隠された記憶 映画「トランス」ネタバレなし感想+ネタバレレビュー
個人的お気に入り度:5/10
一言感想:夢と現実が交錯するダニー・ボイル節全開サスペンス
あらすじ
競売人のサイモン(ジェームズ・マカヴォイ)は突如オークション会場に訪れたギャング集団から絵画を守りきり、英雄として新聞記事に載ることになった。
しかし、当の絵画はどこかに消え失せた上、サイモンはギャング一味と協力して絵画を盗み出そうしていた犯人にすぎなかった。
ギャングのリーダー・フランク(ヴァンサン・カッセル)は絵画のありかを聞き出すためにサイモンに拷問をかけるが、サイモンは頭部に受けたショックにより絵画の場所の記憶がなくなっていた。
サイモンとフランクは記憶を呼び覚ますため、催眠療法士のエリザベス(ロザリオ・ドーソン)を雇うのだが・・・
「トレインスポッティング」「スラムドッグ$ミリオネア」のダニー・ボイル監督最新作です。
ダニー・ボイル監督の特徴といえば、その卓越した映像センスと音楽との融合が筆頭にあがります。
まるで音楽のPVを観ているかのような画面構成、テンポ、そして場面にマッチした音楽は多くの映画ファンをとりこにしました。
本作にもダニー・ボイル節は大盤振る舞いで、「鏡」を巧みに使ったきらびやかな映像、そしてスタイリッシュな音楽は観る人を陶酔させるでしょう。
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さて、監督の作品は「スラムドッグミリオネア」「127時間」とメジャー系のものが続いていましたが、この「トランス」は(ある意味で監督らしい)クセが強く、万人向けではない作風になっています。
まず、本作に「消えた絵画がどこにあるかを推理するサスペンス」を期待すると確実に裏切られます。
なにせ本作で紡がれる物語は「主人公とギャングのリーダーと催眠療法士の女性が、いろいろやって主人公の記憶を取り戻そうとする」ものなのですから。
そしてその過程の延長線上に、予想もしない真実が隠されているというのが基本のプロットです。
真実が明かされるまではしっかり伏線が仕込まれていますし、こうしたサスペンスの結末を推理したい方、二転三転する展開が好きな方であれば存分に楽しむことができるでしょう。
監督の処女作「シャロウ・グレイブ」と同じく、メインの登場人物が3人とシンプルであることも長所のひとつです。
ただし本作はいまひとつ展開の整合性に乏しく、真実が明かされてもスッキリしない印象を持ちました。
このモヤモヤ感には、そもそもの「夢か現実かわからない」作風が関係していると思います。
「夢か現実かわからない」というのは、サスペンスの整合性をなくしてしまい、「なんでもあり」になってしまう諸刃の剣のように感じるのです。
「あのシーンはこういうことだ」と考察をする魅力にも乏しいですし、展開がかなり捻られている終盤は「話についていくのがやっとだ」と思う方も多いでしょう。
理路整然としたサスペンスが好きな自分としては物足りなさも感じましたが、監督のファンであるなら劇場で観る価値がある作品です。
R15+指定だけあって、終盤にはエロもグロもあるので苦手な方はご注意を。
監督らしく、ラストはなかなか洒落ていますよ。
以下、結末も含めてネタバレです 鑑賞後にご覧ください↓ 今回は短め。いきなりオチ部分を書いています。
~明かされる真実~
最後に明かされる真実は
・催眠療法士のエリザベスが主人公・サイモンの元恋人であったこと
・エリザベスは催眠療法で少しづつサイモンの記憶をなくしていたこと
でした。
その「初対面」じゃない事実は、エリザベスが「サイモンがヘアなしの絵画を気にいっているのを知っていて、自身がヘアを剃って見せる」ことで示しました。
こんな事実の提示方法をした映画はあとにも先にも存在しないと思いますw
どうでもいいけどこのシーン、ボカシがあったせいでヘアがないようには見えなかったよ。
序盤のサイモンの荒らされた部屋で、本の1ページだけ切りとられていた(そのページはヘアのある絵が載っていた)のも伏線でした。
