希望の記憶 映画『バンクーバーの朝日』ネタバレなし感想+ネタバレレビュー
個人的お気に入り度:4/10
一言感想:アツくないスポーツ映画(根性抜き)
あらすじ
1900年代初めのカナダ・バンクーバー。
その地にやってきた日本人たちは、肉体労働や貧しさに加え、賃金の少なさや偏見などの差別にも苦しんでいた。
製材所で働くレジー笠原(妻夫木聡)やケイ北本(勝地涼)、漁業に携わるロイ永西(亀梨和也)、女房子どもとともに働くトム三宅(上地雄輔)は野球チーム「バンクーバー朝日」に所属し、白人チームに差別を受けながらも、チームとして成長をしていく。
『舟を編む』『ぼくたちの家族』の石井裕也監督最新作。本作が題材としているのは、実在の野球チームの『バンクーバー朝日』です。
参考↓
<奇跡体験!アンビリバボー:日本人の誇り★奇跡の日系野球チーム - フジテレビ>
<バンクーバー朝日 - Wikipedia>




作中でおもに描かれているのは、日本人労働者への差別、バンクーバー朝日という野球チームが人々の希望になるという過程です。
野球を通じて差別と戦うという物語で『42 世界を変えた男』を思い浮かべる人も多いでしょう。
(知っている人も多いでしょうが)知られざる野球チームの歴史を現代によみがえらせただけでも、本作は価値のある作品です。
しかし……本作ははっきり言って、スポ根ものとしてはつまらないと思います。
いや、もはや“根性”なんてものが感じらません。ずっと低~い体温のまま話が続く印象です。
なぜなら、演出や展開が淡々としすぎているから、機転や努力がしっかりと描かれていないからです。
石井裕也監督はキャラクターの地味(あえて不適切なことばを使っています)な心理描写が得意で、それで登場人物の内面が見えてくることが作品の魅力になっています。
しかし、本作ではいくらなんでも地味すぎます。
たとえば、チームで集まって「いくぞー!バンクーバー朝日ー!」みたいなことを言いそうなところで、主人公が「うん、ああ、いいや、ごめん」とみたいな些細なことをつぶやくのです(しかも延々と)。
おそらくなのですが、これは石井監督の“実験”なのだと思います。
一見どうでもよさそうな会話を映し出すことにより淡々と、そこから見えてくるチームの関係性や、主人公の想いを描きたかったのでしょう。
しかし、これは失敗していたと思います。内面を描くどころか、主人公の性格が暗すぎてどうにも好きになれませんでしたし、何より登場人物がボソボソと話してばかりなのは退屈でしかたがありませんでした。
野球の描写もイマイチです。
野球で映し出されるのはほぼ打者VS投手ばかりで、守備の描写がほぼありません。
バンクーバー朝日は「Brain Ball」という頭脳プレーが評されていたのですが、その描写も説得力不足で、機転を効かせて勝利した、チームで努力したという印象がありません。
物語は迫害と差別を受けるという内容であり、時代背景も支那事変が起こり、これから太平洋戦争も勃発しようとしている“暗さ”を思わせるものになっています。
だからでこそ、バンクーバー朝日の活躍がニュースとなり、日本人の希望となるという過程を見せてほしかったのですが、肝心のバンクーバー朝日のチームみんながウジウジして暗いので、ちっとも明るい気分になれませんでした。作品の特性と割り切るべきなのでしょうが……。
いいところもあります。
その筆頭は当時のバンクーバーの街を再現したセット。泥臭く、日本人の過酷な労働環境がしっかり伝わるものになっていました。
佐藤浩市演じるダメ親父は主人公の志をしっかり伝える人物として機能していましたし、亀梨和也や上地雄輔もしっかりした演技を見せていました(亀梨和也の眉毛は細すぎだけど)。
『それでも夜は明ける』のような“ヒドい差別”だけを描かず、さまざまな白人たちが日本人をどう想っていたか、差別する人間ばかりではない、ということが提示されたのもよかったです。
石井裕也監督のファン、役者のファン、『42』が好きな人にはおすすめします。
しかし、純粋な感動を求める方や、家族やデートでのチョイスはおすすめできません。
石井監督は、本作のような大作っぽさを臭わせる映画よりも、『ぼくたちの家族』や『川の底からこんにちは』のような後ろ向きの(ダメ人間が出てくる)作品のほうが合っているんだろうなあ……次回作に期待します。
