人間の権利 映画「ワールズ・エンド 酔っ払いが世界を救う」ネタバレなし感想+ネタバレレビュー
個人的お気に入り度:7/10
一言感想:世界の平和<酒
あらすじ
40歳となったゲイリー・キング(サイモン・ペッグ)には未練があった。それは、高校卒業の日に達成できなかった、友人たち5人でひと晩に12軒のはしご酒をすることだった。
ゲイリーと仲間たちは故郷であるイギリス郊外の街ニュートン・ヘイヴンに戻り、終点となる12軒目のパブ“ワールズ・エンド”を目指して、ひたすらビールを飲みまくる。だが、予想もしなかったトラブルに巻き込まれ・・・
「ショーン・オブ・ザ・デッド」「ホットファズ -俺たちスーパーポリスメン!- 」に続く、エドガー・ライト監督・脚本×サイモン・ペッグ主演×ニック・フロスト助演による最新作です。
このトリオの作品が、自分は大好きです。
これまでの作品は、テンポの良さ、オタク心満載の演出、終盤で怒濤のカタルシスが得られることで高い評価を受けています。
今回の『ワールズエンド』も、まさに期待通りのステキなおバカムービーに仕上がっていました。
何がステキかって、そのコンセプトです。
①俺たちは子どものころの気持ちを忘れちまった、あのはしご酒をしたときの感動もな!
②40歳になった今、達成できなかった12軒のはしご酒にリベンジしようじゃないか!
③酔っぱらいの俺たちが世界を救うぜ!
うん、頭が悪いね。どうやったら②→③への展開になるんだとツッコミたくなりますが、それは観てのお楽しみと言うしかありません。
この”日常系コメディのはずなのに、なんだか展開がおかしくなってしまう”ことも映画の魅力になっています。
キャラクターも紹介してみましょう。






ホビットで主演を務めたマーティン・フリーマンがいたり、「思秋期」で監督・脚本を務めたパディ・コンシダインが活躍し、ジェームズ・ボンド役で有名なピアース・ブロスナンが出演することも見逃せません。
今までの作品ではサイモン・ペッグが真面目な役柄を演じ、ニック・フロストのほうがおバカキャラになっていたのですが、今回は正反対の配役となっています。
よくよく見ると、キャラクターの中で不真面目でダメダメなのはサイモン・ペッグ演じるゲイリーただひとり。
ほかの仲間は真面目に働いており、家庭を持つ者もいます。
このことは、作中で重要な意味を持っていたりします。
作中ではクスクス、ゲラゲラ笑ってしまう小ネタやギャグがちりばめられており、どこかで観たようなシーンもあったりするので、映画ファンであればより楽しめるでしょう。
英語の“ことば遊び”が多いところも特徴のひとつ。町山智浩さんが字幕を監修したおかげで、そのほとんどをしっかり楽しむことができました。
音楽もよかったですね。
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特にプライマル・スクリームの「Loaded」の曲調と歌詞(語り)は、作品にバッチリはまっていました。
また、サイモン・ペッグとニック・フロストというおっさんふたりのイチャイチャっぷりを楽しめるだけで自分は大満足だったりします。
このふたりは私生活でもたいそう仲が良いらしく、ふたりでいる写真を観ているだけで癒されます。それも映画ファンに愛される理由なのでしょう。
欠点をあげるのであれば、終盤の展開が個人的には好きではなかったことと、観た後にビールが無性に飲みたくなることですね。
公式ページでは5人で観れば1人あたり1000円になる劇場キャンペーンも実施されているので、仲のよい友だち同士で観て、その後に彼らのようにはしご酒をしてみるのもよいではないでしょうか。
くっだらない内容です(最大のほめことば)。
未成年者が酒を飲んだり、クスリをやったりするシーンがあるのでお子様にはおすすめしませんが、日々の生活に疲れているオトナにとっては清涼剤として働くことは必死です。
このトリオの作品が好きな人は是が非でも観るべきですし、何の予備知識がなくても楽しめます。当然、おすすめです!
ちなみに、作中ではビールの量をパイントで表しています。
1パイントは約568ミリリットル。日本のジョッキは500ミリリットルなので、1パイントはそれよりもちょっと多いくらいです。
12軒(12パイント)のはしご酒をするわけですから、彼らは約7リットルのも酒を一晩で飲むことに・・・飲み過ぎは、ダメ、絶対!
