みんなが家族「人生、ブラボー!」ネタバレなし感想+ネタバレレビュー
個人的お気に入り度:8/10
一言感想:子どもがめっちゃほしくなった
あらすじ
実家の精肉店に勤めるダヴィッド(パトリック・ユアール)は仕事が満足にできず、多額の借金を抱え、さらに妊娠した恋人からも愛想をつかされているというダメ男だった。
彼はある日、過去にしていた精子提供により533人の子どもが生まれていたことを知らされる。しかもそのうちの142人から身元開示の訴訟を起こされていたのだ。
はじめは会う気はないと言い張るダヴィッドだったが、渡された子どもたちのプロフィールを見て、その中に有名なプロサッカー選手がいることを知る。
サッカー選手の活躍を見て気を良くしたダヴィッドは、子どもひとりひとりに会いにいくのだが・・・
超おすすめです!
しのご言わずに映画館に行ってください。本当にそのくらい面白かったんですから!
本作はうだつのあがらないダメ中年男性の成長物語にして人間賛歌の物語、そして笑って泣けるハートフルコメディです。
主人公は金のために幾度もの精子提供を過去に行っており、その結果生まれていた子どもたちに会いに行き、彼らの生活と人生を知ることになります。
そのエピソード全てが面白く仕上がっており、同時にダメ主人公のあたたかい人間性を知れるという内容になっています。
しかし主人公は訴訟を起こされているので、簡単に彼らに正体を打ち明けるわけにはいけません。
しかも借金もちなので、「金」の問題も大きく苦悩としてのしかかってきます。
その苦悩を打ち破る主人公の決断、そして「家族」の行動は、きっと感動を呼ぶはずです。
よくこんな突飛な発想のストーリーができたなあ・・・と感心しきりだったのですが、実際に精子提供により何百人もの子どもの「父親」になっている人は存在しています。
日本でも男性不妊の対策として非配偶者間人工授精(AID)が行われていますし、「精子提供―父親を知らない子どもたち―」という書籍もあります。
精子提供を扱った映画にも「キッズ・オールライト」「カレには言えない私のケイカク」といったものがありますし、けっこう普遍的な題材なのかもしれません。
監督は同じくハートフルコメディである「大いなる休暇」の脚本を書いたケン・スコットです。
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こちらも社会的な問題を扱いながらもほっこりと楽しめる隠れた名作です。
ちなみにどちらの映画でも舞台となっているのはカナダのケベック州なので、作中で話されているのはフランス語だったりします。
原題の「STARBUCK」とは、主人公が精子提供を行ったときに使った偽名のことです。
元ネタは超有名なコーヒーショップではなく、優秀な遺伝子を持った「種牛」の名前です。
<くわしくは公式ページのこちら>
邦題はちょっと狙いすぎですが、的外れでもありません。
惜しむらくは上映館が限られていること。
しかし徐々に上映する地域は増えていっていますし、ここまで完成度が高いのであれば、「最強のふたり」のようなロングランも期待できると思います。
発想は突飛でも、主人公が挫折と苦悩を味わうも最後には幸せな展開が待ち受けているという「ベタ」な映画です。
しかし本作はそのベタな構成がとても堅実に組み立てられているので、どなたにも受け入れられるでしょう。
G(全年齢)指定ですが、性的な話題も出てくるのでそこだけは要注意(どぎついものではないです)。
カップルでも親子でもひとりでも、間違いのない1本です!
