冒険の果てに 映画「メタリカ・スルー・ザ・ネヴァー」ネタバレなし感想+ネタバレレビュー
個人的お気に入り度:5/10
一言感想:メタリカを知らないとちょっとしんどいかな・・・
あらすじ
世界的なヘヴィメタルバンド・メタリカのライブが行われようとしていた。
スタッフの青年トリップ(デイン・デハーン)は、メンバーにとって重要なカバンを取ってくるように指示される。
その先で起こる事件は、予想もつかないものだった。
超有名ヘヴィメタバンド「メタリカ」を描いた映画です。
本作は、ショーをそのままスクリーンで観るライブビューイングでも、メンバーの人生を描いたドキュメンタリー作品でもありません。
メタリカのライブシーンを見せながらも、それと平行して青年の奇妙な冒険が描かれるという、特殊な内容になっているのです。
その青年を演じるのが、「クロニクル」「プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命 」で一躍脚光を浴びたデイン・デハーンです。
彼の台詞はごく少ないのですが、表情で語る演技力、その存在感は格別です。
青年が体験する美しいビジュアルで描かれる冒険は、彼のファンであれば多いに楽しめるものでしょう。
しかし、本作はやはり「音楽映画」でした。
メインとなるのは、その青年の冒険ではなく、あくまでもメタリカによるライブシーンなのです。
描かれる割合はライブ:冒険=9:1くらいのものでした。
メタリカにあまり興味がない人が観ると、その割合に戸惑うのではないでしょうか。
反対に、メタリカの大ファンであり、ライブこそを楽しみしている人にとっては、青年の冒険が煩わしく感じてしまうかもしれません。
「大迫力のライブ×アクション映画」というのは本作のウリですが、諸刃の剣のように思えてしまいます。
「バーレスク」はファンでなくても存分に楽しめる内容でしたが、それに比べると本作は敷居が高いと言わざるをえません。
しかし、これも「今までにない映画を作りたい!」という情熱を感じました。
青年の冒険とライブは一見関係のない出来事のように見えますが、実はとある「つながり」があります。
映し出されるメタファーの数々は、深読みするほどに楽しめるでしょう。
また、驚いたのがライブ会場の数々のギミックです。
観客を驚かせるための工夫が次々に出てくるので、これはメタリカに興味がない人にとっても大いに楽しむことができるでしょう。
また、メタリカは意外と(失礼)紳士的なバンドであることがわかりました。
「うるさい音」「汚いことばばかり言っている」イメージ(超失礼)だったのですが、観客への接し方、メロウな曲には「優しさ」を感じました。
終盤のとある展開は、その最たるものでしょう。
残念だったのが、あまり3Dの効果がなかったことです。
ステージのギミックがかなり面白いので、もっと3Dで魅せてくれると嬉しかったですね。
また、「THIS IS IT」でも不満だったことなのですが・・・・作中の歌に日本語字幕がついていないのですね。
3D映画ですし、字幕なんて邪魔だという意見もごもっともなのですが、個人的には歌の内容をもっと知るために字幕がほしいと何度も願ってしまいました。
ちなみに青年の行動は、作中の歌詞の内容に沿ったものでもあるようです。
せめてどの曲がどの名前なのか知りたかったなあ。
曲目は、以下サウンドトラックという名のライブアルバムでも確認できます。
![]() | メタリカ 2640円 powered by yasuikamo |
メタリカのファンの方には最高にカッチョイイライブを体験できるので、大プッシュでおすすめです。
デイン・デハーンのファンの方へは(彼の出番は少ないので)あまりおすすめしませんが、ヘヴィメタやロック音楽がよほど嫌いでないかぎりは楽しめるでしょう。
メタリカのことをもっと知りたい方は、評判がとてもいいドキュメンタリー作品「真実の瞬間」を合わせて観てみるのもいいかもしれません。
![]() | ジェームス・ヘットフィールド 4179円 powered by yasuikamo |