以下、結末も含めてネタバレです 鑑賞後にご覧ください↓
〜ゲイリーの認識〜
主人公のゲイリーは、40歳になっても思春期の悪ガキのような性格のままです。
ピーターにふたりの子どもがいると知ると「そうか、2回もヤッたのか」、スティーブンに26歳の恋人がいると知ると「このロリコンめ」と茶化したりするのですから。
さらにみんなに借金してるわ、警察に呼び止められたときにはピーターを名乗るわ、勝手に母親を死んだことにして同情を誘うわでやりたいほうだい。
果ては久々に出会ったサムとトイレでセックスしようと持ちかけます。どうしようもねえな。
周りはみんな大人になっているのに、ゲイリーだけ子どものまま。
はしご酒にノリノリなのも彼だけで、他は”付き合い”にすぎません。
ゲイリーは高校時代に街の皆にその存在を知られるような存在であり、そのときが人生の絶頂期でした。
彼が大人になれないのは、その栄光の日々と、はしご酒をした1日が忘れられなかったためなのです。
〜オマージュ&ネタ〜
街がいつの間にか何者かに侵略されているのは、「SF/ボディ・スナッチャー」が元ネタですね。
宇宙人の目(と口)が光るのはジョン・カーペンター監督の「光る眼」っぽいです。
エドガー・ライトが製作総指揮を務めた「アタック・ザ・ブロック」でも、歯だけが光るモンスターが登場していました。
登場人物が「本物なのか(宇宙人じゃないのか)?」と疑心暗鬼になる展開は、これまたジョン・カーペンター監督の「遊星からの物体X」を思わせました。
オリヴァーのあだ名が「オーマン」だったのは、頭にあった傷が“6”に見えたからでした。
666は“獣の数字”とも呼ばれており、映画「オーメン」は頭に“666”のアザを持つ悪魔の子が産まれるというストーリーになっています。
宇宙人とのトイレでの格闘は「ターミネーター2」を思わせました。アンディのくり出すエルボー、しれっとトイレの中に隠れようとするピーターが笑いどころです。
ゲイリーは、アンディが水しか飲まないと主張をすると、「アーサー王だって蜂蜜酒を使っていたんだぞ!」と責めていました。「そのときにはビールだってないぞ」とツッコミが入ったのもよかったですね。
ゲイリーは三銃士がフィクションであることを知らなかったようで、「聖書だってそうだろう」とごまかしました。確かにそんなもんかもしれないけど。
ちなみにオリヴァーがことあるごとに言っていた「WTF」は「What the f○ck off」の略です。真面目な彼は放送禁止用語を言うのがいやで、略したのでしょう。
〜覚えていない?〜
久々に訪れた1軒目・2軒目の店はスタバのようなチェーン店になっており、かつての風格が失われてしまったようでした。しかも、誰もゲイリーのことを覚えていません。
ゲイリーの栄光の日々も、しょせんは過去の忘れられたものにすぎない・・・かと思いきや、後に訪れたお店には”ゲイリーは一生入室禁止”の張り紙があったりました。ヤンチャしたら、その代償はありますよね。
実はゲイリーが忘れ去られていたのには、別の理由がありました。
このニュートン・ヘイヴンの街は、宇宙人にほぼ乗っ取られていたのです。
それにしても、宇宙人たちが正体を現しても、かたくなに「ワールズ・エンドまで行くんだ!」と主張する主人公にはある意味ほれぼれするなあ・・・
〜人間の基本的権利〜
宇宙人の(揉めに揉めてあっさり決まった)通称は“ブリンク(blink)”、彼らは自身を“ネットワーク“と呼んでいました。
ブリンクは青色の血を流し、頭や腕が簡単に取れてしまうロボットのような見た目でした。
ロボットの語源はチェコ語の“奴隷”ですが、ネットワークは奴隷とは正反対の主張をします。
その目的は“共存”。ネットワークは争いを拒まず、近代の急速なIT関連の進歩は自分たちのおかげだともゲイリーに伝えます。
しかし、ブリンクに乗っ取られた人間は「空っぽ(empty)」になってしまいます。客観的に見れば、到底“共存”と言えるものではないでしょう。
ゲイリーの前には、高校時代の自分の姿をしたブリンクが登場しました。
ネットワークは「過去の栄光を取り戻せるぞ」とゲイリーを説得しようとしますが・・・ゲイリーははっきりとこの誘いを突っぱね、高校時代の自分の姿を壊しました。
ネットワークは「人間は自滅の歴史をくり返している、嘆かわしいことだ」と無念を口にし、ゲイリーはこう答えました。
「バカをやるのは、人間の基本的権利だ!」とー
この価値観は、到底にネットワークには理解できないものだったのでしょう。
