作品としては、軽々しくオススメできるものではありません。
原作がもともとそうなのですが、
登場人物が性格的に最悪な奴ばかり、
セックスの描写ばかりが強調されていて、
展開も起承転結に乏しいのでスッキリしませんし、リアリティなぞは追求していません。
鑑賞後はイヤ~な気持ちになることは必死です(それは作品の魅力でもあります)。
色彩が強めな美術、クラシックが多用された音楽も魅力のひとつですが、気に入らない人はとことん気に入らないでしょう。
とにかく好き嫌いの分かれる映画であることは間違いありません。
観る人にとっては「ただの変な映画」で終わってしまう可能性は大です。
しかし役者の演技は本当に素晴らしかったです。
臭い台詞ばかりを吐く大森南朋、リアルな中年役を演じた寺島しのぶ、存在感抜群の桃井かおり、出演シーンが出オチ(笑)な哀川翔、そしてヌードまで披露する沢尻エリカ・・・それだけでも、観る価値はあります。
ちなみにタイトルの「helter-skelter」とは狼狽、混沌、しっちゃかめっちゃかという意味。
ビートルズの楽曲名になっていますね→<Helter Skelter #TheBeatles - YouTube>
蜷川実花監督ファン、沢尻エリカファンにはオススメします。
一筋縄ではいかない原作を、こうしてきらびやかに映像化しただけでも賞賛すべきことです。
映画でも漫画でも、「ヘルタースケルター」が気に入ったのであれば、漫画家・岡崎京子の最高傑作だと評せられる「リバーズ・エッジ」も是非読んでいただきたいです(内容は負けず劣らず過激で万人向けではないですが・・・)。
ライトな作風が好みであれば「ジオラマボーイ☆パノラマガール」もオススメです。
以下、結末も含めてネタバレです↓
~マネージャー・羽田の描写~
中年女性の彼女は、りりこに命じられるがままに身の回りの世話をし、局部をなめろと言わてもそれに従います。
そして、彼氏共々、りりこに構わず婚約をした恋人の結婚相手に硫酸を浴びさせ、あまつさえりりこのライバルをカッターで切りつけようとまでするのです。
何故彼女がそこまでするのか・・・その理由は「彼女が美しかったから」。
彼女はりりこを初めて見たとき、その美しさに心を奪われたことをりりこに言っていました。
羽田はメイクもしないし、りりこのような美しさもない、りりことは対照的な人間でした。
羽田にとって、美しいりりこは尊敬の対象です。
りりこにとって、羽田は自分が「捨ててきた」ものの象徴です。
その対比は原作にはないもの。上手い変更点だったと思います。
しかし、それ以外の羽田の描写は全く腑に落ちません。
そのひとつが羽田の彼氏の「伸一(綾野剛)」。
常時すっぴんの中年の彼女に対し、彼は金髪でイケイケの性欲たっぷりの若者です。すごく違和感があります。
それはまだいいのですが、りりこが唐突に羽田の家に上がり込んで、彼氏と即セックスをするくだりはちょっとひどいと思う。
原作では段階を踏んでから行為に及んでいるし、彼氏はそのことで自責の念にとらわれていました。
でも映画の彼氏は、彼女の見ている前で即セックス→謝らないしノリノリという、感情移入の余地がない感じに変更されてしまいました。
本作で最も不快なシーンでした(不快にさせることを目的にしているところもあると思うのだけど)。
硫酸事件の帰りに、羽田と彼氏がりりこにセックスをしろと言われて、それに応じてしまうというのも・・・
羽田が応じる性的なシーンは、原作のような若い女性であるからこそ、説得力があるものだと思います。
羽田が最後にりりこの秘密をマスコミにリークするシーンも、少し唐突に思えます(彼女はりりこを愛するが故に、りりこを辞めさせたかったのですが・・)
原作ではここでの羽田の心理はしっかり描かれています。
羽田のキャラクターを中年女性にしたことで、良いところ以上に、失ったもののほうが多いように感じました。
~女子高生の会話~
時折挟まれるこのガールズトークはすげえうるさい。
