愛を込めて 映画『あと1センチの恋』ネタバレなし感想+ネタバレレビュー
個人的お気に入り度:9/10
一言感想:痛すぎる恋だからこそ、すばらしい
あらすじ
ロージー(リリー・コリンズ)とアレックス(サム・クラフリン)は6歳のころからの幼なじみ。恋の相談が気軽できる、友だち以上恋人未満の関係だった。
ふたりはともにボストンの大学に合格するのだが、ロージーには大学に行くに行けなくなる重大な問題が発生してしまい……
すげーおもしろかった!
2014年の最後にこれほどのラブストーリーを観ることができて幸せです!
原作はセシリア・アハーンによる小説『愛は虹の向こうに』です。
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セシリア・アハーンは『P.S.アイラブユー』の原作も手がけており、恋の経験を交えて等身大の女の子を描く作風が人気を博していたようです。
さて、公式サイトの雰囲気で甘〜いラブストーリーを期待するといい意味で裏切られます。本作は今年の秀作『ブルージャスミン』並にキッツい恋愛が描かれている作品なのですから。
なにせ、その内容は、幼なじみの親友同士がくっつきそうでくっつかず、12年間もすれ違い続けるというもの。
本当は両想いであるはずのに、ちょっとずつの歯車のズレのせいで、別のパートナーとくっついたり、取り返しのつかない行動をしてしまいます。
そして主人公はひっどい目に合います。
リリー・コリンズは『白雪姫と鏡の女王』では悪意のないかわいい白雪姫を演じていましたが、今回はいい意味で“汚れ役”のイタい系のヒロインを演じています。
神様が何か意地悪しているんじゃないかと思うくらいに、主人公をいじめまくる内容となっているのです。
間違いなく、本作には「胸キュン死しそう!(はぁと)」なんて展開を求めないほうがいいです。
イケメン(サム・クラフリン)も登場するには登場しますが、むしろクズ男が出てくる割合のほうが多いです。
あ、言い忘れていましたが、本作には下ネタも盛りだくさんです。
おかげでPG12指定となりましたが、「避妊はしっかりしようね!」「未成年でお酒を飲んでもいいことがない」という教訓も与えてくれるところもあるので、そこまで子どもに見せたくないという印象はありません。
作品の全体のイメージも真面目な恋愛映画ではなく、『ラブ・アゲイン』のようにコメディ盛りまくりです。
すばらしいのは、ジャンルはコメディ映画であると言い切っていい内容であるのに、しっかり人間ドラマ、恋愛映画として泣かせること。
公式ページのプロダクションノートで、監督が「コメディの傑作は僕らを泣かせるし、ドラマの傑作は僕らを笑わせる。このふたつは常に結びついている」と語っていることに同意しました。
『あと1センチの恋』は、コメディ、人間ドラマ、恋愛が渾然一体となっている作品です。
女性向けのような印象が強いとは思いますが、自分はぜひ(人間ドラマを期待する)男性にもおすすめしたいです。
ポップな音楽に乗せて展開する、すさまじいまでのテンポのよさも長所ですね。
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上映時間は1時間43分、観客に考えるスキを与えないスピードで12年間の人生を見せていきます。
「ちょっとでも退屈なシーンがあるのはイヤ」と思っている、普段あまり映画を観ないライト層にもおすすめしたいです。
難点はテンポが“よすぎる”こと。
悲劇的なシーンがあっても「ハイ、つぎ!」みたいな感じで矢継ぎ早に展開するので、なかなか感情移入が追いつかない人もいるのではないでしょうか。
実際に、ネットでほかの方の評判を観ると、「薄っぺらで淡白な作品」というコメントが少なからずやありました。
しかし、あっという間に語られるセリフや主人公の行動には、さまざまな意味が込められています。
速いテンポに負けることなく、集中して映画を観てみることをおすすめします。
まあ、何にも考えなくても超楽しい映画なんですけどね(主人公の人生のアレっぷりが)。
また、主人公はどちらかと言えば「自分勝手なバカ女」なキャラなので、嫌悪感を覚える(好きになれない)人も多いかもしれません。
本質的には主人公は悪い人間ではありませんし、自分は「不器用な女性」としての彼女が大好きになりました。
そうそう、原題の『LOVE, ROSIE』もさることながら、邦題の『あと1センチの恋』もいいタイトルですね。
1センチという数字が作中に具体的に出てくることはないのですが、その意味するところは「あとこれくらい近づいていたらうまくいったのに……」という切ない恋心なのでしょう。
これは、どんどん非リア充になっていく主人公をとことん追っていく“負け犬応援ムービー”です。
そういう意味では『(500)日のサマー』にも似ていますし、そもそも恋愛を期待して観るべき映画でもないような気さえします。
期待するべきなのは、不器用な女性の12年にもおよぶ人生の浮き沈み、その悲哀と喜劇なのではないでしょうか。
一部の劇場では12月13日から公開されていましたが、これから上映する劇場も多いのでぜひチェックを。おすすめです!
