幸せな姉弟 映画「小野寺の弟・小野寺の姉」ネタバレなし感想+ネタバレレビュー
個人的お気に入り度:9/10
一言感想:片桐はいり、最強(萌える意味で)
あらすじ
40歳のより子(片桐はいり)と33歳の進(向井理)は、早くに両親を亡くしてふたり暮らしをし続けている、ちょっとけんかもするけれど、仲のよい姉弟。
そんなふたりのもとに、配達間違いの手紙が届く。より子の強引さに負けてしぶしぶ手紙を届けにいく進は、絵本作家の志望の岡野舞(山本美月)と出会う。
進は過去の失恋を振り切れずにいたが、舞に惹かれていって……
超おすすめです。
もうこれ以上何も言わなくていいです。クスクス笑いたい人はすぐに映画館に行けばよろしいです。本当に楽しかった!
本作の大功績と言えるのが、その奇抜なキャスティングでしょう。
何せ、誰もが認める超絶イケメン向井理と、美女とは対極の位置にいる(超失礼)片桐はいりが姉弟という役柄なのですから。
片桐はいり自身が遺伝子的に無理があるよとツッコミを入れていたのは笑いましたが、これが映画を観てみるとマジで姉弟にしか見えないのでビビりました。
これは片桐はいりの自然すぎる演技と、そしてイケメンオーラをがんばって排除してダメ男に歩み寄っている向井理の役作りのおかげでしょう。
基本的に作中は片桐はいりがボケまくって、向井理がツッコミを入れるというスタンス。これがなんともほほえまくしく、ずっとこの姉弟を見続けたいとさえ思いました。
脚本も抜群に優れています。何気ないセリフや行動が、見事に伏線として機能しているんです。
たとえば、きちんと靴を玄関に揃えるけど、弟は乱暴に靴を脱ぎ捨てていて、姉が「仕方ないなあ」と思いながらそれをちゃんと揃える—
こういうシーンが姉と弟の関係を示すだけでなく、後の展開にしっかり活かされている感動といったら……これこそ、映画のおもしろさです。
コメディとしてもおもしろいです。ていうか片桐はいりは何をしてもおもしろいから困ります。
たとえば、恋の相手にちょっと気を許す表情をしただけで、弟である向井理をいじっただけで、化粧をするだけで(これは笑っていいのか?)、劇場ではクスクス、ときには割れんばかりの笑い声が響きました。
セリフ運びもこれ以上なく自然で、かつ上手いんんですよね。自分ははじめの“じゃんけん”のくだりからがっつり心を掴まされてしまいました。
物語がこれまた気が利いていて、基本的に笑える中に、ちょっぴりの悲しさが隠されています。
姉弟仲よく暮らしているのだって、裏を返せばいい年をしてきょうだい離れができていないシスコンとブラコンです。恋愛に不器用なのでいままで結婚ができていないとも言えます。
そうしたしんみりしてしまう事実も提示されますが、それ以上に「本人たちにとってはけっこう幸せかも?」と思わせる描写もふんだんです。
あまり悲壮感を感じさせず、かといってポジティブすぎない作品のバランスは見事でした。
本作のメッセージは、作中の"絵本”が教えてくれるように非常に明確です。
セリフでベラベラしゃべらずに、(絵本というアイテムにプラスして)役者の演技やちょっとしたことばだけでメッセージを伝えてくれるのも、まさに映画ならではの手法でした。
西田征史さんはこれが監督デビュー作なのですが、「ガチ☆ボーイ」「おにいちゃんのハナビ」など評価の高い作品の作品の脚本を手がけていました。
「箱入り息子の恋」を手がけた相馬大輔カメラマンの光の加減を工夫した画の功績もあり、その手腕はさすがと思えるもの。ぜひ、画の演出の妙にも注目してほしいです。
本作は同名の小説を原作としており、じつは2013年に舞台版が公演されてから、映画が公開されています。
![]() | 西田征史 1296円 powered by yasuikamo |
つまり、この映画の続きは舞台版で観ることができるんですよね。
本作の結末を思えば、きっと多くの人が続きを舞台版で観たいと思うことでしょう。商売上手だなあ。
![]() | 片桐はいり 4763円 powered by yasuikamo |
この映画は、きょうだいを持つ人にこそ(もちろんひとりっ子にも)観てほしいです。
「仲が良くていいですね」だけで終わらない、ときに傷つけてしまったり、心の底から相手を心配したり、普遍的で愛おしいきょうだいの姿が描かれているのですから。
ていうか萌えます。だらしなさそーな向井理が姉に叱られてふてくされる仕草、ぶつくさ言いながら弟の面倒を観る片桐はいりの一挙一動がかわいく見えてきて困ります。いやーきょうだいって本当にいいものですね。
