浮世絵で描かれるダメ学生 漫画「磯部磯兵衛物語」レビュー
本日は、少年ジャンプを読んでいると否応なく目に入ってくる異質過ぎるギャグ漫画作品「磯部磯兵衛物語〜浮世はつらいよ〜」をご紹介します。
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まあ何が異質って絵ですよね。浮世絵じゃん。
日本が誇る芸術である浮世絵をギャグ漫画として落とし込むという発想。そんなの考えつく人が存在するのでしょうか(いただんだけど)。
で、本編はどうなっているかというと、1ページ目からこんな感じです。

春画て。*春画・・・江戸時代のエロ本
じつはこの漫画は、浮世絵という絵柄で、学生のダメさを描く作品だったのです。
↓*以下、若干下ネタがあります
で、主人公の磯兵衛は、さっそく部屋で手に入れた春画を楽しもうとするのですが・・・<母登場
エロ本を楽しもうとしたときに限って母親が部屋にIN。
現代でも江戸時代でも、思春期の少年の「あるある」って変わらないんですね(たぶん)
とつぜん入ってきた母に向かって、磯兵衛はこう思います。<急に開けんな。
素晴らしいね。世の中の少年の心を代弁しまくりです。
そして「母上様」と書いて「クソババア」と読ませるのも素晴らしいね。
その後も本編の内容は、まあ似たような感じです。<友だちが春画を拾って・・・
<「後で捨てておく」と宣言しながらふところへ隠す
春画以外にも、ダメ学生ならでは行動が目白押しです。<将来はインテリになりたい
<仮病しちゃえよ!(休もう)
<学校サボっちゃった
口だけは大層だけど、だるいから学校をサボるという絵に絵に描いたようなダメさ。
学生時代にサボりを経験した人は、けっこう心が痛くなるかもしれませんね。
あとこの主人公、調子に乗ると優越感に浸りまくるのでうっとおしいことこのうえないです。<女の子からものもらったことないの?
<えーかわいそうー
そのウザさは「カッコカワイイ宣言」を彷彿とさせました。
見逃せないのは、磯兵衛が中途半端な才能を見せることです。<中途半端に忍術が使える
つまりは、主人公・磯兵衛ってそれなりに才能がありながらも、努力をしていないだけなんですよね。
口で達者で、中途半端で終わっていて何も努力をしていないー
世の「何に努力をしていいかわからない」少年少女、かつてそうであった大人にとっては、かなり共感をしてしまう内容なのではないでしょうか。
そういう「ダメ学生あるある」を浮世絵という絵柄で描き、かつ成功しているのですから恐れ入ります。
ちなみに、史実の人物も登場します。<平賀源内
<伊能忠敬(行脚しているから叫び声がアンギャ)
<宮本武蔵
素晴らしいですね。何がって、五輪書を春画を買うためのカモフラージュに使う(エロ本を真面目な本に挟んでレジへ持っていく)という発想。そりゃ武蔵もキレるわ。
平賀源内はwifiルーターをこの時代に発明していました。できるわけねーだろ。
ほかにも徳川家一族全員が整然と登場したりと、ギャグ漫画という免罪符を盾にめちゃくちゃやってくれました(いいけど)。
そんな感じなので、偉人たちの扱いは冒涜になるかならないかどうかが際どいレベルです。
また、単行本のおまけページにある「江戸時代の豆知識」がかなり面白いです。
江戸時代の犬の鳴き声は「びょう」と表現されていたとか、江戸時代には曜日が存在しなかったけど寺子屋の休みは月に3回設定されていたとか、メガネをはじめての日本に持ち込んだのはフランシスコ・ザビエルだったなど、知る必要はないけど楽しい雑学ばかりでした。
中でも、葛飾北斎が春画を描いていたときのペンネームは「鉄棒ぬらぬら」だったというトリビアは、「ああ、マジで人生において何の役には立たねえ」と思わせてくれました。
ほかにも、作者の漫画制作の裏話もかなり楽しめます。
作者は担当のムチャぶりに文句を言っていますが、なんだかんだで担当と二人三脚で漫画をつくっていく様が想像できました。
ここだけでも、雑誌でしか読んでいない人も単行本を買う価値があるでしょう。
たぶん、読む前は絵柄で出オチと思われるでしょうが、読み終わってみると「あれ?意外と面白かった」というゆるい面白さがあるはず。肩の力を抜いて楽しめ、かつ江戸時代に(間違った方向に)詳しくなれる「磯辺磯兵衛物語」はかなりオススメの漫画です。
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冒頭から「春画拾った!」とほざくことに抵抗がなければ、読んでみるのもいいと思いますよ。
(ハードル高いな)(ちなみに作中には武士のことば「候(そうろう)」と早漏をかけたギャグが登場します)(※これは少年誌掲載です)
↓こちらで試し読みができます
<『磯部磯兵衛物語~浮世はつらいよ~』|集英社『週刊少年ジャンプ』公式サイト>
それにしても今のジャンプはこんなマンガも載っているんですか。
月刊文芸誌「オール読物」あたりに掲載されていてもおかしくないような。
さすがシオンソルトさん。そんなところに気づくなんて、そこにシビれる憧れる。
ガリレオ・ガリレイなどのイタリア人名を除けば、こんな名前は他にはハンバート・ハンバート(『ロリータ』の主人公)くらいしか思い出せませんもの。(映画評論家ヒナタカさん的にはこちら?)
同意流れでこうなったのか気になりすぎて夜も眠れないのでまず一巻買いますw
ちなみに小暮伝衛門(デーモン閣下)の戯曲『真説・照美事音傳來記』(てれびじおんでんらいき、と読む)には源内の4代前が登場し、えれきとりぃあんてな(鳥居)を発明、照美事音の放送を日本全国に届けるための中継局としたという場面があります。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm9134373