孤独という恐怖 映画「クロユリ団地」ネタバレなし感想+ネタバレレビュー
個人的お気に入り度:5/10
一言感想:ちょっと中途半端だなあ・・・
あらすじ
介護士を目指す二宮明日香(前田敦子)は家族とともに黒百合団地に引っ越してきた。
どうも隣に住む住民の様子がおかしい。朝早くから目覚ましが鳴り、何かをひっかくような音も聞こえてくるのだ。
明日香は遺品清掃の仕事に携わる笹原(成宮寛貴)とともに真相を究明しようとするのだが・・・
「リング」「チャットルーム」の中田秀夫監督最新作です。
スピンオフ作品としてドラマ「クロユリ団地 〜序章〜」も放送されていましたが、この映画だけを観ても十分内容は理解できるでしょう。
本作は氏久々の日本製ホラー作品であり、かつて「リング」の恐ろしさを体験した方ににとっては、待望であったことだと思います。
結論から言えば、本作は一本の映画としての出来はよくありません。あまり怖くなく、ホラーとしてはつまらないと言い捨ててもいいでしょう。
本作が描いているのは、「死」というものに向き合う登場人物です。
作中では「孤独死」にかかわる話題が登場します。
主人公が介護の仕事を目指していたり、彼女を救おうとする男性が遺品整理の仕事をしているのも、そのような孤独死を迎える可能性がある現代社会に警鐘を鳴らしているからなのでしょう。
タイトルであり、作中でイメージとして挿入される花「黒百合」の花言葉は「呪い」です。
主人公が「呪い」「死」のために葛藤し、そこにはどういう真相があるのか、彼女はどう行動するのかーそこが見所になっているのです。
どうもこのことは、観客が望むものと一致していない気がします。
この映画を観に来る若い観客は、恐がれて、面白くて、驚ける内容を期待していると思います。
しかし、肝心の内容は淡々としていて、登場人物の会話シーンが長くて、そしてあまり怖くないのです。
本作の評判があまりよくないのは、そうした作り手の目指していたものとの不一致があるからでしょう。
では、心理描写を描いたドラマと言えばどうか?と問われればそれも物足りませんでした。
「孤独死」のテーマは描ききれているようには思えないし、ちょっと常識では考えられない登場人物の行動もあったりしてどうにも煮え切りません。
結果的にホラー作品としても人間ドラマとしても中途半端になっているのは残念でした。
しかし、序盤から張った伏線、徐々に壊れていく日常の描写、そして明かされる真相は面白かったです。
映画のはじめは普通とは違うカメラワークになっているのですが、そのことにも意味があります。
そして作中で一番恐ろしかったのが「日常でもありえること」というのもよかった。
恐怖描写は凡庸なものが多かったのですが、ここは唸らされました。
主演の前田敦子もとってもよかったです。
「苦役列車」でもそうでしたが、女優としてしっかりとした演技を披露しています。
ただ物語の進行上、やむを得なく演技が一本調子になっているところもあるのですけどね。
デートで観るのはおすすめしません。
これは一人で観て、いろいろ登場人物の気持ちを想像してみるほうが楽しめる映画だと思います。
でも劇場にいたのはカップルやグループで観に来ている若い人ばかりで、観終わったあとは少しがっかりしている様子でした。
やっぱり期待していたのとは違うよなあ・・・
以下、結末も含めてネタバレです いきなり核心部分にふれています↓
~部屋に帰ってきたら誰もいない!~
学校から帰ってきた明日香は恐怖におののきます。
なぜなら、いつもいるはずの家族が、一人もいなかったからです。
お父さんの携帯に電話しますが、誰にもつながらないばかりか、おじいさんの声で「お前、死ぬ」と言われます。
このシーンではにぎやかだった家庭が突然誰もいなくなります。それはとなりの家に誰もいないのと同じように・・・
ここは前田敦子の演技がすごく上手いことと、となりの家との対比を見せる映像のおかげですごく怖いシーンに仕上がっています。
家に帰ってきても誰もいないというのは普通によくあることなのですが、その「孤独」を恐怖シーンにするとは恐れ入りました。
~真相~
