調和のために 映画「ダイバージェント」ネタバレなし感想+ネタバレレビュー
個人的お気に入り度:6/10
一言感想:中二病と体育会系って相性悪くない?
あらすじ
最終戦争から100年後の未来。復興を果たした人類は、16歳で受ける選択の儀式によって、人類を軍隊・警察にあたる“勇敢”、慈悲深く政権を運営する“無欲”などの5つの派閥に振り分け、そこで人生を全うすることを強制していた。
16歳になったトリス(シェイリーン・ウッドリー)も選択の儀式を迎えるが、どの共同体にも適さない異端者“ダイバージェント”であると診断されてしまう。ダイバージェントが政府に抹殺される運命にあることを知った彼女がとった選択とは……?
「自分には隠された能力があるかもしれない」「ふつうの生き方なんてまっぴらごめんだね」などと考えたことがある方はきっと多いことでしょう。
そんな思春期のころの特有の病・中二病は万国共通らしく、若者を狙い撃ちにしたヤング・アダルト小説を原作とした映画は本国アメリカで大ヒットを記録しています。
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「トワイライト」ではイケメン吸血鬼に一方的に惚れられる主人公を描き、「ハンガーゲーム」では殺し合いの場に身を置かなければならない悲劇のヒロインを描き、この「ダイバージェント」ではふつうの“型”にはまらない“異端者”としての主人公が描かれています。
そんな“特別な自分”を夢描く作品群は、中二病患者にとって至福のものなのでしょう。
本作で描かれる世界観は、5つの派閥に人間が分けられてしまうというディストピアです。

すべての人は16歳のときにどの派閥に属するかを決めないといけず、一度派閥を選択すると変更不可能。人生やり直し禁止の一本道。仕事が合わなくても転職禁止。イヤなら“無派閥”として速攻ホームレス行きです。こんな世界マジでいやですね。
主人公はそんな中で、中二病を体現した存在”ダイバージェント”と診断されてしまいます。
おもしろいのはここからで、なんと主人公は異端者でありながらバリバリ体育会系の派閥に身を置くことになるのです。
しかも、主人公は体育会系の組織でイケメンコーチの厳しい指導に耐え続け強くなっていきます。どこのスポ根マンガだよ。

ていうか、中二病患者の「自分にはどこかに隠された力がある!特別なんだ!」という考えと、体育会系組織の「根性がないやつはここから出ていけ!」という考えってすごく相性が悪いと思うのですが……なんで主人公はこんな選択をするんだと多くの方が思うことでしょう。そのギャップを楽しみ、理由を予想してみることをおすすめします。
本作にはツッコミどころも満載です。
そもそもの5つの派閥だって「そんなに単純に分けられるわけねーじゃん」と思いますし、続々と設定に変な穴が見えてくるのである意味飽きません。
致命的だと感じたのが、ダイバージェントがなぜ恐れられているかという理由が不足していたことです。
「トランセンデンス」と同様に、“未知”のものに対する恐怖というものがあったのかもしれませんが、それだけで社会的に抹殺しなければならないという根拠にはならないように思うのです。
ちなみに、5つの派閥があると言いながら、物語に関与しているのは“無欲”と“勇敢”と“博学”の3つしかありません。そこは続編の「叛乱者」に期待、というところでしょうか。
オリジナリティもそれほどなく、近未来で管理社会に置かれる人々の姿は「未来世紀ブラジル」や「TIME」を思わせました。
映画をよく観ている方にとっては、凡庸な作品としてしか映らないのかもしれません。
しかし、自分はけっこう気に入りました。
ダイバージェントとして診断された主人公がそれを隠しながらピンチを切り抜けていくさまはおもしろいですし、荒廃した街でパルクール(フリーランニング)をするという画も楽しく仕上がっています。
意外によかったのが、音楽でした。
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ハンス・ジマーとジャンキーXLがタッグを組んで製作されていて、ときおり入るボーカル曲も違和感なく作品にとけ込んでいます。
音楽が列車の音とシンクロしているという「ダンサー・イン・ザ・ダーク」のような演出もみられたのも印象的でした。
あまり出来のよい映画だとは思いませんが、「ハンガーゲーム」が好きな人にはおすすめします。
ヒーローもの×スポ根ものという、日本の王道のアニメっぽさも随所に感じるので、それらが好きな人も気に入るかもしれませんよ(『PSYCHO-PASS サイコパス』というアニメにも似ているらしいです)。
以下、結末も含めてネタバレです 鑑賞後にご覧ください↓
~ムチャぶりしすぎ~
主人公・トリスはテストによりダイバージェントと診断されてしまいますが、家族と同じ“無欲”であったとウソをつきます。
彼女が選んだのは、軍隊や警察に例えられている“勇敢”でした。
“勇敢”は、街中を集団で走り回り、ビルを登ったり、列車に飛び乗ったりしている連中です。
とりあえずツッコませてください警察に例えられているやつらが無賃乗車するなよ。いや、この世界では電車料金は無料になっているのかもしれないけどさ。
お前らのほうが治安を乱していませんこと?勇敢というより“無謀”じゃないの?ていうか何から人々を救おうとしているの?
“勇敢”に入ったばかりの主人公・トリスは列車からビルへ飛び乗ったり、何があるのかわからない穴に落下しろなどムチャぶり(気のいい女の子・クリス談)を言われます。<ビルへジャンプ
<下にはネットがあります
しかもその後に“新ルール”として「成績が悪いもの」は容赦なく脱落されることを知らされます。
脱落すると否応なく無派閥(ホームレス)行き。ここはブラック企業ですか?