ゴヤの「裸のマハ」は、はじめて女性のアンダーヘアが描かれた作品なのですね。
~ラスト~
さらにエリザベスは、最後に絵画「魔女たちの飛翔」をまんまと手にします。
ギャングのリーダー・フランクの持つipadの画面の中で、エリザベスは「私には大事な絵なの」「私たちに何もなかったことにしたいのなら、スクリーンのボタンを押して」「あなたは覚えていたい?忘れていたい?」と言います。
「Trance(催眠状態)」のボタンを、押すか押さないかを笑いながら迷うフランクの姿で映画は幕を閉じました。
この物語は「登場人物がまんまとエリザベスの手のひらで踊っていた」内容になっています。
エリザベスは、フランクと「対等の立場」であることを協力の条件にあげていましたが、実は誰よりも優位に立っていたのです。
絵画「魔女の飛翔」は、「2人の男が魔女たちから逃れるように、1人は布をかぶり、1人は耳を覆って倒れ込んでいる」という様子が描かれています。
魔女はエリザベスのことを、2人の男はそれぞれフランクとサイモンをあらわしているのでしょう。
エリザベスの行動の理由は、主人公サイモンのクズっぷりが発端でした。
~クズ主人公~
サイモンのクズっぷりはマジでハンパねえことになっています。
・ギャンブル中毒で多額の借金を背負う
・サイモンはエリザベスにDVをするばかりか、ストーカーと成り果てる
・借金を返すためにはどうしよう→自身が警備を担当しているオークション会場にギャングに来てもらおうっと
・ギャングに絵画を渡す前に、カッターで切り取って持ち逃げ
・車でサイモンを轢きそうになった無関係の女性の首を締め上げて殺す(これはエリザベスのせいでもあるけど)
・エリザベスがほかの男(フランク)と寝たのを知るとマジギレしてDVする
・フランクを除いたギャング一味を銃で皆殺し(一人は股間を撃つ)
本当に主人公かこいつ。
ギャングのリーダーのはずのフランクのほうが全然善人に思えるよ!
それにしても殺された上に、トランクの中で放置された無関係の女性が可哀想すぎます。
エリザベスは絵画を持ち逃げしたばかりのサイモン宛に「BRING IT TO ME」というメールを送っており、それが見知らぬ女性をエリザベスと思い込むという引き金になったのでしょう。
エリザベスが女性の腐った死体を見て「ごめんなさい」と謝ったのはそのためです。
また、もしかするとサイモンが絵画を切り取って持ち逃げしたのも、エリザベスの催眠のためかもしれませんね。
そしてエリザベスはその後に「BRING IT TO ME」のメールを送ることで、自分の計画を完遂しようとしたのかもしれません。
~いろいろ気になったこと~
・特殊部隊の車の後部ドアの後ろに車を乗り付けられちゃった→ドアが開かなくなって特殊部隊が出動できなくなっちゃった
ちょっと車を前に動かせばいいだろ!
・エリザベスはなぜ絵画を奪おうとしたの?
自分にひどいことをしたサイモンへ「償い」をさせるためでしょう。
・サイモンがギャングの一団を皆殺しし、頭が半分になったフランクが「エリザベスはお前を利用しているぞ」と言うシーンは?
幻覚ですが、このフランクが告げたことは真実でもありました。
サイモンの「しまわれていた記憶」が、彼自身に警告をしたのでしょう。
序盤にエリザベスはフランクたちに「サイモンは理想の世界であなたたちを殺すわよ」と言っていました。
しかしサイモンは皆を殺す幻覚を見たあとに、現実でもフランクを除いたギャングたちを皆殺しにしたのです。
・エリザベスはなぜフランクと寝たの?
純粋に恋心があったわけでなく、エリザベスはフランクも利用しようとしていたのだと思います。
エリザベスは最後にipadでフランクに「絵画をお金にして2人で分ける?」とも提案していました。
ギャングのリーダーであるフランクを味方につけるという「保険」をかけていたのでしょう。
・サイモンは結局生きているの?
最後は車の上に乗ったまま海に投げ出されたサイモンですが、その後の生死は不明です。
死んだと考えるのが普通ですが・・・このクライマックスシーンも、サイモンが見た夢かもしれません。
・催眠療法っていうかマインドコントロールじゃね?
