良い騙され方 映画版「カラスの親指」ネタバレなし感想+ネタバレレビュー
個人的お気に入り度:7/10
一言感想:ああ~そういうことね~(大納得)
あらすじ
ベテラン詐欺師のタケ(阿部寛)と、どこか間の抜けているなテツ(村上ショージ)がコンビを組んだ。
ある日、まひろ(能年玲奈)という少女と知り合ったのをきっかけに、彼女と姉のやひろ(石原さとみ)、その彼氏の貫太郎(小柳友)までもがふたりのすみかに上がり込んでくる。
そして共同生活をはじめた5人のもとに、かつてタケが壊滅に追い込んだ組織の男・ヒグチ(鶴見辰吾)が現れ、執拗な嫌がらせをはじめる。
彼らは一同決心し、ヒグチをハメるために「アルバトロス作戦」を企てる。
道尾秀介原作の小説をもととした映画です。
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本作で描かれるのは「コンゲーム」。
詐欺師が詐欺を働き、騙したり、騙されたりするさまを楽しむミステリー作品です。
元来このジャンルには「スティング」「ペーパー・ムーン」などの名作があり、長年映画ファンにも支持されてきたものです。
そしてこの映画も、そんなコンゲームの映画が好きな方にオススメできる、痛快愉快な作品に仕上がっていました。
キモとなるのはラストのどんでんがえしですが、これに至る伏線がものすごく多いのでとても説得力があります。
何気ないシーン、セリフに綿密に伏線が張られ、それらがラストに氷解するさまはこのジャンルならではの面白さを感じ取れることでしょう。
秀逸なのが、その伏線を張る過程が、それだけでもしっかりと面白いこと。
最後のどんでん返しがなくても、一本の映画として成り立っていると思えるほど、各エピソードが楽しいのです。
役者も魅力たっぷりです。以下主要登場人物を紹介します。






村上ショージさんは本格的な俳優としての活動は本作が初とのことですが、この役柄にはバッチリはまっています。
この中の登場人物が誰かを騙し、誰かが騙されています。
この手の映画を観慣れている方であれば、あれこれと考えるのも楽しいでしょう。
自分は、作戦の実行中のとある登場人物が言ったことばで真相が分かりましたが、カンがいい人ならもっと早く気づくのかもしれません。
残念だった点もあります。
ひとつは上映時間が2時間40分と大変長いことです。
観ている間はその長さを感じさせない面白さであるし、無駄と思えるシーンもほとんどありません。
それにしたって少し冗長です。
余すことなく原作の要素をつぎ込むことはとても尊いことですが、そのままでは少し息苦しさを覚えます。
もうひとつは、本作に台詞がとても多く、「映像」で魅せてくれるシーンが少なく思えたことです。
原作の台詞であるところはそのまま台詞にした印象で、「小説をそのまま映像化した」ように思えるのです。
終盤では工夫されているシーンもあるのですが、もう少し「映画ならでは」が欲しかったです。
この上映時間&台詞と情報量がとても多いために、ちょっと観ていて疲れてしまうのは惜しいところです。
そんな難点はあるものの、トータルではかなりオススメな作品です。
自分は原作は未読でしたが、この映画は原作を読まないほうがむしろ楽しめるかもしれません。
「カラスの親指」というタイトルの意味も素晴らしいです。
何気ないシーンに気を配りながら推理しても、何となーく観ていても楽しい作品です。
ぜひぜひ劇場へ。
以下、結末も含めてネタバレです 映画を未見の方は絶対に読まないでください↓
~アルバトロス作戦~
盗聴器を調べる業者を偽り、ヤクザの金庫の金を奪おうとする作戦です。
このシーンで秀逸なのは、「これは作戦か?それとも想定外のアクシデントか?」ということが観客にわからないことです。
・盗聴器を仕込んだ携帯をヤクザに売る
・タケ、テツ、まひろ、貫太郎の4人が業者の扮装をして、ヤクザがいる部屋に入る
・携帯に盗聴器があるのを教える
・携帯の盗聴器を貫太郎が外して見せる
・盗聴するには「中継機」が必要なことを教える
・中継機が金庫の中にあることを教える(実際は、タケが自分でラジオを操作して、そこにあるかのように見せかけているだけ)
・テツが金庫の中から盗聴器を発見する(実際は、テツがもともと中継機らしきものを持っており、取ったかのように見せかけただけ)
と、ここまでは予定通りに思えますが、ここで貫太郎が突如銃を構え、ヤクザを脅そうとするのです。
