法からの脱却 映画「ローン・レンジャー」ネタバレなし感想+ネタバレレビュー
個人的お気に入り度:4/10
一言感想:考えると実は深い映画かも?
あらすじ
検事のジョン(アーミー・ハマー)は囚人キャベンディッシュ(ウィリアム・フィクナー)と顔を白く塗り上げた謎の男・トント(ジョニー・デップ)が乗った列車に居合わせていた。
キャベンディッシュは列車からの脱出を図り、列車は駅を通り過ぎて脱線事故を起こそうとしていた。
なんとか列車を止めようとするジョンだったが、トントはその行動に意を返さず・・・
ジョニー・デップ様×ゴア・ヴァービンスキー監督という「パイレーツ・オブ・カリビアン」タッグの最新作です。
本作はバリバリの「西部劇」で、このタッグは「ランゴ」というアニメ作品ですでにこのジャンルに挑戦をしています。
このたび「ローン・レンジャー」が映画化されたのは、「ランゴ」が高い評価を得たことも背景にあるのでしょう
原作となっているのは、1930年代に放送されたラジオドラマです。
TVドラマ化や3度の映画化(今回で4度目)も果たしており、テーマ曲の「ウィリアムテル序曲」も人気を博していました。
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ドラマ版の参考→<ローンレンジャー 雑文>。
主人公の掛け声である「ハイヨー!シルバー(馬の名前)!」は「紅の豚」に台詞として出てくるなど、後の作品にも大きく影響を与えています。
今では知っている人は少ない作品ですが、往年の作品が再び映画館で観れることに喜びを感じている方も多いことでしょう。
しかし、本作は本国での興行収入が低調で「ジョン・カーター」以来の大失敗と見込まれています。
そして肝心の映画も、残念ながらいまひとつ乗り切れない出来のように思いました。
残念だったのが主人公の成長に面白さを見いだせないことです。
主人公・ジョンは統治二論に則り、「藁の楯」の主人公のように悪人を法で裁くことに固執しています。
対して相棒・トントは法とは縁がなく、「秩序」「正義」を望んでおり、悪人を自分の手で殺そうとします。
この水と油の2人の考え方がドラマを産むのですが、主人公の葛藤の描写は中途半端で煮え切らない上、つまらないばかりか不愉快に感じるところさえありました。
そして上映時間が2時間30分と大変長く、中盤はかなり冗長です。
展開としてもあまり山場がなく、コント(ギャグ)シーンで尺を取るのでかなり退屈でした。
面白いギャグもあるにはあったのですが、主人公がイジられる「そのマスク何?」の天丼っぷりはつまらなすぎて絶望を感じるほどでした。
ジョニデ様ファンには相変わらず変人フルスロットルな演技を楽しめますが、ヘレナ・ボナム=カーターの役どころは微妙です。
彼女は「とりあえず出演した」程度の印象しかないのです。
良い部分もあります。
原作へのリスペクトはふんだんにありますし、「列車」という舞台装置を使ったアイディア満載のアクションシーンはかなり楽しめます。
しかし、そのシーンがあるのはほぼ最初と最後のみで、中盤はダラダラとした展開が続くのです。
「もっと短くまとめてよ!」と文句を言うのはナンセンスかもしれませんが、中盤の冗長な内容がラストの展開に生かせていない以上、その批判もやむを得ないでしょう。
キャラクターには魅力がないし、ドラマも盛り上がりに欠けていて、アクションが楽しい最初と最後だけ観れば十分という印象がぬぐえないのはとても残念です。
ちなみに「Lone Ranger」とは「孤高の戦士」という意味です。
主人公ジョンの兄はテキサス・レンジャーであり、後にジョンもこれに任命され、さらにジョンはローン・レンジャーと呼ばれるようになります。
映画を観終わればその呼び名にも深いものを感じられるかもしれません。
また相棒・トントが言う「キモサベ」の意味は「信頼のできるやつ=友人」という意味です。