↓以下、結末も含めてネタバレです。観賞後にご覧ください。 今回は短めです。
〜野暮な不満点〜
すごく気になったのは、タクシー運転手(ユースケ・サンタマリア)や、売春婦の女性たちがぜんぜん物語に関わっていないこと。
上映時間がいたずらに伸びているだけな気がします。
野球の試合は始めはとにかく負け続けるばかりで、メンバーは「あの白人のガタイじゃ負けて当然だよ」と諦めのことばまで吐いています。それで主人公は「考えなきゃ……」と思うのですが、そこからの機転は「バントになったら成功した」→「だからバント戦法を続けた」という程度でした。
※以下のご指摘を受けました。
妻夫木が試合を見て弱点を見つけるシーンがあります。(白人は力は強いが小回りが利かない) 最初のバントも偶然ではありません。
盗塁の描写があったのはよかったのですが、もっとチームで作戦を立てるなどの知略を効かせた「Brain Ball」が観たかったですし、序盤の暗さをはねのける「試合に勝った」という充足感がほしかったです。
そういえば、学校の子どもたちが「今日、朝日勝つかな?」「ぜってー勝つよ!」と絶賛ボロ負け中なのに朝日に期待しまくっているのはなぜなんだろう?根拠がないと思うんだけど。
あと、宮崎あおいはここで学校の先生として登場して「あなたたちは日本人だから、日本人の誇りを忘れずに日本のことを勉強するよの」と言っていただけでしたね。セリフはとても尊いものでしたし、存在感があってよかったのですが。
主人公の「日本人らしく謝ってばかりだった」という欠点もそのまま放置されているよね……作中で「すぐ謝るのは日本人の悪い癖よ!」と言わせるのであれば、そこも解決してほしかったですね。
〜フェアプレイで〜
主人公の妹(高畑充希)が「白人も悪い人ばかりでない」と言ったように、日本人が迫害されるばかりでないことが描かれているのが大好きでした。
審判がフェアなジャッジをしないときは、スコアボードを掲げていた男性たちが非難してくれました。
暴力行為をしたためにバンクーバー朝日は出場停止処分を受けますが、抗議が殺到します。しかも、その数は日本人よりも白人たちのほうが多かったのです。
野球というのはフェアプレイが求められる競技です。
白人たちは、むやみに仕事を奪っていった日本人を恨むのではなく、野球の精神にのっとり、おもしろい野球の試合を観たいがために、バンクーバー朝日を応援してくれました。
〜何のために?〜
チームが何のために野球をするのか?と疑問に思うシーンがあったのもよかったです。
女房から「野球ばかりでなく仕事をちゃんと手伝ってよ」と言われたり、「朝から晩まで働いて、そのうえ野球の練習までして、何か意味があるのか?」と主人公を責めたり……。
野球は娯楽競技であり、それで日々の暮らしが楽になるわけではないのですから、それも当然でしょう。
しかし、バンクーバー朝日の活躍は、先が暗い時代の中での明るいニュースとなっていきます。
ずっと出稼ぎ労働をしていて、英語を覚えようともしない父親が「お前は俺にできないことをやっているよ」と諭すシーンも大好きでした。
愚直に目の前のことを処理するだけでなく、工夫をして、諦めずに野球で戦って人々の希望となる—
確かに、誰にもできないことです。
〜その後〜
バンクーバー朝日はリーグ優勝を成し遂げましたが、真珠湾攻撃が起こったためにメンバーは収容所に送られ、チームで集まって野球をすることはもう二度とありませんでした。
戦争は人々の野球への希望も、野球のプロとして活躍するという夢も、そしてチームが集う幸せな時間をも奪っていったのです。
※実際には収容所でも野球をやっていたとご指摘を受けました。
しかし、2003年にバンクーバー朝日はカナダ野球殿堂入りを果たし、再び人々の記憶となりました。
最後に映し出された老いた主人公にとって、その記憶はかけがえのないものになったはずです。
おすすめ↓
佐藤秀の徒然幻視録:バンクーバーの朝日
じわり。じんわり。 - ユーザーレビュー - バンクーバーの朝日 - 作品 - Yahoo!映画
打撃がダメだからこそバント作戦で塁に出ることを考えたのですから。
最初のバントも偶然ではありません。
妻夫木が試合を見て弱点を見つけるシーンがあります。(白人は力は強いが小回りが利かない)
ラスト、老いた主人公は表情を見せないというのも間違いです。
ばっちりアップで顔写ってます。
寝てましたか?