でもミーハー(死語)っぽさが十分表現されていました。
秀逸なのは、りりこ一辺倒の会話が、ラストの大事件のあとは徐々に別の話題に変わっているということ。
忘れられたくないのは、りりこの一番の願い。
しかし、ここまでの大事件を起こしたにもかかわらず、忘れられてきました。
そのうち「あれが欲しいな!」「~したいよね!」と自分のしたいことを語っている女子高生たち。
原作では「ただ欲望だけがそこにあり、通りすぎる、名前だけが変わっていった」とナレーションで語られていました。
途中で麻田が言ったとおり、りりこは「皆の欲望の対象」でした。
りりこがいなくなったから、女子高生たちの興味は自分の欲望へと転換されたのです。
ちなみに映画では、「りりこの写真集が復刊したという巨大広告」で、その姿が伝説的なものになったことを示すシーンがありました(個人的にはりりこの悲哀を強調してほしかったので、蛇足に思えましたが)。
~りりこが目玉を潰した理由~
原作とは違い、りりこは記者会見の最中にそれをやってのけます。
何故彼女が自ら目玉を潰したのか・・・
理由のひとつが、そうすることで皆に忘れられないようにすること。
もうひとつが、彼女の中で残された「いじっていない箇所」を壊したかったということなのではないでしょうか。
序盤に「ママ(桃井かおり)」が語ったように、彼女の体で整形をしていないところは、骨と爪と髪と目玉と性器くらいしかありません。
そのひとつを潰すことで、彼女はより、「昔の自分だったもの」を捨てようとしたのだと思います。
悪徳美容医師には、「あなたはただの肉の塊だった、その体は自分で手に入れたのです」と言われていました。
彼女自身は、口紅を麻薬のようなものだと言っていました。
彼女は過去の自分を捨て、「作られた美」になりたかったー
美への執着、そして依存心が、彼女をあのような行動へと走らせたのだと思います。
~美しいから強い?強いから美しい?~
りりこと、田舎から出てきた妹の「ちかこ」は花畑の中で、会話をします(原作では砂丘で話していました)。
ちかこは、「お姉ちゃんは強いからきれいになった」と言い、りりこは「違うよ、きれいだから強くなった」と言います。
りりこのように全身整形をするのは、確かに強くないとできないことでしょう。
でも、そうして整形をしてきたからでこそ、今のりりこがあることも事実です。
映画の最後で、ちかこは姉と同じく、垢抜けた様子で東京で暮らしています。
映画ではカットされてしまいましたが、原作ではちかこが麻田に相談するシーンや、彼女もまた整形にのめり込んでいくシーンを読むこともできます。
りりことちかこが「強いからきれい」なのか「きれいだから強い」のか、その判断は観る人に委ねられていると思います。
~気になったシーン・ことば~
・枕営業に応じる哀川翔
作中のセックスシーンで一番面白かったです。お前かよ。
・「もうこんな仕事やりたくない」と、屋上で叫ぶりりこ
もう沢尻エリカの叫びそのままじゃ・・・
・雨が降りしきる中、外に出るりりこ、そして髪が抜け落ちる・・・
原作では部屋の中でのシーンです。少し演出過剰に思えました。
・「ママ」がアイドルをやっていたので、浅田はりりこのことを「あなたのレプリカント」と言う
レプリカントとは「人造人間」のこと、ひいてはママの実現できなかった夢の具現化でしょう
・浅田はりりこに法廷で証言してくれと頼み、「あなたはアリアドネの糸なんだ」と言う
アリアドネの糸はギリシャ神話に出てくる、迷宮を脱出するための道具です。
・ライバルだったアイドル・吉川こずえ(水原希子)は、カッターを持って襲いに来た羽田に「いいよ、やれば。私たちは欲望処理装置。みんなすぐに忘れて、名前と顔だけが摩り替わっていく」と言う
これは原作では、前述の「女子高生の会話」のときにあったナレーションです。
しかし何故この台詞を彼女に言わせるのか、さっぱりわかりません。違和感しか感じませんでした。
