時空を超えてまた会おう 映画「クラウドアトラス」ネタバレなし感想+ネタバレレビュー
個人的お気に入り度:8/10
一言感想:ハリウッド大作なのに実験しすぎ(いい意味で)
あらすじ
1892年、弁護士のアダム・ユーイング(ジム・スタージェス)は拷問を受けていた奴隷の男を見ていた。
1931年、音楽家のロバート・フロビッシャー(ベン・ウィショー)はとある著名な作曲家に師事する。
1973年、女性記者のルイサ・レイ(ハル・ベリー)はエレベーターに乗り合わせた初老の男・ルーファス・シックススミス(ジェームズ・ダーシー)から思いもよらぬことを聞く。
2012年、編集者のティモシー・カベンディッシュ(ジム・ブロードベント)は、作品のヒットに喜ぶに喜べない事態に陥いってしまう。
2144年、クローン少女のソンミ451(ペ・ドゥナ)は同僚の女性にとある映画を見せてもらう。
2321年、島の男ザックリー(トム・ハンクス)は崩壊した文明で懸命に生きていた。
場所も時代も異なる6つの物語、その物語の登場人物たちは、皆どこかでつながっていた。
「マトリックス」のウォシャウスキー姉弟 と、「ラン・ローラ・ラン」のトム・ティクヴァによる最新作です。
原作はデイヴィッド・ミッチェルによる上下巻からなる大作小説です。
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この「クラウドアトラス」が特徴的なのは、時空を超えた6つの物語が展開していることです。
その6つの物語は以下のようなものです。
① 1849年 南太平洋諸島 数奇な航海物語
② 1936年 イギリス 幻の名曲の誕生秘話
③ 1973年 カリフォルニア 原子力発電所の恐るべき陰謀
④ 2012年 イギリス 平凡な編集者の類希な冒険
⑤ 2144年 ネオソウル クローン少女の革命
⑥ 2321年 ハワイ 崩壊後の地球の行方
*各タイトルはパンフレットに記載されていたものです。
物語はそれぞれ独立していながら、過去の物語は未来の物語へと影響を及ぼしています。
そして描かれるのは輪廻転生と永劫回帰。
日本人であればこのことから、漫画「火の鳥」や「百億の昼と千億の夜」を思い浮かべるでしょう。
そして、この映画版では原作から大胆な改編をしているところがチャレンジャブルです。
その改編とは、上記の①~⑥の物語を描く順番を大きく変えていることです。
<小説>
上巻:①→②→③→④→⑤→⑥と物語の「前半」が展開する
下巻:⑥→⑤→④→③→②→①と物語の「後半」が展開する
<映画版>
①~⑥全てを同時進行で描く
(ただし、タイトルが出てくるまでの描写は時間軸が前後している)
映画版は「ひとつの物語がちょっとだけ進んだと思ったら、また違う物語(時代)に飛んで、その物語がちょっとだけ進んだら、また別の物語に飛ぶ」のです。
小説版では登場人物の軌跡をじっくりと追い、映画では同時並行で描くことで視覚的に面白い編集をしているといえます。
「映画でしかできないことをやろう」という制作者の意気込みが伝わってきました。
そして物語を平行して描くことの効果は、視覚的な面白さだけにとどまりません。
この構成によって、6つの登場人物の「つながり」がわかるのです。
小説でも映画でも、過去から未来へと影響を与える「もの」がたくさん登場します。
それは本だったり、音楽だったり、神として崇める存在だったり、はたまた登場人物の行動そのものだったりします。
映画はその大胆な構成により、「もの」が物語をつなぐ「橋」としてしてより際だつようになっています。
これは本作のもっとも優れた点であるでしょう。
この構成で、自分は映画「メメント」を思い出しました。
メメントは「未来から過去に巻き戻っていく」という構成がとられた作品で、難解ながらも、その独創的なアイディアから数多くのファンを生み出しました。
メメントで「普通の時系列になおしたらわかりやすい映画だろうなあ」と思った方が多いように、クラウドアトラスも6つの物語を順番に描けばシンプル極まりない映画になると思います。
しかし、普通に順番通りに物語を描いただけでは面白くありません。
そうした凡庸さを避け、大胆な実験(構成)をしただけでも、自分はこの映画を賛美したくなるのです。
ただし、この構成は諸刃の剣でもあります。
舞台と物語があっちへこっちへ飛ぶのではじめは混乱するでしょうし、「ぶつ切れ」な印象は否めません。
「観たかった物語が突如とぎれてしまう」「6つのも物語が一緒に展開されるので、ついて行くのが大変」と、もどかしさを感じる人もいるでしょう。
