妄想は現実を超える「中学生円山」ネタバレなし感想+ネタバレレビュー
個人的お気に入り度:7/10
一言感想:宮藤官九郎のやりたい放題かよ!
あらすじ
中学生の円山克也(平岡拓真)は、ある目的のために、柔軟な体を手に入れるための「自主トレ」に励んでいた。
ある日、彼の住む団地にシングルファーザーの下井辰夫(草なぎ剛)が引っ越してくる。
円山は下井が近所で起こった殺人事件の犯人であると思い込むようになり・・・
なんだこれ。
いやー予告編から変な映画だろうと思っていた方、ご安心ください。中身はもっと変な映画でした。
監督・脚本は宮藤官九郎(以下クドカン)。現在朝の連続ドラマ「あまちゃん」の脚本も担当しています。
クドカンの書く脚本は良くも悪くも「変」で、「あまちゃん」で「変なキャラだなあ」「変なシチュエーションだなあ」と感じたらだいたいこいつのせいと考えて差し支えないでしょう。
本作では脚本どころか監督も担っているので、まさにやりたい放題です。
中学生の妄想が、エキセントリックな映像として流れるという設定がすでにキテいます。
変なキャラが、変な台詞を、変なシチュエーションで監督の思うがままに団地を駆けめぐる、超絶変態チックな映画になっていました。
これはタランティーノが「キル・ビル」を、ザック・スナイダーが「エンジェル ウォーズ」を撮ったのと同じ「監督が作りたい映画をマジで自分が好きなように作った」作品なのです。
そしてそんなくだらねー(ほめ言葉)物語のために集まった豪華キャストもとってもよいです。
草なぎ剛のキャラのつかめなさは最強にはまっているし、主人公・中学生円山を演じた平岡拓真もこの上のない好演です。
草なぎ剛の自転車に乗るのが下手な演技が上手すぎて感動するレベルでした。
個人的には主人公の母親役の坂井真紀のコメディエンヌぶりも大好きでした。
彼女が繰り広げる「韓流」ギャグは、この映画で一番のお気に入りです。
そして音楽も素晴らしい!
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作曲者は同じくクドカン監督&脚本の「少年メリケンサック」の音楽も手がけた向井秀徳さん。
摩訶不思議な世界観にこの上なくマッチしていました。
本作の「平凡な人間がアメコミチックなヒーローに憧れる」という設定は「キックアス」「スーパー」を思わせます(監督自身も影響があったと認めています)
そして、意外と(とは言っては失礼なほどの)メッセージ性もあったりします。
本作で描かれる妄想により、主人公はどう成長したか、団地で起こった殺人事件の顛末はどうなったか・・・
映画を観終わってみると、いろいろと考えてしまう要素がたっぷりなのです。
ただ、この内容で1時間59分はちょっと長いです。
殺人事件はそれほど物語を牽引せず、変な登場人物がひたすら(妄想の中で)変なことをする映画なので、この空気は人によっては「もういいよ」な状態になってしまうような気がします。
ギャグシーン(若干下品)は劇場の反応を見る限り「笑い:どん引き=4:6」という感じで、笑うより先に引いてしまうというウケてんだかスベッんだかよくわからない塩梅でした。
そんなわけで映画にリアリティを求める方、クドカン特有のエキセントリックな台詞回しやキャラクターが苦手な方には「中学生円山」は全くオススメできません。
デートではなく、下品なギャグで笑うことができる友達同士で観たほうが良いでしょう。
しかし、アメコミヒーローが好きな方、思春期特有の中二病くささにシンパシーを感じる方、クドカンの「おふざけ具合」を許せる方にはハマッてしまう魅力があるはずです。
予備知識がないほうが楽しめる映画かと思いますが、「子連れ狼」を知っておくとより楽しめるかもしれません。
そうそう、もうひとつすばらしい要素があります。それは美女&美少女の映し方が大変エロいこと。
とくに刈谷友衣子さんがプールでウッフアハハするシーンは美少女好きな人にはたまらないと思いますよ。
↓以下、結末も含めて盛大にネタバレです 鑑賞後にご覧ください
作中のキャラ:妄想の中のキャラごとに書いてみます。
~パク・ヒョンホン:処刑人プルコギ(ヤン・イクチュン)~
彼は元韓国の俳優ですが、今は日本の電気店のスタッフとして働いています。
主人公の母親は「恋するチャンジャ」というドラマに出演していたパクのファンで、パクが部屋に訪れたその日から毎日のように電化製品が壊れたと言い、誘惑します。
面白かったのが