なぜ家族が急にいなくなったのか・・・それは介護の専門学校の先生が「二宮」という表札のある一軒家に訪れたシーンで明かされます。
明日香の家族は、明日香を残して全員死んでしまっていたのです。
明日香は兄夫婦の家に引き取られましたが、介護の仕事を目指すために「一人暮らし」をはじめていたのです。
映画のはじめは、「明日香の視点」で「ホームビデオ」のように撮られた映像からはじまりました。
そこには当たり前のようにある、幸せそうな家族の姿がありました。
しかしそれにもほころびが出てきます。
お父さんとお母さんは、毎日「次の連休は休めるの?」「うーん、たぶん大丈夫だよ」と、毎日決まりきった会話をしていました。
明日香が時計のプレゼントをもらったとき、弟は「(まだあなたには早いと言われたために)おねえちゃんだって僕とそんなに年が変わんないくせに」とちゃちゃを入れました。弟と明日香は10歳は年が離れていそうに見えたのに・・・
これらは、中盤で笹原が「君(明日香)の時間は前に進んでいる、だけど死んだ人間の時間は止まっている」と言ったことと一致しています。
死んだ家族の時間は、進んでいませんでした。
となりのおじいさんの死に触れ、警告をされた明日香は、やっとそのことに気づいたのでしょう。
~ミノル~
すべての元凶は、砂場で遊んでいた男の子の「ミノル」でした。
彼はかくれんぼでゴミ箱に隠れ、鍵が誰かに閉められて開かなくなり、回収業者が気づかないまま焼却炉で焼かれてしまったのです。それ絶対気づくと思うんだけど。
これは「誰も気づかないせいで死んだ」という点で、孤独死を迎えた者と一致しています。
おじいさんは誰もうらむことはありませんでしたが、ミノルは生きているものと関わろうとし、そして人を殺しています。
幼いがゆえの「遊びたい」という気持ちで生者を殺すミノルの行動は、悲しくも恐ろしいものでした。
~気になったこといろいろ~
まあそもそも、一人暮らしのはずなのにあんな広い部屋に越してこないですよね。
でも、明日香は家族が生きていて、そばにいると思いこんでいたから、その部屋を選んだのだと納得はできます。兄夫婦も部屋を確認すると思うんだけどね。
それよりも気になったのは、となりのおじいちゃんの死体を発見したあとに明日香がミノルをみかけたとき、ミノルに手を振られて明日香が微笑んだことです。
この前にミノルは「おじいちゃんがいるからさみしくないよ、あそこ(となりの部屋を指さして)に住んでいるんだ」と明日香言っているんですよね。
部屋に一人しかいなかったおじいちゃんが死んだのだから、普通は警察にミノルを引き取ってもらうように言うのでは?
もしくは、この時点でミノルは不気味な存在としてうつるはずなのに、なぜ明日香は微笑むのか・・・ちょっと理解できません。
ミノルが砂場で作っていた「秘密基地」は、彼が入ってしまったゴミ箱を暗示しているようでした。
その周りにはたくさんの泥団子がありました。それは「(ミノルのことを)気づけなかった人」をあらわしていたように思えます。
明日香の部屋の壁が裂けたのはなんだったんでしょうか。
これはミノルがやったことで、ミノルが「怖い」と言ったのは演技だったのでしょうが、どうにもモヤモヤします。
死んだおじいさんは明日香をうらんではおらず、むしろ助けてあげようとしていたのですが、もう少しわかりやすく言えよともツッコみたくなりますよね。
いきなり介護実習生になりすまして「お前、死ぬ」と言うし。ゾンビみたいに明日香に迫ってくるし。<若い女の子に抱きつきたかっただけじゃあ・・・
<白内障を患っているふつうのおじいちゃんに見えます
あと扉にかけておいた菓子折りはおじいさんが食べたんだよね?(ミノルは幽霊なんだから食べないでしょうし)
おじいさんがこのときに明日香に助けを求めなかったのは、ミノルと「遊んで」いたからなのでしょう。
朝5時半にめざましをかけていたり、壁がえぐれるほどひっかいていたのは、内心は助けを求めていたからなのかもしれません。
また、主人公の部屋でお祓いをした祈祷師たちは助かったのでしょうか?
明日香を保護した警察がこの人たちのことを何も言わないのは変です。
単純に助かったことを描かなかったのか、それとも笹原や祈祷師は明日香の見た幻だったのか?