メタリカをほとんど知らない自分でも、その歌声、かき鳴らすギターの音にはしびれました。
ぜひ、音響設備がよい環境で観てください。
以下、結末も含めてネタバレです 鑑賞後にご覧ください↓
〜トリップの冒険〜
青年・トリップは、メンバーに必要なものがトラックがガス欠になったためにまだ届いていないと知らされます。
トラックに使うためのガソリンタンクを片手に、車で向かうトリップでしたが・・・横から車に追突されてしまいます。
車をクラッシュさせた黒人青年は、何かにおびえるように逃げ出しました。<おびえたように逃げて・・・
ラジオでは、街で暴動が起きて、警察がその沈静化のために動き出していることが知らされます。
トリップは走り来る人々や、火がついたパトカーを目にします。
トリップは暴徒と化した人々と、警棒と盾をかまえた警察と板挟みになります。<偶然?にも両者の間に・・・
暴徒の中には、馬に乗り、ガスマスクをつけ、暴徒たちの首に縄をかける謎の男もいました。<怖すぎるガスマスクの男
トリップは男に石をぶつけ、逃げました。
その先の道では、人々が首つりにされていました。
トリップはトラックのところにたどり着きますが、運転手は何かにおびえるばかりで扉を開けようとはしません。
トリップが荷台に乗っていたカバンを確認すると、後ろで見知らぬ男が手を振っていました。
その男は暴徒のひとりで、こちらに仲間とともに走ってきました。
必死で逃げるトリップでしたが、行き止まりに追いつめられてしまいます。
彼はそこで、暴徒と同じようにフードとマスクで顔を隠します。<顔を隠す主人公
トリップは持ってたガソリンを頭からかぶり、そしてライターに火をつけます。
彼は「炎のパンチ」を暴徒たちに浴びせようとしますが、あえなくリンチにあってしまいます。
トリップが目覚めると、なぜかビルの屋上にいました。
そこではあのガスマスクの男がいて、トリップの首に縄をかけて引きずり回しました。
トリップはなんとか男のハンマーを奪い、そして地面に振り下ろします。<地面を打つ!
すると・・・まわりのビルのガラスが割れていきます。<ビルが崩壊する・・・
さらに何度も地面に打ち付けることで、ガスマスクの男も消えていきました。
このときに、ライブ会場にも異変が起きます。
ホールが崩れ、ボーカルのジェイムズはライブを一時中止するように宣言します。
ジェイムズは観客の安全をじゅうぶんに確認した後、「2人のけが人が出たようだが、大丈夫だ。続けるか?」と観客にアピールします。
「昔練習していたガレージとそっくりな暗さだ。『kill em all』を出したときさ」とポジティブに言ってのけました。
ライブは、ジェイムズの「いい気分だ!」ということばとともに終わりました。
〜青年・トリップの冒険の果て〜
トリップはやっとの思いで、会場にカバンを持って舞い戻ってきますが・・・そこにはメタリカのメンバーも、観客もおらず、静まり返っていました。
これはトリップの冒険中にライブが終わったわけではなく、まだライブは始まってもいなかったことを示しているのだと思います。
それを示す根拠のひとつが、映画の冒頭で登場した「一番乗りだ!」と騒いでいる男の存在です。
(映画内で正確な時間経過が示されたわけではないですが)彼が到着してからわずかな時間でライブが始まっていました。
世界的なバンドのライブに、そんな時間にやってきて「一番乗り」であるわけがありません。
トリップがはじめて会場に入った瞬間にも、そこには誰もいませんでした。
徐々に音楽と、観客やメンバーの姿が見えるという「演出」になっています。
スタッフが「(ドラム担当の)ラーズがまた来ていない」と話すシーンもありました。
これも、ライブがすぐに始まったにしては不自然です。
エンドロールで映し出されたのは、インストゥルメンタルの曲を誰もいない会場で披露するメンバーの姿でした。
その様子をトリップも観ています。
このシーンは、リハーサルであると考えるのが自然でしょう。
〜妄想の理由〜