この「きもさべって何?」っていうのも若い人を遠ざけているような気がするなあ・・・
全体的にはおすすめできない作品ですが、実は物語にはとても奥行きがある作品のようにも思えます。
また展開にやるせないものを感じた人は、登場人物のことばの端々を思い返してみるのもいいかもしれません。
吹き替え版で観たのですが、本職の方を声優に起用しているので違和感がなく文句もありませんでした。
エンドロールが終わってすぐにも、わずかながらおまけがありますよ。
以下、結末も含めてネタバレです↓
~資本主義VS法~
観ていて気分が悪くなったのは、終盤に「コマンチ族」が白人たちに戦いを挑み、そして全滅してしまうという展開です。
悪人・キャベンディッシュの一味は自身が白人の村を襲撃した事実をコマンチ族におっかぶせていて、コマンチ族と白人との対立の関係を築こうとしていました。
コマンチ族が白人に戦いを挑もうとしていることは策略と誤解が産んだ悲劇です。
当然、主人公・ジョンもコマンチ族の長老に真実を話し、争いを回避しようとしていました。
しかしの長老は説得に応じず、ジョンはキャベンディッシュの兄のコールに捕まり、コマンチ族は襲撃をする・・・なんともやるせないものがあります。
惨状を目の当たりにしたジョンは、「あんなやつ(コール)に服従するくらいなら無法者のほうがマシだ!」と叫びました。
ジョンは今まで法を遵守していましたが、ここで法からの離反を告げるのです。
コールは序盤に、ヒロイン・レベッカに「夫(ジョンの兄)は籠の中の鳥ということを伝えたい」と言っていました。
これは資本主義者のコールが、自身の金が力と未来を手にすること、そのことを知らないでいることを嫌味ったらしく言ったセリフでしょう。
ジョンは序盤に「列車が行く先には未来がある」と、鉄道への希望を感じていました。
その希望も、資本主義者にあっけなくくじかれることになるのです。
ジョンがこうして自身の信条を曲げることになったのは悲しいことですが、「皮肉」という点では上手く描けていると思います。
~トントの悲劇~
問題はトントの対応です。
彼は白人に襲撃しようとするコマンチ族を止めようとはしません。
あまつさえ、目隠しをされているジョンに「何ごとだ?」と聞かれ「気にするな」と言うのです。
トントは幼少時、自分の猜疑心のなさから2人の白人(キャベンディッシュとコール)に銀の鉱脈を教えてしまい、そのために自身の部族が殺されてしまいました。
トントはコマンチ族に属していないとはいえ、トントがコマンチ族を止めようとしないのは、自分が起こした悲劇と同じことを見過ごしているようにしか思えないのです。
トントは人間の悪意が信じられず、ウェンディゴという霊こそが元凶であると信じている悲しい男です。
そうだとしても、かつての悲劇を起こした者・トントが、同種の悲劇に全く動じていない、それどころか「気にするな」と素知らぬふりまでする・・・このことは不愉快で仕方がありませんでした。
~そんなのヒーローじゃないよ!~
不愉快な展開はそれだけじゃありませんでした。
ジョンはここからふっきれたように、トントとともに銀行強盗をしてダイナマイトを盗み、橋を壊し、列車を破壊し、銀を湖の底に沈める・・・あまつさえ、悪人を殺すのです。
そこには一切の躊躇や葛藤はありません。ジョンはテロリストであり、犯罪者です。
こうなると、ジョンにも当然の報いがくる・・・と思いきや全然そんなことにはなりませんでした。
なんとジョンは「鉄道を救ってくれてありがとう!鉄道の開通を祝おう、君はヒーローだ!」と表彰をされるのです。
いや待てと、ジョンとトントは列車をジャックして壊したんだと、橋をダイナマイトで壊したんだと、列車の運行の助けになりそうな銀も捨てたんだと・・・なんでそれがヒーローになるのでしょうか?
確かに悪人コールを倒してはくれましたが、破壊行為をしたジョンは非難の的になるべきではないのでしょうか?その非難があっても己の正義を貫いてこその「孤高の戦士」ではないのでしょうか?