・ドラマが「あなたの作ってくれたチャンジャのおかげで記憶が戻ったの!」という安い展開を見せる
・下井と井上のおじいのウザい訪問を2回受けた後に、電気店の上司がインターホンを鳴らしてドラマが中断されたので母親は「殺す」とつぶやく
・母親は止まった画面と、その場にいるパクの顔を交互にガン見
・母親は韓国語でパクに話しかけるけど、結局2つしか覚えられなかった(彼が韓国語で語った悲しい過去も理解できてないだろ)
・パクの気を引くために冷蔵庫を思い切り倒して「冷蔵庫が壊れたんです!」と言う
・坂井真紀の服がどんどんセクシーになっていく
驚いたのが、パクが「韓国の俳優は日本で人気がでたら韓国では叩かれる」と言ったこと。
本作でヤン・イクチュンさんが本当に叩かれることがないように祈ります。
妄想の中では、彼は「子連れ狼」に兄弟を殺され、復習のために団地に訪れたというキャラクターになっていました。<処刑人プルコギ
「安心とまごころのアフターサービス、東亜電気です!」とか言いながら電気ドリルを回すのはある意味怖いなあ。
お母さんとパクは最後にベッドイン寸前になっていましたが、上司が復帰したため関係が途絶えます。
夫が浮気現場を知ることがなくてよかったです。近所には「よく電化製品が壊れちゃって」って言ってたけど(気づくだろ)。
~井上のおじい:認知症のデスペラード(遠藤賢司)~
まわりからは認知症と思われていたおじいちゃんですが、実は元ミュージシャンです。
バンドからギターを奪い取り、ドラムにも乗って華麗な演奏と歌声を披露します。<ロックだぜ!
おじいが徘徊を繰り返していたのも、ミュージシャンだったころの記憶が残っていたからなのでしょう。
主人公の妹・あかねはその演奏にほれこみ、同級生のひかりちゃんが二股をしていることに対抗して、おじいちゃんを彼氏にしたいと言います。
おじいちゃんの返事は「よかろう」で、おじいちゃんはこの後に質屋に行って指輪を売り、中古のギターを手にしました。
妄想の中でのおじいちゃんは、ギターを片手にアパートの住人にも問答無用で発砲するアウトローなヒーローになっていました。<認知症のデスペラード
元ネタはロバート・ロドリゲス監督の「エル・マリアッチ」ですね。
タイトルを4回もしつこく出すのに笑いました。
最後に、あかねはおじいに「家族に彼氏ができたことを言ったけど、早すぎるって言われちゃった」と言います。
おじいは「わしはもう遅すぎると言われた」と返します。
あかねは、おじいのほっぺにキスをします。
おじいはあかねに「はじめてか」と聞き、あかねは「うん」と、
あかねは「おじいちゃんは?」と聞き返し、おじいちゃんは「たぶんわしは最後だ」と言います。
あかねとおじいちゃんは手を繋いで歩き出します。
あかねは「また散歩をしよう、1人だと徘徊だけど、2人だとデートだもんね」と言います。
あかねとおじいは、それぞれ人生がこれからはじまるものと、これから終わりを迎える者です。
そんな相対的な2人のラブストーリーは、なんともいじらしく思います。
~なんか上に住んでるデブ:ゴールドイッシュマン(皆川猿時)~
ゴミの分別を守らないどころか、原付で危うく記者をひきそうになったり、原付をはみ出して停めていることにも「かっこいいだろうが」と肯定するくされデブでした。
妄想の中では、なんだかよくわからない悪役キャラでした。<ゴールドイッシュマン
下井に「なんか上の階ににデブがいたよね~」と言われた上、妄想の中で適当に戦わされて「なんかよくわかんなくなっちゃった」と言われる不遇のキャラでした。ご愁傷様です。
~自治会のお姉さん:MISSセキュリティ(宍戸美和子)~
下井にしつこく「監視カメラをもっと設置してください」と言われていました。
彼女は監視カメラにカモフラージュし、サイズは小さく、4人に増えて「認知症のデスペラード」に戦いを挑みます。<MISSセキュリティ
一人だけ妊娠している「MISSマタニティ」がいたり、デスペラードにレーザーを当てられて「熱い!あ、あんまり熱くない」とか言っているのに笑いました。
~円山克之:キャプテンフルーツ(仲村トオル)~
お父さんは息子に理解があるも、送られてきた「アダルト」とだけ書かれていたDVDには興味SINSIN☆だったようです。
彼は「9時5時戦士(9時に出社して5時には必ず帰るから)キャプテンフルーツ」として団地の平和を守り始めます。<キャプテンフルーツ
さらに家族も「MAMAマンゴー」「あかねBelly」として参戦。
