誰にも勝てないもの 映画「ラッシュ/プライドと友情」ネタバレなし感想+ネタバレレビュー
個人的お気に入り度:9/10
一言感想:イヤなやつだったけど、いいやつだった
あらすじ
F1レーサーのジェームス・ハント(クリス・ヘムズワース)とニキ・ラウダ(ダニエル・ブリュール)は、しのぎを削るライバル同士だった。
1976年、ランキング1位だったラウダはある事件により有名になる。物語は6年前にさかのぼり、2人の対照的な性格と生き様を描き出す。
「アポロ13」「ビューティフル・マインド」のロン・ハワード監督最新作です。
本作が描いているのは、モータースポーツの「フォーミュラ1(F1)」。
物語のミソは、これが「死と隣り合わせ」のスポーツであるということでしょう。
アイルトン・セナの死亡事故もあり、近年では安全の基準が厳しく設定されています。
しかし、物語の舞台である1970年代の安全対策はまだまだいい加減で、年間25人のレーサーのうち2人が死ぬという有様でした。
以下のリンクを見ると、その変遷はわかりやすいでしょう。
<F1における安全性の歴史 1950年代~60年代>
<1970年代><1980年代><1990年代><21世紀>
そんな一歩間違えば死ぬスポーツに挑む男たちは、まともではありません。
いや、まともでないからこそこのスポーツに挑めたと言うほうが正しいでしょう。
それどころか、本作の主人公ふたりはかなりイヤなやつでした。
主人公のジェームス・ハントはイケメンでスター性があり、後先を考えない「キリギリス」のようなキャラクターです。
女子にはモテモテで、自分の人生を「最高だ、これ意外は考えられない」と思っている超絶リア充でした。

一方、もうひとりの主人公のニキ・ラウダはネクラで華がないけれど、計画性のある「蟻」のようなキャラです。
イケメンからはほど遠いネズミのような風貌と、周りを馬鹿にする態度のおかげで人気も全然ない非リア充でした。

この「イヤなやつであることは共通しているけど、その性格と生き様は正反対」なキャラクターのぶつかり合いこそが、物語に厚みを与えています。
作中では彼らの他にもヨッヘン・マス、マリオ・アンドレッティ、ジョン・ワトソン、ロジャー・ペンスキーなどの実在のレーサーの名前も登場しますが、その顔やキャラクターは映画で映し出されることはありません。
あくまで描かれているのは、ハントとラウダのライバル関係ばかりなのです。
この思い切った描写により、無駄がなく、どちらの主人公にも(イヤなやつなのに!)感情移入でき、まさかの行動や決断に感動できる、濃密な人間ドラマが展開されていました。
命がけの対決をする正反対のライバルと言えば「あしたのジョー」の矢吹丈と力石徹を思わせますが、本作の主人公ふたりの関係性はそれを上回るほどの奇妙さ、面白さがありました。
誰かと一緒に観ると、「ハントとラウダ、どっちが好き?」「どっちの生き方のほうがうらやましい?」などという会話に花が咲くことでしょう。
大好きだったのが、彼らが「自分の価値観」をライバルにぶつけるシーンです。
ふたりは、それぞれの大切なものを守るためにレースに望み、「勝利」を目指します。
最終的に手にするものが、勝利なのか敗北なのかー
物語が出した結論に、身震いするほどの感動を覚えました。
レースシーンの躍動感も特筆すべきものです。
劇場が震えんばかりのエンジン音、低い車高から見据えるレースの迫力は、劇場でこそ体験するべきものです。
ハンス・ジマーによる音楽も、「静」「動」いずれのシーンでもドラマを盛り上げてくれました。
![]() | Hans Zimmer 882円 powered by yasuikamo |
本作は40年前のF1が盛り上がっていた時代を思い出させてくれるタイムスリップ・ムービーでもあります。
役者は実在の選手と顔から雰囲気まで似ていて、エンツォ・フェラーリやルカ・ディ・モンテゼーモロまでもが「写真を見るだけでそっくり」であることがわかります。
ニキ・ラウダの有名なエピソードだけでなく、当時にレースを観た人に「懐かしい」と思わせるエピソードがびっしり詰まっています。
いままで表面上しか知らなかった事件にどういう舞台裏があったか、それを鮮明に知ることができるでしょう。
もちろん、F1に全く興味が無い人でも大いに楽しめます。
