ぜんぶが魔法 実写映画版「魔女の宅急便」ネタバレなし感想+ネタバレレビュー
個人的お気に入り度:6/10
一言感想:原作により近くなったのかも
あらすじ
13歳になったキキ(小芝風花)は魔女になるため、1年間だけ見知らぬ街で生活するという修行をはじめる。
キキは海辺の町コリコへとたどり着き、パン屋の女主人おソノ(尾野真千子)の家に居候することになる。
彼女がはじめたのは、その空を飛ぶ魔法を生かした「お届け屋さん」という仕事。お客さん第一号として、トンボという男の子(広田亮平)がやってきた。
角野栄子による児童小説「魔女の宅急便」の実写映画化作品です。
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「魔女宅」はスタジオジブリが手がけたアニメ版が有名すぎて、原作小説があることを知らない方も多いようです。
アニメ版は大人から子どもまで楽しめるファンタジーの傑作として愛されているだけに、今回の実写映画化に抵抗感を持つ人多いことでしょう。
何せ、キャストが全員日本人で、ロケ地が小豆島、日本風の家屋も出てくるのですから。
アニメ版では西洋風の世界観であったのに、実写版では「とある東洋のお話」であり、日本風の世界観となっています。これに違和感を覚えるのは致し方ないことなのかもしれません。
しかし、自分はこのことも肯定的に捉えたいです。
なぜなら、もともと原作でも「少しだけ日本風」の要素があったからです。
原作から「『お』ソノ」や「すみれ」という人名がありましたし、原作の物語はとても狭い範囲で起こる人情劇です。
角野栄子さんも「このお話は現実離れしたものではなく、身近な生活に密着した場所で起こっていること。今回の映画ではそのことがすごくよく出ていた」と語っています。
もともと「魔女宅」の実写映画は、ハリウッドと契約を結び製作されるはずでした。
このプロジェクトが頓挫してしまったために、結果として日本で製作されることになったのです。
これが良かったか、悪かったかは観る人それぞれ感じ方が異なるでしょうが、自分はよかったと思います。
角野さんはアニメ版の物語について宮崎駿にダメ出しをしていたことがあったそうで、今回の映画では「少しでも原作に近い」ものを作ってほしかったのでしょう。
日本的な要素があったことにより、より原作らしく、またアニメ版との差別化が図れていると感じました。
パン屋にある小道具や主役のキキの衣装も丁寧に作られており、ファンタジーらしさもしっかり表現されていることも魅力のひとつでしょう。
そのおかげで日本的な風景とのギャップもより感じてしまうのですが・・・肯定派の自分も、「○○丸」と書かれた漁船や、明らかにコンクリートでつくられた学校は映して欲しくなかったかなと思います。
さて、本作の問題点は企画や美術そのものよりも、終盤の展開にあります。
本作のクライマックスは原作の2巻にあるエピソードがもととなっているのですが、状況を改変をしたために全く説得力がなくなっているのです。
主人公に試練を与えるためには、「それ以外の方法は無い」と外堀を埋めるような説明が必要だと思います。
しかし、本作のクライマックスではその説明に明らかに矛盾が生じており、行動の理由に納得ができないのです。
また、動物をCGで作ってしまったために、映像から浮きまくっていることはかなり気になりました(黒猫のジジはよかったです)。
空を飛ぶシーンが合成っぽく見えてしまうことも残念でした。
小道具などの美術がしっかりしているだけに、このあたりの映像にももっと工夫が欲しかったです。
いいところもいっぱいあります。
まず、主役のキキを務めた小柴風花が死ぬほど可愛いです。

高飛車でちょっとわがままで、でも本当は素直なキキの性格を見事に表現していました。
彼女自身、キキを演じるのにものすごいプレッシャーがあったと語っていますが、今回の配役は完璧なのではないでしょうか。
その他のキャストも、おソノさんを演じた尾野真千子、トンボを演じた広田亮平はバッチリはまっていました。
岩代太郎による軽快な音楽、ポップな主題歌「Wake me up」も作品の雰囲気にマッチしていました。
何より嬉しかったのは、原作にあり、アニメ版にはなかったエピソードを描いてくれたことです。
アニメ版で描かれているエピソードはほぼ原作の1巻のみであるため、その「先」は映像で観ることは叶わないものでした。
本作ではアニメ版にはなかった「魔女であることの辛さ」も描かれており、よりキキに感情移入しやすくなっていると感じました。
ちなみに、本作には原作ではなく、アニメ版の設定を踏襲しているところもあります。
たとえば、原作でのトンボは「魔法の絨毯や魔女のを研究して空を飛ぼうとしている」のですが、アニメ版と今回の実写映画では「自分で自転車飛行機を作って空を飛ぼうとしている」のです。