ひとつひとつの物語はわかりやすいとはいえ、あまり映画を観慣れない方には到底おすすめできるものではありません。
上映時間が2時間52分というのもおすすめしにくい理由になってしまいます。
テンポがとてもよく上映時間中は飽きることはありませんし、むしろ原作をここまで圧縮していることが超絶技巧としか思えないのですが、やはりダレてしまう方も多いと思います。
しかし、映画を観慣れている映画ファンには是非劇場で観てほしい作品です。
この映画は哲学的で、とてもテクニカルで、他の映画にはない魅力があります。
その描写が示すテーマとは、物語が伝えたかったこととはなにかと、観た後に考えてみるのもよいでしょう。
自分は監督ならではオタク趣味が爆発していることも大好きでした。
「ネオソウル」の造形は「ブレードランナー」そのものですし、数々のSFアイテムは好きな人ならたまらないはずです。
もうひとつ面白いのは、役者たちがそれぞれの物語で全く違うキャラクターを演じていることです。
トム・ハンクスやハル・ベリーは全ての物語で登場していますし、3つの時代に登場するペ・ドゥナも存在感抜群。その特殊メイクでの「なりきり」具合はファンなら必見です。
その答えは公式ページのキャスト紹介かWikipedia(←どちらもネタバレ注意)で確認できるので、映画を観終わったあとに確認してみるのもよいでしょう。
ちなみに「Cloud Atlas」というタイトルは、一柳慧による楽曲「雲の表情」からつけられています。
こちら↓で聞けますが、この映画で用いられている楽曲とは印象が正反対です。
<Cloud Atlas I & III - YouTube>
一柳慧さんはあのオノ・ヨーコの最初の夫とも知られています。
本作は残念ながら本国では興行的に失敗し、TIME誌の2012年の映画ワースト1位に選ばれ、Rotten Tomatoesの評価も賛否両論と不遇の扱いを受けています。
しかし、ハマる人には最高の作品になる可能性があります。
ハリウッド大作とは思えないほど実験的な作品ですが、それを期待している人は是非劇場へ足を運んでみてください。
エンドロールがはじまってすぐにおまけがあるので、席を立たないほうがいいですよ。
予告編の出来も素晴らしいので、ぜひこちらで(ネタバレ注意)↓
<映画『クラウド アトラス』長&超 予告編【HD】 - YouTube>
(追記)本作は劇場公開時にはPG12指定でしたが、ソフト版ではR15+指定になっています。
作中の暴力&性描写の過激さを思えばR15+のほうが適当だと思います。ご注意を。
以下、結末も含めてネタバレです 鑑賞後にお読みください↓ めちゃくちゃ長いです。
~オープニング(タイトルが表示されるまで)~
いきなり6つの物語の主人公らしき人物がつぎつぎと登場するので驚きました。
⑥の主人公・島の男のザックリー(年老いている)は、「風が声を運んでくる。昔の物語を語っている。声は1つにまとまるが、ただ1つだけ違う声がある。『オールドジョージー』だ。今、悪魔の話をしよう」と言います。
①の主人公・弁護士のユーイングは『ドクター・グース』と出会い、今いる島がかつて食人族のすみかだったことを聞かされます
②の主人公・音楽家のフロビシャーは『ビビアン』の銃で自殺をしようとします。
フロビシャーは「自殺は弱虫のすることだというが、実際には大きな勇気がいる」と口にします。
③の主人公・記者のルイサは3つの疑問を自身に投げかけます。
1:『シックススミス』はなぜ私を頼ったのか
2:なぜ私の命まで狙われるのか
3:なぜ私は危険に飛び込むのか
④の主人公・編集者のカベンディッシュは「編集者としては甚だ疑問な編集だな」と口にします。
これはこの映画の構成に対しての、メタフィクション的な批判に思えます。
⑤の主人公・クローン少女のソンミは記録官から尋問を受けており、真実を語るように迫られます。
いやあ・・・この段階ではすげえ意味不明ですね。
いずれもこの後に語られる物語のどこかを「チラ見せ」しているのです。
映画を観た後に、このオープニングをもう一度観たくなります。
さて、ここからは物語ごとに書き出してみます。
オレンジで書いているのは未来へ影響する「もの」、
黄緑で書いているのは未来と「リンクしている行動」です。
~① 1849年 南太平洋諸島 数奇な航海物語~
奴隷貿易の契約に島を訪れた弁護士・ユーイングと、密航した奴隷・オトゥアの交流が描かれています。
