幸せのための方法 映画版「近キョリ恋愛」ネタバレなし感想+ネタバレレビュー
個人的お気に入り度:8/10
一言感想:描いているのは、恋愛だけじゃない
あらすじ
クールな女子高生の枢木ゆに(小松菜奈)は成績トップクラスの超優等生だが、唯一英語だけが苦手科目だった。
彼女は英語教師の櫻井ハルカ(山下智久)から、毎日放課後に特別補習を受けることになる。
ハルカの毒舌にイライラを募らせるゆにだったが、次第にその気持ちは別のものへと変わっていき……
どうしよう……ものすごくおもしろかった………
えー、「映画は観てみるまではわからない」ということはよーく承知していたつもりでしたが、もう本当にそのとおりというか、観たくないとか言ってごめんなさいというか、本当ごめんなさい(2回)。
予告編や公式サイトにある「史上最強のツンデレ教師☆」という文句からウンザリしていたし、「教卓の下のキス」は失笑するしかないシチュエーションだし、どう考えてもデストロイだろーと思っていましたが、大きな誤解でした。
本作は少女漫画のおもしろさを保ちつつ、大人になるためのメッセージが込められた人生讃歌になっていたのです。
少女漫画のおもしろさというのは、いわゆる胸キュンです。
イケメンにすごくかっこういいことを言われてキャーキャー女の子が騒ぐあのノリです。
そこはちゃんとツボを抑えてるうえに山ピーが主演であるので、女の子たちは大満足できることでしょう。
個人的にはここはギャグとして大いに笑うことができました。
感動したのは、このイケメンの行動がちゃんとしっぺ返しを受けていることです。
だいたいの物語が「教師と生徒の恋愛」です。当然世間では許されることではありません。
そのことで山ピーは本気で悩んだりぶん殴られたりするので、イケメン嫌いな男子にとっても溜飲を下げられるのではないのでしょうか
決して※ただしイケメンに限るだけで終わっていないのです。
あとわりとびっくりしたのですが、山ピーはそんなにツンデレでもなかったです。
前半はまあまあツンツンしていましたが、後半はめっちゃ素直でした。
まあこれは原作がそういう設定だし、お客を呼ぶ宣伝文句としては正しいのでしょう。
むしろツンデレなのは、クールでなかなか表情を見せない主人公のほうですね(クーデレと言ったほうが正しい?)
彼女は「イケメンにただ好かれるだけ」の女の子ではありません。
恋を知って傷ついているし、その傷を知ってこその努力をしようとします。
主人公を演じていたのが「渇き。」の小松菜奈なので、その印象のままだったらどうしよう……と思っていたのですが、ちゃんとふつうの女子高生に見えて安心しました。
どちらのキャラクターも、映画を観ればきっと好きになることができるでしょう。
また、少女漫画ならではのありえねーシチュエーションに説得力を持たせていることもよかったです。
ちゃんと周りが主人公たちの行動を見て、現実味のあるリアクションや行動をしてくれるんですよね。
まあそれでもツッコミどころはあるんですが、そこは大目に見るべきでしょう。
とにかく、脚本が優れているんです。
登場人物の想いは複雑に交差して大きな“うねり”を起こしています。
何気ないセリフが、見事に伏線として生きています。
脚本を担当したまなべゆきこさんは、本作と同じく熊澤尚人監督とコンビを組んだ「ジンクス!!!」でも高い評価を得ていたので、その作品群をもっともっと追いかけたくなりました。
自分は原作漫画を読んだことがなかったのですが、どうやら映画では設定がかなり変わっているようです。
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※阿部顕嵐主演のスピンオフドラマ「近キョリ恋愛 ~Season Zero~」も放送されていました。
同じようなシチュエーションであっても、そこに至るまでの過程はぜんぜん違うようです。
あくまで映画は「クールな女子高生と教師が、補習を続けるうちに惹かれ合っていく」という設定を借りているのでしょう。
このことも、自分はよかったのではないかと思います。
原作に登場しない新井浩文演じる教員は作品には不可欠なものとなっていますし、「教師と生徒の恋愛」の困難さをしっかり物語の主軸に置くことで、多くの人が共感できるドラマがしっかりと構築されていました。
本作に込められたメッセージは、将来のある若者にこそ観てほしいと思えるものでした。
教育上にもいい内容であると断言できます(教師と生徒の恋愛というタブーなものを描いているのにも関わらず!)