予備知識として必要なのは、ポイントシステムにより年間の優勝者が決まるということくらいでしょう。
専門用語はあっても巧みな話運びによりその意味がわかり、状況もわかりやすく描かれているので、小難しい印象は全くありません。
ちなみに、ロン・ハワードの監督第1作も、同じくカー・アクションが描かれている作品でした。
![]() | ロン・ハワード 3800円 powered by yasuikamo |
ハワードが監督としてのキャリアをはじめたのは、奇しくも「ラッシュ」の舞台である1976年です。
F1のファンにとっても、ハワード監督のファンにとっても、この映画は「40年ぶりの再会」となるでしょう。
また、本作の日本語吹き替え版では堂本剛と堂本光一が主人公の声優を務めています。
映画ファンであれば「また話題性だけの芸能人の配役かよ」と思われるかもしれませんが、実は堂本光一は熱烈なF1ファンとしても有名で、「僕が1人のファンになる時」という本も出しています。
声には違和感が無く、それどころか上手いと評判ですので、Kinki Kidsのファンは吹き替え版を選んでみてもよいのではないでしょうか。
吹き替え版限定の本編終了後のおまけ(←おまけのネタバレ注意)もあるそうですよ。
また、ジェームス・ハントとニキ・ラウダのWikipediaの項目には映画のネタバレばかりが記載されているのでご注意を。
本編終了後に読むと、さまざまなトリビアを知れてまた楽しかったりします。
F1を知らない人から造詣の深い人まで、若い人から当時をよく知る方まで幅広く楽しめる、観る人を選ばない傑作です。
「あなたの生涯の一本を塗り替える」なんていう思わせぶりなキャッチコピーは好きではありませんが、本作には確かにそこまでのことを思わせる完成度がありました。
現在、日本でのF1の人気は下火ではありますが、この作品を契機として再び盛り上がってくれることを期待しています。
いわゆる「男のスポーツ」なので女性は敬遠しがちかもしれませんが、クリス ・ヘムズワースというイケメン目当てでもなんでもいいので劇場に足を運ぶことをおすすめします。
ただし、PG12指定だけあってセックスの描写や女性のヌードがあるのでお子様の鑑賞にはご注意を。
当然、大プッシュでおすすめです!
以下、結末も含めてネタバレです 鑑賞後にご覧ください↓
〜ハントのキャラクター〜
・女性にはモテモテで絶倫
・見た目も胸板が厚く、長髪でモデルのよう
・愛想がよく人気も抜群
・「レースだけが自分の生きる道だ」
これがハントのキャラクターです。
酒と女が大好きで、自分の生き方を最高だと自負している彼のことは、多くの方がうらやましいと感じるでしょう。
しかし、一方では繊細な人間でもあります。
レース前にはよく嘔吐をしていました(これは有名な事実)し、ひとたびスポンサーが離れてしまうと酒に溺れ、妻・スージーにも悪態を尽きます。
スージーは俳優のリチャード・バートンとの熱愛が報道され、ハントは別れを告げられます。
記者には「慰謝料を払わなくていいし、人生最大の勝利だよ」とユーモアを交えて答えていましたが、帰りの飛行機の中ではイライラのためか、ライターのふたを開け閉めしていました。
ハントはスチュワーデスとセックスをして、その「ピストン」の動きと同期したようにレースで車を動かし、そして勝利を重ねました。
彼はパーティで「普通の生活では俺は全然ダメな人間だ。俺にはここしかない」と宣言していました。
自由奔放に見えた彼でしたが、ある意味ではその生き方は窮屈なものだったのでしょう。
〜ラウダのキャラクター〜
・女性にはモテない
・ネズミのような見た目
・すぐに人を「As○Hole(阿呆)」と蔑むせいもあり嫌われている
・「もっと稼げる職業があるなら、転職するさ」
これがラウダのキャラクターです。
彼は受付の女性の後ろ姿を眺めており、デートにこぎつけようとしますが、同僚の技術者から「あの子は俺だったら遠慮するな。あいつの前の彼氏は絶倫で、同じことを求められたら体がもたないぞ」と忠告されました。
その前の彼氏とはジェームス・ハント。ラウダは身を引いてしまうのでした。
技術者としても優秀で、マシンを手直しして2秒以上早く走らせ、エンツォ・フェラーリに「俺を解雇するか金を払うか、得な方を選べ」と脅したりもします。