これはトンボとキキの価値観の対比を見せるために必要なものであったので、アニメ版の設定を借りたのは正解だと感じました。
トータルでは良作です。
映画独自のメッセージもあり、それは多くの人の心に響くでしょう。
原作とアニメ版両方へのリスペクトがみられるので、「魔女宅」が好きな人は観て損は無いのではないでしょうか。
どうしてもアニメ版と比べがちな本作ではありますが、「どちらにもそれぞれの良さがある」というスタンスで観ることをおすすめします。
どっちのほうが良くて、どっちのほうが悪いと議論するのではなく、作品のいいところを見つけるのも楽しいですよ。
以下、結末も含めてネタバレです 鑑賞後にご覧ください↓
〜ほんのちょっぴりの描写〜
自分が感動したのは、キキが見せる「ほんのちょっと」だけの行動です。
キキははじめて夜を一人で過ごすためになかなか眠れず、風車の影をまたいで遊ぶということをしていました。
キキははじめて行ったおソノさんのパン屋で、ほうきを持って入ったことを怒られていました。
その後に訪れた歌手のタカミ・カラの家で、彼女はほうきを持っていたことを気にして、手すりにかけようとしていました。
どちらも何でもないような描写ですが、キキの気持ちの移り変わりを繊細に表現したものだと感じました。
〜納得いかないところ〜
何がひどいって、あの嵐の中をカバを運んでいくことに全く必然性が感じられないことです。
カバの容態は「弱っている」という漠然としたものです。
キキはこのときに魔法が使えずに飛べなくなっています。
それなのに動物園の園長は、「俺に船で運ばせてください」と言う職員に、「この嵐の中、そんな危険なことはさせられない。彼女に頼みます」とほざきます。
いやいやいや、どう考えても嵐の中重たいカバを吊るして空を飛ぶ方が危ないでしょう!幼い少女にそんなことをさせんじゃないよ!
ちなみに、原作では嵐など全く起こっていません。山場をつくるために嵐にしたというのはわかるのですが、それでもなあ・・・
また、嵐の中で歌手のタカミ・カラが歌う展開もちょっと好きになれません。
姉の死のために声を出せなくなった彼女が、誰か(キキ)のために再び歌ったというのはよいのですが、彼女のマツコ・デラックスのような体格のせいかコントのように見えてしまいました。
しかも、あれだけ苦労したのにもかかわらず、イシ先生が施した治療は「しっぽにリボンを結ぶ」だけなんだよなあ・・・
カバがかかっていた「中心点行方不明病」も原作にあったことばなのですが、映画ではあまり意味のないものになってしまっています。
映画の展開に納得が行かなかった方、中心点行方不明病って何だよと思った方は、ぜひ原作の2巻を読んでみてください。
「魔女ののろいの噂」が広まって、今までのお届けものが全てパン屋に帰ってくるのも少しやりすぎに思えました。
ちなみに、その発端になった「黒い封筒」を渡したサキのエピソードは、原作とは少し異なっています。映画では黒い封筒の中には何も入っていませんでしたが、原作では手紙に彼女の真意が書かれています。
他にも新井浩文演じる動物園の職員はいくらなんでもキキを邪見にしすぎで不愉快であったし、山本浩司演じるおソノさんの夫は単なるギャグ要員になっていたし、いなくなったジジにキキが「おかえりなさい」と言うだけなのも違和感がありました。キキにはジジを抱きしめてほしかったなあ・・・
〜魔女の気持ち〜
キキは「人になんて思われているかなんて考えるのはイヤ」とふてくされ、母親のコキリに「うまくいかないことがあっても、なるべく笑い顔でね」と諭されていました。
「魔女ののろいの噂」のおかげで仕事がなくなってしまい、空飛ぶ魔法も失ったキキは、「人になんて思われているか」を考えざるを得ませんでした。
キキは「私は人のために、いいものを運びたかっただけなのに!」と無念を口にします。
コキリは「魔女の薬は、人の役に立てるんだなって思うことが大切なのよ」ともキキに告げており、キキはそのことばどおりの仕事をしたかったのでしょう。
最後にキキはカバを運びきり、ラジオでそのことを聞いていた島の住人がキキに手を振ってくれました。
辛いこともあったけれど、再び人の役にたてたことを実感でき、笑顔になったキキが観れてよかったです。
〜風〜
キキが夜眠れなかったとき、ラジオのDJ(LiLiCo)は「明日は明日の風が吹きます。あなたにとっていい風が吹きますように」と言っていました。
キキは洗濯物を干そうとしたとき、「風がやんだ」からこそあたりを飛んで洗濯物を乾かし、自身の仕事も宣伝することができました。
風を読んでいなかったトンボは、自転車飛行機を墜落させてしまっていました。
「嵐の中」という逆境を乗り越えたことにより、キキは再び自信を手にすることができました。
必要なのは、風を読むこと。