ちなみに、作中ではキスをするもののセックスに関する話題は皆無ですので、お子さんにも安心です。
「恋空」のようにセックス→妊娠→何も考えずに出産という心底子どもに読ませたくないケータイ小説とは天と地ほどの違いがありました。
それにしても……こういう優れた作品はもっともっと多くの人に観てほしいものですが、明らかにターゲットが絞られすぎている映画ですよね。見事に女性しか観に来ません(当たり前)。
ネット上にある感想も「山ピーがチョーかっこよかった!」「もう胸キュン死しそう!」という
ここでオススメしても、本当におもしろそうと思ってくれるのか不安でしかたがありません。
同じようなジャンルでは「カノジョは嘘を愛しすぎてる」「L♡DK」もいい作品でしたし、いち映画ファンとしてはこういう“観そうもない作品がじつはおもしろい”ことを発見できるのはうれしいことです。
作中では、2回ほどホロリときてしまいました。
役者の演技だけでわかりそうなところもわざわざセリフで表現してしまったり、山ピーは何をやっても山ピーにしか見えないという欠点もありましたが、些細な問題です。
冗談抜きで、すべての人におすすめします。
以下、結末も含めてネタバレです 鑑賞後にご覧ください↓
〜少女漫画流にがんばる山ピー〜
爆笑したのは、山ピーによる壁ドンです。
これが登場するのは想定の範囲内でしたが、筋肉番付のように別アングルで3回壁ドンをくり返す演出は完全に予想外でした。
ドン!→別アングルでドン!→別アングルでドン!という流れは完全に笑いを取りに行っていましたね。
さらに山ピーは、ねんざをしてしまった主人公をお姫様だっこで保健室まで運びます。
山ピーが主人公を持ち上げた瞬間、ギターのジャーン♩というかっこういい音楽が流れるのがまた笑いを誘います。
山ピーは主人公の自宅へでかいメガネで変装してやってきます。不審者にしか見えない山ピーというのも珍しいですね。
山ピーは、同級生のヤンキー風男子に手を引かれている主人公を、むりやりかっさらっていきます(またギターの音楽がジャーン♩)。
とにかく山ピーは強引なことばっかりしていますね。こうしたらモテるわけ……ないですよね、ここは※イケメンに限るです。
〜教師と生徒との恋愛なんて〜
この映画でよくできているのは、「教師と生徒の恋愛なんて絶対ダメ!」という“前提”をしっかりと作り上げていること。
職員室でさらっと女生徒に告白されたハルカ(山ピー)は教頭に呼ばれて「櫻井先生なら間違いはないと信じているんですがね」と釘を刺されます。
数学教員の明智(新井浩文)はゆに(小松菜奈)のいとこであり、両親の留守中に同居している“保護者”なので、ハルカが「個別指導」していることをかなり気にしています。
そういう「恋愛は絶対にできない」ことを知らせておいてから、ハルカは教卓の下にいたゆにとキスをしてしまいます。
そして、ハルカの元恋人の滝沢(水川あさみ)がそのときハルカがキスをしていたことに気づいてしまう……
この「絶対ダメなことをしてしまう」というドラマの展開には説得力がありました。
〜無意識の行動〜
それでも、教卓の下に女生徒が潜り込んでいて、女生徒が見せるノートに書かれていた「私は先生が大好きで大嫌い!どうしたらいいですか!」を先生が読んで、そのままキスをしてしまうなんてのはありえねーと誰もが思うでしょう。<ないない
しかし、この展開にでさえも説得力を持たせたセリフがあったのです。
それはハルカの「人間は無意識の行動にはウソはつけないんだよ」というもの。
これはもともとハルカがゆにのことを「表情を見せないけど、行動がわかりやすい」ということを皮肉っていたセリフだったのですが、そのハルカ自身が「思わずキスをしてしまった」のです。
自分の言ったことばが、そのまま行動として現れる……これは確かに納得せざるを得ないでしょう。
キスをする前にハルカが(座るために)わざとペンを落とすというのも、地味ながら説得力を持たせることに成功していました。
まあ、それでも、こんなに長い時間キスをしていたら生徒が気づくだろと思わずはいられないんですけどね。
