いくつもの人生を生きて・・・「ホーリー・モーターズ」ネタバレなし感想+中盤までの展開

個人的お気に入り度:7/10
一言感想:どこに向かっているんだろう・・・
あらすじ
『役者』のオスカー(ドニ・ラヴァン)は豪邸から子どもたちに見送られ、真っ白なリムジンに乗る。
女性ドライバーのセリーヌ(エディット・スコブ)がオスカーを連れて行く先は、誰かの『人生』そのものだった・・・
「汚れた血」「ポーラX」のレオス・カラックス監督の13年ぶりの新作です。
さてこの映画、わけがわかりません。
一応「主人公の『役者』がたくさんの人の人生を演じていく」という大筋はあるものの、その描き方は抽象的で、整合性がなく、何か深い意図があるように思えてならないなんとも難解な映画でした。
そして名作映画のオマージュも多々あって、それはゴダールの「勝手にしやがれ」だったり、黒澤明の「夢」だったりします。
さらにとある有名な日本映画の音楽が使われていて笑ってしまいます。
そして直接的な描写はほとんどないものの、暴力的、エロティックなシーンも登場します。
人によっては気分が悪くなってしまうかもしれないので、気持ちPG12指定くらいに思って観たほうがいいでしょう。
単純明快な娯楽映画とは対極の位置にある作品であり、好き嫌いが思いっきり分かれる映画ですが、デヴィッド・リンチのような通好みの作品を好む映画ファンにはぜひ観ていただきたい作品です。
こうした映画になじみがない方でも、「夢をさまようような不条理な体験を映画は提供してくれる」という新しい発見があるかもしれないので、チャレンジしてみるのもいいと思いますよ。
以下、中盤までの展開とエンドロールの一部がネタバレ↓
終盤の展開は書いていませんが、予備知識がないほうが楽しめる映画ですので、なるべく鑑賞後にご覧ください。
~映画だけでは絶対にわからないこと~
多くの方が思ったであろうことが、映画のはじめのほうに出てくる窓から外を見ている女の子と、エンドロールに登場する女性は誰なのかということでしょう。
パンフレットによると、女の子は監督の娘で、エンドロールの女性は2011年に亡くなった監督の妻だそうです。
参考→<【ネタばれ】「パンフがなければ真の理解ができなかった。」ユーザーレビュー - Yahoo!映画><監督の娘さんでした。
そして冒頭の「男が汽笛が聞こえる部屋の扉を、中指につけた筒で開ける」という意味不明シーンでは、レオス・カラックス監督自身が男を演じていました。<扉を開けるのは監督自身
扉の先には、「顔のない」多くの人がスクリーンをみつめている映画館がありました。
この映画は、監督自身が人生を顧みる物語でもあるのでしょう。
~老人~
主人公・オスカーはリムジンの中で特殊メイクを施し、老人に変身します。
なぜ老人に変身するのか?なぜそうして「人生」を演じるのか?『役者』としての報酬は発生するのか?
疑問がつきませんが、オスカー演じる老人は言います。
「私はみんなに嫌われている、でもこうして生きている。こんなに老いても死ねない、それが恥ずかしい」
そんなことをつぶやいて、オスカーは何事もなかったかのようにリムジンに戻ります。
早くも意味がわかりませんが、このあともだいたいそんな感じです。
~モーションキャプチャー~
つぎにオスカーはピンポン玉みたいなものがついた全身黒タイツに着替え、カマをふりあげアピールします(意味不明)。<どやっ
そのあとランニングマシーンに乗るもめまいが起きてマシーンから落ちちゃったりします。
さらに同じく全身ピンポン玉赤タイツ女が登場します。<あんた誰?
オスカーはこの女性と全身タイツのままくんずほぐれつなことになります。
その横ではそのエロい動きに合わせて、龍みたいな化物も絡み合っています。
ステキだね!
~不気味な浮浪者~
さらにオスカーが変身したのは髭面で髪ぼっさぼさな中年男でした。
こいつはあからさまにどうかしていて、マンホールから出てきたあとお墓に備えてあった花を食いまくったりします。
なぜかって?知るもんか。
そして流れるのは「ゴジラのテーマ」。たしかに怪獣みたいなむちゃくちゃさだけど。
さらにこいつは美女の撮影現場に出てきて、監督から「あいつがいいな」と気に入られて・・・
このあとの展開はもう観てくださいと言いようがありません(レビュー拒否)
ちなみにこのキャラはオムニバス映画「TOKYO!」でも出てきたようです。
~娘に説教をする父親~
次に演じるのはまとも(?)なキャラクターで、パーティにノレなかった娘をたしなめる父親でした。
娘は父親に嘘をついてしまい、父親はこう返します。
「お前は罰を受けなければならない。嘘を後悔しているか?お前の罰は、お前がお前として生きることだ」
オスカーはいろいろな人生の役を演じれる男であり、「自分」を持っていません。
そんな彼が「自分として生きる」ことを説くことに、皮肉を感じます。
~インターミッション~
長尺映画にある「休憩」のように、途中でインターミッションが挟まれます。
内容は集団でアコーディオンを演奏しながら協会を歩くというものでした。
これは映画館で観るとかなりの高揚感がありました。
~その後も・・・~
ここからさらに物語は混沌としていきます。
なぜかオスカーは街で見かけた銀行員を赤いマスク+上半身裸姿で殺しにかかったりします。<不審者すぎる・・・
さらに殺し屋っぽい男を演じた時には、オスカーが壁を曲がると、煙のように消えてしまうシーンがあったりします。<角を曲がったのをカメラが追いかけるが・・・
<いない!
オスカーは「カメラは昔は重たかった、今は目に見えないほど小さい。自分の存在を見失いそうになる」と言っていました。
オスカーが画面から消えたのは、まさに自分の存在を見失ったためでしょう。
オスカーは、どんなことがあっても死にません。
いくつのも人生を生きたオスカーは、自分の存在を確かめられない男です。
そんな彼が少し哀れに思えました。
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