みんながヒーローに変身している中、主人公だけは普通に「中学生」で不憫でした。
ちなみにキャプテンフルーツの必殺技は「デコポン」です。
なんででデコポンやねん。
お父さんは家族を大切に思っており、息子が(妄想の中で)パンツ一丁で踊っているのをDVDで観たあと、息子を抱きかかえ「父さんは何があってもお前の味方だからな」と言います。これもどこか滑稽で笑っちゃうんだけどね。
~下井辰夫:子連れ狼(草彅剛)~
彼はおっちょこいちょいで、頼りなく、ゴミの分別に厳しく、それでいて正体が知れない男でした。
下井は円山から妄想していたことを明かされ、円山の妄想に乗り気になります。
しかし、ひとたび円山が「どうせ嘘だし」と言うと、彼は怒り出します。
「じゃあ君にとって、ありえること、真実とはなんだ?考えろ!」
「何も考えない大人になるなら、死ぬまで中学生でいるべきだ!」と・・・
そして、円山は団地に訪れた警察から、下井の正体を知ります。
彼は元刑事で、中学生によって奥さんを殺されていたのです。
警察は、今起こっている殺人事件は、下井がそうした暴行事件・売春事件に関わっているやからを殺していたからだと、
今朝もヤクザが勝手な場所に車を止め、タバコを子どもに放ったことが許せずに発砲をしたと言うのです。<子連れ狼
警察からは「世直しのために殺人を犯している」と説明されましたが、本当に下井が殺人鬼であったのかははっきりしていません。
~円山克也:中学生円山(平岡拓真)~
彼は7歳のときから「家族がスパイだったら」「宇宙人だったら」と妄想する男の子でした。
思春期になると妄想の回数は減りましたが、方向性はエッチなものにシフトします。
プニプニしたもの(ヌーブラ)の雨が降ってきたり、美女とのウフフアハハなことになったり・・・それは「ちん〇を舐めようとしているときに、電気が走って妄想の世界にトリップできる」ようになってからさらにエスカレートしていくのです。
警察の取り調べを受けたあと、彼はレスリング部でいきなりズボンをおろし、周囲がドン引きしている中「自主トレ」をしようとします。
いつしか先生も乗り気になり、周りの生徒(女生徒含む)も応援をしてくれました。
そして・・・ついに、念願かなってベロをちんち〇につけることができたのです。
団地に帰ってきた円山は、そこでヤクザと警察に挟まれた下井を目にします。
そして、下井はそこでベビーカーを解体し、それをバズーカー砲のように警察の車に放つのです。
円山はマスクをつけて、下井を追っていたヤクザたちと屋上で対決します。<中学生円山
屋上には「認知症のデスペラード」こと井上のおじいがいましたが、ギターをひいているだけで助けてはくれません。
しかし、彼の体は「自主トレ」のおかげで中国雑技団のように柔軟になっており、ヤクザたちと対等に渡り合えるようになっていました。
そこに現れる下井。下井はヤクザに向かって「ベビーカー銃」を撃ち、円山はそれをブリッジで華麗に避けます。<マトリックス避け!
ヤクザを倒した下井ですが、警察に取り囲まれます。
終止符を撃ったのは、部屋に逃がしたはずの下井の子どもでした。
子どもは銃を持っており、それを下井の脳天めがけて撃ってしまうのです。
円山は「届いた」ことを下井に告げ、下井は絶命します。
こうして、団地で起こった騒動は幕を閉じました。
~どこまでが妄想?~
さて、この映画で皆が思うのは「どこからが妄想で、どこからが現実か?」ということでしょう。
自分は、円山が警察の話を聞いたあと(レスリング部で「届いた」時)からが、円山の妄想であると思います。
学校で羞恥心なくズボンをおろすこともありえないし、一度は戸惑いがあったとはいえみんなが「自主トレ」を応援してくれることも常識で考えればありえません。
円山は見事な軟体でヤクザの攻撃を避けていましたが、最後に清水さんに再会した時には、もとの体の硬さに戻っています。
そもそも、下井のベビーカーが銃に変形し、下井がヤクザを倒すという展開がもっともありえないでしょう。
この妄想は、円山の願望が現れていると言えます。
円山は、清水さんから「どうして人を殺してはいけないのか」と問いただされていて、上手く返すことができませんでした。
その後、円山は自分の妄想の理解者であった下井が、人殺しであるかもしれないと告げられるのです。
円山にとって、それは現実だと信じたくないことだったでしょう。
だからでこそ、円山は自身がみんなに祝福される上に、下井が大暴れをするという妄想をしたのではないでしょうか。
