笑ってもいいさ「最強のふたり」ネタバレなし感想+微ネタバレレビュー

個人的お気に入り度:7/10
一言感想:こうしたいけど、こうはなかなかできないよなあ
あらすじ
全身麻痺になった大富豪のフィリップ(フランソワ・クリュゼ)は、新しい介護者を探していた。
面接に訪れたスラム出身の黒人青年ドリス(オマール・シー)は失業保険を得るために「不採用にしてくれ」と言う。
しかしフィリップはドリスを採用することにする。
介護の仕事は雑で、不遜なことばを吐くドリスだったが、フィリップはそんな彼のことを気に入っていた。
日本国内の興行収入は同じフランス映画である「アメリ」を超え、全世界でも「千と千尋の神隠し」超えを記録した大ヒット作です。
本作が幅広い方に支持されたのは、ヒューマンドラマとして質が高く、なおかつ実話をもととしていることでしょう。
無職の若い黒人男性と、金持ちで全身麻痺の老年の白人男性という主人公像が素敵です。
これは「レインマン」にあるような正反対の性格をもつキャラクターが織りなす面白さです。
モデルとなった物語では、介護をする若者は黒人ではなく白人の方だったそうですが、その変更も気に入りました。正反対の2人のギャップがより強調されていると思います。
この映画で好きなのは「同情はなくていい」ということが明言されていることです。
障害を持っている人に「かわいそうだな」「気の毒だな」という感情を持つことは誰にでも共通のことでしょう(それ自体は間違ったことではありません)。
この映画の若者「ドリス」はそんな「同情」の感情とは無縁の男。
その言動と行動には嘘偽りがなく、全身麻痺の男性「フィリップ」と対等と向き合おうとします。
これが観ていてすごく気持ちがいいのです。
またドリスはしょっちゅう下ネタで笑いをとろうとします。
この下ネタが思春期の少年のように無邪気で、これまた憎めません。
テーマとのこの下ネタの盛りっぷりは昨年の「50/50 フィフティ・フィフティ」を思わせました。
余談ですが、「五体不満足」の著者である乙武洋匡さんは、自身のTwitterでこう賜っていました。
「自虐」と感じるのは、障害を「負」と捉えているから。
だから、「これ笑っていいのか」とためらいが生じてしまう。
障害をネタにしたギャグに「あはは」と笑えるようになる世界。
これこそが究極のバリアフリーだと思っている。
障害を笑いの種にすると「不謹慎」と言われることも多いです。
でも乙武さんは、障害を持つ人がよい意味で「笑われるように」したいと言っています。
この映画も、障害であることを笑いとばしていることが最大の長所。
もちろんドリスの言動には「こうは言えないよなあ」と思ってしまうところがあるし、実際に言ったらいろいろと問題がありますw
しかし、そうした「なかなかできないこと」をやってのけているから、この映画の気持ちよさがあるのだと思います。
音楽の使い方もすばらしかったです。
![]() | Soundtrack 1848円 powered by yasuikamo |
オープニングでかかったあの名曲には気分が高揚したし、そのほかにもどこかで聞いたことのある曲が効果的に使われています。
ドリスの趣味はロックやポップス、フィリップの趣味はクラシックで、その音楽の趣味の違いも展開に生かされていてとても面白いです。
ちなみに英題は「untouchables」ですが、フランス語の原題をそのまま英訳すると「intouchables」になります。
意味は前者が「さわれない彼ら」ですが、後者は「さわ『ら』ない彼ら」。
接点のない者同士といったニュアンスのようで、それはこの物語の主人公であるドリスとフィリップを示すのでしょう。
「最強のふたり」とまったく違う意味にする邦題のセンスも嫌いではありません。
わざとらしく感動を狙わない、笑えて後味のよい人間ドラマとして万人におすすめします。
残る上映館はごくわずかですが、今年を代表する秀作として是非観てほしい作品です。
以下はちょっとだけネタバレ↓ 結末には触れていませんが、野暮な不満点を書いています。
ちょっと気になったのは、フィリップが「介護をする人が1週間で逃げ出す」ような偏屈な人間に見えなかったことです。
彼は「失業手当がもらえるから不採用にしろ」と言うドリスにも堅実に対応しています。
もちろんこれは「ドリスのことが気にいったから」とも考えられますが、少し違和感がありました。
後半ではその疑問に応えたように、ドリスのかわりに雇われた男性に対して不遜な態度をとるフィリップの姿が描かれますが、個人的にはこれはちょっと不快でした。
この男性は、フィリップの体を思ってたばこをすすめないし、フィリップに異変が起きるとすぐに駆けつけましたし、ちっとも悪くありません(ひげをそらなかったり、「機嫌が悪い」と言ってしまったことはありましたが)。
ドリスとふれあって新しい価値観を知ったフィリップが、「ドリスはいいけどほかはだめ」な態度をとるのはあまり好きではなかったのです。
フィリップのキャラはツンデレじゃなくてデレツンになっています。
これでは「ドリスのような態度こそが正しい」という一方的な押しつけにように思えます。
「新しい介護人に紳士的な対応をとるフィリップだけど、ちょっとドリスのことが恋しい」くらいの描きかたでよかったように思えます。