スポンサーに頼らず、金を自分で工面してのし上がって行くのも、ハントと対照的でした。
彼は合理主義者であり、人気にも、レーサーとしての生き方にも執着がありません。
将来の妻とともにヒッチハイクをして車を運転したときも、「急ぐ必要がないから」とゆっくりと走っていたりました。
ハントは「結婚に興味があるか?」とスージーに聞いたあとにあっさりと結婚をしますが、ラウダは結婚前に「僕はうまくいかないかもしれない。君が必要だ」と自信のなさをつぶやいていました。
ハントが自信家であったことも、ラウダが彼に嫉妬をした原因でもあるでしょう。
〜ふたりの喧嘩〜
対照的なふたりの口喧嘩も楽しかったです。
ラウダ「君はただのパーティ男だ」
ハント「お前は人に好かれない男だ」
ラウダ「阿呆どもと話などしない」
ハント「ひとりぼっちで行儀よくしているからだ」
(ハントの車が1.5cm基準より長くて失格になったとき)
ラウダ「(優勝後のインタビューで)いやあ、1位の車が違反者じゃなくてよかった」
ハント「俺の車を失格にしやがって」
ラウダ「規則は規則だ」
ハント「ネズミはネズミだ」
ハント「同じ条件だったら俺の勝ちだ!」
ラウダ「僕は誰よりも速いさ」
子どもかこいつら。ちょっと可愛いと思ってしまった。
〜事故からの生還〜
1976年、「世界一危険なコース」であるニュルブルクリンクは悪天候に見舞われていました。
ラウダはその危険性から中止を訴えますが、レースの開催を主張するハントは自身の人気を利用し、多数決に勝利します。
ハントとラウダはともにウェット(レイン)タイヤを選択したために大きく出遅れ、乾いた道路用のスリックタイヤへの交換を余儀なくされます。
そして・・・ラウダのフェラーリは縁石に乗り上げたためにコントロールを失い、クラッシュ後に発火をしました。
後続のドライバーたちが救助にあたったものの、彼は顔ばかりか肺の中まで大やけどを負ってしまいます。<炎につつまれる・・・
意識を取り戻したラウダは、地獄のような苦痛を伴う肺の吸引をされ、リハビリをしながらハントの活躍をテレビを観ていました。
彼は病院にいる間もヘルメットをかぶろうとし、妻に「僕を愛しているなら、何も言うな」と忠告しました。<苦痛がありつつもヘルメットを・・・
ラウダはわずか6週間後、レースに復帰しました。
ハントはラウダに声をかけようとしますが、その顔のやけどを見て口を紡ぎます。
「お前に謝罪の手紙を書こうと思った」「こうなったのは俺のせいだ」「俺が続行の提案をしなければよかった」
そう言うハントに、ラウダは「そうだな」と答えます。
しかし、ラウダはこうも言います。
「僕は君の勝利を見て生きる希望がわいた。僕をここに連れ戻したのも君だ」
レースは死の危険性が伴う場所であり、ラウダはそれを身をもって体感しました。
それでも彼は戻ってきた。それはライバルがいたからなのです。
復帰したラウダの成績は4位にとどまりましたが、皆からの注目と賞賛を浴びました。
今まで人気を欲せず、嫌われ者だったラウダが、その人気を見せつけた瞬間でした。
〜ハントの気持ち〜
ラウダの復帰を告げる記者会見で、ゲスな記者は「真面目な話、そんな顔で夫婦関係は続きますか?」と質問し、ラウダは「真面目に答えよう、くたばれ」と答えました。
この後、ハントは記者をトイレの中に向かって殴りつけました。
「貴様の顔をどう思うか、妻に聞いてみろ!」
ハントはそう激昂しました。
ラウダのことをよく知り、ラウダの顔がやけどに覆われたのは自分のせいと思い、自身も妻を持っていた人間であるからこそ、ハントは怒ったのでしょう。
ハントがラウダに抱いていた感情が、もっとも現れたシーンでした。
〜幸せと勝利〜
決勝の舞台は、日本の富士スピードウェイでした。
レース場はニュルブルクリンク以上の悪天候になりますが、それでもレースは開催されます。
ラウダとハントの熾烈な優勝争いが予想される最中・・・ラウダはピットインをして、そのまま車から下りました。
彼は悪天候の危険性を感じ、自らレースをやめたのです。
ラウダはイビサ島で妻と過ごしていたとき、こういう会話をしていました。
「幸せは敵だ。僕を弱くする。突然守るものができたから・・・」
「そう思ったら終わりよ。誰にも勝てっこないもの」