トリップはメタリカのファンであり、どこかで彼らと「つながりたい」と思っていたのではないでしょうか。
トリップは、ただのツアースタッフのひとりです。
彼にとって、メタリカのライブは「すごく近い場所で行われているのに、自分とは関係のない世界」で行われているものだったのだと思います。
彼はライブに影響を与えたいがために、あのような奇妙な冒険を(メタリカのライブ会場を壊すために)繰り広げたのではないでしょうか。
「trip」の意味には「旅行」意外にも「(麻薬などによる)幻覚」の意味もあります。
トリップの冒険は、幻覚(または妄想)でもあったのでしょう。
〜ガラス〜
トリップは、横から追突されて「ガラスが舞った」シーンから奇妙な世界に足を踏み入れました。
その世界が終わりを迎え、なおかつライブに影響を与えたのも、同じようにガラスが舞うシーンでした。
ガラスは透明で、ときには時には自分を映し出す鏡ようなものでもあります。
それは「別世界への入り口」の象徴のように思えました。
〜血の手形〜
トリップは、物語のはじめにメンバーのギタリストであるカークが、手から血を流しているのを見ていました。
冒険の途中で、トリップは壁に張り付いた赤い手形を見ます。
これは、「現実が妄想に浸食してきた」ことを示しているのではないでしょうか。
トリップの冒険は妄想によりつくられたものですが、現実の出来事を反映していたのです。
ライブのギミックである火柱や電流もトリップの冒険に登場していましたね。
〜首つり人形の意味は?〜
トリップが乗った車には、不気味な首つり人形が飾ってありました。
人形はトリップが事故にあったときに目を動かし、ガスマスクの男の懐に忍び込むという「裏切り」までしました。
人形は、トリップの自虐的な心のあらわれなのではないでしょうか。
妄想の中で出会ったガスマスクの男は、トリップどころか周りにも危害を加えていた殺人鬼です。
その殺し方は、人形と同じような「首つり」でした。
自分自身を傷つけたい(死にたい)という思いが、人形として具現化したのです。
トリップは、自らの体に火をつけるという行為をしています。
これも自分自身を傷つける(さらに周りも傷つける)ものでしょう。
トリップが水の中にいるイメージもたびたび挟まれています。
これは傷つけた(火をつけた)自分を沈静化したいという思いのあらわれのように捉えました。
〜カバンに入っていたものは?〜
トリップが取りに行ったカバンの中身は、最後まで明かされることはありません。
これはマクガフィンであり、何であってもよいものなのでしょう。
ファンであれば、メンバーの「大切なもの」を想像してみると楽しいかもしれません。
〜バンドの演奏〜
なんとも不可解なトリップの冒険でしたが、それに合わせて演奏される楽曲の数々は最高にかっこうよかったです。
「歌え!」「もっとだ!」とジェイムズが観客を盛り上げてくれるのも嬉しかったですし、(バンドが一切歌うことなく)観客に「ウォーウォーウォー!」と合唱させるシーンには鳥肌がたちました。
ちなみに車を運転するシーンでは、「燃料」を意味するFUELがかかっていたりします。
ギミックは、燃え上がる火柱、宙に流れる電流、棺桶に入って出られない人々の映像、スクリーンに映し出される軍隊の行進など、非常にバラエティ豊かで楽しませてくれました。
その中でも特筆すべきは、やはり「女神」でしょう。<ライブ中に組み立てます。
バンドの演奏の途中でスタッフが女神を組み立て、そして(バンドの演奏のために)壊れるのです。
観客が、メンバーと握手ができそうな位置でライブを聞いているのもうらやましかったなあ・・・
この映画は、そんな「最前列」のライブを疑似体験させてくれました。
自分も、ジェイムズが最後に言った「いい気分だ!」と同じ気持ちで劇場をあとにできました。
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メタリカで2,200円は安いので、もう一回観ようと思ってます。
てか見ないで。
宜しくお願い致します。