彼は「ユーイングの航海日誌」という本を残していました→②でフロビシャーがユーイングの航海日誌を読む
オトゥアは船の出発前に鞭打ちの刑に処されており、ユーイングのことをみつめていました。
その理由は「友達は見捨てない」というものでした。オトゥアはユーイングと友情が芽生えると信じ、船内で助けを求めたのです。
ユーイングはオトゥアを水夫として認めることを船長に提案します。
オトゥアは帆を広げることで腕を認められましたが、船長は部下にオトゥアを撃てと命じます。
ユーイングは銃をとっさに別方向に向け、オトゥアは九死に一生を得ます。→⑤でソンミとヘジュが撃たれそうになることとリンク
ドクター・グースははじめはユーイングに好意的に接していましたが、実はユーイングの胸にかけている鍵を奪い、金をものにしようとしていた悪党でした。彼のモットーは「弱肉強食」です。
いたぶられているユーイングを助けてくれたのは、オトゥアでした。
ユーイングは最後に故郷にたどり着き、妻と再会します。→⑤で結ばれたソンミとヘジュを演じているのは彼らと同じ、ジム・スタージェスとペ・ドゥナである<抱き合う2人
ユーイングは奴隷解放運動に参加することを、権力者のムーアに告げました。
ムーアは「大海にしずくをひとつ落としたにすぎん」と言いますが、ユーイングは「しずくはやがて大海になります」と返します。
この格言は、マザー・テレサのことばがもとでしょう。
~② 1936年 イギリス 幻の名曲の誕生秘話~
作曲家・フロビシャーは同性愛者でした。
彼は恋人・シックススミスのもとから離れ、高名な作曲家ビビアンに師事するようになります。
しかしビビアンは高慢な性格で、フロビシャーの曲を自分のものだと偽って朋友の指揮者に披露したりしていました。
ビビアンの妻・ジョカスタは年老いたビビアンにはほとんど愛情がない様子で、ジョカスタはフロビシャーと肉体関係を持つようになりました(フロビシャーはバイセクシャルでもあるようです)→④で若き日のカベンディッシュが恋人と「ニャンニャン」していたこととリンク
ビビアンは「夢の中で聞いた旋律」を思いだそうとしますが、思い出せません。
ビビアンは「私はどぎつい色のカフェテリアにいた。地下で出口がなく、ウェイトレスがみんな同じ顔だった」夢のことを語ります→⑤でソンミが働いていた場所とリンク
実はビビアンが夢で聞いていたのは、フロビシャーが夜中にひいていた曲でした→③でルイサとレコード店員がその「クラウドアトラス六重奏」を聞く
ビビアンは「曲は2人で作ったものだ」といい、フロビシャーはまるで恋人にのようにビビアンの頬を指でなぞります。
ビビアンは笑いだし、「おまえのような青年だとわしが惹かれると思ったか?」と同性愛であることを侮辱し、「おまえが出て行くなら、おまえの半生をすべてばらしてやるぞ」と脅迫もします。
フロビシャーは出て行こうとしますが、曲を奪おうとするビビアンを誤って撃ってしまいます。
ビビアンは一命をとりとめたようですが、フロビシャーのことは新聞記事に書かれ、行き場がなくなってしまいます。
宿屋の男は、フロビシャーをかくまう代わりに、シックススミスから受け取ったベストをくれと要求します。
フロビシャーは塔でシックススミスとニアミスします。
フロビシャーは「君に気づかれなかったことは運命だった」「すべて順調だ」「別の世界が僕らを待っている、より良い世界がー、そこで君を待つ、また会おう」と思い、そしてバスタブの中で拳銃自殺をします。
フロビシャーは、自身のことばをシックススミスに手紙として送っていました→③でシックススミスは年老いた姿で登場する
フロビシャーは①のユーイングの航海日誌を読んでいましたが、本は前半部分しかありませんでした。
ユーイングはシックススミスに手紙で本を注文するように頼んでしましたが、それが達成することはありませんでした。<嘆くフロビシャー、それを読むシックススミス
実は航海日誌の後半部分は、ビビアンの屋敷の机の下で「高さの補助」として利用されていました。
ユーイングがビビアンを撃たなければ、ユーイングは航海日誌の続きを読むことができ、その後の運命も違っていたのかもしれません。
画として圧巻だったのが、フロビシャーとシックススミスが、部屋の中で陶器を投げ合うというシーンです。<陶器はゆっくりと落ちてくる
フロビシャーはこのとき、「騒音と音楽の垣根など単なる幻想だ。必ず超えることができる」と言っていました。
フロビシャーは同性愛者であるために、社会とビビアンから不当な仕打ちを受けていました。それこそが「騒音」なのでしょう。