基本的に劇的な展開が起こる映画ではありません。
だけど、登場人物の心の揺れ動きはこれ以上なくドラマティックです。
こういう登場人物に感情移入して、本気で応援したくなる作品が、自分は大好きです。
老若男女、すべての人におすすめします。
以下、結末も含めてネタバレです 鑑賞後にご覧ください↓
〜萌える姉弟〜
本作の萌える会話を振り返ってみましょう
<ジャンケン>
より子「じゃんけんをしましょう、私が勝ったら手紙を届けるのにつき合うのよ」
進「じゃあ俺が勝ったら?」
より子「じゃんけんが強いんだなって思う」
進「やらないよ」
<カラーコンタクト>
進「何そのカラーコンタクト?しかもブルーっていちばんハードルが高いヤツじゃん。なんか具合の悪いこけしみたいだよ」←具合の悪いこけし
※画像は加工しています。
<横文字禁止ゲーム>
より子「クリスマス気分って早いわね〜。ハロウィンが終わったらすぐって前倒しすぎでしょ。私たちは戦うわよ」
進「何にだよ」
より子「いまから私たちの家では横文字禁止ね。はいスタート」
進「あっ(指差しながら)」
より子「いまのはいいのよ!はい初め!」
進「……(漫画雑誌を読む)」
より子「何か言いなさいよ」
進「べつにしゃべる必要ないだろ」
より子「ちょっと番組変えてよ」
進「そこにあるでしょ〜姉ちゃんに近いところにリモコン……」
より子「ああ言った〜」
進「いまのは反則でしょ」
より子「何よ、たかがゲームで」
進「あっ(指差しながら)」
(ゲーム後)
より子「私の勝ちね」
進「姉ちゃんあのときアウトって言ったろ」
より子「違います、カブトって言ったんです。言いがかりはやめてください」
進「状況的におかしいだろ」
このときの自分の気持ち↓
(*´ー`*)<ほっこり
ほかにも、子どものころの先生の「カルボナーラをボラギノールを間違えたりする」ボケを思いだして笑ったり、暇なときに背伸びをしたりする「似た者同士」な描写についついニヤニヤしてしまいます。
〜進の萌えポイント〜
クリスマスパーティ前、舞といっしょにクローゼットに隠れろとより子に命令されたときの進が、怒って風船をぶん投げたのには大笑い。ダメージゼロだってば。
そういえば、調香師の仕事をサボっていた(本人はそうではないと言っている)進が読んでいたのはピエト・モンドリアンの画集でした。
香りの組み合わせが、モンドリアンの画(の色)と似ているところがあるのかもしれませんね。
舞に嬉々として香りのことを話す進も、オタクっぽくて萌えました。
あと、進の返事がだいたい「ほーい」か「へーい」で、もはやより子が慣れているのか、それで何も怒られないというのもいいですね。こういうところで姉弟がどういう関係を歩んできたかわかるんだよなあ……
〜より子の萌えポイント〜
より子単独でいちばん萌えたのは、営業マンにお昼を誘われて、買ったばかりのお弁当を必死に隠そうとしているところです。やべえ抱きしめたい。
この後、より子と営業マンは私語厳禁なラーメン屋に行くのですが、より子はおしゃれなお店に行きたかっただろうなあ……
ていうか私語厳禁のラーメン屋さんって実在するんですね。
加えて、このエピソードは「営業マンはより子に興味がなかった」ことの伏線にもなっているんですよね。
営業マンは「自分ひとりでラーメン屋に入る勇気がなかった」と言っていたのですから。
より子との会話も営業トークの範疇だったんだろうなあ……。
〜姉の気持ち〜
そんな感じで姉・より子は四十路超えとはとても思えないほどに子どもっぽいのですが、その行動には弟を思いやってのことも多かったのでした。
福引きの抽選があたったから(これはひょっとしてウソ?)遊園地に連れ出したり、手紙を届けるだけの用事につき合わせたのは、進を失恋から立ち直させるためでした。
「失恋から立ち直させる方法」という本には、びっしりとふせんが貼られていたのです。
その昔に、進は同級生の“マッチ”の話ばかりをしているより子にイライラしてしまい、そのために自転車で転んだより子の歯の神経は死んでしました。
より子は進を叱ることなく、「ちゃんとごめんねって言えて偉いね」とほめました。
歯のことを気にしていないように見えて、より子は健康診断で自分の口の中を見せることをいやがっていました。
40歳になっても歯の治療をしないのは、「あの子を責めているみたいで」というのが理由でした。
より子は、進にもらったでっかい弁当箱を、どれだけからかわれてもずっと使うくらいに、進のことが大好きでした。
〜進の気持ち〜
