誇り高き仕事 映画「WOOD JOB!(ウッジョブ)神去なあなあ日常」ネタバレなし感想+ネタバレレビュー
個人的お気に入り度:6/10
一言感想:伊藤英明、おいしすぎ
あらすじ
大学受験に失敗したユウキ(染谷将太)は、軽い気持ちで1年間の林業研修プログラムへの参加を決める。
向かった先は、携帯電話が圏外になるほどの超・ド田舎。過酷なプログラムと粗野な先輩ヨキ(伊藤英明)のしごきのおかげで早くも帰りたくなるユウキだったが、パンフレットに載っていた可憐な女の子・ナオキ(長澤まさみ)に出会って……?
「ウォーターボーイズ」「ロボジー」の矢口史靖最新作にして、三浦しをんの小説を原作とした映画です。
![]() | 三浦しをん 669円 powered by yasuikamo |
テーマは“林業”。
作品の魅力は、それを仕事にしなければ一生知り得ることのない、林業の世界を教えてくれることです。
本作は林業にまつわるネタにより構成されています。
それは「あるある」なエピソードであったり、林業を営む者にとってはごくありふれた光景だったり、村社会ならではの風習だったりします。
都会ではまず体験できない、貴重な
矢口監督は「ハッピーフライト」でも“仕事の裏側”を覗かせてくれました。
それは、その仕事をしている人にとってはあまたりまえの日常だけど、知らない人にとっては新鮮な体験です。
「しんどうそうだな」「大変そうだな」とにわか知識以下の認識でない人たちに、肩をはらず、クスクス笑えるエピソードととも仕事のことを教えてくれるー
そんな優しさと楽しさに溢れた作品でした。
豪華キャストも魅力のひとつです。
暗〜い役を演じることが多かった染谷翔太はいい感じにチャラい少年を好演していますし、優香も女優としてしっかりした仕事を披露してくれています。
なんと言っても、今作最大のはまり役なのは伊藤英明でしょう。見た目は超イケメンで筋肉モリモリないい男……なのですが、じつはなかなかにアレな役柄でした。

「悪の教典」のと同格かそれ以上の強烈な印象を与えてくれたので、ファンは必見です。
ただ、エピソードが積み重なり、大きな物語のうねりがある“映画”としての面白さはいまひとつでした。
小ネタはほぼスベり知らずの面白さですし、チャラチャラした主人公の成長もしっかり描かれているのですが、主軸となる物語には説得力に欠けているのです。
林業の面白さを伝えることを目的としているところもあるので、そこを重要視しなくてもいいとは思うのですが、やはり映画ならではのダイナミズムを感じたいのは観客の欲張りなところ。この作品は満腹にはさせてくれず、腹七分目くらいで止まってしまったのは惜しいところです。
また、このタイトルはちょっと独創的すぎなのでは・・・
GOOD JOBにかけたダジャレに、神去(かむさり)という読みにくさ、“なあなあ”というテキトーを意味することばのトリプルコンボ。このタイトルのおかげで観に行く人が少なくなるというのは考え過ぎなのでしょうか。
そんなことを考えているのは自分だけかもしれないので、アンケートもつくってみました↓
この作品は、今年公開された「銀の匙 Silver Spoon」が好きな人には、かなり楽しめるのではないでしょうか。
どちらも肉体労働を強いられる、“自然”を相手にした職業が描かれており、作中には林業と農業の違いについて語られる場面があったりします。
これを機に、若者が林業に興味を持ってくれるとうれしいですね。
本作は文部科学省とタイアップしていますし、この映画に携わったひとたちも、きっと若者が次世代の林業を継いでくれることを期待しているでしょう。
映画では林業のいいところばかりでなく、むしろシンドイことばっかり描いています。
これって、夢を持つ若者にとってはとてもフェアであると思います。
世にある職業や大学のパンフレットには“いいこと”しか書かれておらず、仕事のシンドさなんか書いていません。