↓以下、結末も含めてネタバレです 観賞後にお読みください。
〜子どもができて〜
この映画で大好きだったのが、「なんとなく男とセックスしたら子どもができちゃった!」という展開が物語の早い段階から登場すること。『JUNO/ジュノ』みたいですね。
妊娠がわかったロージーが「もうダメよ。この後は生活保護を受けてハゲて終わりだわ」と言っておきながら、薬局店員・ルビー(後に親友になる)に養子に出すことを提案されると「その手があったわ!」と喜ぶのは軽いよなあ……
ロージーはとんでもねービッ○女なのかと思っていたら、違いました。
彼女は口では「赤ちゃんの名前は養子先の親がつけるでしょ」などと言いつつも、赤ちゃんにこっそりと「ケイティ」という名前をつけていましたし、いざ産まれたときに「いいママになるわ」と約束します。<愛おしいケイティ
彼女はボストンへの留学も、ホテル経営者の夢も諦めて、産まれたケイティのことを大切にしました。
『ゴーン・ガール』で産まれる子どもをあんなことのために“利用”したこととは正反対ですね。
あ、ロージーの弟たちが陣痛に苦しむ彼女を見て「男でよかった!」と痛感するのは笑いました。女性は本当に大変だよね……
〜すれ違いすぎ〜
どんだけ作中でロージーがアレックスとすれ違ってきたかを箇条書きしましょう。
・アレックスはロージーに「彼女(イケイケ女のベサニー)と話すためのいい方法ないかなあ」と聞き、ロージーが「童貞なのはキツいわよね」と言うと、その後アレックスは本当に童貞を捨ててしまう
・アレックスといっしょにボストンに行けるはずだったのに、子どもができたために行けなくなる(合格していたことも言えなくなる)
そういえば、家でアレックスはベサニーとセックスをしていて、「アレックス、どこでそんなこと覚えたの〜」と言わせていて、そのキモさにロージーはゲロを吐いていましたね。
ヒロインにゲロを吐かせる恋愛映画ってすげえな。
・ふたりは空港でハグするが、あとちょっとのところでキスをしなかった。<ハグはしたけど……
・ひさびさに「親友」としてアレックスのところに行ったら、婚約するどころか子どもができていた(しかも彼女はヒステリー)。
・ロージーは「羨むところか、哀れだわ!」とアレックスに逆ギレする。
・アレックスは、浮気していた女と別れる(子どもの父親はへんちくりんなアーティスト)が、そのことをロージーになかなか言えなかった。
・ロージーはいまさら戻ってきたケイティの父親のグレッグと再会し、結婚までしてしまう。
・父が亡くなり、葬式でアレックスはやさしくロージをハグしてくれるが、グレッグは「親戚の話はつまんねえよな」などとほざいて妻を支えようとはしない
・アレックスからの「幸せにしたい」という内容の手紙をグレッグが勝手に隠していた。
えーと、クズ男のグレッグを心底殴りてえと思いますね。
もちろん映画ではこの点をスッキリさせてくれます。
ロージーは、結婚記念日にコソコソと(浮気のための)ホテルを予約しやがったグレッグのところに行き、顔面にいいパンチを浴びせるのです! ルビーがコンドームを投げつけてくれるのも最高ですね(おめはーちゃんと避妊しろ)。
やっとロージーがアレックスの手紙を読んだとき、アレックスはベサニーと婚約をしてしまいました。
ロージーは、ベサニーとアレックスの結婚式にも参上し、アレクッスを奪い取ろうと(たぶん)たくらみますが……火山灰の影響で飛行機が遅れてしまったために、またも間に合うことがありませんでした。
〜父親語録〜
ロージーのお父さんはいい人すぎました。
「人生はよくばらないほうがもったないぞ」と娘の夢を後押ししてくれたり、
赤ちゃんの夜泣きにウンザリして「人生は終わりよ」と言っているロージーに「甘ったれるな」「お前もぐずって大変だった、いまだから言えるよ」と親の苦労を諭したり、
死ぬ直前にも「地中海の沿岸を母さんと歩くことができた、私は幸せだ」という手紙を送ったり。
父親のメッセージは「やりたいようにやる」ということ。
それは、アレックスとともに生きたいロージの背中をも押してくれました。
〜タイタニックネタ〜
ロージーは、ベサニーとアレックスが船の上で『タイタニック』のような結婚式をあげることを羨みます。
このときにルビーはこう言ってくれます。
「タイタニックだったら、ほかのみんなは沈んで、あんたと運命の相手だけが板に乗ることができるのよ?乗りたくない?」その理屈だと運命の相手=レオ様は死んじゃうんだけど
ルビーは「いやなことがあってもあんたよりはマシだって思うわ」とひどいことも言っていました。
しかし、「親友は(アレックスじゃなくて)私でしょ?」とも教えてくれたり、物語の最後で「手が離せないから、ふたりでお願いね」と気遣ったりで、「口が悪くてもけっこういいヤツ」な印象でステキでした。<とってもいいやつ