〜ゲイリーの成長〜
ゲイリーはアルコール中毒者でした。
冒頭では自身の高校卒業の日のはしご酒のことを、患者たちの前で嬉々として語っていました。
彼が酒に溺れていたのは、他の仲間たちがしっかりとした暮らしをしているのに、自分だけがひどい人生を送っているというコンプレックスを持っていたためでした。
酒に逃げ、周りを巻き込み、楽しかった高校時代が忘れられないゲイリーは本当にダメダメです。
しかし、最後には過去に逃げることを否定し、今を人間として生きることを主張し、今日のようにいくつになってもバカな行動をして楽しむことを肯定するのです。なんとも感動ではありませんか?(疑問系)
〜ちょっと残念だったこと〜
まあ何がびっくりって、彼らは地球を救うばかりか、人間の歴史を退化させてしまったことですね。
ネットワークが去ったことで世界の技術は後退し、街は廃墟のようになってしまうのです。こいつら酔っぱらいに説教されただけでよく帰る気になったな
さらに後味が悪いのは、ブリンクに乗っ取られてしまったオリヴァーやピーターが救われなかったこと。彼らは“肥料”になってしまい、人間に戻ることは叶わなかったのでしょう。
ブリンクのオリヴァーは再び不動産の仕事をはじめ、ブリンクのピーターは“父親”を頑張って演じようとしていましたが・・・やはりちょっとモヤモヤします。
最後にゲイリーが立ち寄ったパブで、“ブリンクお断り”の看板が掲げられていたのに、パブ内にいたのがブリンクたちだったというのも驚きました。
ネットワークを失い、新しい世界で生きるブリンクたちは、自身たちをブリンクだとは認識していないのかもしれませんね。
しかし、オリヴァーやピーターのように人畜無害のまま生きようとしている者もいるのに、いまさら倒す理由があるのか?と疑問にも思いました。
彼らが結局“はしご酒”を達成できていないことも残念でした。
いくら親友のためとはいえ、ゲイリーが飲もうとした最後の酒を「飲みすぎだ!」とアンディが止めるのもちょっと・・・今更かよ!とちょっとツッコミたくなりました。
ワールズエンドという終着点で、おバカな彼らが、念願であったはしご酒を達成するところが観たかった方はきっと多いと思います。
〜世界を救う?〜
この結末でよかったところもあります。
文明が衰退したことで、逃げ出していたアンディの妻と娘は、アンディのところに戻って一緒に暮らしはじめました。
人は災害が起こったり、困った状況になると助け合うようになります。世界の危機と比べれば、アンディの言ったとおり「夫婦の問題なんてたいしたことではない」のかもしれません。
スティーブンが長年の想い人であったサムとくっついたことも、久々の再会があったからのものでした。
そして、ゲイリーは新たな仲間とともに“五銃士”のチームをつくり、地球に残されたブリンクたちへの反対勢力として立ち上がっていました。
ゲイリーは酒もやめたようで、パブで頼んだのは5杯の水。そのパブの名前は「RISING SUN」でした。
たとえ今までの世界が終わりを迎えても、また“陽はのぼる”。
ゲイリーと、人類の希望が感じられたラストでした。
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こちらのブログには、映画を見て他の人の意見や感想を聞きたいと思ったときに本当にお世話になっています。
わたしもサイモン・ペグ、ニック・フロスト、エドガー・ライトの3人が作る映画が大好きです。お気に入りのビルボakaマーティン・フリーマンも出ているので、喜び勇んでワールズ・エンドを観賞してきました。
個人的にはホット・ファズを超える面白さではありませんでしたが、安定して楽しめる、大人になりきれない大人たちへの優しさが溢れた作品だと思いました。
ところで
>そして、ゲイリーは新たな仲間とともに“五銃士”のチームをつくり、地球に残されたブリンクたちへの反対勢力として立ち上がっていました。
とありますが、おそらく逆だと思います。
ブリンクたちへの迫害・差別が生き残った人間たちの一部によって激化するなか(オリバーのブリンクが鉄格子のなか歩かされている描写もチラリとありましたし)、「ブリンクお断り」のパブに、ゲイリーは友人たちのブリンクを率いて乗り込んで行きました。
ゲイリーは行き場のなくなったブリンクたちを仲間として受け入れたんですね。この点、とても人間臭くて、ゲイリーというキャラクターがダメ男だけれど愛すべき奴になっていてとても好きです。
では、初めてのコメントで長文失礼いたしました。