救いのある物語 映画「ウォルト・ディズニーの約束」ネタバレなし感想+ネタバレレビュー
個人的お気に入り度:7/10
一言感想:この原作者、超めんどくさい
あらすじ
1961年、作家のパメラ・トラヴァース(エマ・トンプソン)は、ウォルト・ディズニー(トム・ハンクス)と作品の映画化について交渉するためにロサンゼルに向かう。
その作品の名前は「メリー・ポピンズ」。ウォルトは数えること20年に渡り、映画化を熱望していたのだ。
頑固なパメラは、ウォルトの思い通りに映画をつくることをよしとはしない。その理由は、彼女の過去にあった・・・
本作で描かれるのは、名作ミュージカル・ファンタジー映画の「メリーポピンズ」の誕生秘話です。
![]() | ジュリー・アンドリュース 3123円 powered by yasuikamo |
メリー・ポピンズを観たことがない方でも、作中の楽曲「チム・チム・チェリー」「スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス」は聞いたことがあるでしょう。
世界中の人に愛された映画ですが、実は原作者のパメラ・トラバースが作品の出来に不服を漏らしていたことでも有名です。
彼女の不満がどういったものかと言うと、こんな感じです。
①ミュージカルは御法度よ
②アニメなんか絶対ダメ、実写しか認めないわ
③あの俳優は最悪だから絶対起用しないで
④このセットはイメージと違うわ
うるさいよ。こんな感じの要望を製作途中に出しまくるために、当然ウォルト・ディズニーが思う通りに映画化が進みません。



恐ろしいことに、上記の①〜④は本編の要望の中ではまだマシなほうだったりします。
本作で描かれるパメラ・トラヴァースは、世界一めんどくさい原作者と言っても過言ではないでしょう。
この頑固すぎる原作者に、ウォルト率いる製作陣も負けてはいません。
上記の①や②は映画の主役と言っていいほどに重要なものなので、彼らはあの手この手で作品にその要素を入れようとします。
この「製作陣が原作者の要望に振り回され、それでも何とか彼女を説得しようとする」描写こそがこの作品の魅力です。
彼らの奮闘はときに笑え、ときに同情してしてしまうでしょう。
映画のもうひとつの魅力は、「なぜパメラはそこまで頑固なのか?」という謎を解き明かす過程です。
パメラの幼少期と、メリー・ポピンズの製作途中の時代を平行して描くことで、メリー・ポピンズというキャラクターが生まれた理由、物語の根幹にあるのは何であるのか、ということも観客は知ることができます。
メリー・ポピンズを愛した方にとって、新たな作品の魅力、その奥深さに気づけることでしょう。
原題の「Saving Mr. Banks」も大きな意味を持っています。
バンクス氏とはメリー・ポピンズの登場人物であり、銀行員として働く厳格な父親です。
なぜ彼を救ってほしいと訴えているのか?ぜひ、その題に込められた想いに注目してみてください。
また、邦題の「ウォルト・ディズニーの約束」はちょっと的外れです。
主役はどちらかと言うとウォルトではなくパメラですし、ウォルトは映画化を実現するためにパメラとの約束をむしろ破ろうと頑張っています(笑)。
作中でウォルトは「父親としてこの映画を世に出す」という自身の子どもとの約束も確かにしているのですが、それは映画の主題とは全く異なります。
原題のままではピンとこないので、仕方がないところもあるのですけどね。
ベテランのトム・ハンクスやエマ・トンプソンの存在感も格別であり、個人的にはポール・ジアマッティも大好きでした。
トム・ハンクスが演じるウォルト・ディズニーは「子どもの心を持った大人」そのもの。ファンは必見です。
この映画は、メリー・ポピンズを事前に観ておいた方がより楽しめます。
完成した映画を観ていることを前提としたギャグがありますし、メリー・ポピンズの登場人物を知っていた方がより感慨深いものがあるはずです。
裏を返せば、メリー・ポピンズを知らない方にとって100%の映画の魅力が伝わらないことが欠点であるでしょう(最低限の説明は入るので、知らない方でも90%以上は楽しめるのですが)。
事実からの改変は大いにあるのでしょうが、自分は原作者も制作者も「悪」と描かない作品の姿勢が大好きでした。
きっと映画を観た後は、ズルいことをしようとしていたウォルトのことも、偏屈なおばさんであったパメラのことも大好きになるはずです。
映画製作を描いた映画としても、人間ドラマとしても優れています。
ディズニー映画が好きな人にとっても、ウォルトの作品作りの「情熱」を今一度知ることができるでしょう。
エンドロールがはじまってすぐにもおまけがあるので、席を立たれぬように。
以下、結末も含めてネタバレです 鑑賞後にご覧ください↓
〜パメラの要望一覧〜
パメラの(超めんどくさい)映画への要望とグチを振り返ってみましょう。
・ミュージカルなんて論外よ!
・アニメは認めない、絶対に実写でね
・(脚本家に対して)ええ、「共同」脚本家ね
・(お菓子を持ってきたことに対して)飢えに苦しむ国があるというのに下劣だこと!