途中から部屋に入ってきたヒグチに「それはモデルガンだ!」と言われるも、彼は別のモデルガンを床に捨て、なおかつ「時計を撃って壊す」ことで本物であることを証明します。
その後、お金を預かって逃げたまひろと、それを追う貫太郎・・・そして、まひろは落ちて死んでしまったかのように見えます。
駆け寄ったテツは、ヤクザに「金なんかいらんわ、人が死んでんねんで」と言い、袋に入った金をヤクザのほうに放り投げます。
そしてサツが来ると面倒になるからという理由で、ヤクザは撤退します。
が・・・・これら全てはやっぱり作戦通りでした。
落ちて死んだように見えた女の正体は、まひろの姉であろ「やひろ」。
まひろは部屋から去ったとき、となりの部屋で着替えて、何食わぬ顔で出てきただけだったのです。
しかし、結果的に作戦通りであっても、ミスはありました。
時計が壊れたのは、まひろがそこを調べた時に火薬を仕込んでいたからなのでしょうが、貫太郎はその場所とは違う方向に銃を撃っていたのです。
これは結果的にテツが時計に注意を向けたおかげで、気づかれなかったようです。
面白いのは、そもそもタケがミスをしてしまったということ。
タケは緊張のあまり(顔見知りであるヒグチに『帽子をとってみろ』と言われる)、合図である「首の後ろをさわる」ということを、予定と違うタイミングで出してしまっているのです。
タケも貫太郎もミスをしている。
それでも、作戦を成功できたのは、テツのおかげなのです。
あと野暮なツッコミをするならば、その以前にあった「盗聴して銀行口座のメモをとる」シーンは不要なのでは?と思えたこと。
作戦が途中で変わったのかもしれませんが、この作戦内容であれば、金庫がその場所にあり、そこにお金があることを知ればいいだけです。
もうひとつのツッコミどころは、タケはヒゲを生やして変装&頭を坊主にしていましたが、それでもバレるだろということです。
だって演じているのが阿部寛だよ?あんな顔の濃い日本人はそういないよ?
10人いたら10人が気づきそうなもんです。
~テツのやったこと~
最後に氷解したのは、テツがまひろとやひろの父であり、テツがみんなを引き合わせ、作戦を決行させたという真実です。
テツはすでに、タケの過去を知っていた(探偵を雇っていた)のです。
・部屋から煙を出した(住む場所を変えるため)
・まひろのもとへ、宝石の「現金買取」のチラシを送った
・劇団の男を使い、まひろと「お金を持ってそうな男」をわざとぶつからせた
・メガネをかけた女性も、スリをするまひろをとどまらせるために配置した
これら全てが「タケとまひろを会わせて、タケの人となりを知ってもらうため」だったのです。
タケは闇金融の手下となり、生活費をぎりぎりまで残している人からお金を搾り取る「ワタヌキ」という仕事に手を染めていました。
その仕事のおかげで、まひろの母は自殺し、タケはその罪滅ぼしにお金を送っていたのです。
まひろはお金に手をつけていませんでした。
しかし、今回の「アルバトロス作戦」では、前向きにこのお金を使っています。
それはまひろたちが、このお金の主が、自分を救ってくれたタケであることがわかった(人となりがわかった)からなのです。
テツの目的はそれだけではありません。
アルバトロス作戦は「一石三鳥」なのです。
ひとつは「テツの人となりをまひろに知ってもらい、前向きに生きさせること」
ひとつは「(逃げるしかないと言っていた)テツを、ヒグチに立ち向かわせること」
ひとつは「ヒグチにもしっかり泡を吹かせてやること」
さらに、テツ自身も「(余命1年のガンに冒されているため)最後に思い出が欲しかった」と言います。
テツは、自分を含めた5人すべてが幸せになるために、皆を騙していたのです。
猫に「トサカ」という名前がついたのも、テツが前もってスプレーをしていたため、ゴワゴワになっちゃったから、というのも面白いです。
まひろたちも、名古屋で拾ったその猫が、(死んだかのように見せかけられた)「トサカ」であることにいつか気づくのかもしれないですね。
~カラスの親指~
序盤、テツはスリをはたらいたまひろに「大したカラスちゃんだ」と言います。
これは「(詐欺やスリの)玄人」が転じて「CROW(カラス)」になったという言葉遊びです。
そして終盤にタケがテツに言ったのは「あんたはカラスもカラス、大ガラスだ」ということでした。
中盤、テツは「お父さん指と、お母さん指があるでしょう、お父さん指はほかのお兄さん指やお姉さん指とくっつくけど、お母さん指だけではなかなかくっつけない、でもお父さん指とお母さん指が一緒なら、くっつくんです」ということを言います(きっと、多くの方が劇場でこれをためしたでしょう)。