後者はちょっと無理を感じます。
そういえば、笹原の上司は、明日香が笹原に似ていると言っていました。
それは笹原の恋人が植物人間になってしまい『大切な人の時間が止まった』ことが同じだからなのでしょう。
~お祓い~
観ていて対応に困ったのがクライマックス。
祈祷師が「はやしにおこなうぞ~」と言いながらお祈りするのはギャグにしか見えません。後ろにも助手らしき人も完備しているし。<こんなん笑うって
その後ミノルが入ってきたとき、目の前の鏡(?)にミノルが映って、祈祷師がガハッと血を盛大に吐くのは笑いが堪えられませんでした。
彼女が「明日香にミノルだと思わせるために」、玄関の下のほうをノックするシーンはよかったですけどね。
~ドアを開けるな!~
ミノルはドアを開けてもらうために「約束したよね!」と明日香を責めますが、明日香は「ごめん、もう遊べない」と言います。
次に聞こえてきたのは、明日香の家族の声でした。
普通に「開けて」という家族でしたが、次第にそれは「あのとき旅行に行ったのはお前だ」「あなただけのうのうと生き残って」という罵声に変わっていきます。
笹原はそれを何とか止めますが、ドアの外を見ると、笹原が事故を起こしたために植物人間になってしまったはずの恋人がいました。
恋人は「私はこのさきもずっと動けないんだよ。機械のスイッチ、とめてくれないかな」と言います。
そして、笹原はドアを開けてしまいます。
ミノルの力により、笹原の血管が浮かび上がります。
それを見かねた明日香は、ずっと遊んであげるという約束を「指切り」でしてしまいます。
笹原はそれを止めようとしますが、ミノルに飛びかかられて床に取り込まれてしまいます。
笹原がいたのは、焼却場でした。
笹原は、ミノルとおなじように、ミノルが見ている前で焼かれてしまうのです。
~ラスト~
明日香は警察に保護され、兄夫婦の車に乗ります。
彼女は弟が持っていたうさぎのぬいぐるみを抱きかかえ「早くしないとバス行っちゃうよ」「ついたらみんなで写真をとろうね」などと言います。
明日香は幼児退行を起こしたのです。
これは明日香が死者=時間が止まった者と同じになったことを示しています。
ミノルの策略は成功し、これからも明日香はミノルと遊び続けるのかもしれません。
祈祷師が「場所ではなく人にとりつく、どこに行っても逃げられない」と言ったとおりに、そして明日香が指切りで約束したとおりに・・・
ここで映画は幕を閉じます。
笹原は明日香に「自分を責めなくていい、現実から目を背けてもいい、逃げ出したいこともあるさ」と言っていました。
しかし、明日香は自分がカメラのシャッターを切り、その後にバスが事故を起こしたことを思いだし「絶対に目を逸らさないと決めた」と言います。
彼女は愛する家族と、おじいさんの死を見てきたからでこそ、殺されそうになる笹原を、そしてミノルを見捨てることができませんでした。
だからでこそ、物語の顛末がより悲劇的に思えます。
否定的な感想↓
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肯定的な感想↓
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本編より怖いよ↓
見てみると彼岸花ではないようですね。いや、恥ずかしい。ご指摘感謝です。
それでも、前田敦子さんの演技には脱帽しました。前半と後半の演技の分け方はとても上手かったです。
反面、成宮さんの演技は部分的に物足りなさを感じました。トータル的には安定・安心の演技力なのですが、炎に焼かれるシーンが雑に見えました・・・。
ここ最近の映画の中でも、かなり期待外れでした。秋元康さんの次回作に期待したいですね。
> それでも、前田敦子さんの演技には脱帽しました。前半と後半の演技の分け方はとても上手かったです。
> 反面、成宮さんの演技は部分的に物足りなさを感じました。トータル的には安定・安心の演技力なのですが、炎に焼かれるシーンが雑に見えました・・・。
> ここ最近の映画の中でも、かなり期待外れでした。秋元康さんの次回作に期待したいですね。
秋元さんはプロデューサーなので、むしろ責任は中田監督にありそうです。
前田敦子さんは素晴らしかったですね。「苦役列車」もおすすめですよ。
客は怖がりに来てるのに眠らせにかかってきてますからね(笑)
死霊のはらわた(旧)でもそうですが
恐さと笑いは紙一重。
深作2世の「エクスクロス」みたいにホラーかな?コメディーかな?
ぐらい
バカバカしいくらいにハジケてもよかったのでは?
笑わせにかかってるのは祈祷師のあたりのとこかしらo(^ヮ^)o
「ドンッ」系のこけおどしに頼らなかったのは評価できるか
中田監督
体調不良だったのかな?
貞子 トシオからの脱却を節に願います。
マエアツがキンタローにしか見えない(爆)
全体の印象としては、管理人様と同じような意見です。遊園地とかのお化け屋敷で楽しむようなホラーとはちょっと違いましたが、1人で観に行ったので、楽しめました。
確かにあっちゃんの演技は良かった。そのぶん成宮くんがドラマっぽく見えて残念。
ミノルくんが本気を出してスーパーサイヤ人?みたいになるシーンはほのぼのしてしまいました笑
ホラーにありがちなんですが薄い内容を伸ばしに伸ばしてひとつひとつのシーンが長かったり展開がゆっくりしすぎてるのが苦手です。
カゲヒナタさんがおっしゃってるように、まさにどっちつかずの内容になってると思います。
タイトルのクロユリ団地もあまりピンときませんでした。まず舞台は団地なのでしょうか?笑
なんだか、ジェットコースターに乗って動き出すのを延々と待つような展開でしたね。
私も残念な映画だったと思います。
ただ、成宮の最期は未だに納得できないんですけどね(苦笑)
てか入れないようにしてるのにドアの前に行く必要がない。
無理矢理話を進めようとして不自然な行動が多すぎ。
人の心理と行動をもう少し自然に表現して貰いたかった。
結果的に駄作です。