フロビシャーは騒音の垣根を超え、自身の愛する音楽へとたどり着いたのです。
この陶器を投げ合うのは、「恋人とともに、自分を苦しめたものから解放された」ことを示しているように思えるのです。
~③ 1973年 カリフォルニア 原子力発電所の恐るべき陰謀~
女性記者のルイサは、物理学者のシックススミスと故障したエレベーターに乗り合わせます。
シックススミスはルイサの肩にほうき星のようなアザがあるのを見て、「それと同じアザを見たことがある。私の大切な人だ」と言います。
言わずもがな、ほうき星のアザのある人=大切な人とはフロビシャーのことでしょう。
6つの物語の主人公たちはそれぞれ、ほうき星のアザを持っていたようです。
シックススミスは重要な情報をルイサに渡すよう連絡しますが、その矢先に刺客に殺されてしまいます。
ルイサは発電所の研究員のアイザックと出会います。
アイザックは一目見て「前世で会ったことがある、それも深く愛し合っていた」ことを確信します。
敵が狙っているのは「原子力発電所の事故をわざと起こす」という恐ろしいものでした。
アイザック博士は「昨日まで歩いてきた人生が、今日、別の方向に向かう」と言っていましが、飛行機を爆破されて殺されてしまいます。
ルイサもまた、車をぶつけられ、水の中に車ごと落ちてしまいます→⑤でヘジュがトンネルを爆破し、水が流れてくることとリンク
命辛々車から抜け出したルイサはアパートに戻り、友達の少年ハビエルに「明日警察に伝えるわ」と言います。
推理小説が大好きなハビエルは、これに「それ、推理小説だったら殺される台詞だよ」と言います→④でカベンディッシュが列車の中に持ち込んでいた原稿は「ルイサ・レイの謎 ハビエル著」だった
ルイサは部屋に潜んでいた、父のかつての仲間ネピアとともに刺客に報復をしようとします。
カーチェイスと銃撃戦の果てに、刺客は「クソ移民め」と侮辱した女性に殴られて倒されました。
ちなみにこの女性を演じたのはペ・ドゥナだったりします。
ルイサはシックススミスの姪であるメーガンと出会います。
彼女は「物理学者だけど、愛を信じている」叔父をしたっていました。
シックスミスは唯一2つの物語をまたいで登場する人物です。
殺されてしまったシックススミスですが、偶然(運命?)からルイサと出会い、原子力発電所の陰謀をくい止めることができたのです。
そして、ルイサもまた、シックススミスの死体の下に見つけた、フロビシャーからの手紙を読んでいました。
ルイサは「なぜ人は同じ過ちを犯すのか、何度も何度も」と言いました。
その答えは映画の中では明示されず、⑤では愚かしい人間の行動を、⑥では「欲望」により文明が崩壊した地球が描かれることになります。
~④ 2012年 イギリス 平凡な編集者の類希な冒険~
カベンディッシュは作家のダーモットに手を焼いていたようでした。
ダーモットはパーティ会場で、自分の作品「顔面パンチ」を酷評した書評家をビルから投げて殺します。
当然ダーモットは刑務所行きになりましたが、皮肉にもそのために「顔面パンチ」は飛ぶように売れ、カベンディッシュはウハウハ状態になりました。
しかしカベンディッシュのもとに、ダーモットの3人の舎弟が来訪します。
5万ポンドを現金で払えと脅されたカベンディッシュは、頼れるものに電話をかけまくりますが、相手にしてもらえません(あまつさえ偽物を売りつけようとする)。
カベンディッシュは弟を頼り、弟は「妻のこともあり」なんとかしようとします。実は、弟の妻とカベンディッシュは、浮気をしていたのです。
カベンディッシュはかつての恋人のところに寄ろうかどうかを迷いますが、結局は「弟がすすめた宿泊施設」に泊まります。
しかし・・そこは老人を監獄のように収容し、出られないようにする施設でした。
カベンディッシュは、施設の仲間とともに脱出をしようとします。
作戦が実り脱出することができましたが、訪れたバーにも追っ手が迫ってきました。
少し前までは「そうとも(I know)」しか言わなかったミークスさんは、放送中のイングランドVSスコットランドのサッカーの試合にのっとり、「助けてくれ、私たちは不法な仕打ちを受けている、こいつらはイングランド人だ!スコットランド人の力を見せてやれ!」と言い、皆をたきつけます。
施設の追っ手は一掃され、恐ろしい看護婦ノークスも樽を頭にぶつけられてしまうのでした(樽の内容物があふれてまるで顔がつぶれたように・・・)。
最後に、カベンディッシュはかつての恋人のところに行き、そして幸せを成就できたようです。