あと若い男女がいっしょの集団部屋で寝泊まりしないといけないという状況にもびっくり。ジェンダーフリーすぎます。
~脱落しても復活~
教官にはイケメンの“フォー”と、容赦のない性格の“エリック”がいます。
主人公が慕うのはフォーで、彼は無駄口を叩いたトリスにナイフを“わざとかすらせる”ことなどをして、特に目をかけていたようでした。
トリスは成績が悪く、嫌みを言うイヤなやつ“ピーター”との拳とのバトルで負け、勇敢から脱落をしたと告げられるのですが……彼女はその後の戦争ゲームに強引に参加します。エリックもあっさり許しているけど、それでいいんかい。
トリスは先んじて戦地に潜り込み、見つけていた旗をもぎ取りチームを勝利へと導きます。
彼女はビルの合間をワイアーで吊られたまま滑空するという、“勇敢”の儀式もすまし、脱落していたはずの成績もぎりぎり合格ラインに乗りました。それでいいんかい(2回目)。
~“勇敢”らしい選択を~
トリスは幻覚を見せる“勇敢”の二次テストで、勇敢にはできないような解決方法を取ります。
カラスに追われた幻覚を見たときには水に逃げ込み、ガラス張りの密室で水を入れられたときには“1点”を軽く指で突いてガラスを割ります。<これで脱出
そんなわけで、彼女はフォーに異端者ではないかと疑われてしまいますが……フォーはそれを公にはしませんでした。
それどころか、彼女を部屋に連れ、キスをしてほとんど恋仲のような状況になります。
ここでトリスが「急ぎたくない」と(性)関係を拒否するのがよかったですね。これはヤングアダルト層への配慮のようにも感じます。
トリスは、“博学”の権威であるジャニーヌ前でテストをして、「カラスとは戦う」「ガラスの水槽では水の吹き出し口を塞ぐ」「自分を襲ってきたフォーを倒す」という勇敢らしい選択を取りました。
博学の連中の前で教官が襲ってくるという幻覚を見せて、その後にみんなが拍手をするのはおかしいだろ思っていたのですが、じつはこれも幻覚。彼女は幻覚の中で自分の家族を撃ち殺すという選択もして、無事に勇敢であると認められました。
これは、もともと彼女(の家族)が属していた、慈悲ある派閥の“無欲”にはできないことでしょう。
~フォーも異端者?~
トリスが戦争ゲームで観覧車に登った時、教官のフォーが高所恐怖症だったことがわかりました。
いやいやいや、“勇敢”の人たちみんな高いところを飛んだり跳ねたりしていたやんけとツッコミたくなりましたが、そういえばフォーはトリスが穴に落ちた先で待っていましたね。こっそり高いところが苦手なのを隠し続けていたのでしょう。
この描写もじつは、フォーが純粋な“勇敢”ではないことを示したものではないでしょうか。
フォーは「勇敢や博学や平和、すべてを持っていたい、どれかひとつに縛られたくない」ともトリスに告げていました。
フォーは自分の父親に虐待をされていた(そのときの幻覚が4つ見えるから、それを克服したいという自戒を込めて名前がFour)という事実もありました。
それは、とても“勇敢”だけでは克服できるものでもないのかもしれません。
~ラストバトル~
度肝を抜かれたのは、“博学”の連中の策略(精神制御の薬の注射)により、“勇敢”の連中が意のままに操られてしまうという展開でした。
フォーはこれを事前に気づいていたので操られずに済み(なぜ止めないのよ)、ダイバージェントであったトリスも操られずにすみました。
この策略はダイバージェントを探すものでもあり、操られなかった男は容赦なく射殺をされてしまいました。
トリスのピンチを救ってくれたのは、彼女の母親でした。
母親は“無欲”に属していたのですが、じつは自分は“勇敢”であったのだと告白します(どうやって派閥を変えたのだろう?)
トリスが“勇敢”を選んだのも、母親の“血”によるものだったのかもしれませんね。
しかし、母親は逃げる途中で殺されてしまい、合流をした父親も先んじて敵に突撃したために銃殺されてしまいます。せっかく博学の策略に気づいたトリスのお兄ちゃんは生き残ったけど、ぜんぜん活躍の機会はなかったよね。
トリスは博学に捉えられ、注射をされて操られているフォーを愛の力で正気に戻し(呼びかけまくったら正気に戻っていました)、黒幕の博学の権威であるジャニーヌに「あまり勇敢でもないわね」と皮肉を言われると、こう返しました。
「私はダイバージェントよ」と—
博学の連中は勇敢の人々を操り、異端者を殺し、“無欲”に変わって政治の主導権を握ろうとしていました。
「未来永劫続く平和と調和のため」と主張しながら、自身たちが調和を乱しています。
明らかに矛盾をしている博学を倒したのは、異端者であったトリスでした。
人間たちが調和を持って生きるためには、ルールに当てはまらない、異端だと思う者を排除するなど愚の骨頂なのではないでしょうか。
トリスやフォーのように、人はそんなに簡単に分類できるものではありません。
最後はトリスたちが列車に乗り込み、シカゴの街を後にするシーンで幕を閉じました。
トリスたちは、どのような旅を続けるのでしょうか。“異端”である彼女たちが、真に人類を調和と平和に導く日が来るのかもしれません。
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