チャンスよりも大切なこと 映画「ワンチャンス」ネタバレなし感想+ネタバレレビュー
個人的お気に入り度:8/10
一言感想:努力と愛情の物語だった
あらすじ
ポール・ポッツ(ジェームズ・コーデン)は何をやってもうまくいかない36歳の携帯電話販売員。そんな彼の夢はオペラ歌手になることだった。
ポールはメル友のジュルズ(アレクサンドラ・ローチ)と出会ったことで勇気づけられ、道化師の格好までして歌を披露しようとする。
実在のオペラ歌手ポール・ポッツを主人公とした映画です。
![]() | ポール・ポッツ 1402円 powered by yasuikamo |
彼が一躍脚光を浴びたのは、公開オーディション番組「ブリテンズ・ゴット・タレント」でその歌声を披露したことでした。
同番組はスーザン・ボイルやコニー・タルボットといったスターを輩出した登竜門的存在であり、このオーディションがなければ彼がオペラ歌手として成功することはありませんでした。
おそらく、彼が歌う姿を動画を観て「棚からぼた餅だな」「運良くオーディションに出られてよかったね」と、「その時」しか見ていない方もきっと多いことでしょう。
結末が否応無しにネタバレしてしまっているので、「わかりきっている話をわざわざ観る必要があるのか」と思う方もいるのではないでしょうか。
この映画は、そういう方にこそ観てほしいです。
なぜなら、本作の意義は、彼がその「ワンチャンス」を掴むまでの過程こそにあるからです。
物語を追ってわかることは、ただ一度のオーディションで成功したようなポールの人生は、実は長年の努力と周りの人の愛情によって成り立っていたということことです。
「えー友達が勝手に応募しちゃったんだけど、でもアイドルになれるからいいかなーって」っていうような安いアイドル話とは全く違うのです(超偏見)。
テレビ番組では彼の「栄光」のみを切り取りますが、映画で観ることができるのは彼の酸いも甘いも知り尽くした人生そのもの。この映画を観るとポールポッツのことがより好きになるでしょうし、彼をもっと応援したくなるはずです。
タイトルが「ワンチャンス」でありながらも、実は今までチャンスを掴めなかった男の物語になっているのも見逃せません。
逆説的なタイトルなようにも思えますが、このタイトルだからでこそ最後の成功がより感動的に思えるのではないでしょうか。
終盤である人物が言うアドバイスも、おおよそ「ワンチャンス」ということばからほど遠いものです。自分は、ここに本作の主題が込められていると感じました。
監督は「プラダを着た悪魔」「31年目の夫婦げんか」のデヴィッド・フランケル。テレビドラマのようなテンポのよい作品を得意としているので、本作の軽快さ、わかりやすさは極めて万人向けであることでしょう。
過度にセンチメンタルにならず、気持ちよく映画を観終わることができるエピソードのバランスも見事です。事実との違いはいくつかありますが、映画としてはほどよくまとまっているためにいい改変であると思いました。
素晴らしいのは、主演とヒロインが全くもって美男美女ではないことです。
ジェームズ・コーデンは普段はけっこう美男子にも見えますが、映画では本当にちょっぴり残念なブ男(超失礼)にしか見えません。ていうか、本物のポールポッツに激似でした。


歌は残念ながら吹き替えですが、なんと歌をあてているのは本物のポール・ポッツです。
その歌唱は、劇場で堪能する価値も充分でしょう。
彼女役のアレクサンドラ・ローチはじゅうぶん可愛らしいのですが、どことなく「美人」とははっきり言えない容姿がまた魅力的であったりします。

見逃せないのが、同僚の携帯販売員を演じたマッケンジー・クルックです。
こんな店員がいたらちょっとイヤだよ!