また「盗んだ卵の置物」「ドリスの家族との確執」がサラっと描かれたのもちょっと不満です。
こうしたライトさはこの作品の長所でありますし、主人公2人のドラマに焦点をあてる上では成功していますが、もう少しここにドラマがあってもよかったと思います。
好きだったのは、前述の通り音楽の使い方です。
ちょっと重い雰囲気を感じるカーチェイスから「September」が流れるオープニングへの展開は高揚感がありましたし、フィリップの誕生日にドリスとフィリップがそれぞれの「自分の好きな曲」を教えあうのも大好きです。
ドリスがフィリップから離れたとき、かかっているBGMはクラシックでした。
これはドリスの「フィリップが恋しい」という心情をあらわしているかのようでした。
作中のギャグはいろいろ笑えました。
この絵画は「鼻血ブーしただけだ!」とか、
『ドリスはイヤイヤ言ってるけど結局やる』あたりも好きですが、
「全身麻痺になっても耳は性感帯だ」「このチョコは『健常者用』だからあげない!」「(雪玉を投げて)たまには投げ返せ!」と障害を笑ってしまうもの言いが特に大好きです。
でもまだまだ自分には「これ笑っていいのかな」というためらいがちょっぴりあったりします。
しかし映画では「笑っていいのかな」の答えを用意してくれています。
それは終盤の、鏡の前での「ヒトラー」ネタです。
フィリップは初めは「この冗談は笑えないぞ」と言うのですが、すぐに吹き出してしまいます。<ヒトラーっぽいヒゲ
ここで映画は「(不謹慎だと思わずに)笑ってもいいよ」と教えてくれます。
乙武さんの言う究極のバリアフリーには、自分は一歩足りないみたいだけど、この映画を観て、障害者が、障害に関わる人両方が幸せに笑えるようになるといいな、と思います。
<『最強のふたり』 嗤いと笑いは大違い :映画のブログ>
このような作品が日本のミニシアター興行の記録を塗り替えていくのは本当に嬉しいです!
何といってもドリスが最高に魅力的!
居るだけで周囲に笑顔を伝播させていく「天使」のような存在だと思いました。
ただ、これを実話と強調するのであれば、もう少し「カネ」の描写(給料の使い道、大富豪になった経緯等)を入れるべきだと感じました。
公開してまもなく鑑賞し、
管理人さんのレビューを待ってましたので
やっと見られて嬉しいです!
見たのが一ヶ月ほど前なので
レビューを見ながら思い返すと
フィリップが前任者が一週間で辞めてしまうような人物と言っていたのを
レビューを見て思い出したのですが
管理人さんのように疑問は持てていませんでした。
一回見ただけでは内容を深く理解するのが難しいです。
こういった点に気付けるのは、すごいなぁと改めて思いました……
一般人から見れば、ドリスの行動や発言は
理解に苦しむものがあると思いますが
障がい者であるフィリップからすれば
ああいう対応こそ望んでいたものだったんですね。
作中のギャグシーンは久々に腹かかえて笑いましたw
覚えている範囲では、オペラ?かなにか
二人で見に行った際、木のかっこうの男性を見て
ドリスが爆笑しているシーンです。
今思い出してもえあらけてくる。
あと秘書の女性がちょー可愛かった!
今後も期待してます!
オマールのスタイルによだれでした。ミックマックの時からやせたんですってね。
例えば、ゲイの人がゲイを自嘲としてネタにするのは良いと思う。
でも、ゲイでは無い人がゲイをネタにするのは許せない。
私自身はゲイとは微妙に違う立場とは思いますが、腐属性という立場柄、そんなことをしばしば考えたりします。
ところで障害者プロレスラーのラマンさんを御存知でしょうか。
障害者にして女装趣味という極めてマイノリティなキャラクターを前面に出したレスラーです。
乙武さんの仰る哲学を具現化している、ひとつの例ではないかと思います。
私は軽快な曲とテンポの良い展開、そしてラストシーンの柔らかい友情に感動しました。
かなり以前に観たので細かい所は忘れてますが、素晴らしい映画だったと思います。
こうしたミニシアター系の映画が評価されるのは嬉しいですよね~
確かに「結局金かよ!」と思わせてしまうのは弱点かもしれませんね。
>走馬灯さん
あざーっす。公開されてから3ヶ月以上経っているので悩みましたが、書いてよかったです、
木の格好をしたオペラ歌手を笑ってしまうのはドリスらしいですよね、でも迷惑w
この映画は中年女性が魅力的に描かれているのが好きです。
>nasu
ミックマックにも出ていた女優さんだったんですね。知らなかったです。
たしかにスタイル抜群でした!
>シオンソルトさん
たしかに当事者じゃないと笑いにくいところはありますよね。
ドリスが言っても大丈夫なのは、そのキャラクターによるところは大きいと思います。
レスラーの方ははじめて知りました。ほかにも「脳性まひブラザーズ」という方もいますね。
> 名無しさん
ラストシーンは「こうだったらいいなあ」と思っていたのがそのままだったので嬉しかったです。
また観たくなる作品でした。
何を間違えたか、DVD・ブルーレイの広告が東進ハイスクールネタに走った件について。
http://files.hangame.co.jp/blog/2013/73/e5a5ce3a/03/25/40608926/e5a5ce3a_1364210388443.jpg
「公式が病気」「名作が台無し」とはこのこと。