唯一コメディのように描かれた話でしたが、カベンディッシュは一番ストレートに幸せになった人物のように思えます。
カベンディッシュは「ソルジェニーツィンのように孤独では無くなった」と言いました。
ソルジェニーツィンとは、スターリンを批判した罪で収容所に入れられ、国外追放もされた作家です→⑤でもソルジェニーツィンは禁書となっている
カベンディッシュは「ソイレント・グリーンの原料は人間だ!」と言っていました。
これは自在する映画ソイレント・グリーンに登場したことばです。
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この台詞は、⑤のクローンたちが「年季明け」になったあとに行き着く先のことを暗示しています
彼の物語は、のちに「カベンディッシュの災難」として映画化されたたようです→⑤でソンミと同僚のユナがその映画の1シーンだけを観る
カベンディッシュが施設に収容されると知った時の台詞「これは不当な監禁にあたる行為だ!犯罪者の餌食にはならんぞ!」が、ソンミとユナの運命を変えることになります。
~⑤ 2144年 ネオソウル クローン少女の革命~
少女ソンミはいつまでも同じルーティンの「カフェの給仕係」でした。
彼女の名前の由来はソンミ村虐殺事件のようです。
クローンである彼女は「複製種」、普通の人間は「純血種」と呼ばれ、不当な差別と監禁を強いられていました。

客から性的な嫌がらせを受ける同僚ユナは客に危害を加えてしまいます。
ユナは映画で見た「犯罪者の餌食にはならんぞ」ということばどおりに逃げようとしますが、頚動脈につけられた首輪により殺されてしまいます。
後にソンミのもとに、ヘジュという青年が訪れます。
上司のリーは、「ソープ」と呼ばれる飲み物の過剰摂取のために死んでしまったようです。
ヘジュはソンミを連れ出し、動画チップが壊れていて1シーンしか観れなかった映画「カベンディッシュの災難」を観せてくれました。
その後追っ手に追われ、誤ってヘジュは落ちてしまいます。
野暮なことつっこむけど、あの「簡易橋」をつくる道具、手すりぐらいつけとけと思いました。そりゃ落ちるよ。
死んだかに思われたヘジュでしたが、彼は武装兵に変装し、ソンミをまたも連れ出すことに成功します。

ソンミは、街で売春婦となった自分も見ることになります。

逃亡劇の末、ソンミはアピスという将軍に出会います。
指導者になって欲しいと頼むアピスに対して、はじめは拒否をするソンミでしたが、その考えは変わることになります。
ソンミは「年季明け」になった仲間は新しい世界に旅立ったものと信じていました。
しかし、ソンミは彼女たちがすぐに殺され、タンパク源に還元され、またもクローンが作られるというおぞましい「リサイクル工場」が営まれていることを知るのです。
「ソープ」の原料は、クローンたちでした。
彼女たちは「共食い」をさせられていたのです→⑥で食人族「コナ族」がはびこるようになる
ソープの由来は都市伝説である「人間石鹼」からでしょう。
ソンミとヘジュは愛し合い、ソンミは革命に乗り出します。
しかしそれには多くの犠牲が伴い、ヘジュも死に、ソンミはまたも捕えられてしまいます。
記録官はソンミに「君は負け戦だと知っていた、なぜそれでも戦った」と聞きます。
ソンミは「そのことで誰かが事実を知った」と言い、記録官は「誰も信じなかったら?」とまた聞きます。
ソンミはこれに「もう、誰かは信じている」と答えます。
ソンミはそうして、処刑をされました。
ソンミは⑥で崩壊後の人間に神として崇められる存在になっていました。
⑥の主人公ザックリーはそのことを知らず、異国の女性メロニムに事実を教えられます。
~⑥ 2321年 ハワイ 崩壊後の地球の行方~
ザックリーは、オールドジョージーという悪魔のような存在に幾度も囁かされていました。
ザックリーはそのことばに従い、その結果妹の夫と、その息子がコナ族に殺されていまいます。
そんな彼の元に訪れたのは、異国プレシエントの女性メロニムでした。
メロニムはカサゴの毒によって膨れ上がった姪の足を治し、その引き換えとしてザックリーは「道案内」をすることになります。
メロニムは遺跡でソンミにまつわる真実を告げます。
ザックリーはオールドジョージーのことばどおり、それを信じようとはしませんでしたが、そそのかされてメロニムを殺すことは思いとどまります。
メロニムは、「別の星」にSOSを送ったようです。
その間、村はコナ族の襲撃を受けており、壊滅していまいました。
