それも愛のかたち 映画「MUD-マッド-」ネタバレなし感想+ネタバレレビュー
個人的お気に入り度:8/10
一言感想:愛を知って大人になるって、大変だ
あらすじ
アメリカ南部の州アーカンソーに住む14歳のエリス(タイ・シェリダン)は友達のネックボーン(ジェイコブ・ロフランド)ともに、洪水により木の上にあげられたボートを発見する。
そのボートには、マッドと名乗る男(マシュー・マコノヒー)が住んでいた。
マッドはこの場所を離れることができないため、食料を持ってきてほしいとふたりに頼むのだが・・・
「テイク・シェルター」のジェフ・ニコルズ監督最新作です。
海外では批評家から大絶賛され、興行的にも成功した作品ですが、日本ではヒューマントラストシネマ渋谷でしか現在上映がない状態です。
これはかなりもったいないです。
本作は、多くの大人が共感できる「愛」についての寓話なのですから。
主人公の少年が出会うのは、「マッド(madではなくmud)」と名乗る正体不明の大人です。
マッドには好きな女性がいるのですが、彼はとある理由により結婚することどころかそばにいることすら叶いません。
その「なぜ」をゆっくりと解き明かし、「愛」について知らなかった少年は、やがてその本質を知る物語になっています。
愛を知った少年はやがて大人になるための準備をして、大人もまた子どものおかげで成長をします。
ごく少ない登場人物が織りなす人間ドラマと、それぞれの「主張」が紡ぎだす価値観の違い、そして衝突ー
それら全てが、とても丁寧に描かれていました。
画作りもとても丁寧で、ロングショットを多用した撮影の上手さ、荒れた川辺の風景の美しさは筆舌に尽くしがたいものがありました。
公式ページでは「現代版スタンド・バイ・ミー」という宣伝がなされていましたが、より近い作品は「トム・ソーヤーの(大)冒険」でしょう。
![]() | ジョナサン・テイラー・トーマス 1312円 powered by yasuikamo |
ハックルベリー・フィンが「マッド」という大人に変わったような印象でした。
実際にニコルズ監督は物語の執筆にあたり、トム・ソーヤーから多大なインスピレーションを受けたそうです。
本作の難点は、とてつもなく地味なことです。
作中で大きな事件はそれほど起こりませんし、ゆったりとしたテンポで描かれているので、人によっては退屈に感じてしまうでしょう。
上映時間が2時間10分と長めなのも、観る人を少し選んでしまう要素であると思います。
「想い」や「成長」が伝わる映画としては、最高峰の出来です。
登場人物のことばをひろいあげるだけで、いくつもの奥行きが見えるようになります。
「スタンド・バイ・ミー」はもちろん、「マイ・フレンド・フォーエバー」のような少年たちの冒険を期待する人には大プッシュでおすすめします
近くで上映がはじまりましたら、ぜひ。
ちなみに、ヒューマントラストシネマ渋谷では「未体験ゾーンの映画たち」という未公開作を連日上映する企画がなされています。
<未体験ゾーンの映画たち2014>(pdfファイルなのでクリック注意)
日本で劇場で観ることができない(DVDスルーになる)良作はかなり多いので、こうした企画はもっと盛り上がってほしいですね。
以下、作品の終盤までネタバレです 鑑賞後にご覧ください↓
一応結末には触れていませんが、かなりのネタバレです。
本作は観ている人が少ないのですが、作中の登場人物の主張だけは書きたいので・・・
~トムおじさんの主張~
マッドの育ての親のトムさんは、マッドと、その想い人のジュニパーのことをこう言っていました。
「マッドがああなったのは彼女のせいだ。
彼女は自分を優先する」
マッドは、ジュニパーを妊娠させた男を殴ったばかりか、別の暴行をした男を撃ち殺してしまい、逃亡者となっていました。
これと同じようなことを、エリスの父も言っていました。
〜エリスの父の主張〜
エリスは自分の妻のことをこう言っていました。
「いつかわかる。女は強い。
自分の思い通りにしたがるんだ。
愛を信じるな」
マッドの恋人のジュニパーも、「自分の思い通りに」したかったのかもしれません。
~ジュニパーの主張~