主人公がかつての「法を守る」信条を変え、テロリストになったのはとても重いことです。
それを全く描かず、最後は「考えを変えたおかげでヒーローになってよかったね」で終わっているこの結末が、一番やるせません。
~ヒーローとして語った?~
しかし、ジョン(ローンレンジャー)を最終的にヒーローとして描いたことには意味があるようにも思えます。
この映画は見世物小屋で「Noble Savage」の剥製として飾られていた老いたトントがなぜか動き出し、少年ウィルにその冒険譚を話すという話運びになっています。
「銀行強盗はダイナマイトを盗むため」「不発だと思っていたダイナマイトはちゃんと橋を壊せていた」など、時系列を入れ替えた話運びのために、事実があとからわかる構成が面白かったですね。
でも序盤にトントが牢屋を抜け出せた理由は不明のまま(笑)でした。
そしてトントが話を終えたあと、少年は「ローンレンジャーなんていないんでしょ?作り話だよね」と聞きます。
これにトントは「君次第だ、キモサベ」と答えます。
ひょっとすると、実際のジョンはヒーローとして崇められることはなく非難を受けており、トントは事実を隠すために「ヒーローとして」ジョンのことを語ったのではないでしょうか。
少年ウィルは、トントがはじめに語った「銀行強盗」の話に「うそだ、ローンレンジャーは正義の味方だ、そんなことはしないよ」と反論しています。
少年ウィルの時代に知られているローンレンジャーは、確かにヒーローなのでしょう。
しかし実際はトントが語ったように、ローンレンジャーは法から離れ、テロリストになった人間なの(かもしれないの)です。
老いたトントは「(死んだ)兄だったらもっと簡単だった」と少年ウィルに言っていました。
ジョンの兄であれば、法に固執をするジョンほどにトントと対立することはなかったでしょう。その考えを変えてしまうことも・・・
老いたトントはそのことを少年に語りたかった。
しかし「キモサベ」の彼を「ヒーローでない」と語ることはできなかった―そんな想いがあったのかもしれません。
*作品のテーマ、トントが少年ウィルに語りたかったことについて、以下のご意見をいただきました。
作中に出てくる「統治二論」は自由について書いた本とも言えます。そのためには人は政府に抵抗することもできるし、革命を起こすことが許されます。ジョンは初めは法を絶対的に守る事を目指しています。これが旅を通して「時には法を犯すことが正義なのではないか」と変化していく話だと感じました。それはトントというマイノリティであり自由な存在と旅を共にしたからだと思います。老人となったトントは「ヒーローは強盗なんかしない」と言った少年の価値観を変化させるためにこの話をしたんだと思います。だから強盗のシーンで映画をサンドイッチしてるんだと思います。このように主人公が現実を観て「統治二論」の精神を真に理解する話だと思いました。
~存在する?~
もちろん少年ウィルが言ったように、ローン・レンジャー(ジョン)がそもそも存在しなかったことも考えられます。
そうだとすると、トントは「孤独」に戦っていた自分の相棒が欲しかった、自分の正義とは異を唱える者がいて欲しかったために、そのような作り話をしたのかもしれません。
ジョンが存在せず、ただトントだけが戦っていた・・・
そうだとすると、トント自身がローン・レンジャー(孤高の戦士)なのかもしれません。
~列車アクション!~
終盤の列車のアクションは実に面白かった!<ジョンは馬に乗って屋根から列車へジャンプ!
<ジョンは列車の中から撃ちながら飛び移る!
<トントはもう一両の銀のある列車へ!
他にも
・トンネルのスレスレを馬に乗って走って下に行って回避
・ジョンがキャベンディッシュに好きにしろと言ってレベッカを下に落とす→そこには馬が!