以下、結末も含めてネタバレです 本当に面白い映画なので未見の方は読まないように!↓
~精子提供~
えー何がびっくりしたって、映画が主人公がマスターベーションをするシーンからはじまることです。全年齢指定で何やってんだ。
個室でエロ雑誌を用意されて精子を専用のカップにいれるというバイトは楽かもしれませんが、ちょっとやりたくないですね。ちなみに日本だと違法だそうです。
また、この映画のストーリーを作るにあたって「マスターベーションをジョークとして扱った映画をつくるか、それとも父親をテーマとするか」という選択肢があったそうで、結論として両方ともやったとのこと。それでこんなに面白いんですから文句ないです。
~役者志望の青年~
主人公・ダヴィッドはサッカー選手の活躍を見届けたあと、バーで店番をしていた青年に会いに行きます。
ダヴィッドは青年が無愛想なのをとがめますが、彼が電話で店番を代われずに役者のオーディションにいけないと話しているのを聞いており、店番をつとめてあげます。
その後オーナーが現れ、店番のダヴィッドに「彼はクビだ。あいつには才能がない。あいつが金に困ったらあんたのせいだぞ」と言います。
うなだれるダヴィッドですが、戻ってきた青年はオーディションに受かったことを告げました。
~薬物中毒の女の子~
次に会いに行ったのは、電話で「お金を返してよ!」と怒鳴っている少女。
ダヴィッドはピザ屋のふりをして部屋に入っていきますが、そこで少女が薬物中毒のためにけいれんしているのを見ます。
病院でダヴィッドは「保護者」とみなされ、医師から「治療プログラムの書類にサインをすること」、少女から「退院させること」のどちらにするかを迫られます。
ダヴィッドが選んだのは「退院させること」。ダヴィッドは「俺の判断は間違っていることが多くて・・・」と自信がないことを告げますが、少女は「正解よ」と言い、ハグをしてくれました。
ダヴィッドは少女が言った勤務時刻にデパートの前で待ち、少し遅れて彼女は出勤してくれました。
ダヴィッドと一緒に、こっちまで嬉しくなります。
~子どもたち~
ダヴィッドはつぎつぎに子どもに出会っていきます。
・プールの監視員:ダヴィッドはジャンプの前にいつも挨拶をする→ジャンプに失敗して人工呼吸される
・イロコイ族の説明をしている青年:ダヴィッドは雨の日まで説明を聞きに行く→サツだと疑われる
・クラブにいた太った男:ダヴィッドは介抱するが男は吐いてしまう→なんとか車に乗せて運ぶ
・スーパーで働く男性:ハグしてあげる
・爪の美容師の女性:何度も通う
・露出の多い女性:「ウマそうだ」と言った工事現場の男に怒る
・ストリートミュージシャンの男性:何度も聞きに行き、通行人にも聞かせようとする。
・ゲイの上に何人も付き合っており、女性とも不倫している男:見守る
ダヴィッドは本当にいいやつだなあ・・・ちなみにストリートミュージシャンの男性は「スターバック訴訟の会」のリーダーでした。
~障害者の青年~
ダヴィッドは彼のプロフィールを見たとき、表情が曇っていきました。
「ラファエル」は四肢が不自由で、しゃべることもままならない障害者だったのです。
映画では説明されていませんでしたが、おそらく脳性麻痺なのでしょう。
ダヴィッドは食事介助をして、施設の女性に「立派でしたよ」と告げられます。
しかしダヴィッドは立派なんて思っていなかったのでしょう。
ダヴィッドは後のキャンプでラファエルを連れて行ってあげます。
さらにラファエルは唯一、ダヴィッド本人から「父親である」ことを知らされた人物でした。
そこにダヴィッドの優しさを感じます。
気になるのは、ラファエルがどうやってダヴィッドを訴訟したかがわからないこと。
おそらくラファエルの母親がしたのでしょうが、この映画では「母親」「育ての親」は一切姿を見せないので、ちょっともやもやしてしまいます。
~ダヴィッドの性格~
ダヴィッドは訴訟の会に参加します。会にはバーの青年、元薬物中毒の少女もいました。
そこで「ひとつだけ言わせてくれ、君たちはきょうだいだ、巡り会えたんだ」と言い、拍手で迎えられました。
ダヴィッドは人の幸せを願う男です。
そのことが真にわかったのは、妊娠した恋人であるヴァレリーを家に呼び家族で食事をしたときのことです。
お父さんが、ダヴィッドが若い頃にしてくれたことを告げます。
それはダヴィッドが「自身のお金で家族全員ぶんの航空券を買い、ホテルをも手配してくれた」というものでした。
お父さんは「山ほどの欠点を我慢できればいいやつだ」とも言っていました。
ダヴィッドが精子提供のバイトをしていたのも、家族がみんなで旅行ができるようにするためだったのです。
ダメダメな彼がみんなに愛される理由は、そういうところなのでしょう。
ダヴィッドがヴァレリーに「(若い頃に金があった理由は)秘密の花園さ」と言うのにも笑ってしまいました。
~ピアスの男~
ピアスをつけた少年は、ダヴィッドが「スターバック」であることをつきとめ、ダヴィッドの自宅で「居候」を持ちかけました。
彼は「子どもは愛の結晶として生まれるが、僕はオ〇ニーの結晶だ」と、自分の出生にコンプレックスを持っていました。高校でもいじめられていたようです。
ダヴィッドがサッカーに誘うと彼は嬉しそうに叫びますが、彼の腕前はダメダメでした。それでもダヴィッドが「悪くなかった」というあたり、やっぱり優しいです。