いままでは村の指導者・アベスの「橋の下に隠れろ」「ロープを離すな」という予言に従ったザックリーでしたが、このときは「敵の寝首をかくな」という予言に背いてしまいます。
ザックリーは隠れて生きている姪を見つけますが、敵を殺したおかげで追っ手に気づかれてしまいます。
逃げた先にはメロニムがいて、助けてくれました。
メロニムが負傷するも、敵を全て葬り去ることができました。
戦いが終わったあと、ザックリーと姪はメロニムの船に乗りプレシエントの国に行くことを決めます。
ザックリーは「本当に空から助けてくれると思っているのか?ノミほどの希望しかないぞ」と言い、これにメロニムは「ノミはしぶといわよ」と答えます。

そして・・・年老いたザックリーが子どもたちに聞かせた「昔話」をお開きにするシーンが描かれます。
ザックリーは子どもに「地球はどれ?」と聞かれ、「あの青くてキラキラ光る星だよ」と言いました。
メロニムが言ったとおり、空からの助けがあり、彼らは別の惑星に移住することができたのです。
ザックリーが「おばあちゃん(メロニム)は私に訪れた奇跡だよ」と言い、そして夜空にほうき星が見えたシーンで、映画は幕を閉じます。
エンドロールでは、役者がどのキャラクターを演じていたかという「答え合わせ」をしてくれました。
~変わった人~
トム・ハンクス演じるキャラクターは時代それぞれで「善人と悪人を行ったり来たり」しています。
①ヘンリー・グース医師(悪人)
②安ホテルの支配人(悪人)
③アイザック・サックス博士(善人)
④作家ダーモット(悪人)
⑤映画の中のティモシー・カベンディッシュ(善人か悪人かは不明)
⑥ヴァリーズマン・ザックリー(悪と善を合わせ持つ)

①グースは悪に生まれつきましたが、③アイザック博士は善人となりました。
⑥ザックリーは「悪魔にそそのかされていた男」であり、悪しき心=オールドジョージーに打ち勝ち、愛を手に入れた人物です。
それには③でのルイサとの関係、そして⑥のメロニムのことが大きく関係しているのでしょう。
対してヒューゴ・ウィーヴィングが演じるキャラクターはずっと悪役ばかりです。
①ハスケル・ムーア(悪人)
②指揮者ケッセルリング(たぶん悪人)
③殺し屋ビル・スモーク(悪人)
④ノークス看護婦(悪人、ていうか女性かよ!)
⑤メフィー評議員(悪人)
⑥オールド・ジョージー(悪そのもの)

愛している(愛されている)人がいるか、いないか。
そのことが、トム・ハンクス演じるキャラクターと、ヒューゴ・ウィーヴィングが演じるキャラクターの性格と運命をわけたのでしょう。
ヒュー・グラント演じるキャラクターも同じく、⑥のコナ族の首領など、悪役ばかりです。
あと、⑤での闇医者がハル・ベリーだったことに笑いました。



もはや悪意すら感じますね。
~ループしている?~
本作の時系列は各年代が示す通り、①→②→③→④→⑤→⑥となっているように思えますが、本当にそれだけでしょうか。
自分はさらに⑥→①へと永遠に循環している構図が思い浮かぶのです。
根拠は、オープニングで①のドクター・グースが言った「今いる島がかつて食人族のすみかだった」という台詞、
そして、③のアイザックがルイサに言った「君とは前世で会ったことがある、しかも深く愛し合っていた」という台詞です。
食人族とは、⑥で登場したコナ族のこと、
前世とは、⑥でのザックリーとメロニムの関係のことなのではないでしょうか。
また、①の主人公アダム・ユーイングと、⑥で殺されたザックリーの妹の夫の名はともに「アダム」です。
それは最初の人間である「アダムとイヴ」を示している名でしょう。
そう考えると、遠い未来だと考えられていた⑥地球崩壊後の物語が、実は過去のものであると思えるのです。
これもまた、漫画「火の鳥」を思わせることです。
~時空を超えて~
⑤でソンミはこう言っていました。
「命は自分のものではない、子宮から墓まで、人は他者とつながる
過去も現在も、すべての罪が、あらゆる善意が、未来を作る」
ソンミは人の命が尽きようとも、その罪と善意は他者へ影響を及ぼし、そして未来へと受け継がれると宣っているのです。
これは他の時代のキャラクターが言ったことや、行動にもあてはまります。
①でユーイングの言った「しずくはやがて大海になる」、
②で自殺をするはずのフロビシャーが言った「全て順調だ」、
③でルイサが言った「人はなぜ同じ過ちを繰り返すのか」、
④でカベンディッシュが映画として自分のことばを残したこと、
⑤でソンミが革命を起して真実を知らせたこと、