そんなわけで、キャラクター全てが魅力的なのです。
ちなみに、本編ではジェームズ・コーデンのふくよかなセミヌードを強制的に見せられますwまあそこは何とか我慢をしてください。
これはオススメです。
オペラ好きであればより名曲の数々に酔いしれるでしょうし、「ポールポッツって誰?」って方にも問題なく楽しめます。
夢を叶えたい人、今努力をしている人にとっても、とても勇気づけられる内容です。
難点はスポ根ものとしては各エピソードが少々弱く、盛り上がりにかけているところ。
「実話だから」と納得できる範囲なのですが、もっと「どん底からの這い上がり」を見たかった気もします。
個人的に、これは付き合いだして(または結婚して)数年経ったカップルにこそ観てほしいと思いました。
「クタクタになって帰宅したのに、パートナーが先にご飯を食べてしまってがっかり」というあるあるエピソードがあるのですが、そこでのことばがまた感慨深いものがあるのです。
美男美女が主人公の映画と違って観終わったあとにお互いの顔を観て幻滅することもありません(超失礼)し、きっと「ふたりで上手くやっていこう」って思えるはずです。
みんながほっこり幸せになれる映画が観たい方は、ぜひ劇場へ。
以下、結末も含めてネタバレです 鑑賞後にご覧ください↓
〜はじまり〜
驚いたのが、彼がいじめられていた36年を1分くらいで描いてしまうこと。いじめっ子に追いかけられているうちに、ポールの姿は7歳の少年→13歳の少年→中年へと変わって行くのです。<追っかけられて
<追いつめられると中年に
簡潔に「ああ、ずっと同じようないじめられ方をしていたんだなあ」とわかる秀逸な描写でした。
店長のブランドンは、勝手にポールのメル友に会うというメールを送ってしまいます。
彼は自分の容姿をブラッド・ピットのようだと偽っており、鏡に映った自分の顔と見比べて意気消沈するしかありませんでした。
出会ったジュルズのほうも自分をキャメロン・ディアスっぽいと言っていたので、お互い様ですね。
ジュルズははじめてポールの姿を見たとき、落胆も驚きもせず、すぐにポールだとわかっていました。メールの文面だけでも、彼の人柄が本当に好きになっていたんでしょうね。
一方ポールの方は「よかった、女性だ」と失礼千万なことをほざいていました(あとでブランドンも言うし)。まあネカマ(若干死語)もいますからね。
そんなポールは、音楽学校の学費のため、地元のコンテストに参加をします。
わざわざ道化師の格好をしたため、「ミシュランマンがなにやってんだ!」などと笑われてしまいます。<この格好はなあ・・・
しかし、バーの客たちはポールの歌声を聞いて息を飲みます。
歌い終わったとき、バーは満場の拍手でいっぱいになりました。ブランドンも「さすが俺のポールだ!」と喜んでくれます。
いじめっ子はポールの賞金をカツアゲしようとしますが、ブランドンが立ち向かい、その彼女もギターでいじめっ子をぶん殴ってくれました。徐々にポールを理解し、応援してくれる人も増えてきます。
〜音楽学校へ〜
ポールはヴェニスの音楽学校に入学し、アレッサンドラという女性とデュエットをすることになります。
結果は見事に優勝。パヴァロッティの目の前でオペラを披露する機会を得ます。
心の底から喜ぶアレッサンドラがポールにキスをすると、彼は「やっぱりだめだ」と言います。もちろん、ジュルズという想い人がいるからです。
「本当に心のきれいな人なのね、明日は頑張って」と、あっさり手を引いたアレッサンドラも、また素敵でした。
しかし・・・本番でポールは極度の緊張のあまり歌いだすことすら難しく、パヴァロッティの持っているノキアの携帯がきになったり、途中で水を飲むという有様でした。
パヴァロッティは中止を告げ、「緊張し過ぎだ。自信がなさすぎる。オペラ歌手は観客の心を盗む。泥棒の図太さがないと盗めない。君は一生オペラ歌手になれっこないさ」とまで言いました。
意気消沈したポールは学校を去り、親の鉄鋼の仕事をいやいや手伝います。
がっかりさせることがイヤで、仲良くなりかけたジュルスのメールにも答えないでいました。
〜ポールとジュルズ〜
ポールは仲直りをするためにジュルズの働いている薬局に行き、何度もその辺をうろちょろするので店員に不審がられていました(警察呼ばれるぞ)。
ポールは閉店までジュルズを待ち続け、引き止めるためにオペラを歌いはじめます。「今も、永久に君を愛す」とー
ふたりは結婚し、ジュルズはプッチーニのレコードをプレゼントしてくれました。
「薬局で働く女の子の話は(オペラに)ないのかしら」「私は経験豊富よ(ポールが童貞だから)」と冗談を言うジュルズが可愛かったですね。
ポールは虫垂炎になり、さらに地元のコンサート場で倒れ、喉に腫瘍まで見つかります。
大好きだったのが、ジュルズがベッドに寄り添ったときのことばです。
「もしあなたが歌えなくなっても、話せなくなっても、これからの生涯を愛でいっぱいにしてあげる」
ポールの人生を知り、彼を愛しているからでこそのことばです。
彼にはオペラがすべて。それがなくなったとしても、ジュルズはポールを愛し続けると言うのですから。
しかしポールは入院してばっかりですね。
後にはポールは自動車にぶつかって肋骨が折れまくりますし、ジュルズの心配は並大抵のものではなかったと思います。
〜先に食べちゃったの?〜
ポールとジュルジュのやり取りで、もうひとつ好きだったのがあります。