・ディック・ヴァン・ダイクは最悪の俳優よ
・(無職の母が乳母を雇う理由がないというツッコミに対して)母親業は大変なのよ!
・歌に造語を入れるなんてとんでもないわ(おかげで作曲家兄弟はスーパーカリ以下略の楽譜をそっと隠す)
・シンシアっていう名前は嫌だわ、ウィニフレッドにしてね
・バンクス氏にひげをつけるですって?そんなのイヤよ
・赤い色は一切出さないで
・家のセットがダメ、派手すぎるわ
・この「お砂糖ひとさじで」が最高ですって?私には押し付けがましく聞こえるわ?
・身長はものさしじゃなく、巻き尺で測ってね
こんな要望を全部聞いていたら、映画をつくることなんかできません。赤い色を出すなとか、かなり無茶難題だよなあ・・・
しかも彼女は脚本を窓から投げ捨てるということまでしやがりました。<これはひどい
彼女がそうした要望を出すのにも、理由がありました。
〜バンクス氏を救って〜
パメラの父は銀行員でした。
パメラは父のことが大好きで、父もまたパメラを「ギンティ」と呼び可愛がっていました。
しかし、パメラの父は仕事が上手く行かず、クビを宣告され、アルコール中毒にまでなっていました。
演説で銀行の利点を訴えるも、彼の顔はひどい有様でした。
父は床にふせ、しばらくして亡くなってしまいます。
重要なのは、メリー・ポピンズに登場したバンクス氏が、パメラの父親が投影されたキャラクターであったことです。
バンクス氏も銀行員であり、父と同じく銀行をクビになってしまっていました。
パメラがバンクス氏にひげをつけないでと頼んだのは、父が「つるつるの肌でのキス」をしようとしたから。
部屋にあった梨を異常に嫌っていたのは、父が死んだ日に運ぶはずだった梨を落としてしまったから。
赤い色を出してほしくなかったのは、父が赤い血を吐きながら死んでしまったためでしょう。
パメラは映画のバンクス氏の描写を知り、「なぜ冷酷に描くの!子どもがつくってくれた広告を破くなんて!父のことを失望させないで!」と怒鳴りました。
脚本は書き換えられ、バンクス氏が地下室で破れた凧を直し、家族で凧をあげにいくというシーンも追加されました。
このときのミュージカルが、これまた有名な「凧をあげよう」です。
バンクス氏は、パメラの父のように死んでしまうこともありませんでした。
パメラは父(バンクス氏)には救われてほしいと願い、メリー・ポピンズの物語の中でそれを叶えたのです。
ちなみに、実際のメリー・ポピンズの映画で、バンクス氏はひげをはやしていました。<ひげあるじゃん!
これはウォルトが譲らなかったことです。パメラは根負けしたのでしょうね。
ほかのウォルトの要望もそのまま映画化されていた印象でした。
また、パメラの父が無くなる前に、パメラのおばが家に訪れていました。
彼女はまさにメリー・ポピンズそのもの。決して気は許さず、子どもを甘やかさずに手伝わせます。
おばは家をきりもみしてくれましたが、父の死を救うことはできませんでした。
しかし、彼女がモデルとなったメリー・ポピンズは、バンクス氏を救ってくれたのです。
〜父のことば〜
父は、こうパメラにこう話していました。
「この世は幻にすぎない。それさえ知ってしまえば、現実に負けずに進むことができる」
「金なんか信じるな。苦しむことになるぞ」
「夢を捨ててはいけない、お前は何にでもなれるんだ」
パメラはこのことばを大事にしていました。
彼女は物語の中で救いを求めました。
印税収入が無くなり、生活に困窮していたとしても簡単には映画化を許可しません。
運転手のラルフの娘は体が不自由でしたが、パメラは「フリーダ・カーロも、体に障がいを待ったわ。どんなことでもできるわよ」と言ってくれました。
彼女の頑固さは、父の教えのためでもあったのでしょう。
〜ウォルトの主張〜
パメラが映画化を許可しなかったのは、金のなる木を育てているようなウォルトが気に入らなかったことも理由のひとつでしょう。
しかし、ウォルトは金のためではなく、世界中の子どものために映画をつくりたいとも主張していました。
ウォルトはイギリスに帰国したパメラを追いかけ、寒い日でも新聞配達を強制されるという辛い少年時代を送っていたことも語ります。
ウォルトは「バンクス氏をたたえよう。名誉とその人生は救われる」とも言ってくれます。
パメラが根負けしたのは、ウォルトという人間を知り、作品がバンクス氏=父を敬うものとなったからなのです。
ウォルトだけでなく、脚本家と作曲家兄弟の存在も大きいものでした。
彼女が作曲家兄の弟がつくりえた歌にのって楽しそうに踊る姿、ウォルトがくれた巨大なミッキーのぬいぐるみを抱く姿が、とても愛おしかったです。
〜完成披露試写会〜
ウォルトはとてつもなくめんどくさいと思ったのか(笑)、完成披露試写会にパメラを呼びませんでした。
しかし、パメラは「私のこと忘れたりしないわよね〜」といいつつオフィスに登場し、試写会に強制的に参加をします。
映画のほとんどのシーンで不機嫌そうな彼女でしたが、いざ映画化を許可するとふっきれたかのようでした。
続編の小説の映画化には「もうこりごり」なのですけどね。
彼女はスクリーンに映るバンクス氏の姿を観て涙を流しますが、ウォルトには「アニメが許せないのよ!」と強がりを言いました。どこまでも、頑固なんですね。
エンドロール後では、実際にテープに録音されていたパメラの肉声が流れていました。
なんていうか、映画のイメージそのまんますぎました。
〜風〜
映画のメリー・ポピンズは、東の風に乗ってやってきました。
本作のはじまわりと終わりにも、「東の風が吹く、何か不思議なことが起こりそうな・・・」というナレーションがありました。
メリー・ポピンズは魔法で人を幸せにしてくれる存在です。
この映画の登場人物も、物語をつくりあげ、人々を幸せにしました。
現実と空想という違いはありますが、物語が目的とするところは一緒です。
東の風が運んできてくれるのは、幸せな物語への期待なのでしょう。
おすすめ↓
#142 ウォルト・ディズニーの約束/20年も映画化に反対してまでも守りたかったもの | Tunagu.