・幻覚を見るりりこ
終盤に降る「赤い羽」も含めて、「ブラック・スワン」の模倣に思えました。
・浅田は「タイガーリリー」と、りりこを揶揄する。
タイガーリリーはピーターパンに出てくるキャラクターの名前でもあります。
浅田にとって、自らの美を追求する彼女の行動は、まさに「大冒険」であったのでしょう。
~りりこのキャラクター~
羽田はりりこのことを「いつも文句を言っていて、なんだか可哀想」と言っていました。
彼女自身は「(自分のファンに対して)会ったことも見たこともない人たちを、どうやって愛せっていうの?」と羽田にこぼしていました。
恋人の南部(窪塚洋介)が婚約をしたこと知った時は激高しましたが、その後もセックスに応じてしまいます。
彼女は、自分の愛する人に、愛されたかったのでしょう。
そして襲い来る、あざができ、肌のハリもなくなってくるという副作用・・・
彼女は美の象徴であるがゆえの、孤独と、その終りが来ることへの悩みを抱えていました。
「私の中でカチ、コチ、カチと(時計の)音がする」というのも、彼女が「終り」を感じていたが故のものなのでしょう。
原作では、浅田はこういうことも言っていました。
「速度や変化を恐れてはいけないよ
やせ我慢でなく、ぼくは年をとるということは素晴らしいと思う
それこそあたらしい経験さ
思い出も喜びも攻撃性も欲望も静けさも徐々に会得したものだ
若い日々の行動を忘れてしまうことも新しい経験だよ
ごらん今朝の空を、昨日とはまったく違う生まれ変わった空だ」
他にも浅田は、部下の久美(鈴木杏)の「何故、神さまはまず若さと美しさを与えて、そしてそれを奪うのでしょうか?」という問いに、「若さと美しさは同義じゃない。若さは美しいけれども、美しさは若さではない。美はもっとあらゆるものを、豊かにふくんでいる」と答えています。
彼女はそれと相反するように、若いライバルのアイドルを嫉妬し、若さを失うことを恐れ、それがもたらすであろう美に執着していました。
それは彼女にとって、幸せなことではなかったでしょう。
~ラスト~
映画は、どこかの国で、りりこがライバルだったアイドルに見つけられ、そしてりりこが微笑むシーンで幕を閉じます(マネージャーの羽田もそこで働いていました)。
物語の最初で告げられたのは「最初に一言、笑いと叫びはよく似ている」ということでした。
映画のりりこは、叫んでばかり。
「叫び」と、最後の「笑い」は、りりこにとって同義のものなのでしょうか。
ひょっとすると、りりこの叫びはただ単に「苦しみ」を表現するものではなく、世間に対しての「嘲笑」の意味もあったのではないか、と思います。
タイガーリリーの冒険は、世間が知らなくても、続いていくのです。
おっぱい目当てで行ったんですが(^_^;)、いやぁちょっと怖かったです。妹が最後浅田に挨拶するシーン、原作あってのことだったんですねー。なるほど。ラスト、こずえが階段を降りていくシーンからやたら怖くて目をつぶってしまいました。
「ハッ、、、!」という息がしてエンディングだったので、ヒナタさんのレビューで知れてよかったです。目ん玉のシーン、色味は相変わらず綺麗だけどエグいんだもん。いじってない箇所を壊したかったんでは?という視点はおもしろかったです。確かにね!という感じ。今回のへルタースケルターは、見ることができて良かったけど知らなくてもいい映画だったかなと思います。後味悪いから。でも原作見てみたいわー。カゲヒナタさん。レビューありがとうございました。
原作の方がわかりやすいシーンがたくさんある感じですね。
その「目ん玉」のシーンも原作とはだいぶ違うので、読んでみてほしいです。
書いてよかったです。
原作を読むともっと理解が深まると思いますよ(こちらも過激ですが・・)
果たして虻川さんに才能があるかと疑いました。
りりこ役の沢尻エリカも日本を代表するトップモデルには見えませんでした。
全体的に安っぽい可愛さを散りばめつつ不潔な感じのする空っぽな作品でした。