それはポールが先に帰宅し、ジュルズがクタクタになって帰ってきたときのことです。
ポールは先にご飯を食べるばかりか、お皿を片付けていませんでした。
ここでジュルズは怒ったりせずに、こう言います。
「一緒に食べたかったのに」と。
ジュルズは夫を過度に持ち上げたり、叱ったりせずに、ただ「一緒に歩む」ことを望んでいたのでしょう。
ポールが成功を掴めたのは、彼女がいたことがとても大きかったのだと思います。
〜挑戦〜
ポールは父親の人生を「何も挑戦していない」と蔑み、こう叱られます。
「じゃあお前は何か挑戦したのか?お前は歌うのが怖い。挑戦していないのはお前のほうだ!」と。
このことばを聞いたあと、ポールは偶然オーディションの広告をネットで見ます。
ポールはコインを投げ、応募するかどうかを決めます。結果は「応募」でした。
トラブルにより発声練習の時間もなく、先に出演した子どもたちが酷評され、ポールの緊張が最高潮になっているときージュルズがメールを送ってくれました。
「当たってくだけろ。パヴァロッティはバカだ!」
そのことばに勇気づけられたポールは壇上に立ち、期待をしていなさそうな審査員にその歌声をぶつけました。
結果は、いつも毒舌ばかりの審査員も太鼓判を押すほどの絶賛でした。
予選を勝ち進んだポールは、審査員の予想通り優勝します。
ポールのことを叱っていた父親も、ポールをバカにするいじめっ子をぶん殴ってくれました。
いじめっ子の「チェーンで殴った」という事実に耳を傾けようとしなかった父親でしたが、ここでは息子のことばを信じたのです。
〜一歩ずつ〜
ジュルズは、人生のチャンスに挑戦し、見事成功をしたポールにこう言います。
「何事も、一歩ずつよ」
一見するとポールの成功はワンチャンスのおかげで掴めたもののようでしたが、実はそれだけではありませんでした。
たったひとつのチャンスのためには、一歩ずつ努力を積み重ねることも必要なのでしょう。
タイトルと正反対のことばを最後に提示したことが、この作品で最も伝えたかったテーマだと感じました。
チャンスを掴むためには、まず一歩ずつ。それは多くの方の人生にも当てはまることです。適当すぎる店長のブランドンにも一歩ずつ努力しろと言いたくなりますね。
最後にポールは「これが僕のオペラ、悪くないだろう」と語りました。
彼のこれまでの人生は辛〜いスパイスの効いた悲劇。だけど最後はハッピーエンドの喜劇。悪くない?いえいえ、素敵ですよ。
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映画は実際のポッツさんの半生をどこまで再現したのか知りませんが「映画」としては大成功です!
>主演とヒロインが全くもって美男美女ではないことです。
上記のテレビ番組での再現ドラマではジュルズ役の女優さんが本当にキャメロン・ディアス風の美人さんでして、スタジオでツッコまれてました・・・。
でも、映画の中のジュルズは地味可愛くて最高!ポールも容姿は冴えないのに本当に付き合ってみれば魅力的な男性感が演技で良く表現されていましたね。
>ブランドン
実在の人物なのか分かりませんが、ポールにとって「いつもは迷惑かけられっぱなしのダメ人間なんだけど、ここぞという時には必ず助けてくれる憎めない親友」というキャラが最高でした。
>アレッサンドラ
まさか恐い家のお嬢様?と思ったら気立てが良くて、家族も素適で本当に魅力的なサブヒロイン。途中退場が惜しかったです。
>〜先に食べちゃったの?〜
夢に向かって挫折しても挫折してもまっしぐら!かと思ったらポールにもダメダメ期あったのですね。そんな彼にも・・・
>ジュルズは夫を過度に持ち上げたり、叱ったりせずに、ただ「一緒に歩む」ことを
まさに富める時も病める時も・・・カップル観賞が多かったですが、お一人様男性(私含む)も居た劇場で何人が「ポール爆発しろ!」と思った事でしょう・・・
>ポールのことを叱っていた父親も、ポールをバカにするいじめっ子をぶん殴ってくれました。
スカっとした半面、彼がポールを見直し認める所も見たかったですね。彼も製鉄所の事故の中で取り残された同僚を命がけで助けた事があるとお父さんが言っていましたので、キレイなジャイアンにしても良かったかもと。
> >ジュルズは夫を過度に持ち上げたり、叱ったりせずに、ただ「一緒に歩む」ことを
> まさに富める時も病める時も・・・カップル観賞が多かったですが、お一人様男性(私含む)も居た劇場で何人が「ポール爆発しろ!」と思った事でしょう・・・
そういや結構リア充なんですよねえw
それも含めてこの映画が好きですが「なんでこのデブが幸せなのに、俺は〜!」と思ってしまう方も多そうです。
お父さんは最後に成功したポールを認めていたとは思いますよ。
>キレイなジャイアンにしても良かったかもと。
と思ったのはポールのお父さんでなくて、子どもの頃からポールをチェーンで殴っていた「いじめっ子」(名前失念)です。
ポールとジュルズとポールの両親がカフェで食事するシーンでお父さんが「工場で溶けた鉄が流出する事故があった時、取り残された同僚を「いじめっ子」が助けた」と語っていたので、危機に瀕した人を見殺しにはしない優しさや倫理観は持っていたのかな・・・と思いました。
成人してからも小学生の頃と同じイジメに興じ、チェーンを巻いて人を殴るクズでもありますけど・・・。