進はずっとより子の歯のことを気にしていて、より子が幸せになれないのは自分のせいだと思い込んでいました。
もと恋人と別れた理由は、恋人がより子と同居をしたくないためであり、進自身が「姉ちゃんには世話になっているから」「ちゃんと幸せになってもらいたい」と思っていたがためでした。
進も姉のことが大好き。だけど、姉のことを想うあまり、自分の幸せをも手放してしまったのです。
売れないひとり芝居をやっている進の友人が、その話を聞いて「俺だったらいやだなあ。自分のせいで弟の幸せになれないのは、絶対いやだ」とストレートに答えるのも、無理はないでしょう。
〜相手のためのやさしさ〜
姉弟の行動は、舞が進の助言を受けて物語をなおした絵本の内容とリンクしています。
「ペロはおじいさんの部屋を花で一杯にしてあげました。
だけど、おじいさんは悲しそうです。
なぜかとペロが聞くと、おじいさんは『死んだばあさんのにおいがなくなってしまった」と言いました。
ペロは知ったのです。相手のためのやさしさが、誰かを傷つけることがあると」
より子は歯の治療をしないことが進のためだと思っているけど、進はそのことでずっと罪の意識にとらわれています。
進がより子のために恋人と別れたのも、より子にとっては悲しい出来事に違いありません。
これはより子とたびたび会話をしていた、営業マンにも当てはまります。
「若いですね」「背筋をピンとしたほうがいいですよ」「食事に行きませんか」などと思わせぶりなやさしいことばが、より子を期待させていたのですから。
かと言って何も行動しないのもいけません。
進は舞にプロポーズをするのが遅すぎたために、舞はもうダメだと思って海外留学を決めてしまったのですから。
相手のためにやさしいことをするのは間違っているの?
だけど何もしないのもダメなら、どうすればいいの?
そのような疑問を提示させ、物語はクライマックスで答えを出します。
〜ラスト〜
こっそりと帰宅した進は、より子のすすり泣きを聞いていました。
そこで進は、一旦静かにその場を去って、今度は「ただいま」と言いながら玄関の扉を開けました。
進はより子を慰めることはしませんでした。
より子は気丈にふるまっていましたが、すぐに「お姉ちゃん、ふられちゃった」と本音を吐きます。
涙を浮かべた進は、より子に自分がコツコツ溜めていた「畳貯金(全部1000円札)」のすべてを、誕生日プレゼントとして渡しました。
ここで、ふたりは「相手のためのやさしいこと」から逃れたのです。
この姉弟は「見栄っ張り」です。
より子は進を恋人だと偽って、フラれた男に自慢をしています。
進は進で、姉と何度も来たことがある遊園地に「初めて来た」と舞にウソをついています。
だけど、より子は最後に、失恋という辛い出来事をウソ偽りなく進に告げることができました。
進もより子に、素直に歯を直して幸せになってほしいという本音を告げることができました。
ひとり芝居ばかりしている男は「人の幸せというのは、定義できないものだからなあ」としみじみと語っていました。
それは、進とより子にも当てはまります。
辛い出来事の後ですが、この姉弟にとってはハッピーエンドなのかもしれません。
〜伏線の数々〜
本作の伏線の上手さに恐れ入りました。
・より子はちゃんと帰宅したときに靴を奇麗に整列させる→失恋してかえってきたときはブーツがめちゃくちゃだった。
・より子は失恋して帰ったときのタクシー代に7000円以上払う→弟から大量の1000円札をもらう
・舞はより子に「冷蔵庫には、料理以外の忘れちゃいけないこともついつい貼っちゃいますよね」と話す→最後により子は進からの畳貯金を冷蔵庫に(忘れないように)貼る
・より子がメガネ屋さんからもらったワイルドストロベリーが、最後には咲いていた。
なかなか咲かないと思っていた花が、いつか咲くことができたのなら……より子だって、これから奇麗に咲くことができるのかもしれません。
畳貯金をより子に渡した進が「これか」と言ったのは、自分が探していた「ありがとうの香り」。
それは、イヤミな上司があげたハードルを軽く超えるほど、いい香りだったのでしょう。
(ところで序盤に映し出された入浴剤の「逆にヒノキの香り」は何だったんだw)
映画の最後に映し出されたのは、進がはじめて姉に殺意を覚えたきっかけの唐辛子でした。
この唐辛子はつらい人生のスパイスのようでもあり、姉と弟の(仲が悪そうでもやっぱり仲がいい)絆にも思えます。
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