・はしごを使って列車に飛び移る
・ジョンの甥っ子がトントにもらった「銃の弾」を投げてくれる
などなど、楽しませてくれました。
ヒロインが吊るされるところなどは「バックトゥザフューチャー3」を思わせますね。
ただトントが甥っ子に銀の弾を渡す(ぶどうと交換)必然性はないよなあ・・・はじめからジョンに渡しとけばいいじゃん。
トントは「最高の策」だと言っていましたが、行き当たりばったりにしか思えません。
あとトントはジョンのことを弾が当たっても死なない「スピリット・ウォーカー」であると言っていましたが、劇中ケガ一つしないお前もたいがい不死身だと思います。
あとは列車強奪前に足の銃を一発撃っただけで映画から姿を消した「レッド」が気の毒でした。<これで出番終了
でも最後の締めまで、「ウィリアムテル序曲」に乗って盛り上げてくれて嬉しかったです。<さようなら
ハンス・ジマーの編曲もまた最高でした。
サントラは在庫切れ・・・→<Lone Ranger>
Youtube→<Lone Ranger - Finale>
~マスクをつけて~
ジョンがつけるマスクは象徴的です。
ジョンはたびたび「そのマスク何?」と言われ、その答えを探せずにいました。
ローンレンジャーとなったジョンはマスクをつけ、以前の生活に戻ることはなく、愛するレベッカの元から立ち去っています。
老いたトントから話を聞いた少年ウィルも「マスクを外しちゃダメだ」と言います。
マスクは、ジョンを法を守る検事から、トントと同じように正義を執行する「ローンレンジャー」に変えるものだったのでしょう。
マスクはその覚悟の現れでもあるのだと思います。
~金の時計~
また、今までトントは悪人2人に銀の鉱脈を教えたひきかえとして「銀の時計」を持っていました。
それはトントの罪を表したものでしょう。
最後にトントはジョンがもらうはずだった「金の時計」をくすねて、「時間に縛られることのない」鳥のエサを代わりに置きました。
銀の時計が罪の象徴なら、金の時計は「正義」の象徴ではないでしょうか。
正義を教えたトントが金を手にし、トントは「お前はその価値観に縛られる必要はない」と、代わりに鳥のエサをおいたように思えます。
~故郷へ帰る~
最後にジョンは「ハイヨー!シルバー!」と愛馬のシルバーに掛け声をかけ、トントに「調子に乗るな」とイジられました。
おそらく、この凸凹コンビの活躍はまた続くのでしょう。
エンドロール後に映し出されたのは、老いたトントが荒野を一人で歩くという画でした。
少年ウィルがトントの前から去るとき、彼は「もう家に帰らなきゃ」と言っていました。
反してトントは自分の部族を殺されており、帰る家はありません。
しかし、トントは少年ウィルにローンレンジャーの話を聞かせることで、解放されたところもあったのでしょう。
だからでこそトントは「故郷」であるテキサスの大地に帰っていった・・・そんなラストシーンに思えます。
(どうも455年前らしいです)
スポンサーが「ウケナ化粧品」でしたなあ~。
2時間半もの映画って、如何なのかな?と思って見ました。
結果は、つまらない映画の印象のみでした。
でも、あの蒸気機関車は本物らしいので、お金だけは存分にかけたという贅沢感は満喫できますね、
J.デップは、いつも、口の中にナンカを入れたようなしゃべり方をしますが「あれは芸風」なんでしょうか?
『ローン・レンジャー』についての感想を。すこし違ったので。
「統治二論」は自由について書いた本とも言えます。そのためには人は政府に抵抗することもできるし、革命を起こすことが許されます。ジョンは初めは法を絶対的に守る事を目指しています。これが旅を通して「時には法を犯すことが正義なのではないか」と変化していく話だと感じました。それはトントというマイノリティであり自由な存在と旅を共にしたからだと思います。老人となったトントは「ヒーローは強盗なんかしない」と言った少年の価値観を変化させるためにこの話をしたんだと思います。だから強盗のシーンで映画をサンドイッチしてるんだと思います。このように主人公が現実を観て「統治二論」の精神を真に理解する話だと思いました。
監督自身そういう映画を撮ってきたと思うのでこういう解釈になりました。ただこの映画は正直ヒナタカさんがおっしゃるように葛藤が上手くかけていないため説得力に欠け観た後「これでいいの?」と思いました(´・ω・`)
当時見られていたのですね。そちらは面白そうです。
ジョニデ様はあんな演技ばっかりですねw
>マイティマウスさん。
>老人となったトントは「ヒーローは強盗なんかしない」と言った少年の価値観を変化させるためにこの話をしたんだと思います。だから強盗のシーンで映画をサンドイッチしてるんだと思います。このように主人公が現実を観て「統治二論」の精神を真に理解する話だと思いました。
統治二論について全く知らなかったので、とても参考になりました。
トントが語ったのは「ヒーローであっても法をおかすこともあるということ」を教えるためでもあるのですね。
是非追記させてください。