あ、アレックスの結婚式に行く前に、ルビーが行きずりのタクシー運転手に「結婚しないか」と言われ「はい」と答えて5秒で運命の相手と結ばれたのは大笑いしました。そりゃロージーも「そんなに簡単にいくなんてズルい!」って言うわ。
〜人生最良の日〜
物語は、冒頭の「人生の最良の日」に戻ってきます。
ロージーにとって、それは大好きな人の結婚式であり、最悪の日には違いないのですが……
泣けて泣けてしかたがなかったのは、ロージーが結婚するアレックスに向けての祝辞のことばです。
「人生のパートナーの選択はとても重要よ。
間違えれば、絶望が待っている。
あなたに光を与えてもらった私は幸せだわ。
これでよかったの。
あなたを一生愛しているわ」
このことばには、ロージーの「人生のパートナーはあなたがよかった」という本音が漏れていました。
アレックスも、幼なじみのキスをいやがっていた少女のケイティこう言っていました。
「はじめて出会ったとき、彼女(ロージー)は完璧だと思った。
ほかの子で穴を埋めようとしても、できなかった」
これもアレックスの本音。
どうあっても、アレックスにいちばんふさわしいのはロージーであり、ロージーにいちばんふさわしいのはアレックスであったはずなのに……
〜巡り巡って〜
ロージーは、父親が残してくれた遺産のおかげもあり、念願の海沿いのホテルを開業することができました。
そのお客第1号として現れたのは、「コンドームがアソコの中に入って取れなくなっちゃったの!」というロージーの衝撃の告白をエレベーターで聞いていた男性でした。
これは12年という時を経ても、どこかで出来事がつながっているという“喜劇”を表しているのかもしれません。
そして……続けてやってきたのは、ベサニーとお互い納得して別れたばかりのアレックスでした。
アレックスは、ロージーの夢を見たと言います。
いままでアレックスは「現実逃避」のように「自分がオールになった」「矢になって空中を飛んでいく」夢を見ていましたが、ここでは夢の中でも現実のロージーを見つめていたのです。
しかも、ロージーの18才の誕生日に、アレクッスはキスをしていたと告白します。
ロージーが泥酔することなく、このキスを覚えていたら、ふたりは12年もすれ違わずにうまくいっていたのかもしれないのに……<あともう少しで……
だからでこそ、ロージーとアレックスは、海の見える最高の部屋で長いキスをかわしました。12年の間を埋めるように……。
長い遠回りをしたふたりですが、その未来はきっと明るいことだと思います。
(しっかりとキスをした娘のケイティたちも、きっと幸せになるはずです)
〜LOVE, ROSIE〜
最後に原題の「LOVE, ROSIE」が、カタカタというキーボードで叩く音とともに表示されました。
これは、ロージーが「確実に」「いま」アレックスに想いを伝えたかったことばなのだと思います。
中盤に、アレックスは「君を幸せにしたい」という手紙の最後に「LOVE, ALEX」と記していました。
アレックスは重要なことだからこそメールでは伝えずに、手紙で伝えようとしていたのでしょう。
しかし、それはグレッグが隠したおかげで、いいタイミングで伝えられることがありませんでした。
最後にロージーが「LOVE, ROSIE」とタイプしたのは、確実に届くメールのメッセージなのでしょう。
それはすぐに、いちばん伝えたいタイミングに届くものなのです。
(そういえば、授業中のアレックスが童貞を捨てたというチャットは、もれなくクラスのみんなに知れ渡っていましたね)
最高のタイミングで「ロージーより、愛を込めて」というメッセージを相手に送ることができるのであれば、きっとこれ以上の“すれ違い”はなくなるはずです。
レンタルで当作鑑賞しまして、個人的には10年前の月9ドラマのような展開で評価は低いです…
以下気になったので…
そういえば、家でアレックスはベサニーとセックスをしていて、「アレックス、どこでそんなこと覚えたの〜」と言わせていて、そのキモさにロージーはゲロを吐いていましたね。
ヒロインにゲロを吐かせる恋愛映画ってすげえな。
気持ち悪いという気持ちも有ったのでしょうが、このゲロは”つわり”だと思います、妊娠発覚直後なので。
あ、アレックスの結婚式に行く前に、ルビーが行きずりのタクシー運転手に「結婚しないか」と言われ「はい」と答えて5秒で運命の相手と結ばれたのは大笑いしました。そりゃロージーも「そんなに簡単にいくなんてズルい!」って言うわ。
タクシー運転手じゃ無くて、たしか”べサニーのイケてない弟”だったと思います。
ルビーもビートルに乗っていたし、彼の車もワーゲンバスだったので、一瞬で意気投合したのですね。