〜嫌いと好きがいっしょ〜
ゆにの友だちのナミ(七海菊子)のセリフもよかったですね。
彼女は、ゆにの「顔も見たくないのに、会えないと寂しい」ということばを聞いて、こう返すのです。
「大嫌いと大好きが両方あって、本当の恋なんだよ。本当に(恋人に)ムカつくこともあったけど、いまはそれを含めて恋なんだって思う」
“好き”の反対は“嫌い”ではないのですよね。
長年連れ添っている夫婦もお互いの好きなところや嫌いなところも認めてつき合っているところもあるのでしょう。
それは、恋をするすべての人に当てはまることなのかもしれません。
〜辛い恋〜
しかし、ハルカとゆにの恋は実りません。
ハルカはキスをしたことを「悪かった、俺が間違っていた」と認め、「一時的なものだからすぐに忘れるさ」と、教師という立場で彼女を突っぱねようとします。
しかし、同級生に連れられたゆにを見たハルカは、強引に彼女をかっさらって好きだと告白します。
ハルカは海岸でゆにとの結婚を約束し、「卒業するまでは、お前と俺はただの生徒だ」といままでの関係を保とうとします。
しかし想いは溢れ、ハルカは学校で辛い想いをさせているゆにを抱きしめてしまい、それを滝沢に見られてしまう……
結果的にそれは明智に知られることとなり、明智からは「絶対に許さねえぞ!」と言われてしまいます。
ゆにのほうも、ナミに本当のことを言えなかったり、留学を諦めようとしたり、パティシエを目指すヤンキー風の男子生徒(小瀧望)の告白を断ってしまうなど、傷ついていきます。
ハルカは、ゆにのために「お前のことはもう好きじゃない」とウソをついて、別れることになりました。
〜保護者として〜
明智先生は保護者としてゆにのことをとても心配しており、心の底から彼女がカルフォルニア大学へ留学へ行くことを望んでいました。
そのことが、ハルカという教え子に手を出そうとする大人のせいで壊されそうになっている……許されるはずもありません。
明智が「ゆにはまだ子どもだぞ!大人として、それでいいのか!」とハルカを怒るのももっともです。
しかし、そんな明智は、ハルカとゆにがただならぬ関係にあるのではないかと教頭に疑われたとき、「櫻井先生はそんなことをしません、僕が保証します」と言ってくれるのです。
明智がこう言ったのは、ハルカのためではなく、ゆにのためでした。
明智は、いたずらに櫻井のことを教頭に告げて退職に追い込んだりはしませんでした。
大人として最善の行動をしたと言えるでしょう。
しかも明智は、ゆにから「やっぱり留学するよ」という決意を聞いても、喜ぶことはありませんでした。
それは、彼がすべての事情を知り、ゆにが辛いを想いをして櫻井と別れたことを知っているからでしょう。
「素直に喜べない」ことが繊細に描写されているのです。
最後に明智が、ハルカに(英語を教えてくれたことを)感謝をするのもうれしかったですね。
ゆにが留学できたのは、結果的にはハルカの補習があったおかげなのですから。
〜いい女じゃない〜
滝沢は、明智先生に告げ口したことを、ハルカに告白します。
ハルカは「明智先生ならすぐに教頭に言わずに、別れさせてくれると思っていたんだろ」と滝沢をフォローしますが、彼女はこう本音を口にします。
「私、そんないい女じゃないよ。別れさせてくれるだなんて、そんなには思っていないかな。むしろ敵わないって思い知らされちゃった」
滝沢が告げ口をしたことは、ハルカのためではなく、自分が好きなハルカとヨリを戻したいがための行動だったのかもしれません。
しかし、結果的には彼女の行動があってこそ、よりよい選択ができたのも事実です。
そうであっても、自分の行動を嫉妬心からのものだったと素直に告げる彼女は、とても愛おしく思えました。
〜こぼれる涙〜
ハルカと別れたゆには、やっと親友のナミにいままでのことを話すことができます。
ゆには「あんな、勝手に好きだと言って、嫌いだと言って、最低だよ。でも、大嫌いだと思っているのに、辛くて……」と好きだという気持ちを忘れることができません。
ゆにに代わって、先に涙を流したのはナミでした。
