生きている人だけでも・・・ 映画「回路」ネタバレなし感想+作中の設定
監督は黒沢清。ホラー作品を多く手がけ、国外でも高く評価されている方です。
本日は黒沢清監督の代表作である「回路」(制作:2001年)をご紹介します。
![]() | 加藤晴彦 3242円 powered by yasuikamo |
個人的お気に入り度:7/10
一言感想:わかりやすいけど、わかりにくい
あらすじ
フラワーショップで働くミチ(麻生久美子)は同僚の突然の自殺を目撃する。
それから彼女の周りでは常軌を逸した出来事が続くようになり・・・
一方、大学生の亮介(加藤晴彦)は自宅でインターネットをはじめようとするが、なぜか不気味なサイトにアクセスしてしまい、「幽霊に会いたいですか?」というメッセージを見る。
亮介は同じ大学の研究生の春江(小雪)に相談するのだが・・・
ジメジメして、暗くて、恐ろしい、日本のホラーらしい作品に仕上がっていました。
この映画には「突然のドンッという大きい音で驚かせる」演出は全く存在しません。
恐怖を煽るのは、いつの間にか画面内に見える幽霊や「異質」なものなのです。
そしてこの映画の真の特徴は、恐ろしいくらいに賛否両論であることです。
たとえば「みんなのシネマレビュー」の点数配置はこんな感じです。

その賛否両論度は「キル・ビル」「リリィ・シュシュのすべて」「ダンサーインザダーク」にひけをとらないほどです。
なぜ好き嫌いが分かれるのか?次のことが理由にあると思います。
①意味不明
②発想が突飛
③登場人物の台詞がわざとらしい(これはわりとひどい)
④展開が若干ご都合主義っぽい
⑤若干スローテンポ
まあ、①のせいだよね。
本当に難解、というかあえて多くを説明せず、観る人の不安を煽っていると言えます。
なにせ、もっとも根本的な「理由」がわからないのです。
「なぜ幽霊が現れるようになったのか?」は作中で示されるものの、「何故人が消える(死ぬ)のか?」は説明がされません。
さらに作中で「幽霊は人を殺さない」と説明されるも、幽霊は人を思い切り「誘って」いるようにも思えます。
この「矛盾」「破綻」にも思える設定が、むしろ効果的なのです。
「未知」の恐怖を描いている作品と言えるでしょう。
そんなわかりにくい設定の代わりに、テーマは明確です。
本作は「孤独」と「人のつながり」について描いています。
主人公は人々が消えていく状況の中、どういう行動をしたか。
幽霊は何を怖がっているか。
なぜ人がいなくなるのか。
なぜ主人公は消えずにいれるのか。
それを考えてみると、よりテーマがはっきり見えてくるでしょう。
個人的にはこういう哲学的な作風、終末感の漂う世界観は大好きなのでかなり気に入りましたが、およそスタンダードなホラーを期待する人には全くおすすめできません。
これはデヴィッド・リンチだとかデヴィッド・クローネンバーグだとかアレハンドロ・ホドロフスキーだとかのおよそ万人向けでない映画を好む方にこそ観てほしいです(作風はそれぞれ異なりますが)。
以下はほんの少しだけネタバレで、設定を紹介しています↓ 核心部分には触れていません。
キーワードその1:死者からの呼び声
本作では「あちらの世界の幽霊が、こちらの世界に溢れ出ている」という設定になっています。
そして、こちらの世界に出てきた幽霊は、生きている者に近づこうとします。<インターネット上で、「幽霊に会いたいですか」と聞く
<電話からは「助けて」の声
<不気味によろけながら近づく幽霊
なぜ生きている者に助けを求め、また襲うのか?
その理由は作中では示されません。
おそらく(恐怖感が薄れてしまうかもしれないので反転)「幽霊たちは永遠の孤独を感じているため、誰かを引き寄せたかった」のでしょうが・・・
キーワードその2:消えていく人々
作中で生きている者たちは自殺をするか、または「黒い染み」になって消えていきます。<人がこうして消えることも・・・
なぜ人が「自殺」「黒い染みになる」の二通りで消えるのか。
その理由も、作中では示されません。
キーワードその3:あかずの扉
インターネット上では、幽霊に会いたいかを聞くだけでなく、「あかずの扉の作り方」も出回るようになります。
あかずの扉とは、幽霊をこの世に呼び出すための装置です。
それはごく簡単なもので出来てしまいます。なにせ・・・<テープを借りて
<扉に貼れば
<幽霊が来ちゃうのですから
簡単すぎるだろ。
しかしこれだけのきっかけで幽霊がこの世にはびこり、人々が消えていったこともまた恐ろしく思います。
また「あかず」とひらがなになっていることも意味深です。
「開かない」のではなく、「空かない(空きがない)」を示しているように思えます。
キーワードその4:回路
物語のいちばんはじめ、失踪した同僚が部屋にいる姿がパソコン上に映し出されます。
その画像のパソコンの画面をよく見てみると、その部屋と同じものが写っていたのです。<同じものが・・・
このその場そのものを映している画面も、終盤にもう一度登場します。
それは「自分自身を見つめる」ことを示しているのでしょう。
キーワードその5:主人公の行動
本作に登場する2人の主人公は、ともに他者を救いたいと、他者とつながりたいと思っていた人物です。
これは幽霊が、自分勝手に生きている者を引きずりこもうとしていることと相反しています。
さらに作中では、死者になると孤独になり、そこから永遠に抜け出すことができないことも示されます。
ならば、生きている人にだけでも、何かをしてあげることが必要なのではないか。
そんなメッセージを感じるのです。
しかし作中では「本当はつながってなんかいない、みんなバラバラに生きている」「人が困っているときは、何もしないのがいちばんいいことがある」という、このメッセージとは違うことばも投げかけられます。
人それぞれが「つながり」について考えるべきなのでしょう。
そんなキーワードを拾うだけで難解で万人向けじゃない「回路」ですが、さらに「リアル 完全なる首長竜の日」は試写会の評価が散々な感じになっています。
<リアル 完全なる首長竜の日 ユーザーレビュー - Yahoo!映画>(一番上のレビューは結末までネタバレしているので注意)
5月上旬現在、10人中8人が最低評価という異常事態。大丈夫かこれ。
そんなわけで「リアル」を観ようと思っている方は、「回路」で「監督の作風はこうなんだ」と免疫をつけておくことをオススメします。
オススメレビュー↓
<なぜ人は幽霊を怖がるのか?『回路』 - くりごはんが嫌い>(ネタバレ注意)
<回路 - みんなのシネマレビュー>(ネタバレ注意)