『ウォルト・ディズニーの約束』感想、メリー・ポピンズ誕生のきっかけを知った時、愛着以上に胸が苦しくなる作品。完成度文句無し。 - A LA CARTE
なのでこれも敬遠していたのですが、なんとそのウォルトさんをも困らせる超めんどくさい人が出ると聞いて観てきました。
スゴイよ!Mrs.トラヴァーズ!あのウォルト・ディズニーが押されっぱなしだ!!
>トム・ハンクス
自分の中のウォルトさんはもっと因業親父なのですが、本当にこの人に演らせればどんな極悪人でも好感値が+補正されそうです・・・
>なぜパメラはそこまで頑固なのか?
映画「メリー・ポピンズ」は昨年MOVIXの「午前十時の映画祭」へ観に行った程大好きですが、これを知ってから改めて観たくなり、帰りにレンタル屋へ寄ったのですが何処も貸し出し中でした。皆感動は同じですね。
>〜パメラの要望一覧〜
でも原作者が何も聞いてもらえない所か「何も言わせてもらえない」で日々デストロイ作品が量産され涙する日本人にはちょっと羨ましく思ったりしました・・・。
>エンドロール後では、実際にテープに録音されていたパメラの肉声が流れていました。
携帯電話もボイスレコーダーも無かった時代に言質を録音とか・・・。
でもあの「ウォルト・ディズニー」相手ならこのくらいしてもやり過ぎではないかも・・・と思ったり。
ぴんと来ないタイトルなのですよね。
カゲヒナタさんのレビューはいつも面白くて文章のキレが良くて楽しませていただいてるのですが、
今回の一言感想には噴き出してしまいました(笑)
ほんとにその通り!
私は前からジュリー・アンドリュースの「メリー・ポピンズ」が大好きで、
原作者のトラヴァースはこの映画が不満だったというのも知っていましたが
まさかこれほどとは(^^;
エマ・トンプソンはさすがに上手かったです。
エンドロール後のテープの喋り方にもそっくりだったし。
きっと研究したんでしょうねー。
でも、トラヴァースについてちょっと調べてみたところ
お父さんがアル中で亡くなったというのはどうもこの映画の創作みたいですから
彼女が生きていてこの映画を見たらまた激怒しそうだなと思いました。
トム・ハンクスは本物のウォルト・ディズニーほどハンサムじゃありませんけど、
雰囲気は良く出てたし喋り方も似せてたなと思います。
> カゲヒナタさんのレビューはいつも面白くて文章のキレが良くて楽しませていただいてるのですが、
> 今回の一言感想には噴き出してしまいました(笑)
> ほんとにその通り!
ありがとうございます。
あれは怒られるかもと思ったのですが、書いてよかったです。
> 私は前からジュリー・アンドリュースの「メリー・ポピンズ」が大好きで、
> 原作者のトラヴァースはこの映画が不満だったというのも知っていましたが
> まさかこれほどとは(^^;
> エマ・トンプソンはさすがに上手かったです。
> エンドロール後のテープの喋り方にもそっくりだったし。
> きっと研究したんでしょうねー。
ほぼそのまんまでしたよねえ
> でも、トラヴァースについてちょっと調べてみたところ
> お父さんがアル中で亡くなったというのはどうもこの映画の創作みたいですから
> 彼女が生きていてこの映画を見たらまた激怒しそうだなと思いました。
> トム・ハンクスは本物のウォルト・ディズニーほどハンサムじゃありませんけど、
> 雰囲気は良く出てたし喋り方も似せてたなと思います。
最後のエピソードも改変があるようですね。
それも気に入りました。