それは言わない約束で。
~記憶~
エリザベスはサイモンの記憶を封印していましたが、その記憶の欠落は「力を加えられれば封印は破られる」とも言っていました。
サイモンは「名前が気に入った」という理由で、療法士にエリザベスを選びました。
たくさんの写真がある中で、エリザベスの写真に気を取られるなと告げられても、どうしても意識をしていまします。
サイモンはエリザベスのことを全て忘れたわけではなく、記憶の奥底に隠されたにすぎなかったのです。
ちょっとの揺さぶり(メール)で記憶の封印は解かれることになり、そのことによる悲劇(無関係の女性の死)も生みました。
エリザベスの記憶を失っても、サイモンはエリザベスへの憎悪を持ったままでした。
しかしフランクはサイモンとは違います。
映画のラストシーンのフランクは、絵画を持ち逃げされたにも関わらず笑顔なのです。
フランクが「覚えている」「忘れる」のどちらを選んでも、サイモンのような結末にはならならず、フランクは幸せになるのかもしれません。
*以下の意見をいただきました。
> エリザベスはサイモンに『ギャンブルはやめないし、人をだまし嘘をつく。盗む。愛する人のために。』という催眠をかけていましたよ。
> 隠した場所を忘れたことも催眠によるものだと考えるとしっくりしますし、メールを送ったのもわざと思い出すきっかけを与えたものだと思います。
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映画『トランス』のここがおかしい、よくわからない(要注意:ネタバレしまくりです)
私もそう思います
映画なんだし多少のことは目をつぶるにしても、
車のことはいくらなんでも強引じゃ。。。
(街中の駐車場に何ヶ月も、誰も気づかず置いておけるものでしょうか)
それでちょっと興ざめしてしまいました
だったら
異臭で通報→遺体と絵が見つかる→警察がサイモンにたどりつく
そこでエリザベスの口からすべてを知る・・・
というほうがすっきりしたかも。
それじゃ暗いかな。。。
個人的お気に入り度が高くないにもかかわらず、好みではなく内容をしっかりと評価ができている方だと感じてついコメントを残したくなりましたw
またちょくちょくブログを見に来ると思います。
最後にちょっとした指摘を。
エリザベスはサイモンに『ギャンブルはやめないし、人をだまし嘘をつく。盗む。愛する人のために。』という催眠をかけていましたよ。
隠した場所を忘れたことも催眠によるものだと考えるとしっくりしますし、メールを送ったのもわざと思い出すきっかけを与えたものだと思います。
それとメールはBRING IT MEではなく、BRING IT TO MEですよw
以上、失礼しました。
> 個人的お気に入り度が高くないにもかかわらず、好みではなく内容をしっかりと評価ができている方だと感じてついコメントを残したくなりましたw
> またちょくちょくブログを見に来ると思います。
ありがとうございます。コメントが遅くなってすみません。
> 最後にちょっとした指摘を。
> エリザベスはサイモンに『ギャンブルはやめないし、人をだまし嘘をつく。盗む。愛する人のために。』という催眠をかけていましたよ。
> 隠した場所を忘れたことも催眠によるものだと考えるとしっくりしますし、メールを送ったのもわざと思い出すきっかけを与えたものだと思います。
> それとメールはBRING IT MEではなく、BRING IT TO MEですよw
なるほど、追記させてください。
誤記や勘違いが多いブログですので、ご指摘がすごく助かります。重ねて感謝申し上げます。
実はこの映画色が重要な要素となっており、赤=現実又は事実で
青=催眠の影響下又は妄想を表しています。
そのため序盤はサイモンやフランク一味も赤い光と共に映りますが催眠が強くなるにつれて青い光だけになります(サイモンは事実を思い出すときは赤)、それに対し催眠をかける側のエリザベスは赤い服を着たり、赤系の光と共に映ります。
このことから劇中で現実と断定できるのは赤い場面だけです。赤い車の死体やフランクとサイモンの戦いも現実ですね。逆にフランク一味殺害は青い部屋で行われてるので妄想の可能性が…
ちなみに催眠にかかりやすいと思われるサイモンとフランクは青い服ばかり着てます。他にもキーホルダー、枕、付箋にいたるまで青ずくめです。
最終的に赤と青の戦いは赤い車を青い海に落として青い車が残るという結果に。フランクの現実は崩壊してしまったのです…最後のtranceボタンも青…
最後に、エリザベスは最初にサイモンが訪れた後事件を調べて泣いていますが、この時点では彼女には赤い車の女が殺されたことを知る由もないんですよね。
ひょっとしたらエリザベスにとってフランクの存在は想定外で、サイモンが捕まるだけですむというのが本来の計画であり、それがこんな大事になってしまった…と考えれば一応の辻褄が通ります。
この映画サスペンスとして見ると微妙ですが色に注目してみるとホラー映画として結構楽しめました。