テツがいなければ、この5人がそろうことはありませんでした。
テツがいなければ、アルバトロス作戦が決行されることも、成功することもありませんでした。
テツがいなければ、タケもまひろたちが、前向きに生きようと決心することはありませんでした。
まさに、「お父さん(指)」のような役割です。
しかもそれは、「お母さん指」であるタケがいたからでこそ、できたことです。
この「カラスの親指」というタイトルが示すものは、そんなテツのことでしょう。
さらにテツは(作中でタケが言ったとおり)、本当にまひろのお父さんだったりします。
アルバトロス作戦中、まひろが(偶然にも)テツのことをお父さんだと言ったのも、それに対する「くすぐり」でした。
まひろと会ったとき、テツが「ましろ」と間違えて言ったのも、「本当にまひろであることを言ってほしい」ことのあらわれかもしれません(自分の娘の名前は、間違えないでしょう)。
名前を言ってもらえば、タケがより「自分が自殺をさせてしまった女の娘」であることに気づきやすいのかもしれませんしね。
~タケとテツ~
地味にタケとテツの関係で好きだったのが、テツは「書類」にこだわるのに対し、タケは「日用品であるシャンプー」にこだわったりする描写。
この凸凹コンビはだいぶ違うけど、ちょっと似ているところもあって、でもやっぱりちょっと違う。
そんな2人のキャラクターと仲の良さが大好きです。
貫太郎があんだけホモホモ言うのも仕方がないよね。
ちなみにホモ牛乳とは脂肪分が分離しない、一般的に売られている牛乳のことです。
また、貫太郎とやひろが花火大会でデートするシーンが観たかったですね。
こいつらバカップルにもほどがあるからイライラしたけど。
~風船~
とっても嬉しかった&意外だったのは、タケとテツのコンビが一度も詐欺行為をしていないという真実です。
オープニングの競馬場で「コーチ屋」のことを教えていた男(ユースケ・サンタマリア)にはちゃんとあたりの馬券を渡していたし、骨董品の店主(ベンガル)とは世間話をしていただけだったのです。
テツは「詐欺師は最低の人間です」と言います。
しかしその後に、2人は風船が飛んでいくのを見ます。
そんな風船に向かって、タケは「どっかで子どもが泣いているかもな」と言うのです。
これは「詐欺師」であったタケが、「他人の気持ちを想像できる」ということを示すシーンです。
オープニングで競馬場から出たときも風船が飛んで行きましたが、そのときはタケは風船を見ることがありませんでした。
このときには、まだ騙された者の気持ちが想像できなかったのでしょう。
タケの心が変わったことが明確に知れる、このシーンが大好きです。
そして最後に、タケは「タンメンなんか好きじゃないよ、あんたに合わせてやったんだよ」と言ってのけます。
これが唯一といっていい、「タケがテツを騙していた」描写でもあります。
人の心はわかりにくく、騙して人を不幸にさせる人、騙されてひどい思いをする人もいます。
だけど、こうした「良い騙され方」ならされても悪くないな~
そう思える作品でした。
原作も読んだけれど忘れているのかしら。
最後の樋口をだますシーンで取り巻きの社員?も劇団の人でしたよね。ベンツの運転手も。
いつから樋口の取り巻きだったんでしたっけ?
> 最後の樋口をだますシーンで取り巻きの社員?も劇団の人でしたよね。ベンツの運転手も。
> いつから樋口の取り巻きだったんでしたっけ?
自分ではわかりませんでした、すみません。テツはそこまでやっていたのでしょうか・・・
確かに劇団の人は、スリの2人のほかにも何人かいたので、その可能性は高いと思います。
時間の長さも気にならなかったし。レビューみて また観たくなりました
レビューをみて、もう一度みたくなりました。
いいレビューをありがとうございます!
あ、一つ気になったことがあるんですが、
かんたろうはやひろの彼氏ではなかったですかね??
特に、黄色い風船の解釈は他所では見つかりませんでした。
・能年玲奈と阿部寛を出会わせる
・一軒家の庭先の家事で脅す
・車で監視する
・トサカの偽の死体を送りつける
(上三つは阿部寛にヤクザとの対決を決意させるため)
ヤクザの中に劇団員はいません。
ヤクザは阿部寛の居場所は把握していません。
ですがまた力をつけて復讐するかもしれないと考えた村上ショージが先手を打って組織を潰したのです。
銀行口座は口座名を添えて、凍結を予告する文章を送るために必要だったのでしょう。