家族の力 映画「The Lady アウンサンスーチー」ネタバレなし感想+お気に入りシーン

個人的お気に入り度:7/10
一言感想:夫も偉いんだなあ・・・
あらすじ
アウンサンスーチー(ミシェル・ヨー)は、ビルマ(現ミャンマー)建国の勇士である将軍アウンサンの娘であった。
1988年、祖国のビルマへと戻った彼女は、軍事政権により人民が迫害され、民主主義運動が弾圧される様を目の当たりにする。
スーチーの夫のマイケル(デヴィッド・シューリス)と、その息子のキムとアレックスもビルマへ訪れるのだが・・・
実在の女性政治家・アウンサンスーチーを描いた伝記映画です。
本作で焦点があたっているのは、軍事政権との対立の描写と、スーチーの家族です。
特に夫:マイケル・アリス博士は、妻を献身的に支える、頼れる男性として丹念に描かれています。
スーチーの家族は現地・ビルマと離れた英国で暮らしていますが、彼女を支えるため、彼女に会いたいがために、たびたびビルマに訪れます。
そして、夫と家族がどれほどの影響力をスーチーに与えていたかが、入念に描写されていくのです。
しかし政府の策略により、スーチーは次第にその家族からも断絶されるようになっていきます。
本作で徹底的に描かれているのは、そんな「政府の嫌らしさ」です。
観ていて本気で腹の立つ理不尽な政策や対処が多くあり、ビルマでどれだけの圧制が強いられてきたかがわかります。
そんな中、非暴力による民主化を訴えるスーチーの行動力と勇気は並大抵のものではないと知れるはずです。
ドキュメンタリーではなく、映画として問題を描くことの説得力をこれほどまで感じたのは「トガニ」以来でした。
確かな意義を持っているといえます。
ただ、家族の描写に傾倒しているあまり、スーチーの自身の偉大さと、どういった人物であるかが少し伝わりにくくなっているようにも感じます。
個人的に気になったのは、スーチーが若かかったころの描写が一切出てこないことです。
夫・マイケルとの馴れ初めも全く語られません。
本作で描かれたスーチーの「人間らしさ」「弱さ」は、とても意味のあることだとは思います。
しかし、スーチーの人生を若かりし時も含めて回想したほうが、よりスーチーに対する理解や、登場人物の思いもより感じられたのではないでしょうか。
伝記映画であるなら、わずかな時間でも、断片的でもよいのでそれを描いてほしかった、と言うのが本音です。
史実を知る勉強にもなるし、映画としても優れています。
今年は「マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙」という史実映画もあったのですが、それよりもはるかにおすすめできます。
残る上映館はわずかですが、是非劇場でご覧いただきたいです。
また本作の監督がリュック・ベッソンであることも驚きです。
名作「レオン」を撮ったあとは「フィフス・エレメント」「アンジェラ」などで好き勝手で自分の趣味一辺倒なイメージだったので・・・見直しました(←何様?)
以下は作中のシーンが少しだけネタバレ↓ 結末などには触れていませんが、未見の方は要注意
印象に残ったのは、スーチーが銃をかまえた軍人に、武器もなにも持たずに歩き出すシーンでした。
政府側は、スーチーの父が殉教者となったこともあり、威嚇はできても、簡単にスーチーを殺すことはできません。
それを知ったがゆえの、スーチーなりの「非暴力」の行動なのでしょう。
さらに、この「政府側はスーチーを殺せない」ということが、ハンガー・ストライキを行えるほどのスーチーの武器にもなるのです。
スーチーは「自宅軟禁」をされている最中にノーベル平和賞を受賞したことでも有名です。
ノーベル平和賞によりスーチーへ世界中の支持が集まり、しかもその受賞スピーチを彼女にかわり息子が行ってくれるのが嬉しかったです。
しかもそれは夫・マイケルが知り合いの博士に働きかけ、ノーベル賞の選考委員会にスーチーの資料を送ったおかげでもあります。
マイケルがいなければ、彼女がノーベル平和賞を受賞することもなく、歴史も変わっていたと思います。
スーチーが強くあれたのは、愛し、愛された家族がいたからでもあるのでしょう。
終盤では、政府に「夫・マイケルの死に目(前立腺ガンにかかっている)に会うために帰国しなさい」と言われるスーチーですが、彼女はそれをよしとはしません。
なぜなら、政府はそうしてスーチーを帰国させたあとに、彼女を二度と再入国させない算段であったからです。
スーチーは夫・マイケルの死に目に会うことと、国の平和を天秤に掛け、国の平和と自身のためにとどまることを決意します。
夫を心の底から愛していたスーチーにとって、それはどれほど苦しい決断だったでしょうか・・・。
夫の「優しさ」以上に、「支えていた」がゆえの切なさと強さを感じた、家族の物語でした。
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「その信念は鋼鉄、その優しさは気高き蘭の花」ユーザーレビュー - Yahoo!映画
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