しかし、映画が見せてくれるのは、悪いことも含めた自然体の仕事の姿。映画は若者に仕事を教えてくれる媒体として、とっても優れているのだと実感しました。
そんなわけで、本作は若者にこそおすすめします。
説教くささや押し付けがましさもほとんどないですし、クスクス笑えるコメディを期待しても楽しめるでしょう。
あと、後半には意外と下ネタが多い(ドギツイものではないです)ので、小さなお子さんをお持ちの方はご注意を。
また、本作は公式ページがやたら手が込んでいて、何となく見ているだけでもものすごく楽しいです。
舞台となる神去(かむさり)村の地図があったり、PRODUCTION NOTESでは撮影裏話が詳細に書かれている(←ネタバレ多数なので注意)ので、映画を観た後にチェックしてみることをおすすめします。
エンドロール後にもおまけがあるので、途中でお帰りなきよう。
以下、結末も含めてネタバレです 鑑賞後にご覧ください↓
まずは恒例の野暮な不満点から
〜それは恋なの?〜
主人公・ユウキとヒロイン・ナオキの恋話は、はっきり言って中途半端です。
ユウキは林業のパンフの写真の可憐さに惹かれて林業プログラムに参加し、ナオキに「中途半端な覚悟やったら帰ってくれる?」と言われます。
この話の流れであれば、ユウキは林業のことで“男”を見せなければならないのだけど、残念ながらそうはならない。ユウキがしたことは神隠しに合った子どもを見つけたことくらいで、“林業”においては彼女にその成長を見せてはいないのです(ナオキが見ていないところでは成長しているのですが)。
彼女がユウキに歩み寄った描写って、マムシに噛まれてしまってふくれあがった耳たぶを見たときくらいだよね……
それどころか、ナオキは常にユウキにケンカごしで、都会っぽい考え方(都会のほうがモノとかいっぱいあるのになどと言う)を聞いて腹を立てていたりと、あんまり感情移入できる余地がありません。
ナオキと別れた彼氏についても「都会のほうがいい」ということがわかるくらいで、詳細は描かれていません。
描かれていないからでこそ想像できる楽しみはありますが、本作は“中途半端になってしまった”という欠点のほうが際立ってしまっていました。
ていうか、ユウキには大学に行った彼女がいて、まだ別れてるわけじゃないよね?そっちをほっぽいて「女目当て」で行動しているのもどうかと思うよ(だからでこそ、きっかけのナオキが写っていたパンフに「画像はイメージです」って書かれてあったのに笑ったけど)。
また、元・暴走族っぽかった研修生はユウキの出血を気遣うイイヤツで、『愛羅部優(I LOVE YOU)(漢字ちがったらごめんなさい)』と書かれたタオルをユウキにあげていました。
最後にタオルを預かっていたナオキが、去っていくユウキにこのタオルを掲げて見せるのはよかったのですが、残念ながらI LOVE YOUと思えるほどの感情が見えないのです。
作中では典型的な村社会であり、ユウキが村民として認められるか否かというドラマも加わっているのですが、これも物足りませんでした。ユウキが柄本明演じる会長に村民であると認められるシーンがほしかったです。
*以下の意見をいただきました
たしか神隠しに会った子が村長の孫で、後日お礼に訪れていましたし、ヨキの奥さんを通じて大祭参加の札を渡していたようなので、ここで村の男として認めてくれていたのではないでしょうか。
また、ユウキのもとには両親から「ハンバーグにかけるのケチャップとソースどっちがいい」と心底どうでもいい電話がかかり、そのせいで祭りの日の出の儀式に間に合うかどうかギリギリになってしまい、ナオキにバイクで送ってもらうのですが……あれくらいの距離(祭りの先頭が遠目に見えるくらい)だと、電話がかかってくるのは深夜か明け方になるはずなのでは?子どもにあんなことを電話する時間じゃないよ。
〜あの映画のパロディ?
バイクの前に乗ったナオキが、ふんどし姿のユウキに「後ろに何かあたっているんですけど!」と言うシーンはよかったですね。
これって、「世界の中心で、愛をさけぶ」のパロディだよね?