⑥でザックリーがメロニムを導いたこと、
それぞれ、善意と罪が、のちの物語に影響、または暗示をしているのです。
そしてこれは自分の手で運命を変えた者たちの物語でもあります。
罪は人間の欲望がある限り何度も繰り返すことかもしれません。
しかし、善意が行われれば、よりよい未来が創造できるかもしれません。
その善意に必要なものは、「愛」。
この作品は、幾重にも重なり合った6つの物語で、そのことを示してくれるのです。
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ソープの綴りがわからなかったのですが、これってひょっとするとナチスの人間石鹸の翻案でしょうかね。
選民思想といい、監禁といい、それらのセンテンスがどことなく透けて見えるのです。
> 「敵の寝首をかくな」という予言に背く
ザックリーがソンミ崇拝から解けたことを示唆していると思われます。
つまりメロニムを信用するという立場に移ったという。
故にオールド・ジョージの声も弱まった、と。
> ループしている?
そうだと思います。
2321年にザックリー(トム・ハンクス)が見殺しにしてしまったのがアダム(ジム・スタージェス)。
1849年にグース(トム・ハンクス)が狙ったのが、これまたアダム(ジム・スタージェス)。
崩壊後の世界の先でループする年単位の話といえば、思い起こされるのがゼーガー&エバンスのフォークソング「西暦2525年」です。
以下、9~10番歌詞の和訳。
「10億もの涙を流し、理解できようはずもないことの為に人の時代は終焉を迎える。しかし永久に続く闇の先、遠く遠くに輝く明星。それはきっと昨日のこと。」
> 人は他者とつながる。過去も現在も…
メタネタで捉えると、①ラストの奴隷解放運動は4月公開予定の『リンカーン』に繋がるという見方も。
> ソープの綴りがわからなかったのですが、これってひょっとするとナチスの人間石鹸の翻案でしょうかね。
> 選民思想といい、監禁といい、それらのセンテンスがどことなく透けて見えるのです。
はじめて知りましたが、こんな都市伝説があったのですね・・・追記します。
> > ループしている?
>
> そうだと思います。
> 2321年にザックリー(トム・ハンクス)が見殺しにしてしまったのがアダム(ジム・スタージェス)。
> 1849年にグース(トム・ハンクス)が狙ったのが、これまたアダム(ジム・スタージェス)。
どちらも「アダム」なんですよね。
「アダムとイヴ」を示しているのなら、やはり過去の物語のように思えます。
> 「10億もの涙を流し、理解できようはずもないことの為に人の時代は終焉を迎える。しかし永久に続く闇の先、遠く遠くに輝く明星。それはきっと昨日のこと。」
このような歌詞の曲があったのですね・・・
この作品にはいろいろな元ネタがありそうです。
> メタネタで捉えると、①ラストの奴隷解放運動は4月公開予定の『リンカーン』に繋がるという見方も。
あれは思い切りリンカーンを意識した話だと思います。
ご意見ありがとうございました。
目から鱗な見解です。
確かにそれなら冒頭の「食人種の島だった~」の件に納得がいきますね
そして、なんだか虚しさも感じますね
この映画の主人公の中でも特に胸が痛くなる
バッドエンドを迎えたフロビシャーがそれでも
「何もかも順調だ。ノイズとサウンドを隔てている因習はいずれ乗り越えられる」
と信じていましたが
やはり人は「同じことを繰り返す」のか、
「悲しい因果からは抜けられないのか」・・・と感じてしまいます
同じ役者さんが何役もやっているのも手塚治虫のスターシステムみたいで面白いです
(火の鳥ではほとんどスターシステムは使われていませんが)
エンドロールでこんなにびっくりしたのは初めてですw
> そして、なんだか虚しさも感じますね
> この映画の主人公の中でも特に胸が痛くなる
> バッドエンドを迎えたフロビシャーがそれでも
> 「何もかも順調だ。ノイズとサウンドを隔てている因習はいずれ乗り越えられる」
> と信じていましたが
> やはり人は「同じことを繰り返す」のか、
> 「悲しい因果からは抜けられないのか」・・・と感じてしまいます
そうですよね、登場人物の全てがハッピーになったわけでもなく、人間が罪を犯すということからは逃れられていないので・・・そう考えると、悲しいです。
> 同じ役者さんが何役もやっているのも手塚治虫のスターシステムみたいで面白いです
そういえば確かにそれも手塚治虫っぽい!