ラウダがレース中に想ったのは、愛する妻の顔でした。
幸せに勝てなかったラウダは、幸せのための選択をしたのです。
一方、ハントの車のタイヤはボロボロになり、残り数周というところでピットでの取り替えを余儀なくされます。
ハントのチームメイトはこう言います。
「ムチャをするな、生きて帰ってくれ」と・・・
しかし、ハントは「優勝を諦めろって言うのか?」と、あくまでレースでの勝利を目指します。
レースをリタイアしたラウダは「集中だ!」とハントを応援しました。
元妻のスージーも、ハントのレースを見守っていました。
ゴール後の審議の結果、ハントの順位は3位と認められ、彼はチャンピオンとなりました。
ラウダは「悔いはない、ひとつもな」と言い残し、ヘリに乗ってレース会場を去りました。
〜ふたりの価値観〜
優勝したハントは相も変わらず女性とセックスしまくり、テレビキャスターとしてもデビューし、TVCMにも引っ張りだこで人生を謳歌しているように見えました。
しかし、イライラしたときのライターのふたを開け閉めするクセも見せていました。おそらく「いなくなった誰か」を寂しく思っていたのでしょう。
イタリアのボローニャで、ラウダとハントは再会を果たします。
ラウダはレースを自らやめた理由を「命を粗末にするのは敗北だ。レースで死ぬ確率は20%、それ以上は上げたくない」と語ります。
ハントは「俺は死神に勝ったんだ。確率のことを言いだしたら、何もできなくなるぞ」と反論します。
ラウダは「医師からの助言」を、ハントに告げます。
「宿敵の存在を神の恵みだと思え。神は宿敵から学ぶんだ」
ラウダは「これからも僕を脅かせ」とハントに頼み、
ハントは「人生楽しくなきゃしょうがないさ」と、その場を後にしようとしました。
ふたりが別れ際に口にしたのは、「またな、チャンプ」でした。
これは、それぞれの価値観での勝利を意味しているのでしょう。
ラウダは幸せのために、生きて妻のもとに帰ることを選択し、勝利しました。
ハントは最後まで優勝をあきらめず、人生を楽しむことを選択し、勝利しました。
お互いに悪態ばかりついていたふたりが、ここでお互いの価値観を知り得た上で勝利者だと誉め称えるのです。
ハントは心臓発作のために、45歳という若さでこの世を去りました。
ラウダが「驚きは無いが、ただただ悲しかった。彼は僕が嫉妬したただひとりの男だ」とナレーションで語り、映画は幕を閉じました。
ハントはラウダに再会したとき、「お前に褒められた、最高だ」と嬉しそうにしていました。
ライバルとは、互いに争うだけでなく、お互いに高め合い、学び、そして親友にもなれる存在です。
これこそ、ライバルのあるべき姿なのでしょう。
おすすめ↓
ジェームス・ハント - Wikipedia
ニキ・ラウダ - Wikipedia
「天才二人の神々しき戦い」 ラッシュ/プライドと友情/ユーザーレビュー - Yahoo!映画
しっかりとした骨組みで、最後まで、緊張が続き、思った以上に良い悪品だと思います。
F1の関係の映画を見たのは、昔々の「三船敏郎」がでていたシネラマ方式の大画面以来でした。
それにしても、事故の再現場面は迫力がありますね。
「カウンタック」の未来的なデザインに心奪われた幼稚園、ミニ四駆で流行るスーパーカーへの憧れを癒した小学生、「F1中継」と「サイバー・フォーミュラ」を毎週楽しみにした中高生、憧れを手にする為に免許取得と貯金に費やした二十代、・・・そして今、なによりも大事な家族の為に憧れを手放しワンボックスカーのハンドルを握るお父さん達には涙ものの大傑作ですよ!
全ての男の子達より、ありがとう!ニキとジェームスにロン・ハワード監督とこの映画を作った人達!!
また、ニキの奥さんマルレーネを始め「いくつになってもオモチャに夢中な男の子達」を見守る女の子達も素敵でした。
>映画ファンであれば「また話題性だけの芸能人の配役かよ」と思われるかもしれませんが、
なんと!吹替え版も観に行ってしまおうかな・・・。それにしても正月映画がパッとしなかったのに、二月はリピート観賞したくなる名作揃いでお財布と時間に厳しいです・・・。
>宿敵の存在を神の恵みだと思え。神は宿敵から学ぶんだ
ライバルとは憎むべき「敵」ではない・・・本当に少年漫画みたいな二人が素適過ぎました。