こちらの作品では、本作と同じヒロイン役の長澤まさみが主人公の自転車の後ろにのり、わざと胸を押し付けて「あたっている?」と聞くという全国の非リア充の心が死にかけた名(迷)シーンがあります。
〜主人公の心変わり〜
秀逸なのは、ユウキが1年間の研修期間を、「あと○○日」と数えていたこと。
はじめはヨキの「1年」ということばに「あと355日ですから」、山でコーヒーを飲む(これすごくおいしそうだった)前にも「あと215日ですから」と、彼は残りの日数をカウントダウンしていたのですが、祭りが近づいてくる日になると彼は「あと何日だっけ?」と言うのです。
ユウキはこの生活がイヤでイヤで仕方なくて、早くこの日々が終わらないかとカウントダウンしていたのでしょうが、林業をするうちにどうでもよくなっていったのでしょうね。
シンドイシーンでは、苗木を何百本も植えるシーンが印象に残りました。本当に肉体労働なんだよな・・・山の天気は変わりやすいから、ずぶぬれになってしまうこともしょっちゅうです。
ヨキが木をチェンソーで倒すときに木の粉が舞い上がり、その様子をユウキが「格好いい」と言いたげに見つめていたのもよかったです。
ユウキがヨキと木の上に登り、ともに美しい風景を見るシーンもよかったですね。
また、大学受験に失敗したとき、ユウキは都会のカラオケ店で思い切りアルコール(たぶん)を飲んでいたのですが、いざ田舎でマムシ酒を薦められると「未成年なんで」と真面目な断り方をするのもおかしかったです。
これを断った理由はマムシがイヤであったことが99%を占めるでしょうが、ここぞというときに真面目にしておこうといというユウキのセコさも垣間見えました。
〜女好きのヨキ〜
ヨキは初登場時にチャラそうなユウキに怒号をまき散らす、熱き林業の男……かと思いきや、超・女好きで妻からはほとほと呆れられていました。
ヨキは都会のパブ・ニューヨークの女と浮気するものの、速攻でほかの男に取られちゃっているし、一見格好いいようでどうにもかっこ悪かったですね。
研修で1年預かるのがチャラチャラしていたユウキだと知った瞬間、鼻の片方を塞いで、「フンッ」と鼻水を出すシーンも最高でした。
妻は“基礎体温”を気にしていて、なんとかヨキとの間に子どもをつくろうとがんばっていました。
“チャンスの日”に、ヨキが「どっかに泊まれ、なんならじっくりと見ていくか?」と言いながら、ユウキにコンドームを渡すのもおかしかったですね。もちろんそのコンドームをナオキに見られるという予想どおりのオチがつきました。
普段はユウキに対して辛口なヨキでしたが、祭りの会議のときには「みんなが思っているより、ちゃんと林業をしている男です」とほめてくれます。最後の別れのとき、誰よりも抱きしめてくれたのがヨキだというのもよかったですね。<暑苦しい…じゃなかった、熱い抱擁
あと、祭りでみんなふんどし姿になったとき、彼だけものごっそいいい身体をしていたのに笑ってしまいました。伊藤英明になら抱かれてもいいよね
〜男根祭り〜
クライマックスのお祭りでは大木を伐採し、あっという間に“どこかで見たような太くて固い棒”のようなものになります。
そう、それはどう見ても“男根”です。
その男根をスライダーで滑らす先には、なんだかアワビのようなゴールが……これがなにがって?聞かないでください。
ユウキの脚に縄がからみついちゃったことから、彼は男根の上に乗ってゴールするしかありませんでした。
序盤で学んでいたもやい結びがここで役立つのがよかったですね。<クライマックスです
この祭りは架空のものですが、実際に男根を奉る神社や男根のご神体に初嫁を乗せて練り歩く奇祭(←どちらもアレが思い切り出てくるので閲覧注意)もあったりします。
〜林業〜
作中で、先祖の代から続く樹齢100年余りの大木を倒して“競り”に出すと、なんと1本80万のも値段がつきました。
これにユウキは「山じゅうの木を売ってしまえば億万長者じゃないですか!ベンツ買いましょうよ」と甘い考えを口にしますが、こう返されます。
「俺たち林業を営む者は、先祖が植えたもので生活をしてるんだよ。農業は丹誠込めてつくったものを口にできてその喜びを知ることができるが、林業の結果が出るのは親が死んだ後なんだ」
長い年月をかけ、間伐をしていった木があればこそ林業を営む者は生活できます。
成果が出るのはずいぶん遅く、自分が生きているうちにそれが見れないことさえあるのです。
林業に携わる人たちは、この想いを抱えながら仕事をしているのです。
〜仕事〜
主人公の旧友である大学生たちは「スローライフ研究会」として、林業を見学しますが、面白半分で仕事を見ているようでした。
写真を撮りながらはしゃいだり、ハチノコを焼いているところに興奮するまではよかったのですが、大学生たちはユウキに「いつここから出られるの」「1年経たないと出られないだって。って、刑務所じゃないんだから」「俺はこんなところぜったい無理だよ」「でも、こういう人がいないと家も建たないんだからな。ほんとうご苦労様って感じで、頭があがらないよ」などと、失礼千万なことを口にしてしまいます。
これに怒ったユウキは、大学生のカメラに入っていたSDカードを投げ捨て、「もう帰ってくれますか!」と言い放ちます。