火の鳥の「我王」は、この映画のキャラクターと似た存在に思えます。
一時期、離れていたのですが「みんなのシネマレビュー」に、最近また投稿し始めました。この名前ではないですが、次は「みんなのシネマレビュー」で会いましょう。ばいばい。
特に2144年のネオ・ソウルは、「生々しくした999」という印象を受けました。
ところでヒナタカさんはあまりパンフレットを買わないそうですが、本作のパンフは買った方がいいです。
私は基本的にパンフを買うタイプなのですが、ここ数年の中で本当に満足のいく映画パンフだったと感じています。
中でも興味深い解説記事だったのが1936年フロビシャーに関する話で、これのモデルはエリック・フェンビー(Eric Fenby, 1906~1997)ではないかというもの。梅毒患者の作曲家フレデリック・ディーリアスの手足となり採譜をしていたのですが、ディーリアスはニーチェ信奉者。ここで本作の「永劫回帰」と繋がるのだそうです。
私のブログでも映画の感想記事は書きましたが、パンフを熟読した上で、パンフへの感想記事を改めて書こうかと思っているところです。
ところでネオ・ソウルのチャンの部屋に、日本の落語『書割盗人』を彷彿しました。
映画でカキワリと言えば背景画のこと。ここにも何かの隠喩が込められているのかと思ってみたり。
> 中でも興味深い解説記事だったのが1936年フロビシャーに関する話で、これのモデルはエリック・フェンビー(Eric Fenby, 1906~1997)ではないかというもの。梅毒患者の作曲家フレデリック・ディーリアスの手足となり採譜をしていたのですが、ディーリアスはニーチェ信奉者。ここで本作の「永劫回帰」と繋がるのだそうです。
このあたり深いですね・・作中のアイテムひとつひとつに意味がありそうな作品です。
まさに「火の鳥」というのがぴったり来る内容でしたね。トムハンクスが猿田彦的役どころでしょうか?
ただ、重要なメッセージを語るのが、悲劇的な運命を背負っているソンミやフロビシャーだったのが印象的でした。
エンドロールで流れる各キャストの役紹介も「え?あれもそうだったんだ」というものがあって楽しかったですね。
長尺を全く感じさせないテンポの良さを感じました。時系列に並べずにあっちこっちに飛ばせたことが良い方に転んだと個人的には思います。
とても面白くて、ソンミ様が刑務所を脱出するシーンは、ワクワクドキドキしました。
今まで見た映画で、1番面白いなと思いました。
あと、英語の勉強にもなりました。
見てない方は、是非映画館で見てほしいです。
> 長尺を全く感じさせないテンポの良さを感じました。時系列に並べずにあっちこっちに飛ばせたことが良い方に転んだと個人的には思います。
これを時系列どうりに並べたらおそらく凡庸な作品になってしまうんだろうな、と思えます。
この編集の技工には唸らされます。
>私は15歳です。
PG12指定ではちょっと甘いと思われるシーンがあったので、ちょっと心配してしまいます(人がビルから落ちてグシャッとなるあたりとか)。
同監督の「マトリックス」もおすすめですよ。
とっても!!面白かったです~!!
レビュー読んで、ずっと観たかったんですよね。色んな良質な映画を一本で観れた感じです。お得~(*´∇`*)
カゲヒナタさんのブログのおかげでまた、良い映画に出会えました。
ありがとうございます☆
本当お得な映画ですよね。
最近は毎日クラウド・アトラスのメインテーマを聞いています。記録より記憶に残る映画という感じでした。
捉え方は人それぞれでいいと思いますが、明らか意図していると思われているところの解釈が乖離し過ぎていて、しばしば興醒めしました。
言うが易し。。。