ときには、その風に逆らうほどの勇気を持つことも必要なのかもしれません。
〜魔法〜
本作で好きだったのは、空を飛べなくなったキキが、トンボをお昼ご飯に誘ったときのやり取りです。
トンボはこう言います。
「俺さ、あの飛行機で1回だけ上手く飛べたんだぜ。8秒くらいだけだったけど、世界が全部光って見えた。色まで違うんだ。それ以来、飛ぶことばっかり考えているんだ。でも、キキは飛べるもんな」
トンボは自身の力で空を飛ぶことを夢見ていて、キキが簡単に魔法で飛んでしまうことにいらだちを募らせていました。
そんなトンボが、キキが飛べることがうらやましいということを、明確ではないにしろ素直に告げたのです。
キキはこう告白します。
「あたしね、もう上手く飛べないの、飛べなくなっちゃった。ほうきには魔女の気持ちがうつるって言うの。飛べないんならもう魔女じゃないよね。他のことなんてなんにもできないんだから。飛行機も作れない、おいしいパンも焼けない、自転車だって乗れない。私には、そういうのが全部魔法に見える」
そのキキのことばを聞いたトンボは、自分の自転車にキキを乗せます。
自転車の猛特訓がはじまり、何度も転んだ後に、キキは自転車を上手く乗りこなすことができるようになりました。
トンボは「自転車は一度乗れると、一生乗り続けれるんだって」と言い、さらに「また飛べるよ、だから魔女やめるなよ」キキを励ましてくれました。
みんな、それぞれの能力を持つことで、生活を豊かにしたり、問題を解決したり、夢を実現したり、誰かのために行動をすることができるのでしょう。
その能力のことを、キキは「魔法」と読んでいました。
それは決して特別なものではなく、本人の努力と、誰かのサポート次第で手に入れることができるはずです。
<中立的な意見>
地雷ではないけれど。映画「魔女の宅急便」|忍之閻魔帳
<否定的な意見>
【ネタばれ】「カバの尾を治すため魔女が命をかける映画」ユーザーレビュー - Yahoo!映画
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コリコの和洋混じり合う昭和のような街並みのロケも素晴らしかったです。
>動物をCGで作ってしまったために
ジジは良く出来ていましたがマルコは微妙でしたね。
しかし最近は動物愛護な方々が五月蠅くて動物園では芸はさせれないし、サーカスやアニマルタレント事務所が廃業に追い込まれたりと大変らしく、「戦火の馬」でもあれだけたくさんの馬を集めるのに苦労したと聞きますし。
>小柴風花さん。
>その他のキャストも
チープなコスプレ・・・的な痛さも無く可愛くハマってました!
オソノさん始めコリコの街のお母さん達が肝っ玉で良かったです。でもジブリだとおなじみなパワフルなお婆ちゃん達が出て来て欲しかったかな・・・と。
あとパン屋のだんなさんは性格はジブリ版の方が好きです。
>〜納得いかないところ〜
本当に。園長さん的には、魔女=スーパーガール的な認識だったのでしょうか。
あとサキの事もそうですが、根拠も無くキキを原因にしてひたすらウザかった飼育員の魔女への偏見の原因と改心後のキキへの直接の謝罪がはっきり描かかれないのがモヤモヤしました。子どもも観る映画なのですから「根は悪い人じゃないんだよ・・・」的な漠然とした描写で済ませない欲しかったです。この世界にはこういう輩が魔女を火炙りにした歴史があるのですから・・・。
ジブリマニアは発狂してるみたいですがw
ジブリ作品は好きですがこういうところがジブリマニアを好きになれません
個人的にはジジにも違和感があったなぁ
日本ではライフオブパイのトラみたいには出来ないんですかね
人間は自分たちの価値観から外れたものを迫害しますからね
原作でもこういう描写あったんですか?
脚本がおおかみこどもの雨と雪の人だと聞いてなるほどと思いました
「笑顔でいなさい」というテーマはつながってますよね
「西洋」?
> あとサキの事もそうですが、根拠も無くキキを原因にしてひたすらウザかった飼育員の魔女への偏見の原因と改心後のキキへの直接の謝罪がはっきり描かかれないのがモヤモヤしました。子どもも観る映画なのですから「根は悪い人じゃないんだよ・・・」的な漠然とした描写で済ませない欲しかったです。この世界にはこういう輩が魔女を火炙りにした歴史があるのですから・・・。
飼育員はウザかったですね・・・追記しました。サキは原作だと10歳くらいの子どもであり、違和感が無いのですが、やはり誤って欲しかったなと
>脚本がおおかみこどもの雨と雪の人だと聞いてなるほどと思いました
「笑顔でいなさい」というテーマはつながってますよね
そうですね。優しいテーマです。
>東洋?
「東洋『風』」と表記を変えました。
そのとおりですね。東洋と西洋をごっちゃになって考えていました。
たびたびのご指摘感謝です。