正しいこと 映画『トラッシュ!-この街が輝く日まで-』ネタバレなし感想+ネタバレレビュー
個人的お気に入り度:6/10
一言感想:謎解き版『スラムドッグ$ミリオネア』
あらすじ
ブラジルのリオデジャネイロ郊外、ゴミ拾いをして暮らす少年ラファエルは、ある日ゴミ山でひとつの財布を見つける。
その財布を警察も追い続けているさなか、ラファエルは仲の良い少年ガルド、ラットと協力し、財布の謎を解こうと奔走する。
『リトル・ダンサー』のスティーブン・ダルドリー監督、『アバウト・タイム〜愛おしい時間について〜』で監督をしていたリチャード・カーティスが脚本を務めており、映画ファンから多大な期待を寄せられた(たぶん)作品です。
本作を観て多くの人が思うのが、『スラムドッグ$ミリオネア』に似ているということです。
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『スラムドッグ$ミリオネア』の舞台はインド、『トラッシュ!』はブラジルのリオデジャネイロという違いはあるものの、躍動感のある映像や編集や音楽、暴力シーン、貧民街の少年がやがて大きな行動に出るというプロットも一致しています。
『トラッシュ!』が特徴的なのは、『スラム~』のような要素を持ちながらも、謎解きの要素があることです。
映画のファーストシーンは「いったいどういうことなんだ?」と思わせるシーンから始まりますし、少年たちが拾った財布には意味深な暗号が隠されていたりします。
なぜ警察はこの財布を追うのか? そして財布が示す場所にあるものとは?
そうした疑問により、観客をぐいぐい引っ張ってくれるのです。
具体的な本作のテーマは財布に隠された真実のネタバレになってしまうので↓に書きますが、これは日本でも思い当たるふしがあるものです。
少年たちが冒険を通じ、その「悪」と立ち向かう様には興奮させられました。
もうひとつテーマにあるのは、ブラジルで問題になっている貧富の差(格差社会)です。
※参考記事
<ブラジルの光と影を伝える12枚の写真「ワールドカップで誰が得をするのか」>
<ブラジルの貧困問題>
本作はこの問題に警鐘を鳴らし、改善がなされてほしいという願いが込められているのでしょう。
ある意味プロパガンダ的な作品でもありますが、世界の諸問題を考えるきっかけになるという点だけでも、確かな価値がある作品です。
子役たちも文句なしの上手さで、演技であることを忘れさせます。
ベテランの風格を漂わせるマーティン・シーンや『ドラゴン・タトゥーの女』のルーニー・マーラが脇役(でも重要)として登場するのも見どころになっています。
ちなみに、ルーニー・マーラが演じるのは気のいい英語教師。このキャラクターは、原作者のアンディ・ムリガンがフィリピンに滞在して英語を教えていた経験が反映されているものなのでしょう。
ただ、物語には少し物足りなさが残ります。
理由のひとつが、少年たちの背景がわからないことです。
少年たちはゴミ(TRASH)拾いをして生活しており、ときどき教師から英語を教わり、たまに神父さんに助けてもらう……という最低限の生活は理解できるのですが、少年たちの両親や家族はどうしているのか?という疑問は晴れないままです。
このあたりは、原作小説を読めばはっきりするのかもしれません。
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それはまだ許容できるのですが、終盤のファンタジーがかった(ツッコミたくなる)展開は残念でした。
本作はそもそものプロットが「少年たちがゴミ山で拾った財布が騒動を巻き起こす」という「おとぎ話」のようではあります。
しかし、ハードな展開もあり、実際のリオデジャネイロの問題を描いた作品でもあります。
作品のバランスを考えても、終盤に従いリアリティが乏しくなってしまうのは、あまり歓迎できるものではなかったのです。
そんな不満点はありつつも、退屈することがないテンポのよさ、勢いのある映像、観ていてわくわくする少年の冒険、そして痛烈な社会風刺など、楽しめる点は満載です。