ゆにも、そんなナミを見て泣いてしまいます。
彼女はこれまで、いつも無表情で、誰かに心配されることがほとんどありませんでした。
そんな彼女が、心からの涙をはじめて見せたのです。
そういえば、ゆにがつけていた(明智からもらった)かわいい猫のヘアピンも、少しでも感情を出してほしいという想いの現れでした。
先生とつきあえない間は、ゆにはそれを頭につけていました。まるで、無表情な自分の代替品のように……
そんな彼女の本当の表情を見れたことが、とてもうれしかったです。
結果的にゆには大学に合格して留学するのですが、ハルカのことを忘れることはありませんでした。
遠くても、心は近い―
タイトルの「近キョリ恋愛」は、そのことを示していたのでしょう。
※ちなみに、原作ではゆにの名前は宇宙のような広い心を持った子と言う意味でuniverseから来ているそうです。
〜必要なウソ〜
ハルカの父親は「あの木を3周しながら願い事を唱えると叶うんだよ」「青い夕日を観たことがあるんだ」などと、大ボラを吹く人間でした。
そんな父親は会社で損失を出してしまったことを家族に言えず、ハルカが12歳のころに自殺をしてしまいました。そのころから、ハルカはウソが嫌いになってしまいました。
季節が流れ、大学をサボって高校に戻ってきたゆには、ハルカを海辺に強引に誘って、ある写真を見せます。
そこには、「青い夕日」である「ブルーフラッシュ」が写っていたのです。
もちろんこの現象が存在したからといって、ハルカの父親がウソをついたことには変わりはありません。
しかし、ハルカの父親のブルーフラッシュの大ボラは、ハルカにちょっぴり幸せになってもらうためのウソでした。
ハルカがゆにに「もう好きじゃない」言ったのも、ゆにに留学してもらい、幸せになってもらうためのウソでした。
ハルカの父親のように、自分を自殺にまで追い込み、結果的に誰かを不幸にするウソはついてはいけません。
しかし、誰かを幸せにするためのウソだって、ときにはあるのです。
最後に浜辺でキスをするふたりを照らしたのは、めったに起こらないはずブルーフラッシュの夕日でした。
これは本当にこのときに起こった現象なのでしょうか?
どちらでもいいのでしょう。大切なのは、やさしいウソが、回り回ってふたりを幸せにしていくということなのですから。
ゆにはハルカのために、もっともっと勉強して会いにいくと約束します。
大切な人のために努力をするふたりの未来は、きっと明るいことでしょう。
誰かを幸せにするためのウソであるなら、ついてみてみるのもいいかもしれません。
ありがとうございます。
まさかの「近キョリ恋愛」とは!!個人的に「わたしのハワイの歩き方」でやられきった身としてはそれ級の見えてる核地雷だと思っていましたがヒナタさんのレビューを読むと何だか面白そうに感じられるのが怖いです(;´д`) あとニンフォマニアック観に行きましたが今年ベスト1間違いなしの面白さでした!個人的にはエヴァ以上に早く続きの観たい作品です
私も、正直あまり期待していなかったのですが、思ってたより感動なお話でしたね!
宣伝も、胸キュンアピールするよりも、後半の話の方をアピールした方が良かったんじゃないかと思うほどでした。
胸キュンシーンに関しては、予告や宣伝で飽きるほど見させられたので、「やっぱりここで来るのかー」程度にしか感じられませんでした(笑)
もっとも、後半の方はほとんど原作無視でしたから宣伝しづらかったのかもしれませんが…
yahoo映画のレビューは今でこそ落ち着いてきましたが、始めのうちはひどかったですね。
しかもそれを鵜呑みにした公式側が「yahoo映画のレビューで星4.5とった!」なんて自慢しちゃうものですから、ますますステマ臭しかしなくなってしまいました。
最終的に公式側の方で感想募集することで、山Pファンがそっちに流れて落ち着いたというところでしょうか。
ラストシーンがどうも違和感があり、その後のカメラの動きも普通のドラマで見るような動きと違っておかしかったので、合成じゃないかな…と思います。