誰よりも優位に立ってやる 映画「サンブンノイチ」ネタバレなし感想+ネタバレレビュー
個人的お気に入り度:6/10
一言感想:サービス満載かつマンガ的な超逆転劇
あらすじ
キャバクラ「ハニーバニー」に、銀行強盗になったばかりの3人が現れた。
雇われ店長のシュウ(藤原竜也)、ボーイのコジ(田中聖)、常連客のケン(小杉竜一)は金を奪った後にこの場所に逃げ込み、金を均等に分配しようとしていたのだ。
だが、シュウがコジの取り分が多すぎると不満を言い、3人の関係は不穏な空気を見せていく。
「ドロップ」「漫才ギャング」に続く、品川ヒロシ監督作品の第3弾であり、木下半太よる同名小説の映画化作品です。
![]() | 木下 半太 637円 powered by yasuikamo |
品川ヒロシとは、お笑いコンビ「品川庄司」のボケ担当・品川祐の別名義。お笑い芸人としての品川祐は「憎まれ役」のようなキャラクターであり、嫌いな方も多いでしょう(自分も大嫌いです)。

そのイメージも手伝って、芸人が映画を撮って面白いのかと疑問に思う方、映画監督となっていることがそもそも気に入らない人からのネット上での攻撃も多く、それは作品の評価そのものを落としかねないものでした。
しかし、彼のつくる映画は面白いと思います。
その理由の一つが「とにかくお客を楽しませようとする」気概に溢れていることです。
展開はスピーディ、キャラクターは極端、漫才のようなやり取りや下ネタが満載など、観客を飽きさせない工夫がそこかしこにみられます。
多大な映画愛を感じることも、うれしい要素です。
特にリスペクトを捧げているのはクエンティン・タランティーノです。
バイオレンスシーンや無駄とも思える会話劇はタラ監督のそれに近いものがあり、作中ではタラ監督の作品について登場人物が語る場面もあったりします。
そもそもの「強盗した終わった後で登場人物がもめる話」というのも、「レザボア・ドッグス」らしさを感じます。
これはパクリというよりもオマージュ。タラ監督のキレには及びませんが、充分すぎるほどのエンターテイメント性を誇っていました。
それに比べて、先輩の芸人の松本なんとかさんは、自己満足上等の映画をつくって平然としていますからね・・・品川監督のつくり手のスタンスを見習ってほしいものです。
本作は登場人物が銀行強盗で奪った金を取り合い、その優位性が次々に変わっていく逆転劇になっています。
「この登場人物の行動の意味とは何か?」と疑心暗鬼になりながら観るのも楽しいですし、ただただ意外な展開を期待するだけでも楽しめます。
現在公開中の「白ゆき姫殺人事件」にも通ずるハラハラ、ドキドキが楽しめました。
魅力的な主要登場人物を見てみましょう。






キャラ濃すぎだろ。
個人的にはピーターこと池畑慎之介のキレキレのキャラ、小杉竜一(ブラックマヨネーズ)のもはや演技をしていない素のまんま(笑)のキャラが大好きでした。
この登場人物の誰が勝者となるのか、予想をしながら観てみるのをおすすめします。
難点は、いくらなんでも「この展開はあり得ねえだろ!」とツッコミたくなる強引さがあることです。
でも、そう思っても仕方がありません。そのあり得なさも含めて楽しんでしまうべきであり、多少無理があっても「マンガのような映画なんだから」と納得してしまったほうがより楽しめます。
作中に、その強引さそのものを皮肉った展開やツッコミがあるのには笑ってしまいました。
エグめの描写も好き嫌いが別れそうです。
直接的な暴力シーンはほとんどないのですが、「想像をさせる」グロテスクさが大いにあります。これだけで不快に思われる方も多いでしょう。
性的なシーンもありますし、お子様には到底おすすめできません。
伏線はけっこうわかりやすいため、逆転したときの驚きを感じにくいのも欠点かもしれませんね。
そこはもう少し「隠す」工夫が欲しかったです。