「帰ってくれるか!」というのは、ユウキ自身もナオキに言われたことば。ここでユウキは、ナオキの気持ちもわかったのではないでしょうか。
この描写は、この映画を見ていて「林業って大変だな」「俺だったら辞めちゃうかも」と思っていた観客の心をくすぐってきます。
どこかで、大学生と同じように林業を営む人を見下していないか、林業を苦痛を伴うような仕事としてしか見てはいないかと、はっとしたのです。
映画の最後にユウキが見たのは、木材が家を建てている光景でした。
ユウキは木を見るだけでなく、その“におい”も感じていたようです。
ユウキはマムシ酒だけを家の前に置いて(笑)、ふたたび林業を営む場所へと思います。
林業が大変なものであるというのも、観た人の主観にすぎません。
林業を営む人たちの多くは、自分の仕事に誇りを持ち、楽しみながら人生をすごしているのでしょう。
仕事に対して「大変」「俺は無理だな」と思うだけでなく、仕事の楽しさや、働く人の尊さを考えたいものです。
〜エンドロール後〜
ユウキは「ヒルに股を吸われた」ことで子どもたちにからかわれていましたが、なんだかんだですごく愛されていましたね。
大好きだったのが、ユウキが子どもが何度も言う「おやすみなさい」に「おやすみなさい」と返答するのだけど、いざ「おやすみなさい」がなくなってしまったときに、そっちを振り向いちゃうシーン。ちょっと寂しかったんですね。
最後の別れのときにも、子どもが何回も「さようなら」と言いながら泣いていたのが印象的でした。
エンドロール中、子どもたちが習字で「ヒル」とカタカナで書いてあるのに笑いました。真面目に「春」って書いているの生徒のうちひとりだけじゃん。
最後に映し出されたのは、林業プログラムのパンフに新しく載ったユウキの笑顔でした。
こんどはマジの働く男の姿ですから、「画像はイメージです」とは書かれていないでしょうね。
おすすめ↓
矢口史靖監督「WOOD JOB!」で原点回帰!「これからもガツガツやっていきたい」 : 映画ニュース - 映画.com
WOOD JOB!(ウッジョブ) 神去なあなあ日常 インタビュー: 染谷将太×伊藤英明「悪の教典」から一転、「WOOD JOB!」で大自然に包まれる - 映画.com
【ネタばれ】「今年、封切りした邦画のベスト」 WOOD JOB!(ウッジョブ)~神去なあなあ日常~/ユーザーレビュー - Yahoo!映画
見送り予定でしたが、このコメントに惹かれ観賞してきました。
>世にある職業や大学のパンフレットには“いいこと”しか書かれておらず、仕事のシンドさなんか書いていません。
将来の職を考える若者に対して、とても誠実な作品で自分も「銀の匙」を思い出しました。
主人公の志望動機が美女で釣る(ある意味)詐欺パンフレットだったりとか、あと制作委員会に最近やらかしてくれた博報堂が居るのは凄い自虐ですね・・・。
>ユウキが柄本明演じる会長に村民であると認められるシーンがほしかったです。
たしか神隠しに会った子が村長の孫で、後日お礼に訪れていましたし、ヨキの奥さんを通じて大祭参加の札を渡していたようなので、ここで村の男として認めてくれていたのではないでしょうか。
>〜主人公の心変わり〜
ユウキがそれなりに仕事が出来るようになっていく描写が良かったです。なんでも逃げずに続けてみるもんだ・・・という気にさせてくれます。
若者だけでなく、一年の研修どころか人材使い捨てと言われる現代、採用初日のアルバイターにいきなりプロの仕事を求める世の経営者の皆さんにも観てもらいたいです。
>スローライフ研究会
ここが「銀の匙」に比べ大きく減点となりました・・・。実は自分もこういった人達に嫌な想いをした事がありますけど、あの描き方は都会を悪し様にし過ぎだと思います。神去村にも村長のような偏見塗れの保守的な人達はいても最後はユウキの大祭参加を認めていたのに、彼らは「嫌な奴ら」のままで終わってしまい、山も街も繋がっているというラストシーンにもモヤモヤ引っかかってしまいました。
>最後に映し出されたのは、林業プログラムのパンフに新しく載ったユウキの笑顔でした。
>こんどはマジの働く男の姿ですから、「画像はイメージです」とは書かれていないでしょうね。
このパンフで閉めるのは文句無しで素晴らしい演出でした!ユウキはイメージを現実に変えたのですね!
> たしか神隠しに会った子が村長の孫で、後日お礼に訪れていましたし、ヨキの奥さんを通じて大祭参加の札を渡していたようなので、ここで村の男として認めてくれていたのではないでしょうか。
ありがとうございます。あの子、村長の孫だったんですね!(なんでわかっていなかったんだろう)
追記させてください。
> >スローライフ研究会
> ここが「銀の匙」に比べ大きく減点となりました・・・。実は自分もこういった人達に嫌な想いをした事がありますけど、あの描き方は都会を悪し様にし過ぎだと思います。神去村にも村長のような偏見塗れの保守的な人達はいても最後はユウキの大祭参加を認めていたのに、彼らは「嫌な奴ら」のままで終わってしまい、山も街も繋がっているというラストシーンにもモヤモヤ引っかかってしまいました。
あの描写は極端すぎて、不愉快に感じる方が多そうですね。
保守的で排他的な村と、都会との和解も観たかった気がします。