お涙ちょうだいじゃない 映画『パンク・シンドローム』ネタバレなし感想+バンドメンバー紹介
個人的お気に入り度:7/10
一言感想:「幸せ」を考える音楽ドキュメンタリー
あらすじ
バンド「ペルッティ・クリカン・ニミパイヴァト」はメンバー全員が知的障がい者。
服の縫い目が気になるギターのペルッティ、恋人のことが愛しくてしかたがないヴォーカルのカリ、美人議員が大好きなベースのサミ、家を出たくないドラムのトニという濃~いキャラクターの4人は、ときにケンカし、ときに喜びを分かち合いながらバンドの練習に挑む。
フィンランド制作の、音楽バンドグループを主役に迎えたドキュメンタリー映画です。
そのバンド「ペルッティ・クリカン・ニミパイヴァト」のメンバーは全員知的障がい者です。
楽曲の歌詞は前衛的かつ過激で、「精神科施設のメシはまるで豚のエサ」「いつかグループホームを爆破してやる」、「権力者はペテン師だ 俺たちを閉じ込める」などと歌っています。
パンクはもともと反社会的な音楽ですが、彼らのアナーキストっぷりは笑って許せるか許せないかのギリギリのレベルで突っ走っています。
この映画が魅力のひとつは、障がい者に対して、「障がい者だから」「社会的な不適格者だから」と達観したり、憐れみを感じることがバカバカしいと思えることです。
本作で描かれる知的障がい者は、『劇場版 ATARU』のように「純粋で天使のような者」と扱われることはありません。
悪態だってつくし、ケンカもするし、自分勝手な行動でバンドのメンバーを困らせるし、うれしい出来事に本気で感動したりもします。
バンドの「売り」は、確かに彼らが知的障がい者であることでしょう。
しかし、映画を観ると、彼らがたくさんの欠点を持ちながら、「いいところも」も持ち合わせる魅力溢れる人物であることに気づけるはずです。
ファレリー兄弟作品と同じく、障がい者をひとりの「人間」として描いているのです。
そして、バンドのメンバーがとても幸せそう(+ちょっぴりの切なさもあり)なのが素敵なんです。
少し前に 障害者は「感動ポルノ」として健常者に消費されると難病を患うコメディアンが語った記事が話題になりました。
障がい者たちを「不幸を背負っている」と認識すること自体が間違いです。
彼らは好きな作品に夢中になることもあるし、子どものように無邪気にもなるし、幸せな結婚について語ることもあります。
バンドのメンバーがこれほどまでに幸せそうで、バンド活動を続けられるのは充実したフィンランドの福祉制度のおかげでもあるのでしょう。
日本が見習うべきところも、たくさんあるかもしれませんね。
基本的にコメディー増し増し、下ネタが盛りだくさんです。
G(全年齢)指定ですが、気持ちPG12指定と思って観たほうがよいでしょう。
難点は、バンドメンバーの日常を大切にしている作品であるために、少しその部分を退屈に感じてしまうかもしれないところ。
やや物語の起伏に乏しいのは、ドキュメンタリーという作品の特性上しかたがないのかもしれません。
過激な歌詞やバンドメンバーのかわいらしさにクスクス笑い、観た後はほっこりと優しい気分になれる素敵な作品です。
『アンヴィル!~夢を諦めきれない男たち~』などの音楽ドキュメンタリーが好きな人にとっても必見作でしょう。
現在(1月下旬)は東京のシアター・イメージフォーラムでしか上映がないのは残念ですが、より多くの人に観ていただきたい作品です。
かなりおすすめです。
↓以下、4人のバンドメンバーを紹介 今回は観た人が少ないと思うので、ネタバレは少なめに書いています。それでも予備知識なく観たい方はご注意を。
~ペルッティ~
ペルッティは脳性麻痺患者で、軽い吃音も持っていますが、感情豊かな男性です。
誕生日には「これほど俺にとってうれしいことはない」と喜んだり、演奏がうまくいくと「始めるまではドキドキだった」とはにかんだり・・・・
また、結婚しているマネージャーに対して「ケンカしたりいがみ合っちゃだめだ」と提言をしたりもします。
こう言うのはペルッティの優しさによるなのでしょうが、ひょっとすると「自分には家庭を持つことができない」ことをわかったうえでの言葉なのかな……と思うとちょっぴり切なくなりました。
~カリ~
カリは障がいを持つ彼女に夢中。
それでいて「愛はひと言で言えばクールでかけがえのないものだ。そう思えるのは機嫌のよいときだけ。機嫌の悪いときには何を言っても無駄だ」と、愛に対しての不安をさらけ出してしまうのです。
彼はバンドメンバーとちょっとケンカもしてしまいます。
その仲直りのしかたというか、機嫌になおしかたが、ほほえましくってしょうがありませんでした。
~サミ~
サミはひいきにしている女性議員候補者に夢中。選挙活動を応援します。
メンバーの中では比較的常識人で、「グループホームを爆破してやる」と歌っているカリに対して「俺だって住んでいるんだよ!」とツッコミをいれたりもしていました。
しかし、協調性はそれほどなく、とあることではペルッティをがっかりさせてしまうことも……
失敗をすると、落ち込んでしまう繊細さも持ち合わせています。
~トニ~
トニは家にずっと住みたいけど、両親からは自立してグループホームに入るように勧められています。
とは言え、グループホームのことが嫌いなわけではなく、好きな女の子ができていたりもします。
彼に理解がありそうな両親が、バンドの練習中にヘッドホンをつけたまま生活しているのにはちょっと笑ってしまいました。
冒頭には、こういうセリフがあります。
「これはお涙ちょうだいの映画じゃない。
ロックにささげる映画なんだ」
その通り、この映画は単に「障がい」や「感動の人間ドラマ」を描いているのではありません。
バンドのメンバーひとりひとりを、愛おしく、そして魅力的に描いた作品であり、前衛的なパンク・ミュージックへの敬愛にもあふれる作品なのですから。
観た後は、彼らのことが少しうらやましく、そして大好きになってしまいます
音楽はこちらで聴くこともできます↓
Pertti Kurikan Nimipäivät - YouTube