モーテルに住んでいるジュニパーは、エリスにこう言っていました。
「本当は彼とともに行きたかったの。
君は彼のことを知らないわ。
彼は天性のうそつきよ。
彼のことを愛しているわ。
でも、ずっと逃げてまわっているのはイヤなの」
エリスが去った後、ジュニパーはベッドに突っ伏して泣いていました。
エリスは、さらに勝手な女性の言い分を聞くことになります。
〜パールの主張〜
エリスにはパールという年上の女の子が好きで、彼女に詰め寄る男を倒し、なおかつ果敢にアタックをしていました。
彼は「僕のガールフレンドになってよ」とパールのほおに軽くキスをしますが、パールは答えませんでした。
エリスはパールに電話をしますが、彼女は出てくれません。
それどころか、パールは別の男とデートをしていました。
男を殴ったエリスに、パールは「あなたのガールフレンドですって?勘違いしないで。あなたまだ14歳でしょう」と言いました。
エリスの恋もまた、打ち砕かれたのです。
〜マッドの主張〜
マッドはジュニパーのことが好きでした。
しかし、「結婚に結びつかない恋もある」と、マッドはその関係を濁して言っていました
エリスとネックボーンは彼女を追ってきた男(マッドが殺した男の弟)から逃れさせ、マッドのところに連れている計画を立てていました。
しかし、ジュニパーはその時刻になってもモーテルから出てきませんでした。
ジュニパーは、離れた場所のパブで男と楽しそうに遊んでいたのです。
結局のところ、トムおじさんが言っていたことが正しかったのでしょう。
マッドもジュニパーもダメな人です。
ジュニパーは次々と暴力を振るう男のところに行き、
マッドはそんな彼女のために男を殴り、あまつさえ殺してしまうのですから。
2人は共依存のような関係でもあります。
ジュニパーの主張を聞いたエリスは、「この嘘つきめ!」とマッドを殴りつけました。
エリスはその後マムシに噛まれてしまいますが、マッドは逃亡中の身にも関わらず病院に運んでくれました。
マッドはジュニパーのモーテルを一瞥したあと、こっそりとエリスの家に行きます。
マッドは静かな声で、こう言いました。
「俺も彼女も間違いを犯したんだ」
エリスは「父さんが女の愛を信じるなって言っていたんだ」と自分の気持ちに即した意見を口にします。
マッドはこれにこう返します。
「それは違うさ。
エリス、君はどんな女ともやっていけるよ」
エリスがマッドのことを「いい人だ」とはにかみながら言うと、マッドは「俺は違うさ」と否定しました。
マッドは自分がダメなこと、ジュニパーとの関係もダメなこと、全てわかっていたのでしょう。
それでも、エリスには女性を愛し、幸せになってほしいと願っていました。
〜いろんなものが捨てられている〜
ネックボーンのおじは川底に潜り、様々なものを拾う仕事をしていました。
「いろんなものが捨てられているが、全てを拾うのは大変だ
何が大切なのかを見極めるんだぞ」
おじは、そう仕事のことを言っていました。
これは作品のテーマでもあるのでしょう。
大切なものの選択次第で、人生は変わるのかもしれません。
〜誰かのもの〜
エリスはマッドのためにボートのエンジンを盗みました。
それは、父の同業者が使っていた大切なものでした。
エリスは盗んだエンジンのことを「ガラクタだろう!」と言い捨てますが、父は「彼にとっては生活の種だ!」とエリスを叱りつけます。
誰かにとって取るに足らないものでも、他の人にとっては重要なものもあります。
マッドとジュニパーの関係も、トムおじさんにとっては不幸でしかなくとも、本人たちにとっては重要なものだったのかもしれません。
〜おじとネックボーン〜
余談ですが、個人的にこの作品で一番好きだったのは、ネックボーンとそのおじの関係です。
おじは「俺はお前の親代わりだ、何でも言っていいいんだ」とネックボーンに言うのですが、彼は「このヘルメットマジくせえ」と返すのです。
おじはたまらず笑ってしまいます。
ネックボーンには親がいないのですが、それに代わる素敵なおじがいてよかったと思いました。
この関係も「愛」によるものです。
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