頭を使った野球をしたということで、カナダからも人気があったというバンクーバー朝日ですが、映画の中で見られるのはバントだけで、もっと具体的にどう頭を使って白人との力の差を埋めたのかは見たかったですね。そこが肝だと思うんで。
あと役者は豪華でしたが、あまり登場人物に魅力があるように感じられませんでしたね。特に成長や変化も描かれないですし
ただ、どれだけボロ負けしていて文句を言いつつもちゃんと試合を観に来て応援してくれる町の人達はなんか良いなあと思いました。
> 打撃がダメだからこそバント作戦で塁に出ることを考えたのですから。
> 最初のバントも偶然ではありません。
> 妻夫木が試合を見て弱点を見つけるシーンがあります。(白人は力は強いが小回りが利かない)
了解です!すみません。
> ラスト、老いた主人公は表情を見せないというのも間違いです。
> ばっちりアップで顔写ってます。
> 寝てましたか?
寝てないんですが完全に記憶違いです!すみません。
いや、実際には収容所でも野球やってたそうですよ。
>
> いや、実際には収容所でも野球やってたそうですよ。
ありがとうございます。そういえば集まることなかった〜だけでしたね。
一言感想:どこかの国の在日外国人団体にも観て欲しい・・・
やはり自分も日本人だからか『42 世界を変えた男』の時よりも差別の描写が辛かったです。
でもカナダ人を悪し様に描かない姿勢には好感が持てました。お父さんを撃ってしまった警官が怯えていたりとか、向うにも「恐怖」という理由があるのだと・・・
>主人公が「うん、ああ、いいや、ごめん」とみたいな些細なことをつぶやくのです(しかも延々と)。
レイジのキャラクターはもう少し熱血にして欲しかったですね(実在の人物がモデルな以上難しいのでしょうけど)
>その筆頭は当時のバンクーバーの街を再現したセット。
文化遺産として遺すべき!とすら思えた「明日のジョー」のドヤ街、涙橋、丹下拳闘倶楽部がスケールアップしてました。これは邦画の誇れる技術力の高さを見せつけてくれますね。
>主人公の妹(高畑充希)
予告で彼女の「馬鹿だ、貧乏だ、って見下されるんだよ!」は「猿の惑星」の「The Animal!」と並んで観たいという気持ちを削ってくれたのですが、これも本編では業に入っては業に従わず理解されようとしない方が悪いという意味のセリフで驚きました。
本当に、日本の広告業界は凡人には理解不能な天才(?)の巣窟なんでしょうか・・・
〜何のために?〜
今作を観て思ったのですが「インターステラー」で、世界に滅亡が迫っている中、野球の試合とその観戦が続けられていたのは、ヒャッハー!と自暴自棄にならない為に必要な心にゆとりをもたらす「希望」だったのではないかと思いました。
(でも、本作に比べて球場が綺麗過ぎるのが今でも気になります・・・)
>※実際には収容所でも野球をやっていたとご指摘を受けました。
なんとこの日系人収容所での野球の話も、中村雅俊さん主演で「アメリカン パスタイム」という映画になっているそうです!(残念ながら日本では劇場未公開だとか)
野球すげえ!人類滅亡の瀬戸際でもやりたくなるスポーツだと思い知らされます・・・。
私はこの映画とても好きで、感動しました。
野球の楽しさや熱さは私は十分感じたし、なにより石井監督はそもそも、スポ根ものを作る気はなかったんだろうなーと思いました。
それなら、優勝決定戦をもっとじっくり描いて、そこで終わらせてただろうなと。
感動大作を期待して見に行く人が多いだろうと思うので、ネット上での評価が低いのは納得…という感じです(´・ω・`)