好き嫌いの分かれる映画であることは間違いありませんが、ただただ楽しい逆転劇を期待する方、役者のファンはぜひ劇場へ。
観た後には見事なまでに何にも残らない娯楽作ですが、たまにはこういう作品も、いいものです。
以下、結末も含めてネタバレです 鑑賞後にご覧ください↓
〜芝居と映画〜
シュウの目的は、マリアよりも、破魔よりも、渋柿よりも「上」を行くこと。
そのためにはどうすればいいのか?と、シュウはコジとケンと「芝居」を打つことを決めます。
破魔がキャバクラで監視をするであろうことは事前に確認済み。
3人の「仲間割れ」は、芝居に過ぎなかったのです。
本作のミソは、シュウがかつて映画監督を志していたことでしょう。
シュウは脚本を書いていたこともあり、クスリをやっている先輩にもそのことを褒められていました。
自分が考えた筋書きどおりに事を運ぶのが彼の目的。まるで藤原竜也自身が演じていた「DEATH NOTE」の主人公の「計画通り」のようでした。
〜上手くいかないマリア〜
コジとケンは、あくまでシュウの立てた計画に乗ったのみでした。
しかしマリアはちょっと違います。彼女はトイレを盗撮していた破魔翔に脅され、シュウに銀行強盗の話を持ちかけた張本人でした。
シュウが失った400万円も、実はマリアが奪ったものでした。
銀行強盗の現場でおばあちゃんを演じた彼女は、破魔翔をアイスピックで刺し殺し、仲間割れをしている3人の金を全て奪おうと企んでいました。
しかし、マリアは結局周りの思惑に振り回されてばかりの「部外者」のようでした。
彼女は破魔翔に恐喝され、シュウを操っているかと思いきや何も操れておらず、最後には結局破魔翔に捕まってしまうのですから。
しかし、彼女が輝いていたシーンもあります。
それは、火災が起きたビルの屋上で走り幅跳びをして、隣にビルに飛び移ったことです。<飛べ!
「幅跳びのコツを教えてやろう。それは飛べるって信じることだ。練習をして、最後は気持ちで飛ぶんだ」
シュウはこのマリアのことばを「精神論だろ」と批判していましたが、シュウもまた結局このことばどおり「信じた」ために計画を成功することができたのでしょう。
マリアは作中のほとんどで優位に立つことはありませんでしたが、自分を信じて飛ぶことができ、そのことばはシュウたちの強盗を成功させることに一役買っていました。
〜映画ネタ〜
シュウが賭けていた馬の名前は、タランティーノ監督作品の「ジャッキー・ブラウン」でした。
シュウは「頭に銃を突きつけられて平気なのはヤクザとジェイソン・ボーンくらいですよ」と言っていました。
「ボーン・アイデンティティー」から続くシリーズの主人公の名前ですが、映画を観ない人は知らないだろうな。
対決をするときには、「フレディ VS ジェイソン」「エイリアンVSプレデター」を引き合いに出したりしました。
ケンが「いい加減映画で例えるんやめーや!」と言うのももっともです。
マリアはシュウに「私たち、『トゥルー・ロマンス』のクラレンスとアラバマみたいだね」と言っていました。もう戻れない道を選ぶ男女という意味では共通していますね。
マリアは「クリスチャン・スレーターって何で日本では評価されないんだろう?そりゃあブラット・ピットのようなイケメンじゃないし、ショーン・ペンのような演技派でもないし、でも『告発』や『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』という名作にも出ているのにさあ」とぼやいていました。
これは品川ヒロシ監督の願望そのままなんでしょうね。
破魔翔は「自称映画好きは、他のやつは映画を観る目がないと言う。他のやつが言うことなんか聞いちゃいない!俺は年に二本くらいしか映画を観ない!一番好きな映画は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』だ!しかしそれもベタ過ぎるとか批判をされる。俺はそうほざくやつが大嫌いだ!」と言いました。