また、中盤までは「少年はたちはなぜあれほどまでに財布の謎を究明しようとしたのか?」という説得力にも乏しく思ったのですが、謎が究明されてからはその理由がわかりました。
これも真面目な日本人なら、共感できるのかもしれません。
公開劇場はやや少なめですが、『スラム~』が好きな方、監督&脚本のファンには存分におすすめします。
↓以下、結末も含めてネタバレです。観賞後にご覧ください。 今回は短めです。
~野暮な不満点~
何より気になるのは、終盤に現れたジョゼ・アンジェロ(財布を投げた男)の娘・ピアは、いままでどうやって生活していたの?ということ。ジョゼはだいぶ前につかまって殺されてしまったのに……
いきなり目的地である「ピアのお墓の前」に現れるので、幽霊なのかと勘違いしてしまいました(そう思わせる演出だと思う)。
自分の娘のお墓を作って、そこに賄賂の証拠とお金を隠すというジョゼは、娘へ危険がおよぶことも考えてなさそうに思えてあまり好きにはなれませんでした。
また、そもそもジョゼはなんであんなややこしい暗号を仕込む必要があったんだというのもツッコミたくなりますよね(これは本当に野暮ですみません)。
~ドンキーコング登場~
ガルドが「買ってみんなにプレイ料金を頂戴して稼ごうぜ!」と言っていたゲームが『スーパードンキーコング』だったのはびっくりしました。<不朽の名作
本作はYouTube(っぽいもの)も登場するので時代設定は現代なのですが、このゲームの発売は1994年。それでも娯楽の少ない中で、ゲームが貴重なものになるというのはわかるなあ……。
~正しいことを~
ジョゼ・アンジェロは、さまざまな企業の賄賂を暴露しようとしていました。
日本であれば、ロッキード事件やリクルート事件を思い出させます。
中盤にあやうく警察に殺されかけたラファエルに、神父はこう言います。
「命を落とすような戦いで人生を無駄にするな。それで逃げ出すことは臆病ではない」
それはもっともなことであると思えましたが、終盤ではその言葉を覆す出来事があります。
ジョゼは殺されてしまいましたが、服役していたおじは手紙に書かれてあった「あなたの戦いは無駄ではなかった。戦いは受け継がれる」という言葉を読むことができました。
死んでもなお、受け継がれる「正しい」戦いもあるのです。
さらに、インターネットにラファエルたちの動画をあげようと提案されたとき、神父は「危険じゃないか?なぜここまで戦う?」と躊躇しますが、英語教師・オリヴィアはこう返しました。
「それが正しいことだからよ」とー
これこそが、映画で訴えたかったことなのです。
危険な戦いもある。
だけど、やらなければいけない正しい戦いもある。
それでもし死ぬことになっても、正しい戦いは誰かが受け継いでくれる。
自分を顧みることなく、正しいことをやる勇気ー
それこそが、必要だったのです。
そういえば、警察が財布に賞金をかけたためにガルドが「いいから売っちまおうぜ」と言い、「いや、あれだけの金を払うのには何かわけがあるよ」とラファエルが返すシーンがありました。
初めは「財布を届けようとした理由がそれだけ?」と思っていましたが、ラファエルは潜在的にそれが「正しいことをするもの」とわかっていたのかもしれませんね。
最後に、ラファエルとガルドは賄賂の金をゴミ山にばらまき、ラットとピアも連れて4人で旅立ちます。
「町にくりだしたら誰にも止められない」と思ったのは、「正しいこと」が世に認められたからなのでしょう。
その正義は、きっと続くはずです。
~神~
主人公は病気やケガを癒す天使・ラファエルの名を持っていました。
作中には神へのメッセンジャーの役割を担うガブリエルの絵も登場しています。
少年たちの行動が出エジプト記に例えられたのは、モーセが奴隷のように扱われていたユダヤ人を率いてエジプトから脱出した=正しいことをした、という暗喩なのでしょう。
これは、神からの怒り、または救済の物語と言えるのかもしれません。
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映画評論 トラッシュ! この街が輝く日まで