団地に平和が訪れたあと、円山は清水さんに「正義のヒーローっていうのは、人を殺しちゃいけない理由を知っている人だよ」と言いました。
妄想の中でも下井はヤクザを撃ち殺しています。
円山にとって、下井は正義のヒーローではありません。
しかし下井が「子連れ狼」としてヤクザを倒し、円山とともに戦ったことは、円山にとって現実の殺人と比べれば陰惨なものではなかったでしょう。
円山は、現実の残酷さを妄想で「上塗り」したのです。
おじいが認知症のデスペラードとして助けてくれなかったり、ほかのヒーローが登場しなかったのは、円山自身が下井を救いたかったことの現れなのかもしれません。
~妄想の意味~
なぜ下井は円山の妄想に乗っかり、そして妄想を続けることを推奨したのでしょうか。
それは下井が「中学生が現実にやったこと」により、妻の命が奪われたたためでしょう。
妄想であれば、誰にも迷惑をかけることも、誰も傷つくことはありません。
さらに、妄想の中では(ある程度は)好きなようにキャラクターや物語を作り上げることができます。
下井の妻を殺した中学生も、妄想の中で欲望を発散していれば悲劇は起きなかったでしょう。
そして、妄想を信じることができれば、現実のネガティブな側面も覆い隠すことができるのです。
それこそが、下井の「現実に負けるな。妄想が現実を越えれば、それは真実になるんだ」ということばの意味でしょう。
~ちょっと気になったこと~
中盤、円山は清水さんを部屋に連れ込み、そして清水さんに「キスしてみない」と言われるのですが・・・これも妄想だったんじゃないかと勘ぐりたくなります。
清水さんは円山が帰ったとき、母親がすでに家の中にいるのに、部屋のベッドに移動しているんですよね。
しかも部屋には「大人のおもちゃ」のTENGAの配色に似た置物があったし・・・
あとは丸山の同級生が言った「近所にAV女優が住んでるらしい」というのは、伏線として回収してほしかったかな。
「殺人事件が生活圏で起こったことにどう思われますか?」と言われて、「セイカツケンって、何犬ですか?」と答えるのは面白かったのですけどね(しかも教師が発言をパクり、目にモザイクを入れられる)
~正しく生きたい~
下井は団地のみんなのゴミ出しに首をつっこみ、監視カメラで住民のちょっとした悪い行いを撮りだめておいてDVDとして配っていたりしました。
それは行き過ぎではありますが、警察は「どこに行っても、あんないい人はいないってみんなが言っていたよ」と言います。
下井は円山の妄想の中で、警察に要求はなんだと聞かれ「正しく生きたい、それだけです」と言いました。
下井は正義を重んじている人物だったのでしょう。
しかし、円山にとっては下井は妄想の中でも(円山を救ってくれるも)正義のヒーローになれず、妄想の中で死んでしまうのです。
それは円山が、現実の出来事を完全に頭の中からぬぐい去れていなかったからなのでしょう。
本作は例えようもない悲劇を描き、妄想がその現実を上塗りしてくれることを描いています。
さらに、妄想でもどうにもできないことも描いているのです。
~平和な団地で~
現実での下井はどこに行ったのでしょうか。
警察かヤクザに殺されたのかもしれないし、警察に捕まったのかもしれないし、またどこかの団地で殺人を犯すのかもしれないし、そもそも殺人を犯していはいないのかもしれません。
清水さんはまた円山のところに戻ってきます(付き合うと言った男子とは別れた?)。
そして、円山は手に入れた新しい赤いマスクをかぶり妄想の中で変身します。
円山はこれからも妄想の中でヒーローになり、現実の生活は平和そのものになるのでしょう。
円山にとって、それでいいのだと思います。
昨日この映画を観に行ってきまして、モヤモヤした感があったので検索してたら・・・・・こちらにたどり着きました。
私まさしく!「もういいよ」ってなってました(笑)
平日もあってか?私以外は年配の方ばかりでした。
読ませていただいて、すっきりしました。
また別の映画でモヤモヤしたら、お邪魔しますm(__)m
ちょっとしつこいところが多々ありましたけど…
でも、自分も中学生の時に同じようなことをしていたので入り込んで観ることが出来ました。
> 私まさしく!「もういいよ」ってなってました(笑)
> ちょっとしつこいところが多々ありましたけど…
もっとしつこさを減らしてくれれば・・・と思わずにはいられませんでしたね。
自分ははじめのヌーブラ女性とのダンスだけでお腹いっぱいになりました。