ダヴィッドは彼に週末にキャンプに来てくれと言われると、「今週末は本当の家族(ヴァレリー)に会うんだ」と答えます。
これに彼は「本物の家族だって?じゃあ僕は偽物だっていうのか?過去は消えても僕らは無くならないぞ。僕らは存在している、僕らも本当の家族だ!」と激昂します。
ヴァレリーとダヴィッドの子どもも、精子提供に生まれた子どももダヴィッドの家族であることは間違いありません。
このことも、ダヴィッドが最終的な決断をしたことの理由のひとつなのでしょう。
~キャンプ~
ダヴィッドはピアスの男にキャンプに連れられると、そこには「訴訟の会」の子どもたちが集まっていました。
ピアスの男は「まだ正体は言わないよ、独り占めしたいから」と言います。
みんなは楽しそうにサッカー、日光浴をしており、多彩な刺青もしていました。
さらには記念撮影もします。<みんなで「チーズ」
ダヴィッドが「豆腐を食うためだけに豆腐を作るやつは最低だ!」と言っているのは(いい意味で)ひどかったですね。
これはピアスの男がベジタリアンであることを聞いたためでしょう。豆腐が大豆からできているなんて思いもしないんだろうなあ。
青年の一人が「みんな育ての親を愛している、こういう家族が持てない人がいるのはフェアじゃないよ」と言うのもよかったです。
登場人物は多かれ少なかれ愛すべき家族がいるようですが、この映画はそうした家族を持てなかった方にも優しい目を向けています。
~裁判のゆくえ~
キャンプの様子が報じられ、「スターバック」の名は広く世間に知られるようになります。
世評やメディアはスターバックのことを悪く言っており、恋人のヴァレリーでさえ「正気でない」と答えます。
ダヴィッドを襲っていた借金取りは、ついにダヴィッドのお父さんまで襲うようになります。
ダヴィッドは金のために病院を名誉毀損で訴えることを決めます。
結果として友人の弁護士は勝訴しますが、友人は「やったぞダヴィッド!」とTVの前で言ってはいけない名前を出してしまいます。うろたえた彼が「恋人です」と言い訳をするのには大笑いでした。
友人は奥さんのいないシングルファーザーなんですね。
しかしダヴィッドの思いは揺れています。勝訴は子どもたちを裏切る行為でもあるからです。
訴訟の会のリーダーは「今回は残念な結果だったが、名乗り出るのは彼の意思だ。僕らは彼がヘンタイだなんて思っていない」と言います。
ダヴィッドを救ってくれたのは、お父さんでした。
父は昔も貧乏だったこと、子どもに十分な金をやれなかったことを後悔していたことを口にします。
そして「俺の幸せは毎日お前たちに会えることだ」と言い、お金を渡してくれました(はじめに見せたのは「10ドル」だったけど)。
さらに「お前はどこに行っても好かれるさ、子どもたちにもな」と言ってくれるのです。
この子にしてこの親あり、素敵です。
~みんなでハグ~
ダヴィッドは自分のことをTVで公表します。
そしてヴァレリーは病院で赤ちゃんを出産します。
子どもたちはみんなで病院に訪れており、そして「みんな」でハグをしました。<まるで「おしくらまんじゅう」
こんな素敵なハグは、今まで観たことがありません。
~プロポーズ~
ダヴィッドはヴァレリーに結婚してくれといい、自身がスターバックであることを告げます。
そして「伝えたい2つのこと」を言います。
①君が変われと言ったから俺は変わろうとしているんだ、君は父親見習いだって言ったが、真の父親かどうかは俺が決める!月で人間が歩いた時のように俺が人類初だ。俺には無限の幸せが見える、しかも無料のベビーシッターつきだ。
②プロポーズはごまかしじゃない
①と②の長さの違いに笑ってしまいました。
~ラスト~
子どもたちみんなが、ダヴィッドとヴァレリーの子どもにぬいぐるみや毛布をプレゼントをしてくれました。
子どもたちはつぎつぎと自分たちの「弟」を見に来ており、ダヴィッドともひとりひとりがハグをしていきました。
ピアスの男も、自身を模したようなぬいぐるみを渡し、「本当の家族を代表して、ありがとう」と言いながら抱きつきます。
最期はストリートミュージシャンのところに、家族みんながその歌を聞きにきているシーンで幕を閉じます。
~子ども~
この映画で描かれているのは「子ども」というものの尊さです。
ダヴィッドの兄は「お前も妊娠させない方がいい」と、
友人の弁護士は「子どもはブラックホールだぞ、金と時間を失ってしまうんだ」と、
ヴァレリーは「私は子どもをひっぱたいちゃうわ、私の可能性はわかりきっている」と、
ダヴィッドの周りには子どもについてネガティブなもの言いをしていました。
しかし、
友人の弁護士の子どもは父に「頑張って」というベルトを送り、
ダヴィッドの父も子どもの顔が見れることの幸せを語っていました。
そしてダヴィッドは「人生の喜びがほしい」と子どもを欲し、結果として何百人のも子どもを手にしました。
子どもたちはダヴィッドを幸せして、子どもたちもまたダヴィッドが父親であるとわかり、幸せになりました。
子どもがいることはとても嬉しく、人生の宝物であるはずです。
そして子どもは無限の可能性を持つ存在でもあります。
観たあとは、子どもが欲しくなってしょうがなくなってしまう、素晴らしい映画でした。