これも評論家気取りの人間を嫌う監督の気持ちなんでしょうね。
*そういえば、「キルビルvol1」にあった「ヤッチマイナー!」という台詞もありましたね。言ったのはルーシー・リューのようなモデル系美女ではなく、ウザいキャバ嬢だったけどw
〜展開へのツッコミ〜
シュウ、コジ、ケンの3人は渋柿たちに捕まり、爆発からの火災発生のカウントダウンを一斉に叫びますが、さすがに「0」のタイミングで火災が発生するわけもありませんでした。
ドライヤーで時限装置を作るのも、相当無理がありますけどね。
あとシュウは救急車を強奪しなくてよかったですね。
「捕まえてくれ言うとるようなもんやろ」「検問で一発アウトだろ」などとふたりにさんざん無理だろってツッコまれていました。これも演技なんですけどね。
銀行強盗のとき、マリアが先に救急車が来て金をすり替える計画を話したとき、シュウは「まだ警察も来てないのに早過ぎるだろ!」とツッコミました。
ほかにも計画が思い通りにいくところが多すぎですね。まあそういう映画なんだけどさ。
ツッコミが伏線になっていたこともありました。
それは運び屋の男が「おばあちゃんに取引相手はたとえ肉親でも信用するなって言われているんで」などと教わったことを口にして、コジに「お前のばあちゃん何者だよ!」とツッコまれるというものです。
おばあちゃんとは、ヤバ過ぎる金貸しの渋柿だったのです。
伏線としてはわかりやすすぎますが、あとでコジが「嘘つくと嘘つかれるぞ、おれのばあちゃんが言ってたよ」と返してくれることも含めて、面白かったです。
〜豪華な配役?〜
マリアに枕営業を迫った演出家を演じていたのはぼんちおさむでした。ハマり過ぎですw
「アクシデントを利用しろ」というアドバイスをする演出家が、マリアがつくったアクシデント(照明の落下)により死んでしまうのは皮肉的でした。
渋柿の部下がレイザーラモンHGだったのには驚きました。
藤原竜也のお尻にピーを入れて拷問しているんですけど、これは大丈夫なんでしょうか(色んな意味で)。
他にも前のキャバクラの店長が河本準一だったり、SM穣が壇蜜だったり、ゲイ用のAVの出演者がワッキー・庄司智春・YASU-CHINだったり、その配役だけで笑わせてもらいました。
極めつけが、「破魔翔」の名前の漢字を示すという目的だけで哀川翔が出演することですね。仕事選ばないなあ。
〜悪党ども〜
最後は、マリアを連れた破魔翔が高級ホテルに集まったシュウたちのもとへやってきて、金を与える見返りとしてそれぞれの役割を言っていきます。
コジには「喧嘩がやはり上手え」、ケンには「駆け引きはなかなかだった」、マリアには「やっぱりおめえは女優だ」、死体役だった尾形(赤羽健一)には「お前はパシリで」(笑)、そしてシュウには「おめえの筋書きはやっぱり面白え」とー
シュウが脚本を見てもらった先輩とは、破魔翔のことだったのです。
シュウは「金は俺たちのリセットボタンなんです、できません」と反論します。
破魔翔が凄みをきかせて、こう言ったところで映画は幕を閉じました。
「ばーか、銀行強盗が何言ってんだ。お前らがまともな人生を送れるわけがねえだろ。いいかよく聞け、お前たちは悪党だ」
人生をやり直したいと言っても、銀行強盗という悪事をして、他人を出し抜くような生き方を選んだ彼らは、確かにまともに生きることなどできないのかもしれません。それが「代償」なのでしょう。
手に入れた金は、サンブンノイチよりは少なく分配される程度でした。
思い通りの人生も、均等に分け与えられることはないのかもしれません。
ところで、最後に目を覚ました渋柿おばあちゃんは続編にでも出てくるんでしょうか?(原作には「ゴブンノイチ」「ナナブンノイチ」という続編があります)
子どもが8人、孫が20人もいるという「渋柿ファミリー」の活躍を、ちょっと見たい気がします。
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